ゆずこの形見

著者 :
  • 河出書房新社
2.89
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本棚登録 : 242
感想 : 46
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309022796

作品紹介・あらすじ

太一と息子は、食べていくことでゆずこの死を受け入れていく。これは「文学」の言葉であるという稀有な感触をもった傑作だ――田中和生氏(毎日新聞)

感想・レビュー・書評

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  • なんだろう、上手くレビューを書く自信がない。
    どうやったらこの作品の良さを伝えられるかな。
    もどかしい。
    でもすごく良かった。面白かった。
    読んでいる途中で顔がにやけてしまう感じ。
    で、時にはホロリと。

    だって、設定からしてもうバカバカしい。
    不倫旅行中に突然死んだ妻。残された幼い子供。
    これだけだとなんだか重くて暗くて思ってしまうけれど、妻が最後に残したものは何と毛蟹。
    旅先から送られてきたもの。言わば妻の形見だ。
    それをどうしても処分することも食することも出来ない主人公。
    さて、これをどうするのか。

    芥川賞作家と言うこともあり純文学寄りなのか。
    綴られるのは非常に個人的な心情。
    設定だけだったら恨みつらみ満載になりそうだけれど、これが全くの正反対。
    妻への女々しいほどの未練があくまで軽いタッチで描かれる。
    ユーモアと哀愁と切なさと。
    この感じ、長島有に似てなくもないかな。

    主人公や不倫相手、友人たち、そして息子。
    なんだかね、みんな愛すべき人達でね。
    不倫相手にも同情を禁じ得ないと言うか。
    形見分けの毛蟹を食べさせる場面なんてそりゃ面白くて。
    妻の手作りの冷凍総菜を少しずつ息子と食べる場面も良かったなぁ。

    伊藤たかみってずいぶん前に一冊読んだきり。
    どんな印象だったか全く覚えていない。
    前からこんなにおかしみのある文章を書く人だったのだろうか。
    もっと読んでおけばよかったな。
    それに伊藤さん、再婚してご自身もお父さんになったんですね。
    そうじゃなかったら書けないよね、きっと。
    息子とのやりとりなんてリアルだもん。

    表題作ともう一編入っています。
    こちらもなかなか良かったです。

  • うーむ、結局なにが言いたかったのだろうか…と思ってしまう私は底が浅いのか。

  • 思いもしなかった状況で妻に先立たれたら。
    この状況は混乱するわ〜。冷凍庫に残ったカニ(出張みやげ)が気になるのもうなずける。
    絶対、相手の男に食べさせるぞ! とあたしも思う。
    自分は腹が立って食べられそうにないし、かと言って捨てるのも気分悪いし。それなら相手に責任をとってもらいましょう。
    『夢見入門』自由に夢が見られるとな。どんな夢を見ようか?
    あぁ、今いいところだったのにってときに、続きが見られるってのがうれしいかも。

  • 「夢見」という非現実がベースなんだけど
    心理描写が上手いからなのか、共感できた。




    心の乾布摩擦
    明日につながるセックス


    なるほどと思う言葉も。

  • 妻が出張先で突然亡くなったけれど、浮気相手との不倫旅行の末の病死だった。

    あれから1年経っていまだに妻の不貞を許すこともできず、
    同時に何気なく初めて夢見の修行をしながら
    冷凍庫に残った彼女が作っていた作りおきのおかずを
    毎晩息子と一緒に食べていく日々。

    唯一食べることを躊躇した不倫先で買ったとされる冷凍のカニを、ゆずこの不倫相手に食べさせるまで。

    就職せずに小説を書いていくことを決めた大学生が
    同棲する彼女との温和な別れをするために
    性行為をすると頭痛がする悩みを夢見で解決しようとする様子。

    2つの話とも、夢見の話。
    どれもなんだか切ない。

  • けっこう好きかも。
    夢見入門、すごい発想。

    覚え書き

    ゆずこの形見
    ゆずこ、間男、毛蟹、作り置き、新井さんの死、原さんとのキス

    夢見入門
    本棚、再現レシピ、好きなものと好きなもの、原さん、正しく終える

    人生のいろんな区切り、特に別れにおいて、正しく終われたらよいけど、
    多くは正しく終われない。
    そこをなんとか正しく終わろうとする植尾くん。

  • 夜更かしの本棚で「男性作家による男心の描写が素晴らしい」と紹介されてて読んだ本。名前からはわからなかったけど男性作家なんですね。突然死した妻が残した大量の作り置き。一体人間てなんなんでしょうね。家族を裏切って他の男と旅行に行くのに家族のために作り置きを冷凍しておく女という存在。でも納得しちゃうんだよね、さもありなんという。でも同じ不倫するにしても男はこんなことしないよね。

  • なんか…こんな物語よく思いつくなあ、そしてよくこんなにたくさん正しく?表現出来るなあ、ってしみじみ思った。図書館じゃなきゃ出合わなかったと思う。

  • 【不倫旅行中に死んだ妻が残した毛ガニを、不倫相手に食べさせる】。それが、残された夫の不倫相手への報復であり、彼の中に今尚生き続ける妻への野辺送りでもあった。

    っていうのが、表題作の梗概なんですが。

    男女のポジションが逆転すれば違和感なく読めたと思うんですが、主人公である夫の【妻が残した食材にこだわる】姿だったり、【夢をコントロールする】技術習得に勤しんだりする姿が、ものすごーーく女々しく感じられてしまって、終始違和感を感じてしまったんですよね………(汗

    機微の移ろい方とか語り口なんかもすごく女性的な印象を受けたし。うーん。

  • 後半の『夢見入門』の主人公が書いた小説が表題作というようなかんじ。
    それだけ、後半の方が無理していない、作家らしいと思わせる早稲田大学っぽさ(?)

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著者プロフィール

いとう・たかみ
1971年兵庫県生まれ。1995年、早稲田大学在学中に「助手席にて、グルグル・ダンスを踊って」で第32回文藝賞を受賞し作家デビュー。2000年『ミカ!』で、小学館児童出版文化賞、’06年『ぎぶそん』で坪田譲治文学賞受賞、「八月の路上に捨てる」で芥川賞受賞。主な作品に『ドライブイン蒲生』『誰かと暮らすということ』『 そのころ、白旗アパートでは』『秋田さんの卵』『ゆずこの形見』『あなたの空洞』など。

「2016年 『歌姫メイの秘密』 で使われていた紹介文から引用しています。」

伊藤たかみの作品

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