塩一トンの読書

著者 :
  • 河出書房新社
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感想 : 29
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  • Amazon.co.jp ・本 (171ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309015422

感想・レビュー・書評

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  • イタリア文学者でエッセイストとしても知られた須賀敦子さんの、深い教養と洞察力、そして、静謐かつすっきりしているのに奥深さがある美しい文体という表現力が、三位一体見事に相まって、綴られた書評集。

    三部構成で、書物や映画について、家族の記憶などと密接に絡めながら語られる第1章、作品それぞれの構成や展開について独自の視点と考察から綿密に語った第2章、作品の良い点も悪い点もはっきりと語っているのに嫌味がないどころか愛おしむ気持ちが伝わる数ページからなる小品を集めた第3章から成っています。

    とりわけ、谷崎潤一郎の「細雪」が、上・中・下巻構成の中で、三女の雪子を軸にした日本古来の「ものがたり」と、四女の妙子を軸にした西欧の「小説」が巧妙に絡まって展開した作品であることを論じた『作品のなかの「ものがたり」と「小説」』などは、新たな「細雪」の姿を丁寧に示してくださっており、目から鱗の感激でした。

    2〜3ページから、長くても20ページを切る中で、簡潔にこれ程奥の深い文章をお書きになった須賀さんのことが、益々好きになるとともに、西欧から日本まで幅広く登場した本を一つでも多く読みたいと胸をときめかせる作品集でした。

  • タイトルに惹かれて読んだ。さわやかな読後感。
    人間理解のヒントがたくさんあった。塩一トン舐めたらこうなるのだろうか。

  • タイトルに惹かれて借りてきました。難しいことはよく分からないけれど、周りの方々の選評を鵜呑みにせず、私は私なりに、読みたい本を選んで楽しく読んでいきたいなあと思いました。100人読んだら100人なりの感想があるわけで、お気に入りの本もバラバラなわけで………。好きな本、誰かに薦めたところで、その人がその本を好きになってくれるかどうかは分からない。それでもいいよ!私にとっての好きな本は好きな本でしかないものね。

  • <ここまで来て、初心に還る>


    「すくなくとも、塩一トン。」
     須賀敦子さんに、イタリア人のお姑さんが言った喩え★ 人一人理解しようとしたら、塩一トンを舐めるくらい長い長い時間がかかるのだと……。それは古典文学にも当てはまるのではないかと、須賀さんは書いています。

     ただただ飢えて、がつがつと活字をむさぼり読んでいた私は、本に対する態度をどこか間違えていたのかもしれません。随分あさましい読みかただったのでしょう。人を好きになるときも、好きになれないときもそう。何かこう、がつがつして、勝手にせつながって、やけに性急に結論を出そうとしては失敗してきたような気がします。
     須賀さんの、気品に満ちて冷静な文章を尊敬している一方で、歪んだ姿勢をぴしりと正されるような気持ちになり、どうも、いたたまれない……★

    「一冊の本を読み終えるのに、どのくらいの時間がかかりますか?」
     そう聞かれたら、どう答えるでしょうか。私の答えは「1日」だったことが多いし、「2時間」だったこともあった、ひどいと「30分」だったこともあった。でも、それがたいへんな傲慢だったのじゃないか!? と初めて思い、怖くなりました。読むことと目を通すことは違うことを、ずっと分かっていなかったのです。
     我が身の軽率さを思い知らされたな。一冊一冊、どれもが大事な友人だというのに、恋人に近い愛読書にさえ、私は不実でした。

     自分でも忘れていましたが、「レビュージャパン」を始めた時、はじめの一冊に選んだのは『スロー・イズ・ビューティフル』でした☆ これからはじっくりスローリーディングで、それこそ「一トンの塩を舐める」ように物語とつきあってみたいです。好きなら理解したいですからね☆(別に速読が悪いという意味はありません★)

     好きな本なら、読み終わることなどないのに違いない。

     いっぱい間違っていた。もう一度、書物を愛し直してみたい。できるでしょうか?

  • 「一トンの塩を舐めるうちに、ある書物がかけがえのない友人になるのだ」
    本に対して細かなな愛情に溢れている素晴らしいエッセイ。
    大抵、こういうエッセイには読んだことがある本が数冊はあるものだけれど、このエッセイに語られた本はすべて読んだことのないものでした。

  • “古典には、目に見えない無数の襞が隠されていて、読み返すたびに、それまで見えなかった襞がふいに見えてくることがある。しかも、一トンの塩とおなじで、その襞は、相手を理解したいと思いつづける人間にだけ、ほんの少しずつ、開かれる。”

    タブッキの日本語訳で印象の深い須賀敦子の書評・映画評・エッセイ集。
    題名の「塩一トンの読書」とは、ミラノで結婚した作者があるとき姑に言われた、「ひとりの人を理解するまでには、一トンの塩をいっしょに舐めなければだめなのよ」という言葉から。

    何事かをほんの欠片でも理解するためには、どこかで腹をくくり、対象に向きあう以外の近道はないのだろう。「一トンの塩」というイメージを通し、誠実な態度で古典に臨む作者の姿に読んでいて思わず背すじが伸びる。

  • 教養があるとはこういう人のことを言うのだろうと思えるような文章。私には少し難解で、こんなに高尚な本の読み方はまだまだ出来ていないけれど、読書で得られる喜びや感動は共感できる。
    もっともっとたくさんの本を深く読み込みたいなあと思った。

  • 昨年の神保町ブックフェスティバルの戦利品。積読をやっと読了。
    須賀敦子の本にまつわるエッセイ集。ここに出てくる本はほとんど読んでない、というより、古典だったり難解だったりして私には難しくて読めない。だから本当にこのエッセイを理解しているかと言えば、そうではないのだけど、それでも読んでしまう。須賀敦子の文章のリズムが好きなのかな。

  • 学生時代に試験問題で遭遇し、とても印象に残っていました。あまりに印象深くて、試験の問題用紙を取っていたぐらいです。それから数年後、図書館の棚で発見し読みました。

  • 私には初めての作者のエッセイ集読了。須賀敦子さんはすでに71の若さで他界されているけど清々しい本でした。上智大学の教授をされ、日本文学の翻訳紹介も数多くされている方。ここに紹介されている本は知らないものが多いけど読んでみたくなりますね。とても参考になる良いエッセイ集でした。読んだ甲斐がありました、ブクログで紹介してくださった方ありがとうございます。

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著者プロフィール

1929年兵庫県生まれ。著書に『ミラノ 霧の風景』『コルシア書店の仲間たち』『ヴェネツィアの宿』『トリエステの坂道』『ユルスナールの靴』『須賀敦子全集(全8巻・別巻1)』など。1998年没。

「2010年 『須賀敦子全集【文庫版 全8巻】セット』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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