文体練習

  • 朝日出版社
3.95
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本棚登録 : 1960
感想 : 207
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  • Amazon.co.jp ・本 (195ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784255960296

作品紹介・あらすじ

前人未到のことば遊び。他愛もないひとつの出来事が、99通りもの変奏によって変幻自在に書き分けられてゆく。『地下鉄のザジ』の作者にして20世紀フランス文学の急進的な革命を率いたレーモン・クノーによる究極の言語遊戯がついに完全翻訳。

感想・レビュー・書評

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  • ブクログの談話室で「言葉遊びの面白い本教えて!」と言う方に
    ご紹介した本。

    これを機会に私もまた読みなおし。

    こんなにこんなに面白い本は滅多にございませぬ。

    バスの中である若者が
    ちょっとした車内トラブルをおこす、
    その二時間後、サン=ラザール広場で
    同じ男を見かけた…

    と言うなんとも「他愛のない話」をなんと99通り(とちょっとおまけ)
    の文体で書き分けている、本!

    日本語にはどうしてもうまく翻訳できないっていうことで、
    翻訳者の朝比奈さんが作ってくれたバージョンもある。

    私が好きなバージョンは、「予言」「ためらい」
    「以下の単語を順に用いて文章を作れ
    (持参金・銃剣・敵・チャペル・空気・バスティーユ広場・手紙)」
    「無関心」「無造作」「罵倒体」「表現不能」…

    怒り狂うおじいさん(「反動老人」)もたまりませぬ。

    本の値段はギョッとするほど高いんです。
    でも私は宝物のように大事にしておりますです。
    装丁も洒落ている。

  • 20世紀フランスの作家レーモン・クノー(1903-1976)による実験的な作品、旧版1947年、新版1973年。ある単純な出来事を99の文体で書き表したもの。

    一時期はシュルレアリスムや実存主義のグループと近かったこともあった。その後もミッシェル・レリスやジョルジュ・バタイユらとは交友が続いたという。1960年に発足した文学グループ「ウリポ」にて、言語遊戯などを通した文学実験を展開した。



    言葉が世界の像であり、世界が言葉の像であるならば、言葉遊びは世界をおもちゃにする遊び。言葉が世界と精神との境界接面であるならば、言葉遊びは精神をおもちゃにする遊び。世界も精神もいっぺんに笑って面白がってしまえる遊び。

    もうひとつ、言葉のまえには読者がいる。読者も読書行為も、いっしょにパロディ化されて、そうしてみんな笑ってしまえる。そうした言葉の軽妙さ、つまり自由の軽妙さを味わえる。言葉をあいだにはさんで、世界も精神も、場所だとか属性だとかなくなって、描線もなくなって、中空に消失してしまいそう。ボルヘスみたいな高度の感覚。

    読後、具体物のどんな影も残さないが、それでもこの本はなにがしかのものであって、それは言葉や読書がなにがしかのものであることと同じであると思う。そしてそれは、それ自体で、味わうに値するのだと思う。

    「語られるべき内容がほとんどなくても、言葉は無限に増殖して一冊の本になることができるのだ」(p138,訳者)。

  • 読み始めたら、コレは、なんと言う本だ。
    というより、本じゃない。
    フランス語が原文なのに 日本語におしゃれに訳されている。
    良くぞここまで訳したよ。
    日本語の選び方がうまくて、おしゃれだ。

    物語は
    『ある日、バスのなかでソフト帽をかぶった26歳くらいの男が隣の乗客が押してくるので腹をたてるものの、その口調はたいした剣幕ではなくて、別の席があくとそそくさと座る。その2時間後、サン・ラザール駅前のローマ広場でその男をまた見かけた。連れの男がいて「君のコートにはもうひとつボタンがいるね」と言っているのが聞こえた。』

    というだけなのであるが、
    それが、様々な編集方法で繰り返される。

    物語を 昆虫の目のように
    たくさんの眼で みている。

    小さな出来事が まるで宇宙のように膨張していく。

    たえまない ひるまない しつこいほどに
    くりかえしているが 繰り返していない。
    遊んでいるけど 真顔でぶつかっている。

    血のにじむような努力をして
    いや 知のにじむような努力をして
    書き連ねている。

    ひとつの物語が 99の物語に 再現される。
    あーぁ。

    私は いままで 一つの物語しかかけなかったのだろう。
    ひとつの物語が 99の物語に なる無限の可能性。

    身体が ゾクゾクした。
    読み終わったとき なかなかでなかった
    大きなウンチが ドンとでたような快感さえ覚えた。

    • だいさん
      印刷の色分け、フォントの工夫もスリリングじゃないですか?
      印刷の色分け、フォントの工夫もスリリングじゃないですか?
      2013/03/26
  • 2007.8月
    ダヴィンチの表紙で、松本潤氏が持っていた1冊。
    シンプルな装丁と紹介文に惹かれて高校の図書館で借りた。
    当時こういう本を始めて読んで衝撃を受けた。
    同じ話が視点を変えるだけでこうも違って見えること、
    もちろん文章の書き方も。
    色々なことに気づかせてくれる一冊。

  • 他愛もないひとつの出来事が、99通りものヴァリエーションによって変幻自在に書き分けられてゆく。20世紀フランス文学の急進的な革命を率いたクノーによる究極の言語遊戯が遂に完全翻訳された。前人未到のことば遊び。
    出典:Amazonより

    静かにニヤリとする感じ.

    後ろ3分の1は訳者あとがき.
    ある場面がこんなにもバラエティに富んだ表現に生まれ変わるとは、侮ってはいけない、ことば・認識.作ろうと思えばもっとたくさんの文章を創ることができるだろう.例えば「子どもの視点」とか「猫の視点」とか.原本はもちろんすばらしいのだろうが、訳は秀逸.訳本なのに、「いんちき関西弁」なんて!

  • 笑える。文体という観点で文章を読むことはあまり考えなかったが、言われてみれば、これほど多様な文体が存在するのだということに気がつかせてくれる。その意外性に接した時に、思わず笑ってしまうのだろう。

  • 凄い、凄すぎるぞこの本は。何でもない日常の一コマを、99の異なる文体で表現するというとんでもないコンセプト。読めば読む程、当たり前の風景にこれ程の多様な視点が存在するのだと驚愕し、表現によってこんなにも言葉は自由に遊び回れるのだと感嘆させられてしまう。翻訳も直訳的表現を抑え、意味よりも技巧を意向した訳によって逆説的に日本語の芳醇さを示し出し、丁寧な装丁は本作の意匠にぴったりの衣装となる。ここでは言葉が踊り、言葉が楽しんでいるのだ。最高のスキルとセンスとユーモア。いやぁ、豊かさってのはこういう事でしょう。

  • 頭がぐにゃぐにゃになってしまう…。
    たいした中身のない短いメモを、ありとあらゆる語調、記法で99+@回繰り返すだけ。それがじわじわとハマってくる。
    これだけの表現ができるんだという言葉の豊かさと同時に、空虚でひどく貧相な部分を露呈してもいる。
    電車の中など公共の場所で読むのはおすすめしません。一人の時にこっそり(できれば声に出して)読むのがいいと思います。変な文章がツボに入ってしまった時のくすぐったさがたまらない。全然関係ない時に思い出して笑ってしまいそう。

  • 文体ひとつひとつが個性的。
    伝え方の多様性にとても面白みを実感できる作品でした。
    驚いたのは、日本語は元々言い回しが多いと思いますが、フランス語がこんなに遊べる言語であるということです。
    フランス語は読めませんが、原作の文体を隣に並べて眺めてみたい気持ちになります。

  • なんてことない出来事が、あらゆる言葉や文体、技法で、
    何通りにも書き分けられていく。
    言葉の持つ力に圧倒されました。
    原書を読んでみたいのですが、フランス語。
    さっぱりです。
    英語なら「まだ」マシなんだけど、多分。

    朝日出版社の言葉で、
    「バッハの音楽を文学にしたら、
      きっとこんな作品になるに違いない」
    とあるけど、本当にそうだろうなあ。

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著者プロフィール

一九〇三年ル・アーヴル生まれ。パリ大学で哲学を学び、シュルレアリスム運動に参加。離脱後、三三年に「ヌーヴォ・ロマン」の先駆的作品となる処女作『はまむぎ』を刊行。五九年に『地下鉄のザジ』がベストセラーとなり、翌年、映画化され世界的に注目を集める。その後も六〇年に発足した潜在的文学工房「ウリポ」に参加するなど新たな文学表現の探究を続けた。その他の小説に『きびしい冬』『わが友ピエロ』『文体練習』『聖グラングラン祭』など、詩集に『百兆の詩篇』などがある。一九七六年没。

「2021年 『地下鉄のザジ 新版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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