王国

著者 :
  • 河出書房新社
3.20
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本棚登録 : 883
感想 : 136
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  • Amazon.co.jp ・本 (177ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309020693

作品紹介・あらすじ

組織によって選ばれた、利用価値のある社会的要人の弱みを人工的に作ること、それが鹿島ユリカの「仕事」だった。ある日、彼女は駅の人ごみの中で見知らぬ男から突然、忠告を受ける。「あの男に関わらない方がいい…何というか、化物なんだ」男の名は、木崎-某施設の施設長を名乗る男。不意に鳴り響く部屋の電話、受話器の中から静かに語りかける男の声。「世界はこれから面白くなる。…あなたを派遣した組織の人間に、そう伝えておくがいい…そのホテルから、無事に出られればの話だが」圧倒的に美しく輝く強力な「黒」がユリカを照らした時、彼女の逃亡劇は始まった。

感想・レビュー・書評

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  • この頃の著者の筆の乗り具合は凄い。
    物語自体はあってないようなものだけれど、神的な位置である木崎の台詞や月の表現など読んでいて吸い込まれていくようだ。
    何一つ救いの無い内容だが、読んで救われる人は多いのではないか。

  • ムッチャ面白かった。『掏摸』の姉妹作品。なので『掏摸』→『王国』という順番で読んだ。両作品に木崎という圧倒的なパワーを持つ裏世界の男が登場する。悪魔みたいにまたは神みたいに人の運命を操る。木崎は『亜人』に登場する佐藤、『海辺のカフカ』に出てくるジョニー・ウォーカーと同様に一方的に持論を展開し、人の命をサクサクと奪っていく(好きです)。『掏摸』では、(木崎の存在が)ひたすら怖くて怯えて読んだけど、『王国』の木崎はまるで神のように輝いて見えた。奪うし与えることもしうるものだと思いながら読んだ。

    そして月はそんな男をも照らし、すべてを呑み込み、さらには産む。蛇のような存在で畏怖を感じた。生(性の、女性)の象徴として登場する。強い。きっとこのスパイは生き延びて男児を産み、その子はいつか帝国を滅ぼし新たな王となるのだろう。掏摸師がつないだ命。

    『掏摸』では「塔」が、『王国』では「月」が効果的に使われて、作中に度々登場する。
    わたしが思う塔のイメージは、そびえる、倒れる、傾く、朽ちる、高い。月のイメージは、満ちる、欠ける、狂喜(狂気)、産む、再生。正と逆によって意味が変わるタロットカードの「塔」と「月」を思い出した。
    途中からだけどカード順は、悪魔→塔→星→月→太陽→審判→世界。

  • 無駄が無く美しい語り口で物語に入っていけた。
    哲学的に内省的な所が良かった。圧倒的な不条理たる木崎とどのように対峙するのか。クライム映画のような裏世界な世界観。

    矢田が属していたものは、この社会のなにか概念的なものの比喩で、木崎はその反対にある混沌。だとすると、どちらに属するでもなく、その中で必死に道を探す主人公は、社会に迎合することもできず、ふりきれてそれ自体を楽しむ木崎のようにもなれない人達を表してるのかな。月は木崎が言っていた宗教の神で、足掻く私達を俯瞰して楽しむ性格の悪い存在だと思う。
    「長短ではない。肝心なのは、この世界の様々な要素をどう味わうかだ」最悪すら味わえというメッセージは好き。

    掏摸も読んでみたいと思う。

  • 中村先生の仄暗い人物描写の空気感は好み。漠然と感じていたものが上手く言語化されている感じ。
    理不尽に虐げられていく立場の弱い者、みたいのが多い気がする。
    主人公が自分を捨てられ、死というものを経験し、もう確固たる自分だけでいいという感じで強く生きていく部分は感情移入できたし、エリや翔太が誰でどうなったのか徐々に明かされて行くから、スラスラ読めた。
    ただ後半に向かって性描写もキツくて、しんどくもなったし、圧倒的に理不尽な神が残酷で上手く入り込めない感じもした。
    純粋な善意ではなく、この残酷な世界を裏切ってやるって感情で動く主人公の黒くて硬く強い意志はかっこよかった。頭の回る女の人っていいなって思った。

  • 前に読んだ「掏摸」の兄弟編。
    木崎という支配者側に立つ人間が出てくる点と、恐らく掏摸の主人公と思われる男が一瞬だけ出てくるところが共通点で、今作の主人公はユリカという美しき娼婦。
    最初はお金のためにホステスから裏社会の危険な仕事を遂行する娼婦に転身したが、その選択が後々ユリカを暗い運命に巻き込んでいく。

    支配者はどこまでいっても支配者で、弱者はどこまでいっても弱者という構図はこの作品でも変わらず。都合の良いどんでん返しは起きないという、ある意味物語的ではない現実が描かれている。
    何か得るものを楽しむというよりは、犯罪小説の“裏”感とダークな雰囲気にひたすら浸れる内容。
    女性が物のように扱われる辺りは同じ女性としては読むのがきつくもあるけれど、その救いの無さがリアルだとも思う。

    最後に木崎が変えた判断は果たしてユリカの救いになったのか考えさせられる。
    世捨て人のような感覚で生きていたのに、いざとなったら“生”に強い執着を見せた彼女は人間らしく、唯一血の通う温かさを感じるような人物かもしれない。

    私には関係のない世界だと思いたい。恐ろしく、暗い。
    こんな“王国”に、私は住みたくはない。
    でもこの国に生きること自体がもう、“王国”にいる、ということなのかもしれない。

  • 「王国」
    木崎再び。


    この小説は、「掏摸」の続編というよりは兄妹編の位置づけらしい。どちらを読んでもどちらから読んでも楽しめるようにと言う事のようだ。私は、「掏摸」を読んだ後だった為、物語の繋がりを楽しめたが、片一方だけでも物語が成り立っているので、確かに楽しめそう。


    物語の繋がりとは、木崎と言う男の事である。実は、木崎が2%程の確率で助けた男も繋がりの一つなのだが、なんと言っても木崎だ。もしかしたら2%とか言いながらも、100%助ける気だったかも知れないし、全て木崎の脚本通りかも知れない。とにかく木崎が世界を回している王であり、その世界は彼の王国だ。


    「掏摸」も十分王国感を漂わせていたが、「王国」は更にスケールアップしているのも、ユリカと言う女性を翻弄して、彼女の人生を貪り、嘲り、憐れみ、そして、気まぐれに命を救う木崎の暴君振りがあってこそだと思う。


    一体運命とは何か。運命はあるのか。運命を握っているのが、こんな暴君なら絶対に嫌だな。嫌だけど逃げれないな。とか色々考える。


    しかし、読了感としては、さっばり何も残らない。これは、いい事なのか。面白くなかったと言う事なのか。どっちかよく分からない。うーん。

  • 絶対的な力を持つ「悪」に対して「美」というあまりにもはかない力でもって対決を挑む一人の女。 誰も信用できない状況の中で「生」への執着のみで戦い続けるユリカに女の強さを見た気がする。 不条理な運命を変えることができるのは、自らの力だけなのだ、と改めて思った。

  • 依然読んでいたようだ。

  • 高1 ◎

  • 木崎、やっぱりとんでもない趣味。
    あの人が生きてたみたいでよかった、、

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著者プロフィール

一九七七年愛知県生まれ。福島大学卒。二〇〇二年『銃』で新潮新人賞を受賞しデビュー。〇四年『遮光』で野間文芸新人賞、〇五年『土の中の子供』で芥川賞、一〇年『掏ス摸リ』で大江健三郎賞受賞など。作品は各国で翻訳され、一四年に米文学賞デイビッド・グディス賞を受賞。他の著書に『去年の冬、きみと別れ』『教団X』などがある。

「2022年 『逃亡者』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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