見えがくれする都市―江戸から東京へ (SD選書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (234ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784306051621

感想・レビュー・書評

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  • 「図」と「地」、白と黒で表すことのできる境界が明確な西欧の建築と都市計画と違い、それらを持たない、中間領域的な場や空間を持つ日本の都市。
    そこから「奥の思想」へと繋がっていく。
    この隙間や奥が日本の都市を複雑化し、都市の中に見えがくれを生み出し、日本的な要素となっていることを江戸・東京を舞台に読み解いている。

    最後の一文が力強い。

    「望ましき空間の質は単にひろがりにあるだけでなく深みの創造にあることを日本の都市の歴史は物語っている。」


    内藤廣の「著書解題」読んでて久しぶりに読んでみた。
    春からは4章に出てくる住宅地の表層とそこに共通する隙間や薄い平面が作り出す街並みとかみたいな研究をすることになるんかなー。

  •  この本もどうして購入したか失念。たぶん、最近たくさんよんでいる江戸、東京の都市論の参考文献だったと思う。

     東京の道路の区画割りが、江戸自体の微妙な地形を反映したものであることが的確に述べられている。

    (1)道路のパターンに中心となるものはない。(p77)

     たしかに、坂には特徴があるけど、皇居も網野善彦に言わせればアジール、空虚な空間らしいから、そもそも街路の中心という発想が日本の都市づくりにはなかったのだろう。

    (2)江戸の配置も風水の発想からできている。北に山、東西に丘、南に水というのは江戸も踏襲している。(p97)

    (3)神社や産土神をまつる鎮守の森は集落の中心でありながら、やはり町からやはりはずれている。(p129)

     合理性の極地のような建築家の大先輩たちが、地霊信仰などを丁寧におっているのがおもしろい。きっと大事な話なんだと直感で感じる。

  • まず、建築を学んでいたのに今まで一読もしなかったことを恥じようと思う。
    そう感じさせるほどの名著である。

    日本らしい都市のつくり方の歴史と、それが及ぼす現代都市(といってももう20年以上前に書かれた本ですが...)に垣間見え、実は根底としてしっかり根付いているということが指摘されていた。
    例えば、西欧の都市は中心としての教会を持ち均質性を目指した都市を計画しているのに対し、日本の都市はなんとなくの中心はある(東京では江戸城)にせよ、その場での自然(地形や遠景としての富士山など)に対応したものの集合として大きな都市があり、だから東京という都市は少しごちゃごちゃしたものになっている。
    その場での自然への対応という点は、まさに日本らしさ、和のもつ力だと解釈できる。

    ※和についての言及は、和の思想—異質のものを共存させる力 (中公新書)を参照するとよい。

  • 【建築学科】ベストリーダー2024
    第1位
    東京大学にある本はこちら
    https://opac.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/opac/opac_details/?bibid=2000025867

  • ■一橋大学所在情報(HERMES-catalogへのリンク)
    【書籍】
    https://opac.lib.hit-u.ac.jp/opac/opac_link/bibid/0000056182

  • 欧米と日本の都市の比較、主に江戸の都市空間の分析を通して日本の都市・住宅構成にひそむ潜在的な意識を考察している。中でも日本特有の空間の奥性について強調している。わかりやすい文章だったと感じる。

  • (01)
    5章からなる都市研究の成果で,槇文彦氏が第1章と第5章(*02)とでその成果のまとめて論じている.
    具体的で面白いのは,第2章から第4章にあたる本編部分である.それぞれ,道,微地形,表層といったキーワードから既に出来上がってきてしまっている東京という歴史的な都市を事例として分析し,さまざまに試行的なモデルを提示しながら論じている.
    このような方法論は,汎用的であり,他の都市や農村集落などの分析にも応用可能なものとなっている.また,本書は1980年の成果ではあるが,40年後の今日にも有効な方法であると思われるぐらい,ワクワク感とスリルのある展開がある.

    (02)
    タイトルにも現れている「見えがくれ」の意味するところについて著者たちは,明らかにして論じているわけではない.
    図と地による都市理解は,当時のやや流行した理論であったという面も感じさせられる.図と地が互いが反転しつつ,「見え」たり「かくれ」たりしながら都市は表層に現れていることの宣言でもあったのだろう.「ひだ」や「奥」にかくれる都市があり,微地形や道,接道部分の表層を前景化した図として抽出することで,新たに「見え」てくる都市と現象もあることは本書からうかがえる.
    第1章は「都市をみる」と題している.能動的に「みる」ことよりも,実は,やや脇道にそれつつも,徹底した方法によって,受動的に「みえ」てしまうものたちのほうが,都市の現代的な様相のリアルなのではないだろうか.そんなことも考えさせられた.

  • 代官山ヒルサイドテラスなどで知られる建築家、槙文彦の著作。槙文彦の事務所の所員らとの共著で、江戸時代から続くまちの空間を分析しています。

    まちの奥行きについて、あいまいな言いまわしでは無く、ビジュアルな表現でみちの構成を分析したり、海外事例と比較している点がよいですね。

    現在の日本の都市計画でこのようなまちの奥行きを生み出すには、まちの機能として必要な道路の計画にあわせて、建築敷地の中で通り抜け空間を確保する方法や、散策することのできる歩行者のためのみちを、地区計画で地区施設(歩行者通路・広場等)に位置づける方法などが考えられます。

    「まちの奥行きは生み出す価値のあるものだ」と、公共や企業が判断することができるような整理を、デザインの力でやっていきたいものです。

  • (後で書きます。「奥」の概念面白い)

  • 高密度な社会を形成してきた日本人は、限られた空間の中に遠近の差を相対的に設定する感覚が古くから身ついていた。しかし、それらはデリケートな関係の上で成り立つものであったため、高層ビルが立ち並ぶ現在では、その土地が元々持っていた意味が失われている。
    この本で延べられている『空間のひだ』や『奥の思想』といった日本独特の空間技法は、もはや今の日本においては、そのまま使用することに意味はないかもしれない。しかし、都市を知ることが、人間集団の深層意識を理解することにつながるという点において、とても価値がある研究だと思う。名著。

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