自殺

著者 :
  • 朝日出版社
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  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784255007502

感想・レビュー・書評

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  • 大好きな末井昭さん。
    大傑作です。

    各章、すべて自殺をテーマに末井さんの経験や
    考えを具体的に、そして優しい視点で語ってくれています。

    主張は一つ。「死なないでください」

    自殺の原因第二位のお金について。
    末井さんの散々な先物取引、そして土地取引。
    最後は8500万円の借金残ったけど、交渉してもらって
    その額が減って今、毎月5万円の返済をしているところなどは、
    お金で死んではいけません、がリアルにわかるかな。

    また、末井さんが悩んでいるときにブログでその気持ちを
    書いていたとき、悟ったことは
    内向した文章は人に見せるのが恥ずかしい。
    でも、自分にとって恥ずかしいことや深刻なことほど
    人にとっては面白い、ということ。これは我々が表現するときの
    ポイントにもなるかなと。

    同僚と不倫関係となって、彼女が病んでいくお話「眠れない夜」。
    小説のようで、そして最後の1行にしびれてしまいます。

  • 自殺を否定も肯定もしない、静かで穏やかなエッセイ。
    著者の生い立ちや人生は壮絶の一言なんだけど、それを突き放して書いているから、心をざわめかせずに読んでいられる。
    書かれている遍歴はかなりとんがっていて、ずいぶん生きづらい人生なんだなと思う。淡々と書いているけど、けっこうすさまじい人だ。
    いちばん心に残ったのは、青木ヶ原樹海の話。いかに「樹海」のイメージが作られたものかっていうのが伝わってくる。
    「自殺」ってやっぱりセンセーショナルな出来事で、いろんなことを突きつけてくるから、何か言ったり思ったりせざるを得なくなるんだろう。
    やたら感傷的に扱ったり、怖いもののように思ったり、腫れ物に触るように扱ったり。特別視して、自分の世界から遠ざけておきたいと思うのも無理はない。
    でも、ある種の人たちにとってはとても近しいもので、気がつくと自分のすぐそばに「自殺」がある。
    いいとか悪いとかって判断してみても、だからってどうなるものでもなく、死んでしまう人はどうやっても死んでしまうんだろうし、そんなことをかけらも思わない人には理解できないままのものなのだ。
    年間3万人もの人が自殺してるという統計があったり、秋田県は自殺者が多いという統計があったりして、一応自殺予防の考えは出てきてはいるけど、それでもまだ、「自殺」ってどこか別の世界の、自分とは無縁の出来事だと思われてる。どうかしたら、「死ぬ奴はだめなやつ」と切り捨てられてたりもする。
    「病気で、生きたくても生きられない人もいるのに、自殺するなんて傲慢だ」と非難する人もいる。
    でも、誰も、誰かの代わりに生きたり死んだりはできないのだから、自殺を止めるための理屈としては不完全だといつも思う。
    この本には、そんな酷い言い方はなかった。
    ただ、淡々と、「やっぱり死なない方がいいんじゃないかな」と微笑んでる著者がいる。(微笑んでるっていうのは私の勝手な想像だけど)
    私も、死んでしまいたいなと思うような時があったけど、たぶん「死にたい」は「生きたい」なんだろうなとこのごろ思う。
    生きたいのに、楽に生きていられないから、死にたいと思うんだ。
    自分が楽になれるように、いつの間にか身にまとっていたいろんな柵や鎖を取り払えばいいんじゃないかな。
    読み終わってそんなふうに思った。

  • 強烈なタイトルに惹かれて手に取った本。
    著者の末井さんは母親を自殺で亡くしている(岡山の田舎で隣に住んでいた若者とダイナマイトを使って心中)らしく、失業したり、人とは違う過去を持っているという自負を持った、アーティスティックな看板描きになったり、雑誌編集者になったり、と興味深い人生を歩んできた人だ。

    不倫を繰り返す男女関係のいざこざ、バブル経済に踊らされて抱えた借金、精神的な不調。
    様々な事柄に悩まされた末井さんのこれまでの話を知りながら、色々な側面から自殺について考えられる本だった。

    末井さんは悪人ではないけど善人というわけでもない。だらしない不倫を繰り返して周囲の人を傷つけ、それによって自分も苦しんできた。キリスト教や銀杏BOYZに救いを求める気持ちは自分にもなんとなくわかる。
    肯定されたい。救われたい。赦されたい。認められたい。
    多分そういう気持ちだ。

    死にたいひとは、こういうふうに生きたかったとか、人からこういうふうに思われたかった、とかそういう想いを持っていたけど、それを実現できなかった自分が嫌になっているのかな。そうやって悩んでいるうちにどんどん孤立して追い詰められてしまう。
    自殺が絶対にいけないことだとはいえない。けれど、それ以外の選択肢もあると思うし、何より自殺は残された人に大きな傷を残してしまう。

    自殺について思うことはたくさんある。だからこの本を手に取ったんだと思う。
    死ぬことと同じくらい、機械の身体になることにも興味がある。銀河鉄道999に登場する、不死身の身体。

  • スエイさんのことは奥さんの神蔵美子さんの写真集(「たまもの」)で知ったのだが、
    そこに写っているスエイさんはとても不幸そうで、一体どんな人なのかなあと思っていた。

    自分を語るときに外せないキーワードが人それぞれにあるが、スエイさんにとってはそれが「自殺」だったのだと思う。

    「笑える自殺の本を作ろう」という発想が素晴らしく、
    事実こんなに暗くて辛い題材をたくさん集めているにも関わらず、この本は面白い。
    それはスエイさんが「自殺」とがっぷり組んで、懐の深い相撲を取っているからに他ならない。

    加えて、神蔵さんの写真集で垣間見たスエイさんのどーしょーもないところも正直に描かれているのもいい。
    昔付き合っていた女の子のエピソードなど、ほんとうにどうしょーもなくて悲しくて、残酷なのに私は一番好きです。

    この本を死にたかったときの私が読んだらどう思ったかなあ。
    ヘビーな題材が続くので、真剣具合が悪いときにはおすすめしないが、
    スエイさんがこの本で書きたかったことは「死なないでください」ということで、
    それは確かな温かさを持って心に届いたのだった。

  • “あくまで勝ち負けにこだわるならば、どのような状況であれ、窓を開けた時にふっと入り込んできた小さな風に気持ち良さを感じられることができれば、その人の人生、勝ちである。”

  • 読み進んでいくにつれて先細りしていく人間性。でも、結局自殺をジョークにできるのは、身内が死んだ人か、自分が自殺しかけた人とか、そんな人だけだと思う。この作者は、そうだったということ。

  • Webでの連載時から、この文章はたくさんの人が読んだ方がいい・・・と思っていたけど、うまく言葉にできず。

    と言うのも、私は幸運にも今まで身近な人の死に触れる機会がなくて、だからその重さがいまいちわかっていない気がするというか、何も知らない私が死について語ること自体がタブーであるように思ってしまって。

    だけどこの本を読んで、死を思うことはつまり、生きることを思うことなんだなぁと。

    『自殺』は、母親が近所の青年とダイナマイト心中するという強烈な体験をしている末井さんが、自分の体験や、両親に自殺された若い女性、自殺率全国一の秋田県の司法解剖医、樹海パトロールをしている人、イエスの方舟(はこぶね)の人々などへのインタビューなどを通して、自殺について思索した本です。

    テーマも内容も重いものだけど、末井さん独特の軽妙で飄々とした文章は先を読みたくなる魅力があるし、何と言っても、寄り添うようなやさしさがある。

    この本が自殺を思いとどまる抑止力になりえるのかどうかはわからないけど、きっと、末井さんが言うところの『窓』になる。健康に、死ぬことなんて考えず生きてはいるけどちょっと息苦しい、そういう多くの人たちにとっても。少なくとも、私にとっては窓でした。

    案の定すごく長くなってしまった。
    でも長くなっちゃうくらいにおすすめなのです。

  • とても優しい本でした。
    苦しみの中で死を選んだ人に向けられたその悼む気持ちがとても優しい。

  • 母親の自殺を機に自殺について書き始めた編集者の本。自殺をダメとは思っていない、もちろん死ぬよりは生きていた方がいいに決まっているが、しょうがない場合もある。競争社会で人を蹴落としてまで生きたくない、まじめな人・優しい人に対して、そんなことしちゃダメとは言えない。自殺者に向けた筆者のスタンスがとても共感できる。自殺について書くのは辛そうだが、殺伐としてなくてある種の明るさや清々しさもあって読みやすい。

  • 異色なエッセイ。すごく面白い。
    かなり気持ちが楽にぬって、なんとでもなるという気持ちになる。
    映画も見てみたい

著者プロフィール

1948年、岡山県生まれ。編集者・エッセイスト。工員、キャバレーの看板描き、イラストレーターなどを経て、セルフ出版(現・白夜書房)設立に参加。『ウイークエンドスーパー』『写真時代』『パチンコ必勝ガイド』など15誌ほどの雑誌を創刊。2012年、白夜書房退社。現在、執筆活動をしながら、ペーソスというバンドにTサックスでときどき参加。2014年、著書『自殺』が第30回講談社エッセイ賞を受賞。 主な著書に『素敵なダイナマイトスキャンダル』(ちくま文庫)『絶対毎日スエイ日記』(アートン)『パチンコからはじまる〇×△な話』(山崎一夫・西原理恵子との共著、主婦の友社)『自殺』(朝日出版社)『結婚』(平凡社)などがある。

「2017年 『末井昭のダイナマイト人生相談』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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