ヘルマフロディテの体温

著者 :
  • 武田ランダムハウスジャパン
3.91
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本棚登録 : 533
感想 : 74
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  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784270003183

作品紹介・あらすじ

ある日、母が「男」になった。それが始まりだった。以来、シルビオの世界は少しずつゆがみはじめた。人に言えない悪癖にとりつかれ、他者と交わることもできなくなったシルビオ。そんなとき、背徳と情熱の町ナポリで男でもない女でもない、謎めいた大学教授に出会う。教授の出す奇妙な課題はさらに尋常ならざる世界へとシルビオをいざなう…。年老いた女装街娼や去勢された男性歌手、伝説の人魚や両性具有の神たちが織りなす哀しくも優しい異形の愛の物語。ランダムハウス講談社新人賞優秀賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 幼い頃、美しく優しかった母がナポリで失踪、数年後、戻ってきた母はなんと性転換して男性になっていたというトラウマを持つシルビオ。今はそのナポリの大学で医者になる勉強中だが、ナポリには「フェミニエロ」と呼ばれる男性から女性になったトランスジェンダーや女装者がとても多く、シルビオが通う大学の教授ゼータもまた生まれつきの半陰陽を公言し、トランスジェンダー手術を専門にしている外科医。母が男性になる手術をしたのもゼータ教授だと知ったシルビオは彼に反抗的な態度をとり続けるが、あるときシルビオ自身の密かな女装癖を知られてしまい、教授の難題<なぞなぞ>に答える「物語」の提出を要求されるようになる。

    ナポリその他イタリアの伝説、カストラートの歴史、ギリシャ神話から完全な創作まで、シルビオが作ったいくつかの物語と、ゼータ自身の過去の物語、たくさんの小説内小説が散りばめられていて、それらの内容がとても面白い。

    山本タカトの表紙絵やタイトルにある両性具有のヘルマフロディテ等から、頽廃的で倒錯的なお耽美幻想小説を予想していたら、ある意味裏切られる。小説内小説にちりばめられているモチーフは幻想的だけれど、大枠のシルビオの物語は現実的だし、自分の性や生について迷い悩む人々を力強く励ます大変前向きで現実的な結末になっており、文章も難解耽美な漢字やもってまわった表現など使わず、とても平易で読み易い。

    そこを魅力と捉えるか、物足りないと思うかで評価が変わりそう。私は正直ちょっと何かいまひとつ物足りない気がしたけれど、まあ好みの問題かな。結末がポジティブで読後感は爽やか、読んで損はない内容でした。

  • 良作に出会えた時の感動もひとしお、読後のほのかな余韻も素晴らしい。男女という性を凌駕し、生命全ての命に語りかけ、誰でもない“あなた”自信のあるべき姿を見つめる。「あなたは誰なのか。」とひたすら問い続ける。ギリシャ神話をベースにナポリという舞台を存分に生かして描かれた世界が、終始読者を魅了してやまない。男という性、女という性である前に、一人の人間としての“生”である私たちの、“からだの物語”。丹念に織り込まれた神話や土地、人々の歴史が一つ一つのからだをもって、生き生きとこの物語の内に存在している。繊細でいて煮えたぎるほどの熱を秘めた、至高の作品。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      小島てるみの新刊が出たので早く読みたい!
      小島てるみの新刊が出たので早く読みたい!
      2014/03/04
  • 私達日本人がイメージするステレオタイプのナポリではなく、何度も何度も渡伊を繰り返し取材したナポリの実情が生々しい。
    実際、社会問題ともなっている男性、女性だけでない第三の性といったセクシャルな話題(作品はそのいずれとも違う第四の性だが)を耽美的な文章で緻密にまとめられ、私たちに狭い世界から意識を遠く離れたイタリアへと飛ばさせてしまう熱量の素晴らしいこと。
    この本と出会えたことが幸せです。

    しかし残念ながら絶版とのことで、単行本か電子書籍化を期待したいと思います。
    次回作が発表されることを心より願います。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「次回作が発表されることを」
      やっと出ましたね「ディオニュソスの蛹」。どんな話か今から楽しみ!
      「次回作が発表されることを」
      やっと出ましたね「ディオニュソスの蛹」。どんな話か今から楽しみ!
      2014/03/04
  • 女装癖、トランスセクシャル、カストラート(去勢された男性歌手)、そしてヘルマフロディテ(両性具有)の人生を描きながら、女装癖の奥に隠された本当の自分を探り見つめる物語なのだが、世界観がまさに細胞1つから地球規模にまで広がる流れで、どっぷりはまってしまった。耽美というよりむしろ冷たく現実的な痛みを感じる手触りだが、読み進めるごとに登場人物の「醜さ」の中にある純粋すぎる魂の渇望と愛が見えてくるような不思議。最後は自分に正直でありたいと思えた本だった。

  • 主人公は女装常習者ですが、この話の中で主人公が女装してなにかがおきるというのは最初だけです。
    それ以降は教授に課せられた課題をこなして、自分と向き合う話でした。
    何本か主人公が書いた、作中作の短編が面白かったです。
    キャラクタ同士の絡みを期待している方は満足できないかもしれません。

  • 好き嫌いわかれる物語なので人には勧められないけれど。
    この人の本大好きです。

  • 女装する男たち、去勢する男性歌手、生まれつきの半陰陽……両性具有……テーマがすげえ……
    これもスッゴい好きな雰囲気でした……
    強姦とかは怖いし悲しいけど……

    人は結局、性別とかそういうものを超越した存在に惹かれるのだ……

  • 水がおいしそうに書かれている

    なんだかエロチック。

    セックスの役割以外の性の在り方
    多種多様。

  • ハマる人はずっぽりハマる世界観。
    この手のモチーフは、小説そのものが「雰囲気負け」してしまうところがあるが、この一作は面白かった。
    創作中創作の部分も、これだけ端からドラマチックなテーマを扱いながらも、作家本人の創意に読ませるものがあって、非常に力強かった。

    キャラクターもとてもいい!教授素敵。

  • 友人蔵書
    内容が面白く、文体は耽美ではないけれども非常に読みやすかったため、むさぼるように一気読みしてしまった
    両性具有のお話
    本当に平易な文で書かれているのですらすらと読め、物語に入り込みやすかった

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