アルタッドに捧ぐ

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著者 : 金子薫
  • 河出書房新社 (2014年11月20日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (144ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309023373

アルタッドに捧ぐの感想・レビュー・書評

  • 若い、若いなぁ。
    というのが一番の感想。

    書いていた小説の主人公の少年がある日、勝手に死んでいた。原稿用紙の上に血のようにインクの流れる左腕だけ残して。物語を書いていた本間が腕と原稿を埋葬しようとした時、そこから這い出てきたのは作中で少年が育てているトカゲのアルタッド。
    ファンタジーとしか思えない粗筋と出だしだが、驚くことにファンタジーではない。
    大学院浪人の本間の、アルタッドとアロポポル(同じく作中のサボテン)の飼育・栽培の毎日と、「死」と「生」、そして「書くこと」についての彼の想いが延々と書き連ねられるのだ。

    人は生を受けた瞬間から死に向かっている。
    なのになぜ生きていかなければならないの?
    歓喜や恍惚の境地を書き表したいという欲求と、それゆえの不安と問い。

    「書くこと」についてそれにあたるものは人それぞれだろうが、誰もが一度や二度は考え、思考の迷路に迷い込んだことがあるのではないかと思う。
    自分や近しい人の死を想像しては、涙したり恐ろしくなったりした子供の頃。
    生きる、ってなんだろう。死ぬ、ってどういうことなんだろう。と繰り返し考えてため息をついた日々。
    自分の存在意義について考えては、虚しくなったり斜に構えて周りに知ったような口をきいていた思春期の頃。
    読んでいると、甘酸っぱいよりも、香ばしいな(フッ)となってしまう若かった自分を思い出してこっ恥ずかしくなってしまうのだ。でもって「(作者さん)若いんだなぁ」と呟いてしまうのだ。
    もちろん自分は、本間(金子さん)のように小難しい言葉をこねくりまわすのではなく、もっと粗野で単純な言葉や思考だったけれど。

    大学生活を終え、大学院受験までの1年間の意味を「書くこと」に求めたが、求めるところが高すぎて(なんといっても“天上”だもの)止まった手をアルタッドとアロポポルの世話に費やす。
    結局のところ、モラトリアムの延長を描いただけの物語、なのかもしれない。
    だけど、真っ向から「書くこと」論をぶつけてきた作者に、気恥ずかしさを感じながらもいっそ潔さも感じる。
    モラトリアムの終わりが近いと予期させるラストシーンは朝の光のように明るく、読後感はよかった。



    献本企画でいただいたプルーフ版にて読了。
    Booklog様、河出書房様、ありがとうございました。

  • 物語の主役、ソナスィクセム砂漠のエニマリオ族の少年モイパラシアの死から始まる物語。その死をきっかけにトカゲのアルタッドが本間の生活にゆるやかな変化をもたらす。

    二重三重の物語になっていて手のひらの上で、ゆらめく3D物語を見ているようで面白かった。小難しくしクドクドしてないから読みやすい。

    モイパラシアの墓に向かって語りかけるシーンはじわ~っときた。アルタッドはなにもわかっていないだろうけど、アルタッドのいまを生きるという姿勢は健気で光ってみえた。

    アルタッドとは真逆に今だけを生きられない(それだけに集中していたら逆に生きていけない)ヒトって悲しい。物語を作る苦しみがひしひしと伝わってきた。けどそこで物語を終わらせないで感覚や本能でガガガーっと書いて、切り開いてみればいいのにいいのに…って思ったりして。本能やエゴとの葛藤に悩む本間。若くてまぶしい。高校生とか20代にオススメ。

    それだけにアルタッドと一緒に神殿を巡る旅に出る(想像)シーンは美しく感じた。あと亜希と一緒に点描画に没頭するシーンも神話みたいで素敵だった。表紙もよく見ると、なるほど…輝くコーンがあったりして可愛らしい。

    うちの猫や鳥をみていると本当に今、この一瞬一瞬だけを感じて本能で生きている。人間はそうはいかないところがもどかしい。けどだからこその人間なのかな。幻想脳内巡礼作品。

  • 表紙が、点画だったら良かった。未熟の芸術。

  • 今年の文藝賞受賞作。献本企画で頂き、光栄にも
    読ませて頂きました。

    難解なお話、というのが最初の印象。

    読み進めてゆくと、村上春樹さんの
    「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」
    をどういうわけか思い出しました。
    作者様がお好きなのかもと、ふっと考えついたり。

    主人公は、何故か物語の中で死んでしまった人物から
    アルタッドというトカゲを譲られます。

    自ら紡ぐ物語の中からやってきたトカゲ。
    アルタッドとの、現実か夢のあわいか…と思うような生活。

    そういう側面を見れば、これはもちろんファンタジーで。

    主人公が小説をものしようといろんな着想や言葉、
    世界観を自分の中で形にしようとする経過を見れば
    これは現代小説で。

    まとまった作品世界を生み出すまでの、ふわふわとした
    思考の塊を、何をするでもなく捻り続ける、小説家の脳内
    を垣間見させることと、作品世界が書き手にとっては、

    「紛れも無いもう一つの現実」

    だと知らしめるような、言葉の世界から具現化してきた
    アルタッドとの生活。

    異質な二つの世界を、「死」を夢想するということで
    繋ぎあわせたのが、この作品です。

    このお話を練りながら、作者の金子さんもこういう思考や
    心理状態を辿ったのかな、と深読みもしましたし。

    二つの側面、どちらかに重点を置いて描いていたら、
    もっと分かりやすいお話になったのでしょうね。

    アルタッドという同居人を小説世界で自在に動かすために
    一見停滞しているような日常の中で考えを尽くす主人公。

    振り返れば「現実」にまでやってきてしまったアルタッドとの
    日々は、主人公が原稿用紙の上で活写したいことなのだから
    愛しくも心和む時間になるのは当然かもしれません。

    いいですよ。トカゲ。うん。

    実際には主人公、なかなか筆は進まないので
    その閉塞感が難解さとか、なんとなく作品を覆う
    疲労感になっている気がします。

    魅力的な世界を生むために、こんなにも閉塞した中で
    降りてきたインスピレーションと付き合うのはキツイ…と
    そんな納得の仕方をさせてもらいました。

    これが作者様の現実ではなく、小説だというのだから
    なおすごい。

    実際にこういう経過を辿って作品が
    生まれてくるとしたら、本当はもっとシンプルな
    掴みどころのない感じなのでしょう。

    それを小説にしたら文章がドラマチックになった、という
    解釈を私はしました。

    書いた経験のない読者には、少々難しい感じがしますが
    解りにくいからと放り出さずに、じっくり二度読みがいいかも。

    次回作はどんな感じなのでしょう。
    意外とガラリと違うものをお書きかもしれないと
    何故か思わせる作品でした。

  • 文藝社の企画本で当たりました。なかなか物語の中に入りこむまでに時間がかかりましたが、最後まで読みきるまでも長く感じました。死を常に感じる文章で、所々に興味深い言葉を見つけることができましたが、一度読めば良いかな、という感想を持ちました。
    文章力はすごいな、と思うし真似できることはない分、個性的な作品。

  • 表紙も内容も、何だかわからない。

  • この小説に歓喜や恍惚が存在していないことを非常に残念に思う。カーヴァーの「大聖堂」のようなものを書けというのは非常に酷なことではあるのだが、それを期待させるような小説だった。
    とはいえ、体験的にではなく、技巧的に書こうとしていたように読めるので、「詩的」から離れたところで恍惚を描こうとする試みだったのかもしれない。もしくは、「詩的」に憧れつつも棄却せざるを得ないなにかがあったのかもしれないが、そこまで読めなかった。

    アルタッドの存在が、あるいはフィクションを書く/読むことが私たち(本間)の生活に必要なのは、フィクションが私たちを形づくっているからだ(というのも私たちは言語世界に生きているから)。
    だからなぜ書くのかという問いには、生きているからだ、と答えるほかなく、それを真っ向からこの小説は描いているのである。

  • 小説家を目指すニート青年が「書く」ということに向き合う話。う~ん、ちょっとイマイチというか、全くよく解りませんでした。なんか哲学みたいな感じ?
    最初に、主人公の描いていた小説の登場人物がいきなり勝手に死んで、その腕が現れるという始まり、その死んだ登場人物が飼っていたトカゲ?(小説の中の動物なので実在しない)が原稿用紙から飛び出してきて、それの世話をするって・・・ついでにサボテンも・・・
    ???のままラストはなんとなく良かったかなあ~みたいな終わり方で。う~ん、わからん。

  • 勝手に死んでしまった小説の中の少年からトカゲとサボテンを託された作者。
    あらすじだけではさっぱり意味のわからない不条理小説のようなのに、内容はむしろ現実的であわあわとしている。
    小説を書かなければいけない、まだ書くべきではないとせめぎ合い、1年もの何者でもない期間を、トカゲとの生活に費やす。
    ひいてはなんのために生きるのか、と。
    モラトリアム期の鬱屈を陰鬱に書くでなく、ユーモラスに書くでなく、ただ淡々と、ありのままに書いている感じ。
    面白いけど、あともう少し、何かが欲しい。
    最初の数ページの、アルタッドが現れる辺りが一番面白かった。

  • トカゲの話。トカゲ好きじゃないのになんで借りたんだろ…

  • ブクログの献本企画でいただいたもの、読むのにこんなに時間がかかってしまったのは、これら二作のタイトルに気負いしかなかったから。
    読める気が、しなかったから。
    やっと読了しましたので感想をば。

    お話の中のお話が、正直よく分からなくて、ふわふわしてるままいつの間にか終わってしまっていた。彼は、書き上げられるのだろうか。(きっと纏まるのだろう。)

    本当にしっくり来ない作品だったのだけど、ラストだけは好きだった。ラストだけで、読んで良かったとほっとした。

  • 架空のような村の民族の話しから始まり、現代社会へとそれがリンクしていく。実は村の民族の話しというのが小説の中での出来事だった……。
    普段知ることのないトカゲの習性、生態がわかった小説でした。

  • 1ページ目でぐっと引き込んできて、あとはチョットしりすぼみだったかな。設定をそのまま書いているような説明的な文章、死生観も唐突だし、もうちょっとうまく書けたのではとどうしても思ってしまった。

  • 2015年1月25日読了。

  • 応募したらもらえた「文藝賞受賞作」(未校正)に載ってた2つのうちの1つ

    もう1つと対をなすような生の話って感じだった
    書くという行為にあれこれ理由がいるのかー大変だなーと
    読む側の自分はちょっとよくわかんないなーと思いつつ
    不思議な世界観が気に入ったので
    立ち止まりつつも読了

    他のも読んでみたいので
    星は3つ
    ギリ3つじゃなくて迷うことなくの3つ

  • 人はパンのみで生きてるわけではないがパンよりも理想を追い求めればさぞ苦しかろうとも。
    理解できなくても想像は少し。
    アルタッドは殺せない美しい記憶で理想とか現実とかに関わらず素朴に生きていく象徴かしらと思ったんだけど、それが他人の目にも見えるならさぞかし凝り固まった理想なんだろう。

  • 最初はふわふわと、つかみどころのない物語ぢったけど、
    徐々に物語にひきこまれていく。

    青春小説?

  • 大学を卒業したが、進学も定職に就くこともせず、バイトと小説の執筆だけで日々を過ごす主人公の本間。ある日、その小説も自分の意図に反して主人公・モイパラシアが死ぬという展開に陥り、書くこともやめてしてしまう。本間は原稿用紙と「死んだ主人公の腕」を庭に埋めようとするが、そこからは小説内でモイパラシアが飼っていた、トカゲのアルタッドが現れるのだった。同時期に庭に現れた同じく小説内のサボテン・アロポポルもアルタッドもある意味「普通の」動植物だが、ともに生活し彼らを見つめるうちに、本間は少しずつ変わっていく。(続

  • いないはずのトカゲにサボテン。書いている人もだからいいか。

  • なかなかおもしろかったよ。
    細かく分けられていて考える時間を与えられてる感(勝手に思ってるだけやけど)、よかったね。

    作者は慶應か。羨まし。

  • 献本企画でいただきました。文藝賞受賞作です。 幻想と現実が入り混じった小説家の卵のお話。どこからが幻想でどこまでが現実なのかわからない。すべてが妄想なのかもしれない。きっとどちらでもよいのでしょう。哲学ぶって、理屈をこねくり回しているだけかもしれないけれど、無為に過ごす日々がいつか有為になるかもしれない。ならなかもしれない。それすらもどちらでもよいのでしょう。只々すごく雰囲気のある小説でした。その分、好き嫌いが分かれるかもしれません。

  • 一行目から勝負をしかけているのはいい。
    しかし、タイトルが弱い。バカにされているが、ラノベはタイトルの時点からすでに勝負をしかけている。小説など今やマンガや映画に押される立場で、「恍惚」だの「告白」だのいうタイトルでドンと構えていれば売れるという時代ではないのだ。一行目にかけた熱量の1/10でも、タイトルに分けてやって欲しい。「アルタッドに捧ぐ」ではどんな話だかわからない。

    しかしこれだけいいスタートを切っておきながらあとが続かない。まるで300ページ一つのテーマで書ききれないから、100ページ目あたりからどんどん関係ない話して水増しする新書の類のようだ。

    10ページくらいの短編だったら、ユアグローっぽくていい話になったんじゃないかと思う。
    もしくは阿部和重的ユーモアがあればもっとよかった。

    それ以外の点については、なんかもう語るのもバカらしいって感じです。

  • 第51回文藝賞。

    保坂和志絶賛。ということは自分には合わないということだろう、と思いながら読み始める。最初に、いきなり主人公の描いていた小説の登場人物が死に、その腕が現れるという始まりに、ここ最近の文藝賞の流派である一種の幻想性を感じる。いや、別にそれが嫌だと言う訳ではないのだけれど。そしてこのままメタフィクションな方向に行くのかと思いきや、アルタッドという想像上のトカゲが現出し、主人公との生活が始まったあとは、まるで最初の出来事だけがぽっかりと浮いてしまっているような、「普通の」ペットとの交流の日常がずっと描かれる。
    登場人物は極端に少なく、内容は主人公の思弁(とペットやサボテンの世話)に費やされているため、筋道だったストーリーといったものはほぼ存在しない。この辺が保坂的である。
    この小説の魅力はやはりアルタッドの描写であろう。一言で言えば「アルタッド萌え」である。別に爬虫類には興味も嫌悪感も持たない自分だけれど、実に魅力的な描かれ方だった。

  • それは、予言されざる死だった——著者の意図せぬ主人公の死、その少年に託された「アルタッド」という名のトカゲとの生の日々。選考委員の保坂和志氏、大絶賛! 衝撃の第51回文藝賞受賞作。

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アルタッドに捧ぐの作品紹介

それは、予言されざる死だった——
著者の意図せぬ主人公の死、その少年に託された「アルタッド」という名のトカゲとの生の日々。
選考委員の保坂和志氏、大絶賛!
衝撃の第51回文藝賞受賞作。

アルタッドに捧ぐのKindle版

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