無意識の植民地主義: 日本人の米軍基地と沖縄人

著者 :
  • 御茶の水書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784275003744

作品紹介・あらすじ

日本人に植民地主義との決別をうながすために、ポストコロニアル理論を活用し日本人という「権力に対して真実を語る(E・サイード)」。植民者と被植民者の共犯化の政治、劣等コンプレックス、沖縄病患者=沖縄ストーカー、観光テロリズム、など数々のキーワードを駆使して、沖縄における日本人の圧倒的に危険な暴力的現実を暴露する。

感想・レビュー・書評

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  • ロールズの「無知のヴェール」の概念に基づいて在日米軍基地の偏在という問題を考えたとき、「迷惑施設の隣で暮らすのは誰だって好まないだろう、だから基地は沖縄にも日本のどこにもいらない」という結論が導かれかねない。目指すべき理想としては正しいのかもしれないが、それで沖縄の米軍基地がなくなるわけではないし、大多数の日本人は安保のリスクを負わずに知らん顔で利益だけを享受し続けることができる。

    「ロールズの理論は、すでにある程度の平等が実現されていることが前提となっている」という批判があるが、まったくもってそのとおりだろう。圧倒的に非対称な権力構造が生じている場では、「無知のヴェール」は正義実現の手段どころか、多数者=権力者=抑圧者の責任を免除し、隠蔽する道具となりかねない。

    いまだ平等が実現されていない社会において真に公正性を問うならば、それは「無知のヴェール」ではなく「ポジショナリティの自覚」によってなされるのでなければならない。

    「ポジショナリティ」とは、集団の政治的・権力的な立場性のこと。不平等が存在する社会の構成員は、個人の信念とは無関係に、多数者=抑圧者の集団か、少数者=被抑圧者の集団のどちらかに否応なく属することになる。そして、抑圧者たる多数者が自分のポジショナリティを自覚した上で、自分が果たすべき責任は何かを考えなければ、変革(=不平等の解消)は望めない。

    ちなみに、本書で名指しで批判されている「植民者」とは、米軍ではなく、日本人のこと。少し前の俺なら「そんな(日本と沖縄の対立を煽るような)考え方はナショナリズムっぽいからダメだ」と考えたかもしれない。でも今はむしろ、ロールズ的リベラリズムをきちんと機能させるための “地ならし” として、「ポジショナリティの自覚」と「多数者が責任を果たすこと」は必要不可欠なステップだと考えている。

    ポストコロニアル理論がこんなにも沖縄の状況にフィットするとは。長い間忘れていた母語を思い出したような感覚だ。

  • 犠牲のシステムの参考文献

  • 僕は愚鈍だった・
    そして無知だった。

    「無知とは知識のないことではない。問いのないことこそ無知なのだ。」
    「米軍基地とは、民主主義という暴力によって日本人が沖縄人にもたらした巨大な傷なのだ。」
    「多くの日本人は、自分という日本人こそが沖縄人に基地を押しつけている加害者だということをまったく意識していない。つまり、日本人は、みずからの植民地主義に無意識なのであり」
    「日本人が、「わたしは基地をおしつけていない!」という愚鈍な思い込み」
    その「愚鈍への逃避こそ、無意識の植民地主義を可能にする主たる要因にほかならない」

    無知は人を傷つけ、差別を生むことが、よくわかった。

  • 日本の0.6%の面積、人口の1%が住む沖縄に、米軍基地の75%がある。これはあからさまに差別である。で、これが続いているということは日本が沖縄を、今も植民地としていることである。ポスト・コロニアルになってないのだ。で、この状態を維持している日本の植民地意識は日本人の問題なので日本人がどうにかするしかない、アイデンティティとポジショナリティ(政治的権力的位置)は分けて考えなくてはならない。という話。日本人は日本人であることはやめられない、それはアイデンティティだからだ。でも植民者であることはやめられる、それは日本人のアイデンティティではないからだ、という箇所が圧巻。

  • 自分/他者の立ち位置を固定化する議論ってのは、理解できるけども、
    どうしても受け入れにくいもの。

    よくできているとはよう言わないけれど、忘れられない/捨てられない本。
    ただし、二番煎じはいらんけど・・

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著者プロフィール

1964年沖縄生まれ
上智大学大学院文学研究科社会学専攻博士後期課程満期退学
現在、広島修道大学人文学部教授(社会学)

「2019年 『増補改訂版 無意識の植民地主義』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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