原発事故で、生きものたちに何がおこったか。

著者 :
  • 岩崎書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (47ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784265830213

作品紹介・あらすじ

福島第一原発事故以降の里山の変化を写真と文章で解説。モンシロチョウ、セイタカアワダチソウ、アキアカネ、イノシシなど、生き物たちの姿を通して自然とは何かを考えます。

感想・レビュー・書評

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  • 人災である福島原発事故。
    甚大な被害と影響が出て放射線濃度の高い地域の人は避難した。

    でも、他の生き物たちは…?
    人間より体の小さな生き物たちが放射線から受ける影響の大きさは計り知れない。すべて死滅したのか?

    そんな疑問から本著を手に取った。

    わかったことは、
    ・放射線が直接生き物の個体に与えた影響
    ・人がいなくなったことで環境が変わったことによる影響
    ・除染により人の手が加えられたことで環境が変わったことによる影響

    これら複数の要因が絡まって、土着の生態系が大きく変わってしまったことだった。
    生き物の世界はマクロな視点が必要だと痛感した。

    被災地にいたチョウチョに放射線が当たってその地域のチョウチョは全滅しました。
    ーーそんな単純な話では全然ないのだ。生き物の世界、この世の生態系はもっと複雑だ。

    作中に出てきたヤマトシジミの次世代に奇形が現れた話も空恐ろしい。
    時間が経って現れてくる被曝の症状は、いつ爆発するかわからない不発弾をずっと抱えているような不気味さだ。

    「今はまだわからない」こと、時間が経つことで「だんだんわかってきた」原発事故の生き物たちへの影響。
    被災者にだけ意識が向きがちだけど、被災生き物、被災生態系についても注意を向ける必要があると思った。
    それはゆくゆくは人間に還ってくることでもあるのだから。

  • 全て解明されるまで、観察し続けるための第1報告書。
    NHK クローズアップ現代 原発周辺の町 〜あふれる野生動物 避難指示解除で何が〜
    https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3975/
    をみて欲しい。

  • 最近ネット記事で見た福島の原発事故が動物にもたらした影響。福島の沿岸部は今どうなっているのだろうと思っていた矢先に手に取った一冊。奇形のヤマトシジミ、街中を泳ぐ鮭、民家の庭先に我が物顔で暮らすイノブタ、沿道に寄せた除染土を入れた黒い塊。避難区域になり、人が住まなくなった地域の現状を垣間見ることができた。これからまた何年も経つとさらに景色は変わっていくのだろう。同じ東北に住む人間として、しっかり見て考えていかなくては。

  • じわじわと生き物を蝕む目に見えない放射線。
    地元に戻ってきて、原発再稼働に対し好意的な意見が多いのには驚いた。対岸の火事。

  • 福島第一原発の事故で、生きものたちにどんな変化があったのかが分かりやすく書いてあって、大人でも読み応えがありました。物事を考えていく上で感情的にならず事実を積み上げて現状を理解することの大切だと思いました。生き物というのは、周りのいろいろな環境に影響を受けていて、常に変化している様子が分かりました。考えさせられることの多い本でした。
    小学校高学年から。

  • 図書館で目にとまった。
    写真が多く読みやすそうだったので、借りた。

    タイトル通りの本。
    原発事故により人がいなくなった土地と、その場所の動植物についての本。

    「今はまだわからない」、「わかってからではおそい」、研究者に共通した言葉だという。
    原発事故後、甲状腺ガンの子どもが検査で発見されているが、比較できる数値・資料がないので、放射線の影響かはわからないというニュースがあった。
    それはえらいひとたちの言い訳なんじゃないの、と訝しみつつ、こわかった。
    今回、ヤマトシジミの変化の地道な研究方法を知ることができてよかった。
    ヤマトシジミだけではなく、人間にだって影響は出ているだろう。
    でも、以前よりも微増した放射線のなかで人間が生き続けたら、少しずつ少しずつ何らかの耐性ができていくなんてことはないのだろうか。
    ばかみたいだけど、そんなことも思った。
    生態系が崩れるのは、私たち人間のせいだろうか。
    私たちも種の一つに過ぎないのだから、それも計算に入った上での生態系なのではないのだろうか。
    道を間違えれば、私たちだって絶滅危惧種だ。
    私はやはり原発反対派だけれど、この本はたんたんとしていて、これまでよりこわさが軽減した。
    やっぱり、知ることは大事だ。

  • 原発事故後の動植物をテーマにした、文字多めの写真絵本。
    「後」の変化に気づくためには「前」を知っている必要がある。
    これは原発事故後の話だけど、「前」を知る人たちの話でもある。
    この本は、因果を短絡的に判断しない科学の目と、大切な場所を失った人のかなしみとでできている。

    里山は、人の営みを勘定に入れて成り立っている。
    ゆえに人がいなくなれば姿ががらりとかわる。
    事故の影響は「放射能汚染」のような直接的なものだけではない。
    人がいなくなって耕作や狩猟がとどこおれば植生が変わり、食物連鎖のバランスが変わる。
    人がいないから増えるものがあり、人がいないから消えるものもある。

    ペットの救助すら「人間様が困ってるのに動物ごときに手をかける場合か」と責められた時期に虫の生態「なんか」を調べた人たちがいる。
    自分のフィールドで自分の仕事をしつづけた研究者たちに頭が下がる。

    なんかもののけ姫をみたくなった。

    関連
    似たような場所の20年後。
    『チェルノブイリの森』http://booklog.jp/users/melancholidea/archives/1/4140811811
    通常の一年。
    『雑草のくらし』http://booklog.jp/users/melancholidea/archives/1/4834002365

    ヤマトシジミの異変についての論文。
    http://w3.u-ryukyu.ac.jp/bcphunit/fukushimaproj.html

  •  写真集、そしてこのタイトルときて、何やら恐ろしいイメージを持たれる人もあるかと思うが実際は違います。ただひたすら、福島原発周辺の自然の風景が綴ってあります。
    けれどそれが大きく、「原発前」と違うのは「人の手」を介さない風景がそこにあるところ。といってもそれは古き懐かしき風景ではない。
    外来種が水田を埋め、またイノシシが街を闊歩し、そして除染土を入れた黒いビニール袋の圧倒的な量を含めた風景がそこにあった。
     
    再稼働の是非、また懸念される将来的な放射能の影響について。その判断、また科学的根拠を論じる前に圧倒的な「現実」がここにあった。
    子供向けの体裁をなしているが、是非大人にも読んでほしい。

  • 「原発事故が起こり人が住めなくなると、本来の自然環境に戻ると予想する人もいたが、実際は外来種のセイタカアワダチソウが埋め尽くした」
    「放射線の被害は自然環境ばかりでなく、土地とともに成り立ってきた産業や文化までをも消し去っていく」

    琉球大学・大瀧丈二さんのヤマトシジミの研究=放射性物質が多く含まれるカタバミを食べると奇形・死亡

    除染のために取り除かれた土などが黒い袋に入れられ積まれている…。

    「貴重な自然といえば、天然記念物や保護区など、その場所にしかないものを大事にすることが主流で”当たり前の自然”は置き去りにされてきた」
    「もともと絶滅寸前だった生き物なんていない」
    「人間が滅ぼせば滅ぼすほど、めずらしくなったと騒がれてきただけ」

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著者プロフィール

【永幡嘉之・写真・文】  1973年、兵庫県生まれ、自然写真家。山形県を拠点として昆虫類を中心に動植物の調査と保全にあたる。日本チョウ類保全協会理事。著書に『白畑孝太郎―ある野の昆虫学者の生涯』(無明舎出版)、『巨大津波は生態系をどう変えたか―生きものたちの東日本大震災』(講談社ブルーバックス)などがある。

「2015年 『原発事故で、生きものたちに何がおこったか。』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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