イル・ポスティーノ (徳間文庫 ス 2-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (219ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198904852

作品紹介・あらすじ

1960年代のチリ。村はずれの高台に住む有名な詩人、パブロ・ネルーダ宛て郵便物専門の配達人となった漁師の息子マリオ。入江近くの酒場でベアトリスに一目惚れしたマリオは彼女に捧げる詩を書いてほしいと詩人に頼む-。素朴な青年が、詩人との交流をきっかけに愛を、そして自分を発見していく。ノーベル文学賞を受賞した実在の詩人のエピソードをもとに、アントニオ・スカルメタが書き上げた感動の一篇。

感想・レビュー・書評

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  • 1960年代チリ。イスラネグラという漁村に住む漁師の息子で17歳のマリオは、漁師の仕事が嫌いでぶらぶらしていたある日、郵便局で配達のアルバイトをみつける。それはイスラネグラの別荘に滞在している国民的詩人のネルーダ宛の手紙を届ける専属郵便配達夫の仕事。手紙を届けるうちにネルーダと会話する機会があり、マリオは一目惚れした酒場の娘ベアトリスのことをネルーダに相談、ネルーダはこの純粋で憎めない少年の相談についのってやってしまう。マリオはネルーダから詩の隠喩について教わり、ベアトリスを口説き…。

    ネルーダが出てくると聞いてから映画のほうをずっと見たいと思っていたのだけれど、なかなかサブスクには入らないので、とりあえず原作を読んでみることに。映画の舞台はイタリア、ネルーダ亡命中に変更されているが、原作のほうはチリ内イスラネグラの別荘で、舞台が違うということはつまり年代が違い、原作のほうはネルーダの晩年。ゆえにラストが映画と原作では全く違っている。ネタバレだけれどこの原作ではネルーダは史実通りに亡くなり、残された若いマリオが悲しむことになるが、映画のほうはマリオのほうが先に亡くなり、悲しむのはネルーダのほうらしい。

    さてアジェンデが大統領になりネルーダはフランス大使になりいったんイスラネグラを離れる。マリオはネルーダのおかげでベアトリスと無事結婚、ネルーダのいるパリに行きたいと思いながら子育てに大忙し。パリのネルーダがソニーの録音機械をマリオに送ってきて、イスラネグラの「音」を録音して送ってほしいといってよこし、マリオが懸命にその任務を果たそうとするエピソードがとても好きだった。

    1971年ネルーダがノーベル文学賞を受賞したときはマリオは村中のみんなを招いてお祝いパーティ(ネルーダ本人はいない)やがて病気になったネルーダは1973年にイスラネグラに戻ってくるが、クーデターでアジェンデ大統領が暗殺されネルーダ邸は軍に監視されるように。それでもマリオはネルーダに手紙を届けに行こうとし、かなわないとなると届いた電報を全部暗記してネルーダに伝えに行く。しかしネルーダは軍に連れ去られたあと病状悪化して亡くなってしまう。そしてマリオは…。

    ラストはハッピーエンドとは言い難く、当時のチリの不安定な政情が反映されているのだろう。でも素朴で純真な若いマリオのペースに、世慣れた有名人のネルーダがつい巻き込まれ、放っておけずに彼の恋が成就するよう協力するようになるくだりはとても微笑ましいし、ネルーダを心から崇拝しているマリオの一喜一憂、最後までネルーダのために尽くそうとした彼の一途さには胸が熱くなった。この二人の関係性の魅力は、きっと原作も映画も共通なのだろう。

    この文庫は映画公開時の発売で、表紙も口絵も全部映画のもの、解説も映画評論家で、この解説が映画礼賛のあまり原作をないがしろにしていてちょっと不快だった。どちらが良い悪いではないと言いながら、映画の美点ばかりあげつらい、改変点を美化しようとしているのがミエミエでちょっとイラっ。もちろん有名な名作だしきっと素晴らしい映画だろうと思うけど(だから私も原作読もうと思ったわけだし)原作者の簡単なプロフィール紹介すらないのはどうなのかしら。もし私が原作ファンだったら「17歳のマリオがどうして映画ではアラフォーのおじさんに!?しかもネルーダより先に死なせるなんて、改悪!」って怒ったかもしれない(苦笑)

  • ちょっとネルーダの詩を引用して女の子に暗喩してくるわ

  • はっきり言って意味がよくわからなかった。

  • 映画もいいけど小説もいい。

  • 090405(n 090802)

  • 映画では舞台がイタリアの貧しい漁村に置き換えられているけれど、原作では一貫してチリの国とそこで暮らす人々とが描かれている。チリにおける社会主義政権の誕生と、軍事クーデターによるその崩壊、という重い歴史的現実が物語の底流にある。だから詩人と郵便配達人との交流は、人間的な結びつきという普遍的なテーマをふまえて、さらにチリという故郷を愛する魂同士の結びつきという、映画とは異なる側面をもつ。また、メタファーを学び、表現の喜びを知った主人公が、さらに表現されるべき事柄の本質の再発見にいたる過程など、テーマも情景も素晴らしいのに、なぜか小説としての完成度がイマイチの気が。内容自体は突飛だけれど文体は簡素で硬質なボルヘスの次に読んだからか、ちょっと中盤が冗長に感じられてしまった。

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