傷を愛せるか

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著者 : 宮地尚子
  • 大月書店 (2010年1月1日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (174ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784272420124

傷を愛せるかの感想・レビュー・書評

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  • めちゃくちゃにスゴかった。ハンパなく面白かった。

  • 虐待や暴力で受けた傷から、自分を傷つけていく。
    するとその衝動に、周囲も傷ついていく。

    それをどこかで少しでも、連鎖させない方向に持っていくには
    受傷した本人が

    「このことは消えない」けれど、それはもう、ここで一度
    「このことはもういい」と思い定めること。

    そこに未だ傷はあるが、徒らに触れないことで
    痛みから解放される必要があると思う。

    逃げとは、これは違って。
    その傷を無視するのではない。

    傷があるのを自覚しながら、それ以外のことにも目を向け
    ゆるやかに再生するために、不必要な痛みや、周囲に
    痛みを見せることから生じる軋轢を減らすことが大事かな、と
    考えるのだ。

    私自身も苦しい経験をし、セラピーも受け、専門家として援助した
    経験もあるのでそう考えている。

    深すぎる傷、癒しきれない傷というのは現実にあるもので
    完治すれば良いが、これは難しいな、とクライアント側であっても
    思う時がある。

    くっきりと線の引かれた「完治」という状況。
    もう平気だという状態を目指すのは当然だが、それよりも。

    その傷以外のことに、人生の時間や視線を向けてみようかと考える時
    初めて回復への道がついたように、自分では思う。

    だから、この本の内容の紹介を読んだ時、こういう切り口の精神医学の
    エッセイが出てきたのか、ととても惹かれた。

    現実のトラウマとの向き合いは、時間がかかる。
    数週間や数時間というレベルではない。数年、数十年の場合だってある。

    その時間に、本来だったら出来ていたことを考えると、
    傷に振り回されるより、そっとその傷に手を当て、これ以上痛まぬようにし
    痛み以外のことに向かっていくほうが、ずっと良かったと思うのだ。

    解決らしい解決だけが正解ではないこともある。

    ここには痛い場所がある。

    自分の痛みだから、なかったことにできない。
    痛みも持って生きていかなければならない。
    だとしたら。

    痛かったね。つらかったね。

    といたわってでも、どうにか凌いでいくしかないのだ。

    その傷と生きた時間が長くなり、ふと、そうだった
    ともう一度目が向いた時には、もう傷は癒えて、痕は残っているが
    血は流さなくなっている。

    そういう癒し方もあるのだと、教えてくれる。

    別に大きな悩みを抱えていなくても、ふっといたわられる瞬間がある本
    なので、心静かになりたい時、繙かれることをおすすめする。

  • 傷を否定せず、傷と一緒に生きる、弱さを受け入れ生きる。
    タイトル見ただけで、それを言わんとしている本なんだろうなと思った。そう教えてもらい、楽になったことを思い出した。

    筆者は精神科医師。トラウマ、DV、性的虐待が専門。
    医学界新聞に書いたエッセイだそうです。

    私は大きなトラウマ、傷を負って、生きるか死ぬかみたいなことを経験してきていないけど、擦り傷、切り傷くらい?の傷をつくってかな?と思う。人に傷つけられること、人との軋轢、人との違いで、自分で自分を傷つけること。

    傷、自分の負の部分、痛みや悲しみを人はよくないものというし、それを表には出せない空気がある。
    そうした周りの空気が一層、本人を苦しめる。
    そんなの当たり前とふつうに受け止めたらいいのになぁ。

    例えば、転んで、膝をすりむいて、血がだらだら流れたら、かさぶたになるのを眺めて、治るのを見守る。傷のあとが残る傷も、ずっと痛む傷も、時々うずく傷も、いろいろある。
    自分の身体にできた、痕跡とは上手に付き合っていくもの。
    そうやって、心にできた見えない傷とも付き合っていく。

    世界との違和感、傷を抱えた人を見てきた、作者の目は客観的であり、優しい。

  • 心を癒してくれるパワーを持った一冊。

  • トラウマ研究の第一人者の方。すごく優しい気分になるエッセイ集である。読後感が良い。トラウマを治療する人の人間性が現れているのだろうか。

  • 「なにもできなくても」から「傷を愛せるか」までのタイトルに象徴されているように、精神科医師の視点で日常のこまやかな傷をみつめ、それをことばにおこしている。
    「なにもできなくても、見ていなければならない」という命題が、「なにもできなくても、見ているだけでいい、なにもできなくても、そこにいるだけでいい」というメッセージに変わった。P12

    起きたことを目に焼きつける子どもがいることで、救われる人間もかならずいるはずだから。

    拱手傍観(きょうしゅぼうかん)~手をこまねいたまま、そばで観ていること。

    映画『海を飛ぶ夢』(スペイン)~尊厳死

    感情労働とは、ひと相手の仕事において、働き手が自分の感情やその表現を適切に維持することであり、それによって相手の感情を調整することである。看護師

    vulneravility(ヴァルネラビリティ)とは、弱さであり、攻撃誘発性=すきがある、つけ込まれやすさ

    悩みを相談するとき、女性は気持ちをわかってほしいのに、男性は問題解決をしたがるのですP106

    自然はいつも人間の支配を超えた潜在力をもつ。自然の持つ回復力を信じることと表裏一体である。自然はもっと畏怖されてよい、怖がるのはぜんぜん悪いことじゃない。P117

    人生の軌跡を長い目で見れば、ジグザグのように見えて一直線の場合もあり、まっすぐ迷わず進んでできたはずなのに大きく湾曲していることもある。寄り道のつもりだったのが案外近道だったり、最短距離だと思って選んだ道が行きどまりになってしまうこともある。なにが近道でなにが遠回りなのかは、人生の最後になってみたいとわからないのだろう、きっと。
    空は広く、道はない。紆余曲折。試行錯誤。なんでもいい。それでも行きたいと思っていた方向にいつか人生は収束していくのだと、どこかで深く信じていたい。P143

    ポスト・トラウマティック・グロース(外傷後成長)~心に傷を負ったあとの人間としての成長という意味。人は傷によって弱められるだけではない。それによって学び、成長することもある。直観的には、おそらくだれもが理解し大切だと思い、そこに希望をみいだすだろう。P161

    レジリエンスとは、傷への抵抗力、回復ちょく、復元力といった意味
    人間が傷をただ受けるだけの存在ではなく、打ち勝つ力をもつ能動的な存在であるという捉え方や、その自然回復力に目を向けるのは、たいせつなことである P162

    映画『レニーとの約束』アメリカ

  •  著者が精神科医であり、さらにこのタイトルからすると、ひどくまじめな本に見えるが、これはエッセイである。軽いとかいい加減という意味ではないが、学術的な本ではない。

     著者は心のどこかで、常に客観視し続けている自分に恐れにもにた感情を抱いている。だけど、その「見ているだけ」という行為が誰かのためになることもあると、肯定に意識を転じることもできる。それは客観視ゆえの性質だと思う。

     研究をしたり臨床をしたり、旅に出たり、著者はその客観的な視点でものごとを見つめている。それは一見非常にクールだが、やはり心に負担はあるようた。でも著者は前を向いている。その視点が心地よい。
     精神科医でも悩み、考え生きているんですよ、と示されており。いかに患者に寄り添う仕事なのか考えさせられる。

     「ホスピタリティと感情労働」は、「肉体労働」でもなく「頭脳労働」でもなく、日常で感じている感情を出している振りの己へのダメージについて書かれている。「感情労働」なんて単語を始めて聞いた。しかし読むと「なるほどなぁ……」と思う。

     「見えるものと見えないもの」は、オカルトについてわたしが懸念する「見える人」にとって見えるものが、わたしにはわからない。証明できない。それゆえに、そこに拠り所を求められない(=実感できないから)ということ、例を用いて、実にわかりやすく説明してくれていて、すっきりした。
    (ちなみにオカルトは否定しないけど、わたしの判断する領域じゃないなと思っている。わからないから)

     書籍のタイトルにもなった「傷を愛せるか」は、著者の傷(トラウマやPTSD)に対する真摯な気持ちが伝わり、エッセイというより祈りにも似ている。
     冬の香りがする良書。オススメ。

  • 「ははがうまれる」がとても良かったと話したところ、同じ筆者のこちらのエッセイを勧めてもらった。
    自身の身辺について書いたものが多いのだけど、「ははが〜」と同様、押しつけがましくなく、人に寄り添う姿勢がいい。
    心臓を優しく撫でてもらっているような気分。
    他の作品も読みたい。

  • 精神科医、医療人類学。開くこと、閉じること。繭のなかの変態。冷静に観察すること。「なにもできなくとも、見ていなければならない。」だれかが自分のために祈ってくれること。エンパワーメント。肉体労働、頭脳労働、感情労働。ヴァルネラビリティ。「スタンドアップ」鉱山のセクシャルハラスメント。など

  • 付箋をぺたぺた貼りながら読む。有意義で充実してなきゃいけないんだなあ、のんびり、スカスカじゃだめなんだなあ、そういうのは「無駄」と見なされるんだなあ、とひそかに反発を感じる著者に共感する自分もいれば、人生の終わりに 有意義だったと想いたいと明言し、常にそれを判断材料に生きている人を眩しく思う自分もいる。
    変わるときには閉じなければいけないのだ。というのは、個人的にお守り的な言葉だな。
    人は傷の上にやさしさを、やさしさの上に、強さを築くのだ。たぶん。

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傷を愛せるかの作品紹介

心は震えつづける。それでも、人は生きていく。旅先で、臨床現場で、心の波打ち際にたたずむ。トラウマと向き合う精神科医のエッセイ集。

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