影を買う店

著者 :
  • 河出書房新社
3.54
  • (23)
  • (34)
  • (43)
  • (7)
  • (6)
本棚登録 : 470
感想 : 57
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (283ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309022314

作品紹介・あらすじ

「本書に収録されている作品は幻想、奇想――つまり私がもっとも偏愛する傾向のもの――がほとんどです。消えても仕方ないと思っていた、小さい野花のような、でも作者は気に入っている作品たち。幻想を愛する読者の手にとどきますように」――皆川博子

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 1990年代後半から2013年までの20年間に、様々な雑誌に掲載された単行本未収録の幻想小説だけを集めた21編の短編集。


    編者の日下三蔵氏の解説にもあるように
    時代が皆川博子に追いついたのか、
    ここに来て旧作の刊行が相次いでいるけど、
    そもそも本当に書きたかったものは幻想小説だという皆川さんだけに、
    (当時は幻想小説だけでは世間から認められない風潮があったようです)
    売れなくとも細々と書き続けた幻想小説の数々は
    まさに真骨頂と言える
    高純度の幻視世界を見せてくれる。

    中でも、
    自殺した弟の通夜の席で、ある男に教えられた喫茶店。
    影を剥がされる快感に性的興奮を覚えた女性の末路は…。
    中井英夫の「影を売る店」を踏まえたトリビュート短編
    『影を買う店』、

    屋根裏部屋の手作りの断頭台。
    無邪気なまま、残酷な遊びにハマっていく子供たちが怖い!
    『猫座流星群』、

    家族を空襲で亡くし感情を失った少年が、
    疎開先の蔵の中で見る甘やかな幻想。戦争がもたらした悲恋に胸が締め付けられた
    『沈鐘』、

    窓越しに隠れて聴く官能的なピアノの音色。
    戦時中の女学校を舞台にした少女の悲しき恋。
    傑作「倒立する塔の殺人」の三年前に書かれた原型となる短編。
    『柘榴(ざくろ)』、

    碧、玄、春の3人の少年少女が織り成す、叙情的で切ない一編。
    ミステリー仕立ての巧みな構成にも唸った
    『更紗眼鏡』、

    深い森に住む父と娘と三人の兄。
    ある日、黄金の馬車に乗った青髭の男が現れ、娘は連れ去られてゆく。山城に囚われた娘が開かずの扉で見たものとは…
    グリム童話をリライトした
    『青髭』

    が深く心に残った。


    ページをめくるたびに思考を蜜の壺と化す、
    艶やかで甘美な世界。
    溢れでるロマンチシズムとエロティシズム。
    生と死の狭間を匂いたつほど残酷に淫靡に描きながらも
    決して美しさを損なわない流麗な文章。

    純度100パーセントの耽美と退廃と官能の濃縮エキスがたっぷり詰まった物語の数々に
    読む者の心は陶酔に浸り、異世界をさまよう。


    それにしても、いつから本を読むという行為が
    後ろめたさを無くしてしまったのだろう。

    僕の学生時代はいかに今に抗い抵抗するかを
    それぞれが無意識に競いながら、
    自分が思う『好き』の領域を自ら探し見つけては
    一人こっそりと増やしていった。
    (たとえば映画、たとえば音楽)

    読書は知識を得るために読むものではなく、
    そこに込められた意志への憧れであり、
    不良性がある危険なものだからこそ惹かれた。

    そして小説は本来、一人でコソコソと読むもので
    タバコや酒などのように常習性があって体に悪いものなんだと思う。
    だからこそ人を絶望から救えるのではなかったか。

    だから僕は今でも読書という行為は基本、「背徳」だと思っている。
    背徳だからこその抗えない魅力。
    学生時代から僕らは
    「毒」を摂取したくて本を読んでいたのだ。

    純度100パーセントのいけないもの。
    皆川博子にしか書けない
    淫らで美しいもの。

    できうることならばこれからもまたジャンキーな僕たちに
    新しい「毒」が供給されますように。

    隠れてこっそりと読む読書こそが
    甘い蜜の味なのだから。

    • o-gataさん
      初めまして。

      以前はコメントありがとうございました。感想恐縮でした。
      こちらこそよろしくお願いします。

      皆川博子さん、興味があ...
      初めまして。

      以前はコメントありがとうございました。感想恐縮でした。
      こちらこそよろしくお願いします。

      皆川博子さん、興味があったのですが読んでみたくなりました。幻想小説大好きです。妖艶な雰囲気の本なのですね。
      楽しみです。
      2018/01/17
    • 円軌道の外さん
      o-gataさん、
      なんやかんや、また今週は面倒な仕事ばかりで、お礼が遅くなりました。
      (便利屋なので、雪かきの仕事や遺体発見部屋の掃除...
      o-gataさん、
      なんやかんや、また今週は面倒な仕事ばかりで、お礼が遅くなりました。
      (便利屋なので、雪かきの仕事や遺体発見部屋の掃除など)
      いいねポチとコメントありがとうございました!

      幻想小説に抵抗がないなら、皆川さんは、自信持ってオススメします。
      とにかく、文体に品があって、行間の隙間から官能が匂うような艶やかさがあります。
      強いて言えば、小川洋子さんや、川上弘美さん、服部まゆみさん、桜庭一樹さんなどに近い文体と世界観です。

      是非とも感想お聞かせください!(笑)
      またよろしくお願いします!
      2018/01/28
  • 幻想短編集。
    皆川さんのこういう世界観好きだ。

  • 1990年台~2013年までに書かれた短編幻想小説21編。
    「幻想」や「奇想」、著者が偏愛するテーマのものばかり。

    恐ろしくて面白い。
    湿った井戸の底に引きずりこまれるように躊躇いながら読む。
    読んでいるうちに恐ろしいものを近くに感じるのだけど、それでも読み終わるのがもったいなくて少しずつ読む。
    好きだ。

    2017.11再読

  • 喫茶店の隅の席に、いついってもM・Mを見かけないことはなかった。書き物が終わったM・Mが立ち去った後、残された薄い影を店主がさりげなくはがす。-表題作「影を買う店」-
    単行本未収録の作品をまとめた幻想小説集。

    不思議で、一見とりとめのない話が脈絡なく絡み合うようなショートストーリー。すじのある話が好きな私には、正直戸惑うものが多かった。
    「更紗眼鏡」が一番好きかな。

  • 上級者向けの幻想小説。自分の立ち位置を確かめながら、ゆっくり、けれど決して味わいすぎずに進まないと迷子のおそれあり。ゆるやかに言葉をのみこんでいれば、いつの間にか暗闇に落ち、見つけた光はまやかしで、妖しく口元を歪ませた幼女は、あなたの子供ではないでしょう。

  • とくに「柘榴」「釘屋敷/水屋敷」が印象に残った。「柘榴」は映像化してほしいくらい。

  • これぞ、幻想小説の極み。いっさいの制約から解き放たれた皆川博子の真骨頂が堪能できる、至極の21編

  • 『結ぶ』という短編集を読んで衝撃を受け、大好きになった作家。
    勝手に30~40代くらいの女性を想像していたら、なんと80代!
    わたしの好きな幻想小説のどストライクで、新たな作品を読むたび好きになる。

    主人公はみんな境界にいて、此方に背を向けてあちらを見ている。
    〈向こう側〉から呼ばれているような。
    この作家は、常人には見えないものが見え、聞こえないものが聞こえているかのよう。
    そして、最も好きなのが、〈向こう側〉をちらりと見せたところでパツッと物語が終わるところ。
    そこから先は想像の世界。
    それが、突然現実に引き戻されたようでなんとも幻想的。
    まだ、意識は曖昧なところで戸惑っているのに、読むべき物語は終わっている。
    あちらに対して憧憬や恍惚の念を抱いてしまう。
    冒頭から生の世界の描写が詳細だけれど、死に囚われているがために、儚く刹那い。
    やはり、好きだな。

  • 好:「夕陽が沈む」「魔王」「沈鐘」「釘屋敷/水屋敷」「断章」

  • 思わずため息が漏れてしまうほど、美しく幻想的でおぞましいお話の数々。
    やはり皆川さんは素晴らしい。大好きです!!

    90年代後半から2013年までの、約20年間に発表された
    単行本未収録作品をまとめたものだそうです。

    耽美、幻想…読んでいるだけで少し後ろめたい気持ちになる作品集。
    日本を舞台にしたものもあれば、
    まるで海外翻訳小説を読んでいるかのような作品もあり。
    あまりにもジャンルが特殊なので、絶対に万人受けはしません。
    ただ好きな人は狂喜乱舞するだろうなぁ。私のように(笑)

    特に好みだったのは、
    無邪気な子供たちの、残酷な遊びを描いた「猫座流星群」。
    「倒立する塔の殺人」を彷彿とさせる戦時中の少女達の物語「柘榴」。
    「魔王」と「青髭」は童話を読んでいるかのようでこれまた素晴らしい!

    中には一読しただけでは理解できないものもあったのですが、
    その事を差し引いても、少しも魅力は半減する訳ではなく。
    とっても自分好みの短編集でした。

    皆川さん、いつまでもお元気で執筆続けて下さいね。

全57件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

皆川博子(みながわ・ひろこ)
1930年旧朝鮮京城市生まれ。東京女子大学英文科中退。73年に「アルカディアの夏」で小説現代新人賞を受賞し、その後は、ミステリ、幻想小説、歴史小説、時代小説を主に創作を続ける。『壁 旅芝居殺人事件』で第38回日本推理作家協会賞を、『恋紅』で第95回直木賞を、『薔薇忌』で第3回柴田錬三郎賞を、『死の泉』で第32回吉川英治文学賞を、『開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU―』で第12回本格ミステリ大賞を受賞。2013年にはその功績を認められ、第16回日本ミステリー文学大賞に輝き、2015年には文化功労者に選出されるなど、第一線で活躍し続けている。

「2023年 『天涯図書館』 で使われていた紹介文から引用しています。」

皆川博子の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×