とても読み応えのある作品でした。
フィギュアスケートという私たちには身近でありながらも、実は「憧れ」でしかない華麗なスポーツ界の裏側と現実を見事に描かれていた作品だと思います。
読みながら、これを書いた人は絶対に自分にもスケート経験がないとここまでは描けないはず、、、と思いました。「あとがき」を読んで、その勘が外れていなかったことを知り、納得です。
小説というのは読者がそれを読むことにより、実際に作品世界を体感するような―臨場感、匂いや空気といったものまで細部にわたって表現できたものが優れた作品だという話を聞いたことがあります。
まさに、この小説は、そういう意味で真に迫っており、読み手をもスケートの世界にいざなってくれます。
題材や設定が他の作品にはないものなので、それが余計に読者の興味を惹き、他の作品とは一線を画したものにしているようです。
設定だけでなく、主人公の少年二人のそれぞれの葛藤など内面も詳細に描き込まれており、二人の関係や主人公の紘夢がアスリートとしても人としても成長してゆく過程には感動と共感を憶えました。
文句なしの☆五つだと思うのですが、気になったことを一つ。
それは、この作品が真に迫った臨場感があるからこそ尚更感じられることですが、この作品では「男子スケーターに同性愛の愛好者が多い」というようなことをはっきりと書いていました。
これって、どうなんでしょうか。
私のようにスケートについて何も知らない人間の中には本気にしてしまう人も多いのではと、一抹の不安を感じたのもまた事実です。
どの世界にも裏というものはあります。よく知らない私は、それがどこまで真実なのかどうか判らないなりに、ゲイが当たり前的な描き方はどうなのかな、、、と思ったのですが―。