中野京子が語る 橋をめぐる物語

著者 :
  • 河出書房新社
3.50
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本棚登録 : 160
感想 : 20
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309022734

感想・レビュー・書評

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  • 「怖い絵」が怖過ぎた(笑)が、中野節が病みつきになって更にこの本をチョイス。
    視点がとても面白い!
    2011年4月から北海道新聞に月イチで連載しているという「橋をめぐるエッセイ」をまとめた本。古今東西から30の橋を選択し、またもや縦横無尽にエピソードを繰り広げている。
    巻頭にその橋のカラー写真付き。
    各エッセイはどれも4ページ分程なので、好きな箇所から読めるのが嬉しい。
    日本からも3つの橋が登場し、橋のたもとに建てる「道祖神」も特別出演。

    そのうちのひとつである素話の「味噌買い橋」だが、モデルは岐阜県高山市の筏橋であるらしい。そしてこの解説には眼からウロコ。
    正直者が思わぬ富を手にするという話かと思い込んでいたが、それだけではなかった。
    運命の転換を果たせる者とそうでない者の差について述べられていて、思わず膝を打ってしまった。うん、次からはその視点で素話をしてみよう。

    「綱渡りの男」に登場した大道芸人、フィリップ・プティについての章も面白い。
    あの9.11事件で消失してしまった、ツインタワーにかけられたワイヤーの橋である。
    2008年に「マン・オン・ワイヤー」と言うドキュメンタリー映画にもなったらしいが、こちらもぜひ見てみたいものだ。
    フランス映画のお好きな方向けに「ポン・ヌフ」の橋も出てくる。
    読後カラックスの作品を再視聴してみるのも良さそう。

    特に興味深かったのはドイツの「レマゲン橋」。
    軍事物資運搬用の頑丈極まりない橋で、再三の爆破でもびくともしなかったはずが、米兵が傷んだ橋の補修工事をし始めたら崩落していったという。相つぐ戦いの歴史を、もう見飽きたということかしら。不思議、不思議。

    橋は異なる世界を結ぶもの、ドラマが生まれる舞台。
    著者の名案内で「橋渡し」されながら、歴史の旅や異界の旅にまた出てみたい。現在も連載中らしいので、続編がいつ出るか楽しみだ。

  • 橋でイメージするものはどの文化であっても概ね共通しているそうだ。
    あの世とこの世をつないだり、ドラマの舞台になったり、幽霊や化け物の類が出たり、物語には事欠かない。
    そしてそんな橋は人々の夢や希望を乗せたり、はたまた畏怖の対象であったりする。
    語りの名手、中野京子が読者をナビゲートしていく。

    各物語の末尾に掲載されているのは白黒の写真やイラストなのだが、関東にはカラーもある。
    それを見ながら楽しめる。
    中でもサンクン橋、サン・ベネゼ橋、ポン・ヌフは見た目や物語が魅力的だ。

    サンクン橋は橋の概念を変える、まさにコロンブスの卵!
    モーセの、海を割った話を思い出す。

    サン・ベネゼ橋(アヴィニョン橋)
    こちらも橋のようで橋でない橋。
    ちょっとしたスリルを味わえるのだが、あえてこの状態で残しておくというのが面白い。
    危険なところに行くのは自己責任、というヨーロッパ的な考えなのだろうか。
    もしここに行くときは海外旅行保険は忘れないようにしたい。

    ポン・ヌフ、日本語にすると新橋ということで妙に馴染み深く感じるのは私だけだろうか。
    ピサロやルノワールの絵画が希望と未来の明るさを感じさせるせいもあるかもしれない。
    さて、日本の新橋はどうだろうか?

    他にもこんなに愉快な橋が世の中にあったかと思わせるものばかり。
    ロンドン橋がこんな建造物だったとは思いもよらなかったし、エッシャーの世界が現実にあるとも思わなんだ。
    そう考えると、義父の設計した何の変哲もない(ように見る)歩道橋も面白く見えてきそうだ。
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  • 著者は『怖い絵』でおなじみの中野京子氏。
    この本は怖さはなく、橋をテーマにしたエッセイで、世界の様々な橋が紹介されます。

    ポンテ・ヴェッキオなどに連想されるように、ヨーロッパの橋は、かつてどれも建物を載せていたそう。
    どんどん高層化していき、七階建てまでできたこともあったそうです。
    そうなると耐久力が不安になってきますが。

    パリのポンヌフはセーヌ川一古い橋ですが、初めての石橋だそうです。

    橋の紹介だけでなく、『ロミオとジュリエット』なdpイタリアを舞台にした作品を手掛けたシェイクスピアは、実際には一度もイタリアへ足を踏み入れたことはなかった話や、フランス革命時にルイ十六世とアントワネットがつかまったのは、最初の宿駅でルイ十六世がフェルゼンを切り捨てたため、などの小ネタも紹介され、飽きません。

    日本では、鳴門ドイツ橋が紹介されています。
    第一次世界大戦の捕虜として収監されたドイツ人たちによって造られたもの。
    戦後処理が終了した後も、150人以上のドイツ人が日本にとどまったとのこと。
    バウムクーヘンの「ユーハイム」もハムソーセージの「ローマイヤ」も、創業者は当時の元捕虜だったと知りました。

    三島由紀夫の短編『橋づくし』も登場しました。
    築地川にかかる七つの橋を願掛けで渡る話。
    今はほとんど埋め立てられており、橋の一つはもうなくなっているとのことです。

    意外にも橋を題材にした書籍が少ない中、読んで楽しいバラエティに富んだ本でした。

  • 橋は深いテーマだと思ったから、橋ひとつで一冊の本を書き上げたことに興味をもち読んでみた。

    能にもあるように、橋はここと異世界とをつなぐもの。そんな神話・寓話も含めれば、それは橋一つといえどもいろいろな物語や書ける話はあるよね、といったところ。もちろんそれぞれの話題自体はそれなりにドラマチックだけど、橋の話で単行本を仕上げるのは辛かった印象。

    強いて言えば「川を浄化したら流れが速やかになり、その勢いで橋が崩れた」とうロンドン橋の話は印象に残った。

  • 面白かったが、話がとびすぎたり、読みにくい箇所があった。

  • 絵画と橋をテーマにしていると思っていましたが、単なる橋紹介のような読み物でした。
    1日あればすぐに読めるボリュームです。
    自分は、橋に興味があまりなかったのですが、建造物や橋についてご興味がある方には、端的に面白く読める一冊です。

  • ーー橋は困難を乗り越える表象であり、人生が交差する場であり、この世ならぬものと出会うところ(十字路も)。

  • 全世界にあるいろんな橋と、それらに纏わるエピソードを紹介しています。

    「橋」に対して人はどんな想いを抱くのか知りたくて、本作を手にとりました。

    橋は人間の世と異世界を繋いだり、橋をきっかけにチャンスを逃したり、はたまた誰かの運命が動いたり、橋には想いが宿るんだなあと。

    橋をかけるって大変な行為ですもんね。ならば、それ相応の想いやエピソードがあって当然ですよね。私がよく知る橋も紹介されていて嬉しかったです。

  • 中野京子さんによる、“橋を”テーマに綴ったエッセイ。
    30の橋にについて書かれていて、ひとつひとつ短い話なので、あいた時間に少しずつ読めて便利。
    幅広い知識をお持ちの中野京子さんが、惜しげもなくその知識を披露してくださいます。

    いちばん面白かったのは『レマゲン鉄橋』。
    第二次世界大戦のヨーロッパ戦線としての映像は、ヒットラーが叫んでいるところとか、好みで見た『史上最大の作戦』ぐらいなので、こういう場面の説明はとても興味深く楽しかった。(悪いけど。)

    そしてこの話にはオチが…まさにオチがある!
    トイストーリーみたいに、私たちの目には見えなくても命をもっている物もあるのかも…と思ってしまいます。
    この話では、それは“橋”

    ハリウッド映画『レマゲン鉄橋』も見てみたい!

    http://nagisa20080402.blog27.fc2.com/blog-entry-365.html

  • 美術

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著者プロフィール

早稲田大学、明治大学、洗足学園大学で非常勤講師。専攻は19世紀ドイツ文学、オペラ、バロック美術。日本ペンクラブ会員。著書に『情熱の女流「昆虫画家」——メーリアン』(講談社)、『恋に死す』(清流出版社)、『かくも罪深きオペラ』『紙幣は語る』(洋泉社)、『オペラで楽しむ名作文学』(さえら書房)など。訳書に『巨匠のデッサンシリーズ——ゴヤ』(岩崎美術社)、『訴えてやる!——ドイツ隣人間訴訟戦争』(未来社)など。

「2003年 『オペラの18世紀』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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