表題作「モザイク・ラセン」不思議な作品。
現実世界からファンタジー世界へ、何のためらいもなく(カメラマンが常識的世界を代表しているらしいが、印象薄い)跳躍する。
ミラが、火事の夢に見たラドリが、ロンドンの雑誌で写真に撮られているのを知り、矢も盾もたまらず出発するところから始まる。
入院して自分を閉ざしているラドリのお見舞いをしているところに、バーダ・マニ・ハナというスリランカ人が現れ、ラドリの夢の中へジャンプする手助けをしてくれる(この人も影薄い)。
ファンタジー世界でのサイコキネシスになったり……、ととにかく話がわやくちゃ。
……それなのになんだか惹かれるなぁ、ふしぎ、と思っていたら、解説の和田慎二が、これは不思議の国のアリスだ! と看破していた。
納得!
成長を度外視したワンダーランドでの出来事。
それが少女漫画独特のボーイミーツガールの世界観にぴったり合致しているのだ。
……和田慎二? 聞いたことがあるな、とwikiると、なんとあの「ピグマリオ」の作者!!
小学校低学年のときに夢中になった作品の作者!
しかも「スケバン刑事」の作者!
しかも広島の呉出身の人!
……と、情報が刻みこまれた。
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記録によれば、2010年8月初読、2016年再読、なので3回目なのか。
■モザイク・ラセン
1982年の作品。
本書はほとんどこの中編。
萩尾信者の眼に触れたら怖いが個人的にはあまり……、と感じた「バルバラ異界」と同じ水準かな、と思った。
実は、以前は手に入った順に読んだせいで、作家的時系列を気にしなかった。
最近「バルバラ異界」を読んだあたりで、あーこれだけ萩尾先生を好きでも、「ある時期」の萩尾先生の作風は合わないんだろうな、と考えた。
で「モザイク・ラセン」と「バルバラ異界」は絵柄や作風や「冴えなさ」から、なんとなく同時期なんだろうと思っていたが、
今回年度を確認して、え!? と混乱に陥っている。
「モザイク・ラセン」は1982年、「バルバラ異界」は2002-2005年。
え!? 全部を台詞で説明しちゃう作劇作法や、なんとなく大事な場面には中心人物が勢揃いして、しかも場面ごとの必然性なく突っ立ったまま推移を見守ったり驚いたりする、という「冴えなさ」は似通っているのに、発表年度はそんなに離れているの!?
うーん……こうなると作者の力量だとか時期だとかスランプだとかではなく、発表媒体に合わせた「判りやすさ」(読者の年齢層への配慮)かしらん、と思いきや、「モザイク・ラセン」の掲載誌「月間プリンセス」にはゴリゴリの「A-A'」も載せているし……。……謎。少女雑誌の系列はよく分からない。
ところで作中に結合双生児が登場し、「半神」の悪しきセルフパロディやん、と思いきや、なんと「半神」は1984年発表。想定の逆。
今後キャリアの多くを注ぎ込む短編の要素を、こんなに気軽に出して、しかも気軽にうんたらして、どうしちまったんだよ、と40年後の読者が混乱してしまっている。
■ハワードさんの新聞広告
1974年。
大泉サロンのメンバーが原作なんだとか。
「一度きりの大泉の話」を読むための萩尾望都月間を行っているが、いい出会い。
前回読んだときの記憶も意外と残っている、結構ハイレベルな寓話だと思う。
てかこの文庫、結果的に寄せ集め。
■きみは美しい瞳
1985年発表。
表題作よりも強烈に迫ってくる短編。
しかも萩尾望都の筆力が落ちたというわけではない証拠に、「モザイク・ラセン」よりも発表は後。
掲載誌は「ASUKA」。
シリアス雑誌かしらんと思いきや「あぶない丘の家」も連載しているし……。やっぱり謎。
とはいえ、一見いい人のメールデールが視点人物と思いきや、一見粗暴なハプトが視点人物にスライドし、言及されるのは「ふたりの人物が実は似ている」という、深層心理学を漫画にすればこうなるかもしれない、という。
意義深く、美しい短編。