臣女

著者 :
  • 徳間書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198638894

作品紹介・あらすじ

妻が大きくなっていく。骨を軋ませ、糞尿を垂れ流し、不明瞭な言葉を発しながら。周りには我が家を監視する隣人、私事を詮索してくる同僚、言葉で殺そうとする母……。
助けは、要らない。
ひとりで介護をこなす夫の極限の日々が始まった。

感想・レビュー・書評

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  • 夫の浮気をきっかけに、巨大化していく妻。妻はストレスが背中に出やすく、夫の浮気を知ってからは胴体が長くなり、骨が隆起し、どんどんどんどん巨大化する。もちろん家事も満足にできなくなるし、ほぼ寝たきり。夫は妻の食事を用意し(それも次第に人間の食べ物から離れていく。生肉とか冷凍したままの肉とか)、排泄も一人では満足にできず、紫色の何かに包まれた大量の痰のようなものを吐き出すようになり、家には異臭が立ち込め、周囲の人間に白眼視されるようになる。「死の棘」を彷彿させる筋の運び。
    きっかけは夫の浮気だったものの、巨大化の根本的な解決法や原因は見つからない。もし、人が心に受けた傷や、根を深く下ろした不信感、嫉妬などの心を汚す様々な要因をすべて外見に表出するような機能が備わっていれば誰でもこのような醜さ、歪さ、厄介さを纏うのではないのだろうか。とすれば、人間はそれぞれに目の大きさ、鼻の低さ、脚の短さ、肌の汚さなど負のパーツを抱えつつも、一様に「美しく」整えられているのかもしれないと感じた。心のありように比べたら玉のようにつるつるだ。
    糞まみれになっても笑っていられる、とか、妻の自分自身を見つめる姿勢に感嘆したりする夫の姿は単純に心を打つものがある。そして最後の数ページは少し涙が出た。で、すごく盛り上がったうえでのラスト一文のすかされた感は自分で限界まで膨らませた風船に、ふと、針を刺してしまった後のような清々しさ。

    あと、読んでいる最中カフカの『変身』を思い出したんだけど、『臣女』読んだ今となってはただただザムザがかわいそうに思えたり。でもザムザをかわいそうに思うのって、本当私のエゴだよな。

  • 夫の浮気を原因に巨大化していく妻、その妻を介護する夫の物語。

    ……と、あらすじだけを言うと、他人は笑い出すかもしれません。それくらい、非現実的な設定。
    しかしながら、吉村先生の筆力は、それに恐ろしいまでのリアリティを持たせてしまうのです。

    そして物語は、笑ってしまうどころか、幾度となく涙してしまいそうになる……。
    作中、ボードレールの詩が出てきます。それが『巨女(巨きい女)』という、この小説の素地となっているであろうものです。
    ……巨女を嗜好する男は、マゾヒストなのですか?(笑)

    私も、身長の高い女性は結構タイプです。私が低身長だからでしょうか。ないものねだり、というやつです。
    しかし、『巨大な女性』は、ちょっと違うかも……(^^;;

    話が飛びました。
    『ボラード病』に続き、大傑作です!

  • 夫の浮気が原因なのか、日に日に巨大化する妻。その膨張する様があまりにリアルで、もしかしたら本当に新しい病気なのかと思ってしまう。最大の問題は排泄。そうだよね。吉村氏ならではの究極の愛のカタチ。

  • ちょっとよくわからなかった。

  • 2017年2月18日、読了。久しぶりに心を底から揺さぶられる名作を読んだな、と読了直後に感じています。
    夫の浮気を知った妻・奈緒美は狂気の末に、体が巨大化。骨の成長が止まず、家の中での移動も難しく排泄物の処理も困難を極め、夫は妻の世話に明け暮れる。しかしやがて、家の中に奈緒美を隠し続ける生活にも限界が来る…。というお話です。
    主人公はどれだけ悲惨な状況に面しても客観視する自分がいて、いつか奈緒美の奇異現象を小説にできるだろう等と考えている。奈緒美の世話に明け暮れてはいるが、それはかつての自分の浮気を反省し妻を守り行くと覚悟を決めたから、というようなわかりやすい更生物語ではない。むしろ主人公はどこまでも利己的だし、自分のおかれた状況を呪いながら、日々眼前に迫る問題に対処してる様子を淡々と描いている。糞尿問題や巨体の汚さを繰り返し具体的に描写しているからこそ、読み進めるうちに段々と奈緒美を愛しく感じてくる主人公の気持ちは伝わってきた。だからこそラストは涙で文字が見えなかった。中盤、奈緒美との交合は鳥肌が立つほど美しい。再読したいです。

  • 恋愛対象が同じくらいの大きさであることの奇跡を噛み締められる1冊。南くんの恋人とかキングコングとかの類書。ダメダメな主人公が振り切れて頑張り始めるあたりからがまた面白い!!

  • 主人公の男がどこまでも打算的なのが面白い。
    しんどい現状の中で、早く努力の報われない結果を出して悲嘆にくれたい、という思いも分かるわ。
    学校の先生あるある的な話が散りばめられていたのも面白かったよ

  • 「巨女」じゃなくて「臣女(おみおんな)」

  • 妻がどんどん巨大化していく。
    骨を軋ませて、呻き声をあげ、どんどん大きくなった体。
    着られる服はなく、近所の目を気にして家から外に出すわけにもいかず……痛みを伴う成長に耐えるため家の中で暴れ回る。

    苦痛に耐えグロテスクに巨大化する過程で、たまたま数時間だけ妻の言葉が明瞭になり、均整のとれた美しい姿になる瞬間がある。そんな巨大で美しい妻を抱きしめる主人公・私。

    何よりも大変なのは食事と排泄だった。トイレの個室に体がおさまるわけがなく……。

    ある日、主人公はストレスに耐えきれなくなり、山に登り、服を脱ぎ捨てて……。

    ———感想———

    めちゃめちゃ面白い。圧巻。
    「この作家(吉村萬壱)さんの作品全部読みたい!」と思わせられるレベルの快作だった。

    SF的な着想からショートショートやネタの延長として読んでいたが、途中で間違いに気がついた。どこまでも「妻が巨大化」したことのリアリティを追求し、それを受けての自分の罪と妻への本当の愛に目覚める純愛ものだった。

    『主人公の気づきと成長』は物語を書く上で必要不可欠なポイントで、確かにこの物語にもそれがあるのに、実生活は堕ちて堕ちて堕ちていく。
    「この人なら、そうなるしかない」と納得させられるほど退廃的な主人公の人物設定がめちゃめちゃ印象的だった。他者との関わりが下手で、自分のことをあまりにも誰かに語らなさすぎる危険性を示しているようにも思えた。自分ならこんな状況になったら、すぐに近所の人や医者や自治体に頼る。

    そして圧倒的な筆力。
    主人公は常勤講師から非常勤になり、書いている小説もうまくいかず、破壊的な性格。ときにえげつない描写や考え方も垣間見えるが、人間の浅ましさのようなものの表現がめちゃめちゃ上手い。

    全くこの物語がどこに着地するかわからないまま読んでいたが、めちゃめちゃ納得感があるラストだった。

    巨大化した妻との最後の交わり、お茶を飲むシーン、家と町からの脱出、山登りと島への遠泳。どのシーンも美しい。糞まみれで痰まみれでめちゃめちゃ汚くて、美しい。

    「私たちはきっと間違えたのだ。いつもいつも、選択を間違えてしまうのだ。我儘でチンケな保身の心がきまって判断力を鈍らせ、悪い結果を産んでしまう。捨て身になれない、自分のことしか頭にないのだ」

  • すごく奇妙な話だったけれど、すごく良い文章で、作者の力量に驚かされる。

    主人公の複雑な引力によって導かれる運命を、その難解さを維持したまま描き切れていた。
    読了後はなんとも言われぬ気持ちになる。
    なんとも言われぬ気持ちや悩みをここまでの精度で描くことのできる物語の設計や文章の的確さに引き込まれていった。とても好きな本になった。

    それから、おそらくだけれど、この作者はすごく変態なんだろうなと感じた。なんだか、良い意味で本能的で純粋な変態性(加えて人間性)が滲み出ている。

    好きと増悪は共存しないが愛と増悪は共存する。そんな言葉を思い出した。敦子に言った愛してるは愛ではなく好きだったのではないかと思う。愛してるなんて言葉は愛してるという気持ちを表現するのに値しないほど大きく深いものだ。

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著者プロフィール

1961年愛媛県生まれ、大阪府育ち。1997年、「国営巨大浴場の午後」で京都大学新聞社新人文学賞受賞。2001年、『クチュクチュバーン』で文學界新人賞受賞。2003年、『ハリガネムシ』で芥川賞受賞。2016年、『臣女』で島清恋愛文学賞受賞。 最新作に『出来事』(鳥影社)。

「2020年 『ひび割れた日常』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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