スタッキング可能

著者 :
  • 河出書房新社
3.17
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本棚登録 : 1410
感想 : 199
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309021508

感想・レビュー・書評

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  • 表題作「スタッキング可能」は主語がクルクル変わりながら会社内のいろんな人や場面を切り取って繋げていくのだけれど、それぞれの名前は微妙に伏せられているので(一人称だったり、イニシャルだったり)これはさっきの人の話かな?と想像して読んでいたら最後に「あれっ?そうなの?」と思う仕掛けがあって笑ってしまった。

    日々生きている上で女性が感じるあれやこれやを、可笑しみをこめつつ鋭くシュッと刺してくる。すごくユーモアにあふれた文体、センスなのだけど、かなりフェミニズムに溢れてて、時代性があるので10年後にどう読めるのか楽しみ。(あー、昔の会社ってこうだったよね、と言えてたらいい)

    短編の間に差し込まれる超短編「ウォータープルーフ嘘ばっかり!」シリーズがすごく好き。

  • なんとか、読み切りましたけど、意味がわからない



  • うわあ、好きだなあ、と思った。
    どんどん癖になる作家さんだ。

    独特な世界の切り取り方と、テンポと、毒。
    (ほんとうは毒という単語はあまり使いたくない。毒ではなくて、真っ当な疑問や主張だと思うから。でもニュアンスとしては毒が一番近い。うーん。)

    表題作「スタッキング可能」と、小編2話と戯曲?が3編。



    「スタッキング可能」
    入れ替え可能でどこにでもいる。どこにでもいるけど、唯一無二。
    A田、B田、C田だし、A野、B野、C野だ。
    あの人はどこにでもいて、どこでも同じような振る舞いをして、それをあの人はおかしいと思っている。おかしいと思いながら、黙ってみつめている。
    そんなあの人は実はこんなことを考えている。あの人は、そんなこと知らない。
    あの人は、古い価値観があの人を傷つけていることなんて知らない。

    わたしとあなたが本当に理解し合うことは難しいのだと思った。
    でも、『わたし』は絶対にそれが普通だと思わない。おもねらない。
    声に出した人だけでなく、声に出さなくてもそれがおかしいと思い続けた人たちがいたから、いろいろなことが変わってきた。それはこれからも。
    変えていくために、『わたし』は今日もおかしいとおもい続ける。

    作者のように「声に出せる人」から、このようなメッセージが発せられることにとても勇気づけられる。
    世の中のおかしいと思うことに率直に投げかけられる疑問。明快にそして強く語られるその主張に、自分もぼんやりとおかしいと思っていたことが自分の中で言語化される。あぁ、わたしあの時不快だったんだ。こういう理由で不快だったんだ、と気付かされるとても爽快な体験。(いや内容は不快なんだけど)
    おかしいと思おう。おかしいと思いつづけよう。


    別に庇う訳ではないけれど、Bの本心になんだかあぁとなった。
    おかしいと思いながら黙っている人。黙って同調している人。

    p43”A山だって悪いやつじゃない。ぜんぜん悪いやつじゃない。なのに俺はいまだに何に怯えているんだろう。”
    P46”B山はリクルートスーツを着た陰気な写真の並びの中から、これまで培った経験から、A山に怪しまれない、そしてA山とかぶらないはずの女の子を選ぶと、指差した。”

    p71”多分オフィスで誰からも血が流れていない日なんて一日だってないだろう。シュールすぎる。”
    うん、シュールすぎる。

    p75”ちゃん付けで呼ぶな。C村はお約束のように思った。飽きることなく今日も思った。”


    「もうすぐ結婚する女」

    いく先々で出会う「もうすぐ結婚する女」たちについて。


    「ウォータープルーフ嘘ばっかり!」

    マスカラはほんと替え時わからないね・・・
    楽しみねえ、土偶。


  • キャッチーな名前に惹かれて読んでみたら、なんとも不思議な文章体で、独特の世界観が展開していた。しかし、ただ不思議なだけではなく、女性の社会的立場や、世間のサラリーマンのおかしな描写をやんわりと風刺しているような内容があり、どことなくメッセージ性がある様も読んでいて楽しかった。


  •  不思議な物語。エレベーター記号の暗号や、太文字の意味は分からなかったけど、わたしは好きだった。

     女性の女性としての社会的立場を風刺している箇所が多い気がした。ちふれってそういう意味だったのか。ウォータープルーフ嘘ばっかり!!

    p22「簡単なことだ。これなけわかっていればいい。誰も理解してくれない。それに加えていうならば、誰のことも理解できない」

    p.35愛想の良さや、やさしさはオプションでしかない。もしそのオプションを望むのであれば、男性社員にも同じように愛想のよさや優しさを望むべきだ。男には求めないくせに、女には求め、そうでない女に機嫌の悪いやつ、こわいやつ、だと判断するのはフェアではない。しかもそのオプションを付けるかどうかを決めるのは当の女子社員であって、男の方ではない。オプションを付けてくれているのならば、ただありがたいと思うべきでそれをデフォルトだと思うべきではない。

    p49この仕事の業務内容、この会社のせい、と決めていた。その癖彼らはやりがいを求めていた。やりがいがある違う場所を夢見ていた。ここではない場所。夢を見ている彼らの仕事ぶりは、部屋の四隅を残してかける掃除機みたいなもので、四隅は真面目にやっている人たちに残されていった。やりがいを求めることと、今目の前にある仕事を真面目にやらないことに、何のつながりがあるのかさっぱりわからなかったが、そこは別に気にならないらしかった。

  • 面白かった!
    行間を読むことで騙され、行間を読むことで気付く。何度も何度も騙された。
    小説の面白さや、日本語の文章であることの面白さが具体的に実感できてとっても楽しい読書体験だった。

    ユーモアや皮肉も効いていて、表現が秀逸。
    一部「フェミニズムか」とか言われそうだけど、そんなんじゃなくて、それは普通に女の日常だと分かってもらいたい。そして分かりやがれ。

    -------------
    以下ややネタバレ↓

    ・スタッキング可能
    A山かと思ったらA田だったり、繋がりのない話が次々出てきたりして「???」と思ってたら最終的には腑に落ちて納得。
    人をカテゴライズするのはあまりよろしくないことだけど、そのくらい取るに足らない生き物だよというメッセージにも思えた。
    みんな悩んでるっていうけどこんな感じでそれぞれ悩んでるのだとしたら、一生分かり合える気がしないわ。でも上司が謎の獣な視点とか、少年マンガの名言連発とか、笑いつつもたしかになと考えさせられたし、理解できる感じもした。
    スタッキングしてガードを固めて。そういうことかもしれない。積み重ねてどうにかやっていくしかないのが今の世の中か。

    ・マーガレットは植える
    植えていくリズムが読みながら体に入っていくからすごい…。苦しくならないように選んだ仕事、最初は楽しかった仕事が少しずつ辛くなる感じ、自分を失っていく感じ、わかる。それでも「植える。」と言い切っていくのが良かった。短いし辛いけどとても好き。マーガレットがんばれ。私もがんばれ。

    ・ウォータープルーフ嘘ばっかり!
    エンタメコーナー。これもまたリズム良し。ここのあるあるは、スタッキング可能と違ってわりと普段から言語化されてるあるあるなので、あまり響かず。

    ・もうすぐ結婚する女
    これもまた混乱が楽しいやつ。気持ち良さや面白さは少ないが、静かに「そうだね〜」と納得して最後自分もこの小説の世界からす〜っとぬけていく感じが楽しかった。それにしても電車の座席に脚を広げて座る男たち、マジ無理。

  • 私は主人公に感情移入することが物凄く多いのですが、主人公不在のこの物語で、なんとなく自分の感情と一致するものが多くて驚いた。これ男性が読むとどう感じるのだろう?結構、女性としての生きづらさを散りばめていたけど、これは、人が生きる上でみんな感じるものなのかな?

  • こういうのもアリなのかー。それを臆面なく作品化する度胸、思い切りがすごい。同い年ということもあり感心。

  • 木下古栗さんの「お金を払うから~」が面白かったと話をしたら、ならこれもとオススメされたので読んでみた。
    表題作より、「もうすぐ結婚しようとしている女」の方が好みでした。
    なんだろう、木下古栗さんと畑は一緒だけど、タイプは違うように感じた。
    お二人の作品とも、深夜ラジオのネタハガキを聴いているような、シュールなコント師のコントを見ているような気にさせてくれるのだけれど、この2作品だと「お金を払うから~」の方が好みだった。
    でも、ネタと一緒で当たり外れはあるわけで、他の作品も読んでみたいな、これ1冊では評価できしたくないなと思わせてくれる本でした。

  • 始めに人物を読み分けようとして失敗し、ABCDがいろんな形で出てくるところでようやく題名の意味が分かりその後はするすると…。女性特有の、男性特有の、ゆとり世代の…もうあらゆる部分で「なんかわかる」「あるある」がありました。題名が秀逸ですね。手法の勝利だと思います。表題作以外も妙にインパクトのある作品で「ウォータープルーフ〜」はもちろん、「マーガレットは植える」も「もうすぐ結婚する女」も嫌になるくらい女性を捉えていてやたら印象に残りました。ただこれ、絶対人を選ぶと思います。途中で諦める人も多いでしょうね。

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著者プロフィール

作家、翻訳家。著書に、小説『スタッキング可能』『英子の森』(河出書房新社)、『おばちゃんたちのいるところ』(中央公論新社)など。2019年、『ワイルドフラワーの見えない一年』(河出書房新社)収録の短篇「女が死ぬ」がシャーリィ・ジャクスン賞候補に。訳書に、カレン・ラッセル『狼少女たちの聖ルーシー寮』『レモン畑の吸血鬼』、アメリア・グレイ『AM/PM』(いずれも河出書房新社)など。

「2020年 『彼女の体とその他の断片』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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