- Amazon.co.jp ・本 (121ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309202655
感想・レビュー・書評
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ひとりの人間がゐなくなる。
今までもたくさんのひとを見送つてきた。
それが今度はわたしの番。
あなたはまだ、そこにゐますか?
死ぬのが恐いのではない。死なんていつでもそばにゐた。あなたのゐない世界、それが恐い。ならば、この悲劇はあなたと出会つてしまつた瞬間から始まってしまつたの?
けれど、あなたと一緒にゐれた時間が悲しいなんてちつとも思へないの。わたしはあなたの顔を見つめるただそれだけで、もう幸せだつたから。
夜、眠るのが恐い。朝目覚めてまた息を吹き返す。その時あなたはゐない。どうせなら、このまま一生目覚めなければよかつた。
――いいえ。目覚めなかつたら、あなたの顔を見つめられないもの。わたしはまた、眠り、目覚める。空っぽの不在に体を引き裂かれて。
痛みはまだ、わたしとともにゐる。
時々、あなたのことがわからなくなる。声も匂いも、姿も、何もかも、思ひ出せなくなる。ただ、「あなた」といふそれだけが、ずつとずつと木霊する。
家の中は今もしんとしたまま。わたしがいなくなれば、誰もこの家のことを書く者はゐない。
この期に及んでも、まだあなたのことを想つてる。あなたをこの家で待つてゐる。あなたに、会ひたい。
流れてゆく。流れてゆく。
わたしはもう、どうにもならない。
あなたに、あなたに、ゐてほしい。
あなたを、愛してゐます。
これで、おしまい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
亡くなる直前の記録。おもに最後の恋人ヤン・アンドレアに関わるもの。
デュラスの短い言葉たちは、意味深すぎて、分からなくて、だからいつも思考の深く深くへと降りていってしまう。
あんまり説明してくれないから困る。
もう少し、年を重ねてからまた読もうかな。
私はこの本のデュラスのように死にたいのだろうか。
・いっしょにいること、それは愛であり、死であり、話しあうこと、眠ることなのだ。
・私は書く。さあやるぞ!私は言葉というものを心得ている。その点はまかしておいて。
・やさしいというのはたいしたことじゃない。大事なのは、どこへも連れてゆかず、なにものにも導かない、ぎりぎりの思考だ。
・憎悪というのは、がんばるのに役立つ
・空(くう)の空なるかな。万事(みな)空にして、風を追うが如し(旧約聖書 伝道の書 第一章)
何度か登場する、最後の聖書の言葉が気になった。調べてみる。 -
デュラスが15歳のときの写真が本の表紙に使われてたことがありましたがほんとにきれいだった。この本を下敷きにした映画を見ました。こういうふうに、死にたいと思いました。