驚きの介護民俗学 (シリーズ ケアをひらく)

著者 :
  • 医学書院
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感想 : 88
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784260015493

感想・レビュー・書評

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  • 004
    民俗学の准教授だった方が、大学を辞めて特別擁護老人ホームへ、介護ヘルパーとして働き始めたという異色の著書。
    それだけで、この著書が何を書くのか食指が動く。

    論文形式というよりは、看護師雑誌で書かれていた連載をまとめ、再編纂された本なので、介護分野についても、民俗学についての知識が無い人でも、面白く読める。

    介護業界で実験的に使用されている回想法という傾聴の方法と、民俗学で用いられるヒアリングの手法との対比をし、独自の介護民俗学というのを確立させようとしてる筆者のいわば過程としての奮闘記として書かれている。

    例えば、
    『民族儀礼の特徴になぞらえてみると、予定調和に繰り返し演じられる認知症の方の同じ問いの繰り返しも本人にとっては、不安定で混沌とした場所において、生きる方法を確かにし、ひとときの安心を得る為の儀礼的行為といえる』
    といったような、介護の世界では、若干迷惑な利用者も、民俗学という視野から見てみると、不可思議な行為が論理的に見えてくるという不思議な面白さがある。
    もちろん筆者が、介護施設で働く中で、この本に書かれていない苦労などたくさんあるとは思うが、是非に今後も応援していきたい人である。

  •  著者は1970年生まれの独身女性。民俗学者として著名な賞を受けているが、特養施設の介護職員として転身。前身を活かして、「回想法」とは似て非なる取り組みを始めるという内容。非常に読みやすく、かつ、「驚き」があり感動的。
     福祉の世界にも、民俗学の世界にも縁がなく、介護問題に直面している独身女性の立場からも、この本を支持したい。食事や排泄のケアに忙殺される介護の現場で、介護される人の半生に興味を持ち、話を聞く人がいること。それがどんなにレアなことか。年老い、他人の世話にならないと生命を維持することができない、その一点だけで心は折れかける。わたしが介護している親はそうだ、私も長じればそうなる可能性が高い。そんなとき、「民俗学的」興味が向けられることがどんなに心躍るか、想像は難しくない。
     著者が聞き取る人生は、平凡に見えていても波乱に富む。目頭を熱くしながら、わたしはこんなに一生懸命生きているだろうかと問い、このような人生をもつ人々を介護される弱者としてしか認識していない浅はかさに身を震わせることとなった。介護する側とされる側が対等である関係をいかに作り出すかという一つの問いが、この著書にある。

  • 民俗学でいうまさに厚い記述で、ぐいぐいと引き込まれていった。最大の成果は親を含めた周囲の老人への私の興味、敬意の醸成だろう。「痴呆老人は何を見ているか」が医師が書いた理論編だとすると、本書は民俗学者兼ケアワーカーが書いたリアル編である。お互い補い合う記述であった。そして、本書は赤裸々で良心を揺さぶるという意味でも良書である。喪失の語りには二種類ある、介護予防ではなく介護準備という記述には唸るものがあった。

  • 医学書院、ケアを開くシリーズ。

    話を聞くこと、評価するものされるもの、の逆説的な問。

  •  老人ホームで働く民俗学者が、フィールドワークでの聞き取りの手法を介護現場で実践する。いかに支離滅裂でも語られる言葉どおりに聞く、その中で浮かび上がってくる物語にハッとさせられる。
     とても示唆に富んだ試みに惹かれたんだけど、しかし実際の現場は日常業務で忙しすぎて老人の語りをじっくり聞く時間なんてとれないよ、という嘆きで終わるのが悲しいね。 

  •  著者の六車氏は特別擁護老人ホームで介護職員を務めているが、前職は民俗学を研究する大学准教授という異色の経歴の持ち主。転職の理由については「縁あって」としか書かれていないが、いろいろと紆余曲折を経験されているのだろう。
     民俗学では地域の高齢者からその土地の習わしや言い伝えを「聞き書き」して研究の素材を収集するが、同じ手法を高齢者の介護現場に応用することで、高齢者一人一人の人生史に寄り添ったターミナルケアの実戦を試みている。著者は「介護の現場で民俗学は何ができるか?」を問うために「介護民俗学」を提唱しているが、著者の基本スタンスは民俗学者であって、介護技術のスペシャリストではないのだろう。
     しかし、介護施設にいる高齢者をケアを提供する一利用者としてではなく、その人だけの自分史を伝承する口伝者として、敬意と傾聴をもって正面から向き合い続けた六車氏の言葉の方が「老い」とはどういうものかが、よりリアルに伝わってくる。
     「老い」から逃れられる人は誰もいない。六車氏の試みは人生の晩節を迎える際に、人は如何に準備すべきか重要なヒントを提供している。

  • 仕事をする
    というのは
    こういう 視点をきちんと
    持つということです

    「学問」は
    自分自身が見つけて考えていくことだと
    教えてくれる 一冊です

  • おわりに、にもあるように、とにかく忙しすぎる。養護にしても介護にしても。上野千鶴子の言説はごもっとも。これを越えて、なぜケアが必要か。ケアがもっと厚いものにならないといけないのか、を語れる人になりたい。勉強せねば。

  • 民俗学の先生がなぜ福祉の現場に?
    介護の現場をフィールドワークの場にした、すごい本です

    それぞれのエピソードももちろん刺激的ですが
    面白かったのは、社会科学における調査者(研究者)と対象者(話者)の権力関係についての考察。
    調査者の方が上なのがふつう?と思っていたけれども
    実際のインタビューの場においては、立場が対等になったり、逆転したりすることもあるのだそうです

    そしてこの語りの場は、問題解決、治療的効果などは目的とせず、相手の暮らし、経験に純粋に興味を持ち「教えを受ける」ことで成り立っている
    (そこまでの関係性が築けるかどうかというのが研究者の技量ということなのかな?)

    これは「介護者(支援者)と被介護者(当事者)との関係のダイナミズム」という言葉で表現されています

    福祉の場では支援者―当事者という関係についとらわれがちだけど、視野がひらけそうな一冊でした

  • さて、少しずつ反響が広がっている介護民俗学です。全ての状況でこの『民俗学』をおこなうことはやはり困難なのでしょうが、介護する側とされる側が時代観を共有できている現在は、非常に幸福な時代なのかもしれません。ますます時代の変化が加速して、ボクが介護されるころには『スマホ』なんて若者に言ってもチンプンカンプンだったりして(笑)

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著者プロフィール

沼津市内のデイサービス「すまいるほーむ」の管理者・生活相談員。社会福祉士。介護福祉士。介護支援専門員。大阪大学大学院文学研究科修了。博士(文学)。民俗学専攻。2009年より、静岡県東部地区の特別養護老人ホームに介護職員として勤務し、2012年10月から現職。「介護民俗学」を提唱。著書『神、人を食う』新曜社・第25回サントリー学芸賞受賞)。『驚きの介護民俗学』(医学書院・第20回旅の文化奨励賞受賞、第2回日本医学ジャーナリスト協会賞大賞受賞)。新刊『介護民俗学へようこそ!「すまいるほーむ」の物語』(新潮社)。

「2023年 『神、人を喰う 新装版 人身御供の民俗学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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