凡将山本五十六,烈将山口多聞 新装版 (徳間文庫 お 13-19)

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  • Amazon.co.jp ・本 (632ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198922825

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  • 山本五十六といえば名将、名将といえば山本五十六というふうに認識していた。


    開戦劈頭のハワイ強襲作戦、その後の進出、そしてミッドウェイと、海軍の戦略の立案指導。
    大鑑巨砲主義から脱皮し航空主兵を早くから主張展開し、アメリカとの戦争も最後まで反対した欧米通。
    「やってみせ、言って聞かせて・・」のように部下を慈しむ性格。
    そして、ブーゲンヒルでの墜落戦死によって国葬が行われ元帥となり、軍神になる。
    こういった人物像が広く流布されており、小生もその認識でいた。

    ところが、本著はこの人物像に異論を唱える。
    多くの著作物にあたり、実際に山本元帥を知る人にインタビューを繰り返して徐々に分かってきた人物像は、一言でいうと「博奕好きな俗物」。

    「一年や二年はずいぶん暴れてごらんにいれます、しかしその先のことは保証できません」という有名な発言によって、当時の首相に「では最初はやれるのだな」という認識を植えつけてしまった。本人は開戦に反対だと伝えたつもりが、暴れるといった軽率な発言によって逆効果になってしまう。

    同じころ、郷里の友人には、
    「日米開戦の場合には「流石五十サダテガニ」と言わるるだけの事はしてご覧に入れ度きものと覚悟致居候」
    と言う手紙を書き送っている。「五十サダテガニ」とは「さすがに五十六さんだけのことはある」の謂いで、いささか恰好いいところを見せつけたがる人格が垣間見える。自分の見られ方を随所に意識する性格のようである。そして国家の運命を博奕のようなハワイ及びミッドウェイ作戦に賭けたのではないかと、思われる。

    また、山本五十六は部下が命を懸けて戦っているハワイ、ミッドウェイのまさにその最中に、部下と将棋を指していた。多くの命が失われるなかで遊んでいるというのは、部下に大胆な人物を見せたがるケレン味を感じる。古今東西、大きな戦の最中に最高指揮官が遊んでいたということは寡聞にして聞かない。山本五十六は果たして最高司令官として的確な人物だったのであろうか。

    そのほか、読み進めるうちに、胸糞が悪くなるような山本五十六エピソードがいくつも出てくる。

    できるかぎり中立にとおもって読み進めていたはずが、どうも世間一般の人物像とはどうしても思えない。
    バランスをとるために、今まで読んできた山本五十六関連の本を客観的に見返してみたが、礼賛主義が先行しており、本著のような戦略論戦術論人格論から鋭意切り込んだものはなかった。

    このような人物によって戦争が開始され負けていったということは返す返すも残念に思う。

    本著は二冊の合作本で、「烈将山口多聞」を続けて読む。

    ミッドウェイの敗戦で、某司令官や参謀の多くは生還したのに対し、山口多聞は艦と運命を共にする。
    武将の責任の取り方を体現した、烈将とは言い得て妙な司令官であったと感じる。

    合作二冊を通読して感じたことは、「陸軍よりは海軍はマシ」と思われていた全般的な組織能力が如何に杜撰なものだったのかである。

    人事から作戦から、トップが腐っていたから負けるべくして負けたと思う。

    この司令部のために命をささげた幾多の英霊のために、心よりご冥福をお祈りしたい。

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著者プロフィール

大正15年3月、栃木県に生まれる。海軍兵学校74期。海軍少尉。東京大学文学部仏文科卒。戦記著書=「反戦大将井上成美」「烈将山口多聞」(徳間書店)、「勝つ司令部と負ける司令部 東郷平八郎艦隊と山本五十六艦隊」(人物往来社)、「海軍兵学校よもやま物語」「勝負と決断」「政治家辻政信の最後」「元大本営作戦参謀ビジネス戦記」(潮書房光人社)。

「2020年 『海軍人事』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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