感情と看護―人とのかかわりを職業とすることの意味 (シリーズ ケアをひらく)

著者 :
  • 医学書院
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  • / ISBN・EAN: 9784260331173

感想・レビュー・書評

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  • 非常に面白く一気に読んだ

    普段うっすらと感じていたことが鮮やかに表現されていてスッキリした
    ジェンダーやファンタジー上の看護婦にも触れ、幅広く看護師について書かれていると思う
    この著者は一体結びにどんな言葉を持ってくるのだろうとワクワクしながら読み進めた
    キーツの負の能力「不確かさ、不思議さ、疑いのなかにあって、早く事実や理由を掴もうとせず、そこに居続けられる能力」が希望に繋がっているという指摘が目から鱗でこの本と出会えて良かったと思った
    読めそうな文献は読んでみたい

  •  段々と病院のお世話になりそうな年齢になってきて、医療関係の本に関心が向いてきた。そんな訳で「シリーズ ケアをひらく」の本を何冊か読んできて、本書もそんな一冊。

     本書は、主として患者との関係になるが、他人の中に感謝の念や安心感など何らかの感情変化を起こさなければならない、対人関係が重要である看護師の仕事を感情労働と位置付け、看護師がどのような気持ちで、どのように悩み苦しみながら仕事をしているのか、現場の実例や心理学、看護学に関する論述に依拠しつつ明らかにするとともに、具体的な解決策を考えていく。

     もちろん個人のレベルだけでどうなるというものではない問題も多々あるだろうが、問題があるということが多くの人に可視化されることによって、何らかの糸口となる可能性があると思う。

     自分がお世話になるときに、どういった患者になるだろうか。病気次第で自分が今考えているようにならない可能性があるのが、病気の恐いところだ。

  • 看護の始まりから終わりまでを考察する為の研究の参考図書に読みました。

    看護師って優しくあって当たり前、むしろ優しく無い看護師はよくないと思って罪悪感に浸りがちになる。
    武井麻子先生はそこを感情労働なんだから、むしろそのあるべき論というより「優しくして疲れた」気持ちを否定すべきではないと書いていて、なるほどなとまず感じたのを憶えています。

    最近は昔よりSNSが発達したり、武井先生の考え方が広まってきて「仕事で優しくする」気持ちが肯定されつつあり、また逆に仕事中にあるべき姿、理想像を演じやすくなったように思います。オンとオフというやつです。本当は演ずるのも看護師としてはどうなんだろうとはなるのですが、端くれとして、働きつづけるために私はこの選択をしています。ちょっと道からは逸れてしまっていると思います。

    ただ、無駄に気を使わなくなったので、私の場合は他の部分に気が配れるようになりました。ケアに迷いがなくなる、それによってフィジカル面の観察やチームのエンパワーメントについて。自己についてなら、メンタルの観察であったり、休養の必要性を早く察知する。何より今はやりの「自己肯定感」が低くなることが、格段になくなりました。

    あくまでケアをする人としての観点なので、チームでのやりとりであるとか、まあある程度のキャパシティの空き要領をつくると、また何かを入れて悩んでしまいがちではありますが、せっかくなら人の事に神経使うより、自分の為に使って人生楽しみたい、看護で働きながら、という自分には良い本に出会えたなと感じています。

    当時、残業してまで対応していたマンモス級の患者さんのケアを見るに見かねた上司が貸してくれました。とても疲れていてしっかり読めなくて、退院されてから読んだのですが、その上司の気持ちもなんだか伝わってくるようで、表紙を見るたび情景が浮かび、感謝の気持ちが湧いてくるんですよね。そんな一冊です。

  • これを使って、看護学校の今年の教え子にメッセージを送りました。
    看護と書いてはありましたが、我がことのように思えることもありました。家庭医はやはり近いものがありますね。

  • 看護とはなにかと聞かれて、明確に答えることは実は難しい。しかし、看護師に対するステレオタイプだけはもっている。これが現状か。

    その偏見を打ち破り、看護の感情的な困難さを様々な角度からあぶり出して見せた論考である。参考文献も充実しているので、看護だけでなく、対人援助職、ケアについて研究するための基礎文献にもなりうる。

    ・感情労働には自己欺瞞やうつ、バーンアウト、アイデンティティの危機といった危険がとなり合わせ。
    ・医師の思いやりのない言葉や態度に傷ついた患者を慰める看護師。これはチームワークではありません。看護師から考える力を奪い、医師から気づかいをする力を奪っている。
    ・共感的理解は、感じることとわからないことを分けること。
    ・相手の話を聴かない演習。両方ともうつになる。
    ・ケアすると言うことは、患者の甘えを理解し、それを受け入れる。つまり、患者があまえられないことを理解すること。
    ・共感疲労。二次的外傷ストレス障害。
    ・看護師もまた、自分の感情を吟味することの出来る場が必要なのではないか。カウンセラーと同じように。
    ・看護師もまた患者に支えられている。
    ・看護師になるのと患者になるのは紙一重。
    ・看護における人間関係への関心の低下は、看護師自身の人間的側面への無視をもたらす。
    ・キーツの詩の「負の能力」=「不確かさ、不思議さ、疑いのなかにあって、早く事実や理由を掴もうとせず、そこに居続けられる能力」

  • 看護研究のために読み始めましたが、看護師自身の感情にもきちんと向き合い、表出していくことの大切さを知り、否定的感情を抱く自分を認めることができるようになる一冊です。

  • 中井久夫を読んでいて、コールセンターの職場の問題点と病院で看護師に生ずるアクシデントが近いのではないかと感じ、読んだ。
    特に問題意識において膝を打つ気づきが多かったので、以下に。

    ・看護にはいくつかの神話がある。「共感」「傾聴」「受容」がその例で、意味があいまいなまま看護-患者関係を扱った文に必ずと言って良いほど登場する。対して同情、感情的、が悪い事として扱われる。そのため、学生は相手の気持ちに近づけば近づくほど、その気持ちが分かる気がすればするほど、「巻き込まれている」「同化している」という否定的な評価がされるという深刻なジレンマに陥る。
    大学の精神保健看護学実習の自己評価表に「援助的人間関係を築く」という項目があるが、教員から見て共感能力が高く、よく患者の感情に寄り添えたと思える学生ほどこの項目が低い。
    では、鈍感なら良いのかというと特に看護においては、非言語的サインへの気付きに大きな価値がある。感情は相互的なものであり、「感情には感情を以て対応するほかはない」

    →会社で特に研修時習った理想と現場の雰囲気が全く違い、戸惑うという声を良く聞く。コールセンターで共感、傾聴を教えない所は無いだろう。礼と心の持ち方を理想的に教えるのは良いのだが、相手が礼を以て接してくれるとは限らない時に相互的な感情が生じる。それへどのような対処をすべきなのか、も研修に含んでいなければジレンマを大きくするだけなのだろうね。

    ・看護は女性の職場で24時間の交代制なので部品的で脱人格化される。研修と学校が一体となっている所で、4年の内に3~5割離職があって普通。ほかの職種のように勤務年数に応じて複雑な仕事が与えられるようなシステムになっておらず、長年勤めた甲斐が得にくい。

    →全く同じ。対処方法がこの本に書かれている訳では無いので、他も当たってみたい。まだ看護は手に職が付くイメージがあるが、コールセンターにはそれも無い…かな。

  • まだ若い時、主任さんご紹介してくれて読んだ。目からウロコが落ちた果てに、心から納得した
    それから20年、悲しい別れが続いて、読み返した
    この仕事は、自分の感情を労りつつ、管理して、人に向き合い、寄り添い続けていくんだー

  • 前田陽子先生  おすすめ
    67【専門】498.14-T

    ★ブックリストのコメント
    保健師・助産師・看護師、すべて人間、つまり身体だけではなく感情を持った対象を相手にする職業です。相手の感情を読みながらケアをする反面、自身の感情もコントロールしなければならない職業です。本書を読み人との関わりを職業とする意味を考えていただけたらと思います。

  • ○看護婦には「アンテナ感覚」が求められる。 気働き

    ○ケア・ケアリング=気遣い
    =人が何かにつなぎとめられていること 何かを大事に思うこと

    doingよりbeing
    思考と感情と行為を区別せず、人間の知の働きと存在(いきかた)を一体的に表現する言葉。

    ○感情労働
    労働者とクライアントとの間でやりとりされる感情に商品価値があることを指す。

    感情管理をするために、自分自身を分割してしまう=割り切る
    看護婦の重要な感情規則の一つ 偽りの自己

    ○宗教家も看護婦も、心を売る仕事
    気を使う(職業的に)ことを封じられると、とまどう。
    気持ちのギブアンドテイク

    ○「病いillness」と「疾患disease」の違い
    どこも悪くなくても病であることはある
    病の物語を紡ぐ患者

    ○共感疲労
    二次的外傷ストレス障害

    ○治療できない患者はいても、看護できない患者はいない。

    ○死の不安と精神障害
    「人間の経験にとって中心的なことは、自分は生きている、という自己感覚を喚起し保持しようとする戦いであり、同様に、自分は死んでいるという自己感覚を回避しようとする戦いである。」
    PTSDの定義=死滅と解体の危険にさらされ、自分は生きているという自己感覚が脅かされ、そのような現実を生き延びるために現実感そのものを変容させるしかない―
    妄想・強迫

    ○目撃者・救護者のストレス障害
    二次的外傷ストレス障害 罪悪感・無力感

    ○看護者が患者の「感情の器」になってしまう

    ○慢性的に外傷を受けた患者は、無意識的および非言語コミュニケーションに対して絶妙な波長合わせを行う。
    深読みする=相手の好意に邪気を感じ取る
    敵視する=相手も敵視に反応し「支配と屈従」のドラマが始まってしまう
    患者殺し・子殺しのメカニズムにもつながる。

    ○看護婦のパーソナリティと共依存
    「強迫的な世話焼き」 gatta虫
    本当は自分が欲しがっているものを他者に強迫的に与えようとする。善意という名の支配。
    「強迫的自立」傾向
    愛情の絆からの独立を求める人・独立独行
    適切な感情のギブアンドテイクができない
    しばしば、周囲の人々の精神的破綻の原因となる

    ○陰性外傷
    繰り返し起こり、その人のパーソナリティに影響を及ぼす、低い自己評価と他者への不信。

    ○日々感じている無力感、虚しさから逃れるために、知識や理論に走る
    知性化に走る人格
    現実の不安や葛藤を、知的なものとして感情から切り離し、もっぱら理性によって処理しようとすることで作り上げられる人格

    ○逆境に強い子供=内的統制をもった子供=自分の運命は自分で決められるという強力な感覚
    無力感・孤立無援感の対極
    一人衝動的な行動に浸りきってしまうような「ランボー」タイプはPTSDを発症しやすい

    ○希望を持つこと
    暗い先取りは双方の士気を下げる
    慢性的看護ばかりだと士気を下げる

    ○母親は赤ん坊を憎むことを、それをどうこうすることなく容認できなければならない。
    母親は赤ん坊に対して憎しみを表現することはできない。
    母親について最も注目すべきことは、自分の赤ん坊によって大いに傷つけられながら、子供に報復しないで大いに憎むことができる能力、
    そして後日あるかもしれないしないかもしれない報酬を待つ能力である。

  • 武井先生の看護師に対する観察力と分析力は素晴らしいです。
    ナースならば思い当たる事も多くあると思います。ただ、いつも思うのが、看護師と患者ばかりが中心となっているところが残念。周りの医療従事者も巻き込んで分析しているともっと面白い。

  • 摂南大学図書館OPACへ⇒
    https://opac2.lib.setsunan.ac.jp/webopac/TW40002748

    これまで明らかにされてこなかったケアする側の看護師に生じる感情について書かれており、ケアすることの意味を考えさせられます。(小児看護学領域推薦)

    ※「2013年度看護学部推薦図書」でも取り上げられました。

  • 学生の時に読んでいまいちピンと来ず
    働きだしてからもう一度読んだ。

    患者の感情をくみ取ることはしても、それに一緒に自分の感情を持っていかれてはいけないと思った。
    実際、難しいけどね

  • 副題にもあるとおり、看護師だけでなく教師や自宅で介護に携わっている人にも色々な気づきを与えてくれる本だと思う。
    宗教的な部分については、著者がキリスト教徒ではないため、本来の意味まで踏み込めない部分もあったが、心理学的側面からは大変鋭い考察を行っていると思う。
    結びに「負の能力」(不確かさや疑いの中にあって、早く事実や理由を掴もうとせず、そこに居続ける能力)に言及しているが、これは生きている限り誰もが必要とする能力なのだろう。

  • まだ最後までは読めてませんが…こういう本も気になります。

  • 看護はメルヘンでも献身でもありません。仕事です。
     創造性のあるロマンあふれる自己実現できるすばらしい仕事です。

    でも、それを忘れちゃって業務に流されてる人って、けっこういるんじゃないかな。
     仕事として割り切り過ぎてるヒト、逆にのめりこみすぎてるヒトにもお勧め。
     自分自身と仕事との関係性を振り返ったり再構築するのに最適な書。

     実は、ナース以外の営業マン・販売・福祉職などなど、人と関わる職業の人すべてをターゲットに書かれてるから、とっても読みやすいよ。

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著者プロフィール

武井麻子(たけい・あさこ)

1976年東京大学医学系研究科修士課程2年のときから12年間、治療共同体をめざす千葉の民間精神科病院である海上寮療養所に看護師およびソーシャルワーカーとして勤務。その間、英国ケンブリッジのフルボーン病院にて半年間研修。1988年千葉県立衛生短期大学を経て、1990年日本赤十字看護大学に。以来、25年にわたり看護教育に携わる。その後はOffice-Asakoを立ち上げ、援助職向けに個人とグループのコンサルテーションを行うかたわら、東京都立大学特任教授を兼任した。日本赤十字看護大学名誉教授。主な著書に『レトリートとしての精神病院』(編著・ゆみる出版)、『精神看護学ノート』『感情と看護』『「グループ」という方法』(いずれも医学書院)、『グループと精神科看護』(金剛出版)など。

「2021年 『思いやる心は傷つきやすい』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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