マネー・ボール 奇跡のチームをつくった男

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制作 : 中山 宥 
  • ランダムハウス講談社 (2004年3月18日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (381ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784270000120

マネー・ボール 奇跡のチームをつくった男の感想・レビュー・書評

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  •  メジャーリーグのオークランド・アスレチックスは、選手の年俸総額がニューヨーク・ヤンキースの3分の1でしかないのに、成績はほぼ互角。この不思議な現象を可能にしたのが、GMのビリー・ビーンによる、革命的なチーム編成である。

     その革命的なチーム編成の土台となったのが、セイバーメトリクス。統計を用いた野球分析である。
     ビル・ジェイムズによって創始された、この選手データを以て野球についてのデータを洗い直した時、従来の野球理論が確率的に言って妥当でなかったことが次々と明らかになった。
     例えば、打者については打率や打点といった従来の指標が、得点効率の観点から見たときに、必ずしも打者の価値を正しく反映していない。セイバーメトリクスでは、出塁率を重視し、出塁率と長打率を合わせたOPSという指標などで打者の価値を把握する。
     また、アウトカウントを相手に与えることは得点効率の観点から得策でなく、この点、アウトになる確率の高い盗塁や、確実にアウトを相手に献上するバントは否定される。
     守備についても、フィールド内でアウトになるかヒットになるかは運でしかないとして、ほとんど重要視しない。
     かなりドラスティックな内容であるが、ビル・ジェイムズの理論は一部のマニアに評判となるだけで、メジャーリーグで取り入れられることは無かった。

     このセイバーメトリクスに目を付け、この通りにチーム編成をしたのが、ビリー・ビーンである。
     ビリー・ビーンは、メジャーリーグではじめてセイバーメトリクスに基づいて組織を作ったのだが、ビリー・ビーンの凄さと面白さはこれだけではない。セイバーメトリクスを用いることで、従来の野球理論や野球人の先入観では低く評価されていた選手を安値で買って戦力を確保する。そして選手の年俸が高くなってきてトレードやFAとなったときに移籍金をせしめ、それでまた安い選手を確保する。まるで株式市場での投資を見ているようであるが、貧乏球団のGMによる脅威の「錬金術」は痛快ですらある。

     こう紹介していると、どうしてもセイバーメトリクスという新しい戦略による成功が中心の物語のように見えるかも知れないが、決してそんなことはない。セイバーメトリクス自体にも勿論知的好奇心をそそられるが、本書の面白さを支えるもう一つの軸は、先入観と思い込みで何十年と同じ事を繰り返している閉塞感を打破していくイノベーションの物語であると言える。
     アメリカというと自由の国で、既成概念に縛られない自由な発想が許容される社会のように何となく思ったりもするが、決してそんなことは無い。印象と主観と偏見を疑おうともしないスカウト、機動力と守備力を極端に軽視するセイバーメトリクスに基づく戦略をなかなか受け入れられない選手や球界、そしてマスコミ。
     中でも特に印象深いのが、サブマリン投法(アンダースロー)のチャド・ブラッドフォードだった。アメリカの野球選手というと、日本のようにバッティングフォームやピッチングフォームを「理想の型」に直したりしないために、個性的なフォームをしている。が、そんなアメリカでも、ブラッドフォードのサブマリン投法は「あまりにも変わっている」という理由でほとんど評価されなかったのである。
     新しいものに対し、偏見と従来の思い込みからロクに見もせず否定する姿というのは、やはりみていて気分の良いものではない。正直ある種のやりきれなさすら感じる。それだけに、アスレチックスの快進撃とブラッドフォードの活躍に胸すくわけだが。

     本書を読んでいて思い出したのが、高橋秀実『弱くても勝てます』()という、超進学校の開成高校野球部を取材したルポルタージュである。
     週一回しか練習できず、野球の才能がある選手が揃っているわけでもない開成高校野球部。その打順は、1番から4番まで強い球の打てる選手を並べていくというもの。バントやスクイズなどはしない。投手力も大したことなく、守備も「試合が壊れない程度であれば良し」というレベルなので、1点をもぎ取ってもその裏に10点取られることもあるからだ。
     守備を捨て、出塁と一挙大量得点を狙う開成高校野球部の「どさくさ野球」は、セイバーメトリクスの観点からするとそれなりに合理性があったということか?

     あと考えさせられたのが、セイバーメトリクスはポストシーズンでは必ずしも有効ではないということだ。
     セイバーメトリクスの専門家であるピート・バーマーが計算したところによると、選手の技能の違いによって生じる得点差は1試合1点くらい。ところが運の違いによって生じる得点差は1試合平均で4点ぐらいなのだそうだ。レギュラーシーズンのように長い期間の戦いであれば、運の善し悪しも敵味方平等になってきて、技能の違いだけが残る。しかし、短期決戦だとどうしても「運の平準化」がなされず、ツキの要素が大きくなってしまう。
     この点、福本伸行『アカギ』や甲斐谷忍『ONE OUTS』で言ってるように、
    「所詮確率論なんざズレた講釈なんだ。ここ一番の勝負を薄めて考えていく」
    「勝負というのは相手の心臓を掴むということ。そして掴んだら思いっきり握りつぶすということ」
     というひりついた勝負師的な感性こそが、短期決戦では重要になるんじゃないかなぁ…。と、つい思ってしまう。

     さて、アスレチックスの快進撃は、セイバーメトリクスを自チームだけが使うという情報における優位性に担保されていた部分は否定できない。皮肉なことに、アスレチックスがセイバーメトリクスの有用性を実証することで、他チームもセイバーメトリクスのデータを重視するようになり、結果として情報の優位性が減少する。誰も目を付けていないお得な選手を安く買う「錬金術」も、だんだんしにくくなってくる。
     本書は2000年初頭のアスレチックスを描いたものだが、その後は低迷したり、セイバーメトリクスの理論とは相反する補強や戦術も取り入れている。

     つい長々と書いてしまったが、非常に良質なノンフィクション作品であることは疑いない。技術や組織のイノベーション物語に胸躍らせつつ、読後あれこれ考えが止まらなくなると思う。今更だけどオススメの一冊!

  • 常識を疑う、ところからの出発。
    どの分野でもそれを実践できる人が突破できる、という物語。

  • 自宅ソファーで読了(35/100)
    野球深いわー。俄然映画見たし。

  • 日本の野球ファンにセイバーメトリクスという言葉を広めるきっかけとなった本。
    出版されてすぐに読んだ。わたしは恐ろしく数字にうとい人なので、セイバーのほうはからっきしだったけれど、それでも目から鱗がぼろぼろ落ちてすごく面白く読んだのをおぼえている。
    日本では「清貧」という言葉があって、ややもすると「貧乏=心が清らか」「金持ち=あくどい」というステレオタイプが振りまわされがちだが、この貧乏球団オーナー、ビリー・ビーンのあくどさ(よい意味での)はどうだ!と胸のすくような痛快さをおぼえた。とくにトレードをめぐる切った張ったのやりとりなど、よくぞここまで書けたなと思う。

    その意味でビリー・ビーンもすごいけど、著者のマイケル・ルイスもすごいのですよ。密着してえぐり出す取材力。そして遠慮なく生々しく描き出す筆力。さらにもうひとつつけ加えるなら、中山宥氏の翻訳もすばらしい! 数字の苦手なわたしがあれだけぐいぐい引き込まれて読めたのは、翻訳の力によるところも大きい。

    本書があまりにも有名になったため、アスレチックスは戦術を変えざるを得ない点も多々出てきたそうで、そのあたりのいきさつはウィキペディアにも詳しく記されている。ビーンGMその人も毀誉褒貶相半ばする人生を送っているようだ。でも2010年オフ、岩隈との交渉が決裂して日本のマスコミから悪者にされかけながら、すぐに松井秀喜をFAで獲得してファンのハートをつかむあたり、やはりさすがにしたたかだなと思わせる。『マネー・ボール』に描かれた世界がそのまま通用することはもうないのかもしれないけれど、ビリー・ビーンとアスレチックスを知るためには、やはり欠かせない1冊でしょう。

    【2013年追記】
    2012年春に公開された映画は、上出来。原作と違ってヒューマンドラマが前面に出ていたけれど、野球への愛が感じられる作品に仕上がっていた。
    そして4月、マリナーズとの日本開幕戦。これは完全にマリナーズの刺身のつまで、スタンドの9割5分がマリナーズ応援でしたね(^_^;;
    しかし、不安定な序盤を越えると、セスペデス、レディックの活躍もあってチームは完全に勢いづき、ついに一時10ゲーム以上離されていたレンジャーズをとらえて、奇跡の地区優勝。アスレチックスにとってはすばらしい1年になりました。ビリー・ビーンもア・リーグの最優秀GMを受賞。

    そして、その年の暮れ、武田ランダムハウスがひっそりと倒産……。RH講談社から武田ランダムハウスに引き継がれた本書はどうなってしまうのでしょうか。名著なので、どこかでまたきちんと出し直してほしいです。
    【2014年追記】
    上の追記を書いてからすぐ、2013年4月に『マネー・ボール 完全版』として早川文庫から再版されました。作者による出版後日談「マネー・ボール宗教戦争」も加えて、充実の内容。
    今や本書で取り上げられたセイバーメトリクスはメジャーリーグではある意味スタンダードになってしまい、アスレチックスなどはさらにその先を行くべく、徹底したプラトーン戦術と、機を見るに敏なトレードとで、2014年前半は首位を快走中。数年前、下位を低迷する時期もあったA'sだけれど、完全に持ち直して新たな黄金時代を築きつつあるという印象です。となると、セイバーにこだわらず、さまざまな新しい戦略を取り入れていくビーンGMの手法の総体が「マネー・ボール」なのかもね、と思ったりもするわけで。A'sのファンではないけど、おもしろいなあと思います。

  • 勝利に対して非常に熱く、データに向き合う姿勢は非常にクール。

    ビーン氏は、本当は野球のことが心底好きだし、試合に勝つことで得られる喜びを知っている人なのだろう。

    そのせいか、彼の球団経営は時に非常に冷徹に見える。プレイヤーとフロントの間にある役割分担に非常に厳格で、チームとして勝つことと一人ひとりの選手のキャリアの間に明確な線を引いているように感じた。

    人間としての彼の性格とのギャップも含めて、非常に面白いドキュメンタリーになっていた。

  • 野球界に起きた革命。

  • 1番、ドラフトが熱くなった。ビリービーンの考え方は非常に大事でコスト小でリターンをいかに大きくするか。そして、新しい事には大きな壁があるが、どう壊すか。それを学んだ気がする。

  • 分析は、視点が大切だということがわかる本。

    映画を見た後で読みましたが、本のほうがいいかな。

    人の名前が多すぎて少し混乱しますが、大筋には影響なし。翻訳物にしては読みやすいです。

    ザックリ言うと、四球(出塁率)に着目したのが鋭すぎですね。

    最近流行りのビッグデータも、こういう視点が無ければ意味が無いんだよな〜。

    野球やデータ分析に興味がある人は是非。

    オススメです。

  • 2013/12/29-2014/01/10

  • 野球界の常識と思われていた迷信を独自の理論から覆して行く快作。少しくどいかなと思う場面もあるが、資金面で劣るアスレティックスをプレーオフ常連に仕立てる個性的な主人公の手腕に爽快感を覚えた。

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マネー・ボール 奇跡のチームをつくった男の作品紹介

理不尽なまでに合理的なトップダウン経営が、野球の常識を根底から破壊した-。痛快!カリスマGM(ゼネラルマネジャー)と落ちこぼれ選手の野球革命。貧乏球団アスレチックスは、なぜ勝ちつづけるのか?小説ではぜったい書けない男たちの熱いドラマ。

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