だれも知らないムーミン谷

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  • 朝日出版社
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  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784255007786

作品紹介・あらすじ

アニメは原作の後日談だった!

ムーミンって何者?
ムーミンによる世界再生?

だれもが憧れるユートピア成立の前史から、
ムーミン一族の「もう一つの顔」が浮かんでくる。

トーベ・ヤンソン生誕100周年
まったく新しいムーミン読解!


推 薦 |伊藤俊治氏(東京藝大教授)
――私たちの知らないムーミンの驚くべき謎と秘密が明らかにされる。
自己を見つめ、他者との関係に悩み、深い孤独に襲われ、冬と死の世界に目覚め、大洪水や彗星の脅威に直面し、避難所さえ失い、白夜と極夜を巡りながら自立を目指し、新たな住処を探し求める。
カタストロフィー以後の世界を透明に生き抜こうとするその姿は、森に囲まれたムーミン谷という聖地に住む精霊たちの長い旅の記憶を解きほぐしてゆく。
本書にはアニメーションや絵本で見慣れたムーミンとはまったく異なった、私たちの現在と未来に直接語りかけてくる新しいムーミンが息づいている。

* * *

[あなたの知らないムーミン谷 Q&A]
Q. ムーミンって何者?
A. ヒントは、北欧民話に隠されています。

Q. ムーミンたちの出生のひみつとは?
A. 実は、ムーミン以外の谷の多くの住民は、谷の外から移り住んできた「孤児」だと考えられます。

Q. ムーミン谷には「もう一つの世界」がある?
A. もう一つの世界は「冬の世界」と呼ばれます。そこは、生き物の特徴、文化、コミュニケーション手段がまったく異なる世界です。

Q. ムーミンによる「世界再生」って?
A. ムーミンは作中のある何気ない行為により、作品世界を危機にさらしてしまいます。しかし、ムーミンの果敢な行動が、世界を蘇らせます。その行動は、震災後を生きる私たちにとってのヒントにもつながってきます。


[本文より]
「ムーミンたちが本当はどのような生き物で、彼らの住む谷はどのような場所なのか、その答えはアニメは言うまでもなく、原作、絵本、いずれにおいても一切語られていません。もしかすると、私たちは今まで肝腎な問題を見落としたまま、アニメを見ていたのではないでしょうか。」(第一章より)

感想・レビュー・書評

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  • 読書もまたひとつの《旅》であるとするならば、この本は著者による「ムーミン谷」への《旅》のいわばドキュメントであり、その足跡をたどることで、ぼくら読者もまた、べつの角度から捉えた「ムーミン谷」の新たな眺望を新鮮な驚きとともに手に入れることができる。

    発端は、テレビアニメ「楽しいムーミン一家」を観て育った著者が、あるとき9冊からなる原作のシリーズを手にしたところからはじまる。本を読んだ著者は、当惑する。テレビアニメのなかでは「割愛」され感じることのなかった「ふたつの問題」が、原作ではシリーズ全体を貫く大きなテーマとなっていたからである。そして、著者はそこからひとつの仮説を導き出すのだった:「アニメ『楽しいムーミン一家』に描かれたムーミン谷は、原作において登場人物たちが直面するふたつの問題を克服した後のユートピア、いわば『省略されたユートピア』を描いたものなのではないか?」。

    物語を丹念に読み解いてゆくことで、原作においてムーミン谷の住民たちが「克服」せねばならなかったふたつの問題ー「自然」と「住人どうしの関係」が浮き彫りにされる。読み解くにあたって、焚き火、ランタン、灯台、かまどなど物語に登場する《光》がもつ象徴的な意味に注目したのも面白い。「夏」と「冬」というふたつの季節が支配する世界の対峙も、北欧においては四季は日本ほど明確なものではなく、春は夏の、秋は冬のそれぞれ「露払い」程度にすぎないことを思えば納得のゆくところだ。

    もちろん、ムーミン谷はフィンランドにあるわけではない。とはいえ、作者トーベ・ヤンソンが北欧の厳しい自然のなかで多感な少女時代を過ごし、物語を育んでいったことは紛れもない事実である。そして、そんな「北国のひと」トーベ・ヤンソンによる素朴な《民話》という側面から「ムーミン」を読み直すとき、著者は、現代の日本に生きるぼくらもまた未来を照らす《光》を手に入れることになるかもしれないと言う。まったく同感である。ムーミンの原作をいまこそ読もうと思う。

  • 副題の「孤児たちの避難所」に惹かれて借りた。原作を読んだ人なら誰でも、ムーミンシリーズは孤児や、どこにも居場所がなかった存在たちの話だと知っている。

    なぜトーベ・ヤンソンはマイノリティたちの物語を書いたのだろう。子供の頃に無人島で子供たちだけで過ごした体験が彼女にどんな影響を与えたのか?敗戦後の厳しい社会状況が想像の原動力となったのか?

    彼等の背負う「孤児」という重みを掘り下げて論じているのではないかと期待したが、別にそんなことはなく、登場人物に孤児が多い事実を指摘しただけだった。

    トーベ・ヤンソンがスウェーデン系のフィンランド人で、当時のフィンランドではマイノリティだったという話は初耳だったけれど。でも、フィンランドは長いことスウェーデンの属国だったし、北欧はマイノリティに優しいイメージ。

    まあでも、ムーミンシリーズの評論としてはアリなんじゃないかな。こういう読み方もあるって事で。要するに、ムーミンの原作を読んでみて、おもしろいから、という本。

    ムーミンシリーズを読み返したくなった。北欧の神話や民話、挙げられていた参考文献にも興味を惹かれた本があったので、読んでみたい。

    著者は、自分を含めた日本人はみんなアニメを通してムーミンに親しんできたので、原作ではこうなんだというのを、みんな知らないでしょう、というつもりで「だれも知らない」という題名をつけたようだ。
    アニメより原作を通してムーミンに親しんでいる日本人が少数派だとか、初耳なんだけど。むしろ、ちゃんとムーミンのアニメを見たことはないなぁ。ここでも少数派か。まあいい。

    「ムーミン谷の仲間たち」の、「春のしらべ」は、私も大好きな話だけれど、この話のスナフキンが孤独に疲れているという読みはしたことがなかった。はい虫がスナフキンを批判しているとも思ったことがないな。
    むしろ、自分だけの孤独を楽しんで心底から幸せを感じている時に、ふとムーミンの顔が思い浮かんで、「あいつはいい奴だけど、いまは最高の友達のムーミンにだって会いたくないよ」って感じだと思ってた。だから、はい虫にそっけない態度をとったんだ。

    でも、スナフキンにはティーティ・ウーのような存在のことがよくわかっていた。たったの一度も、誰からも大切なかけがえのない存在だと扱われたことのない小さなはい虫が、どんな気持ちで自分に話しかけてきたか、スナフキンはよく知っていたんだ。だから、いつも誰にでも愛想よく接することはできないと自分の良心をなだめようとしたけれど、そうできずに、おしゃべりするために戻っていった。でも再会したティーティ・ウーはもうそんな必要が無くって、生まれて初めて自分のものになった人生に夢中だった。その様子を見届けたから、スナフキンは安心してまた旅に戻ることができた。

    あのみじめでちっぽけなはい虫に、人を批判するなんてことができるはずがない。彼は、誰かに何かを期待するなんて図々しいことはできない。ただ決死の覚悟で、そうできなかったらもう死ぬしかないという覚悟で、憧れのスナフキンに、一個の存在として認識して欲しいと請い願った。スナフキンは、何の気なしにではあるけれど、まさにはい虫の望みを叶えたんだ。だからちっぽけなはい虫はティーティ・ウーとなって人生を手に入れられた。そしてスナフキンも、孤独は素晴らしいが、自分以外の存在と出会うのも悪くはない気分で、新しい音楽を作った。

    トーベ・ヤンソンのすばらしさは、彼女の観察力の鋭さと、自分が見聞きしたものを愛情を持って描ける表現力だ。私はそう思う。

    今まで、ムーミンの評論は意識的に避けてきたけれど、他の人の評論を読んでも自分自身は変わらずに、新しいものの見方を手に入れられるみたいだ。これから、ムーミンに関する本をもっと読んでいってもいいな。

    ムーミントロールとは、恐ろしい自然の気配のこと。ひとりでいる時に感じるつめたいすきま風のようなもの。人と自然のメタファーである怪物が対峙して、勝ったり負けたりする児童書や絵本は多いけど、自然の一部(ムーミン)と、大自然の対決は珍しい。言われてみれば。

  • アニメ化され、ゆるキャラのイメージで人気のあるムーミン。しかし、原作にはそんなゆるいイメージはなく、ムーミン谷は何度も津波や火災で崩壊してしまうし、ムーミンの愉快な仲間たちはもともと浮浪孤児の集まりだった。ムーミンたちはムーミン谷を捨て、新たなユートピアを探すというのが原作だ。

    そんな原作の後日談が、日本のほのぼのアニメの世界だというのが著者の考え。本書はそんな意外なムーミンの原作を知ることができるガイドブック。原作者トーベ・ヤンソン生誕100周年である2014年にピッタリの本だ。

    と、本書を好意的に読めばそうなんだが、ムーミン原作の読書感想文に終わってしまってるのが残念。なぜ、ヤンソンは登場人物を孤児にしたのか、ムーミン谷は何を象徴しているのか。著者はそうした疑問をヤンソンの経歴やフィンランドの文化・歴史を取材して解明しようとはしない。

    ムーミン原作が書かれたのは世界大戦直後の1940年代だ。この時代のフィンランドの社会情勢くらいは紹介してほしかった。著者があとがきで触れている東日本大震災どころの騒ぎじゃなかったはずだ。

    ユートピアで愉快な仲間たちと戯れる著者は、ムーミンの原作を読み、その紹介だけで満足してしまいましたとさ。

  • ユートピアのように描かれているアニメ「楽しいムーミン一家」だが、原作の児童小説を読むとアニメとは違う印象のムーミン谷が描かれている。
    原作では、距離のある登場人物たちの人間関係、度重なる自然災害による危機を通してユートピアができるまでが描かれていた。
    原作から見えてくるムーミン谷とは…。
    アニメもすっかり記憶が薄れているなぁ。
    パペットアニメの劇場版がシュールすぎてびっくりしたんだけど、原作のこういう下地があったからなんだね。

  • どなたかも書いていましたが、学生の論文みたいな本でした。自分の考えた結論へ持っていくための、独りよがりな決めつけがちょこちょこ入る所が、読んでて疲れました。
    ムーミンの原作を読んでいない人にはおすすめしません。
    原作は余分な知識無しで読んだ方が楽しいですよ。

  • 最初にムーミンを知ったのは、テレビのアニメ。
    ねぇムーミン こっち向いての歌と一緒に、頭の中にあのキャラクターが刷り込まれた。
    次に児童書を何冊か読んでみたが、あまりイメージは変わらなかった。
    英語の勉強を始めてから、ペーパーバックを何冊か読んでみた。
    一番、違和感があったのは挿絵だった。
    楽しいムーミン谷の裏には、アニメで描かれなかった世界があるに違いない。

    本書は、フィンランドの土地の精霊であるムーミントロルとムーミン一家、そして、ムーミン谷に集まる仲間たちの姿を、自然と神話そして、作品の内面から分析する。
    原書(児童書)第一作の「小さなトロールと大きな洪水」から九作目「十一月も終わるころ」まで。
    ムーミン谷に住み着いた一家、そこに集まってくる仲間。
    そのパラダイスに忍び寄る影、ムーミン一家、ムーミン谷の崩壊、破壊を経て影、自然との合意、理解。
    そして、ムーミン谷の再生へ。物語は、テレビアニメ「楽しいムーミン一家」へ引き継がれていく。
    いままで、原書を読んできたけれど、それはたまたまその時々に入手できたもの目に触れたものを読んできただけで、順を追って読んだことはなかった。
    これはいちど発表された順に原書を読んでみなければ。

  • サブタイトルは「孤児たちの避難所」…ん?孤児たち?思わず手に取りました。本書では児童文学(原作)に焦点を当て、知られざるムーミン谷の秘密を暴いていきます。普通に原作やアニメを見ていたら気付かない、隠された裏側のストーリーがあるのです。読み終わると、ムーミン谷の仲間たちをより一層好きになっていました。

  • 原作とアニメの違い、なぜ後半ストーリーがあのように進んでいったかの考察など。
    なるほどー、と腑に落ちました。
    読んでいて、とても原作が読みたくなってしまいます。

  • 「ムーミン」には明るく楽しいイメージを持つ人が多いと思いますが、私はちょっと疑問に思っていたことがありました。小さい頃に読んでいた講談社の「世界の童話」に、「さてそれから」という題名のムーミンの話が載っていました。挿絵の影響もあったのかもしれませんが、イメージは明るくはなく灰色っぽい。アニメを見ていて、子供ながらに違和感をもった記憶があります。そんなこともあり本書を読んでみました。

    原作の「ムーミン」を読むためには、日本と北欧の「季節」というものが全く違うものだと理解していることが前提だと思います。北欧の人々の暮らしは想像することしかできませんが、自然の厳しさとつきあうために大昔から様々な工夫や失敗や祈りがあったことでしょう。「ムーミン」はそんな北欧の自然観と精霊信仰を題材に描かれた物語です。アニメが共存の道を選んだ物語の後日談だとすると、童話とのイメージの違いに納得ができました。

    本書は原作を読んでいない人が手に取ることも想定して書かれていますが、私はちゃんと原作を読んでおけばよかったと思いました。

  • なかなか良い本でした。神話学、北欧の民話や風土などを基にムーミン物語を読み解いている

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著者プロフィール

1987年生まれ、福岡県北九州市出身。文筆家。東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修士課程修了。在学中、北欧諸国の文化に興味を持ち、アイスランドを一人旅する。その後フィンランドやデンマークにも足を運び、北欧の精霊信仰や神話、民話、デザインについて学ぶ。小説やエッセイ、批評などを中心に幅広く執筆活動中。『本の窓』(小学館)に短編小説「ランナー」「家族写真」を掲載(2014年3・4月合併号、5月号)。

「2014年 『だれも知らないムーミン谷』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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