- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309021485
作品紹介・あらすじ
池井戸花しす、28歳。職業はAVへのモザイクがけ。誰にも嫌われないよう、常に周囲の人間の「癒し」である事に、ひっそり全力を注ぐ毎日。だが、彼女にはポケットにしのばせているICレコーダーで、日常の会話を隠し録るという、ちょっと変わった趣味があった-。
感想・レビュー・書評
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初、西加奈子さんである。
直木賞候補作「ふくわらい」を読みたかったのだが、予約待ちが多すぎたので、県の図書館のほうで秘かに新刊購入されていたこちらがスムーズに借りられたので、こちらを先に読んだ。
なんとも不思議な味わいの小説だった。
そもそも「ふる」とは何なのか? 何かが降ってくるのか?
冒頭からそれは明らかにされる。
なにか白いふわふわしたものだろうということだけは分かるのだ。
でも、みんなに見えないそれはいったい何の象徴なのかが分からない。
主人公、池井戸花しす(イケイド カシス)の現在の日常と過去の追憶が交互に描かれる。
“女性器のモザイクがけ”が主人公の仕事という一風変わった設定。
だからといってエロさは微塵も感じられない。
何故主人公がその仕事でなければならなかったかが、物語の終わりで明らかになる。
なるほど、その主人公の気持ちを表現するための設定だったのだなと。
彼女の趣味は、日常会話をボイスレコーダーで録音し、聞くこと。
その趣味のもつ意味も最後で明らかになる。
“自分はなんて、なんてたくさんの人と、関わってきたのだろう”
そこで花しすはようやく気付く。自分が本当は何を求めていたのかを。
作品全体を覆っている関西弁がとても心地よい。
暖炉のそばで火に当たりながら本を読んでいるような、とてもほっこりとした温かい気持ちになれる、不思議感のある作品。
西加奈子なかなかに面白い。ほかの作品も追いかけてみたいと思った。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ウェブデザインの会社に勤める池井戸花しす、28歳。周りの人を傷つけないように気を使い、常に場の癒しになるように無意識に行動してしまう。仕事内容はAV画像のモザイクがけ。どういうわけか花しすには身の回りの人の肩や腕や背中に白いものが乗っているのが見えている。テキストのメッセージが空から降ってくるように書いてあるように見える。日常の、会社内での会話やタクシーの運転手とのやりとりなどをこっそり録音し、夜聞き返すという習慣を持っている。
ちょっと不思議なテイストで、最初のころは掴みどころがないふわふわした感じがするのですが、全体的に女の子の女性としての生き方とか性を肯定的に捉えて優しくそっと包むような印象がしました。時々出てくる新田人生とは何者なのか?正体は?はっきりしてないのがもどかしいのですが、読む人により解釈がちがうようにわざとそう設定しているのでしょうね。何気なく過ぎ去ってしまう一瞬一瞬は、ほとんど忘れてしまうけど忘れたくない。たくさんのみんなの人生と関わって生きている自分。映画で例えるならメジャーなハリウッドものではなくてインディズ映画。小さな劇場で公演している演劇のような雰囲気の物語でした。 -
アダルト映像のモザイク処理の仕事をしている 花しすと、それを取り巻く人々をパラレルワールド的に描いた作品。ボイスレコーダーを持ち歩き、なんでもない会話を録音して、繰り返し聴く花しす。あらゆる形で彼女に関わってくる新田人生という名の男。
西加奈子さんの文学的試作という印象。模索している感じは伝わってくるんだけど、読み終えても腑に落ちない。 -
「忘れてね、生きてきてるんですよ。そしてそれがね、生きるってことなのかもしれないですよ。」
ふってくること、ことば、それが白く、肩にのっかって、おぼえていることにいっしょうけんめいで、忘れることに非を感じたり、忘れたくてもおぼえていることに、わたしたちは心のどこかにさみしさやかなしさをもって、かみしめてふんばって生きている。。でも目の前に見えていたこと、よりも見えていることが、生きてきている、生きるってことなのかもしれません。 -
女の子たちの会話が、とてもリアルだなあ、とおもった。
言葉ひとつひとつのリアルさが、「そう、そう。」と、うなずきたくなる表現なんだけど、少し心がウッとなるような表現でもあった。
少しこわいけれど、「女の子に読んでほしい小説」という言葉がぴったりの作品だとおもった。 -
『一口飲むと、叫びだしたくなるくらい美味しかった。季節問わず美味しい、このビールという飲み物はなんだ、天才か、と思う。
「天才か。」
声に出す。十代の頃、これなしに過ごしていた自分が信じられなかった。』
『その点、休日前日の朝は、翌日から休みということは同じでも、その前に働かなければならない、というところがいい。働いてきたのは一週間同じだが、休日前日の仕事に関しては、特別だ。この数時間の労働があってこそ、その対価で、やっと休日というご褒美をもらえるような気持ちになるのだ。』
『能動的に誰かと関わることが、怖かった。いつでも受身でいたかった。自分が選ぶのではなく、選ばれる側でい続けることで、関係性においての責任を負うことを、避けた。卑怯なことだと、自分でも思う。そしてそうしている自分を、誰も責めず、あまつさえ「優しい」などと言われるのだ。』
『朝比奈に言いたかった。辛くないですか、私の一方的な決め付けは嫌ですか、でも私は、朝比奈さんのことが好きです。朝比奈さんは、もっと幸せな恋愛をするべきです。うざいですか。むかつきますか。でも私たち、同じ女じゃないですか。』
『私たちは、祝福されている。
誰かの子どもとして産まれて、いろんな人に出会って、いろんな経験をして、それを簡単に忘れ、手放し、それでも私たちは、祝福されているのだ。』
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女性がすごく溢れてる。
みんなどこかでうっすら考えてひとまとめにしている「性」。
途中まではおもしろかったけど、、、
でも西さんのご本は大抵好きですよ。 -
人生に起こったこと全て、出会った人全てを覚えて生きることは難しいけれども、それでも出来るだけ覚えて、自分のことも誰かに覚えていてもらいたい。
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西さん独特の雰囲気で、性と生が描かれている。主人公の花しすの仕事も、こっそり会話を録音することも、なんだかびっくりさせられて、可愛らしい表紙の印象とは違うけれど、花しすの考え方や母と祖母の関わり方が表れてるのかなとぼんやり考えたりした。他人を傷つけず、嫌われたくないから、オチの存在でいたいという花しすだけれど、自分を卑怯だと思っているけれど、きちんと自分をわかっているところがすごいなと思った。