- Amazon.co.jp ・本 (281ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309204505
感想・レビュー・書評
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空港。
硬い椅子、いつ果てるともない待機、がさがさしたアナウンスの声、疲労。
著しく不快なその環境に囲まれることによって、異次元移動は可能になった…という
なかなかイカれた導入部から、別次元への旅が語られていきます。
※余談ですが、基本的に国内では短距離移動だし、
あんまり乗り換えないし、
食事等、それなりのサービスを享受できる日本人には出てこない発想かも
短編方式で、いくつもの次元の話が語られます。
とことん空想話なのだけれど、ル=グィンの空想話なので抜群に面白い。
えぐい話、淡々としている話、美しい話、多種多様な世界をのぞきこめる。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
飛行機(plain)と次元(plain)をひっかけて、飛行機の乗り継ぎ待ちの間に次元を乗りかえる旅行法が発見された……というちょっと強引な言葉遊び的な洒落から始まる本なのだけれど、その肝心の次元間旅行によってゆける異次元の人々と、その社会と歴史、生活と風土については、非常に深く考えを巡らせて描かれている。軽快で読みやすく、それでいて非常に読みごたえのある一冊。ル=グウィン女史の本には、しばしば少々小難しくてとっつきにくい場合もあるのだけれど、その中で本作は格別に読みやすかったように思う。
短編集の形式をとっていて、一本ごとに異なる次元のいっぷう変わった異次元人たちを追いかけている。鳥のような羽毛を持つ人々の中に稀に突然変異として生まれてくる、翼を持って空を飛ぶことのできる人々。言葉を持っているにも関わらず「話す」ということをほとんどしない人たち。遺伝子改良によって作られた「眠らない」人々のゆくすえ。直線的時系列的ではなく、放射状の複雑な構造を持つ言語をあやつる人々。「不死」に感染してしまった気の毒な人たちの姿……
それぞれの設定が設定に終わらず、彼らの暮らしと歴史、進行、風土と密接に絡まりあっている。人間というもの、生きるということについて、知らず考えさせられる。そうそう、わたしはこういうものが読みたくてSFが好きなんだよ! と読みながら何度も叫びたくなった。(余談になるけれど、ル=グウィン「西のはての年代記」シリーズを読んだときにもやはり、わたしはこういう異世界ファンタジーこそが読みたかったのだと強烈に感じたことを思いだした)
思弁的SF、異文化交流もの、センス・オブ・ワンダーを感じさせる作品、そういうSFが好きな方にはぜひとも強く勧めておきたい一冊。-
「思弁的SF、異文化交流もの、」
ル=グウィンが見せる世界観って、心地良い疲れをもたらすシビアさが好きなんですが、この短編集では、比較的柔ら...「思弁的SF、異文化交流もの、」
ル=グウィンが見せる世界観って、心地良い疲れをもたらすシビアさが好きなんですが、この短編集では、比較的柔らかでしたね。。。2013/06/20 -
コメントありがとうございます。ですね~。世界観そのものは本作もやっぱりシニカルというか、シビアな部分もありつつも、柔らかな語り口ですごく読み...コメントありがとうございます。ですね~。世界観そのものは本作もやっぱりシニカルというか、シビアな部分もありつつも、柔らかな語り口ですごく読みやすかったです。するする心地よく読んじゃう、でもふと手を止めて思いを巡らせれば、深くて重い、みたいな。楽しい読書体験でした。2013/06/20
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なつかしく謎めいて (Modern & classic)
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アーシュラ・K・ル=グウィン『なつかしく謎めいて』(河出書房新社、2005)
ル=グウィンらしいフワフワした読後感、ファンタジー要素入りSF
空港での乗り換えの待ち時間に退屈した主人公シータは、退屈な時間と悪質な食べ物に当てられて気を失い、目覚めると異次元へ。
再現条件を特定し、「シータ・ドゥリープ式次元間移動法」を確立。
(科学的根拠の理屈付けはなく、あくまでファンタジー要素)
以下、シータと友人たちが見聞きした異次元の旅行記となっている。
不死の人の国、眠らない人の島、翼がある人の国などなど。ガリバー旅行記を彷彿させる希望と悪趣味の世界。
両親が学者で、文化人類学のサラブレッドと称される人文系ソフトSF作家、
著者の皮肉もにじみます。
【本文より】
◯空港の本屋に本はない。あるのはベストセラーだけだ。
◯私はマハグルに滞在するときには、帝国図書館で大半の時間を過ごす。よその次元にきて(あるいはどこの場所ででも)図書館で過ごすなんて、退屈きわまりないと思う人も多いだろう。しかし私は、ボルヘス同様、天国とは図書館によく似た場所だろうと思う。
◯オーリチ思想家たちの言うことにも一理あるかもしれない。確かに、意識には高いコストがかかる。意識の代価は、私たちの人生の三分の一。目が見えず、耳が聞こえず、口が聞けず、無力で思考力のない状態 ー つまり、眠って過ごす時間だ。 -
紀行文調SF。想像力に溢れた異世界コミュニティーの総体的描写、ネイティブな文化と先進文明との軋轢等が描かれている。遺伝子弄り系のちとえぐい話が読後の印象に残る。昨今の時勢柄、大変面白く読めた。
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SFの女王ル=グウィンによる短編集。
さまざまな異次元を旅行者の視点から描きます。
繰り広げられるのはIFの世界。
いろんなテイストに溢れているのが魅力的!
あなた好みの話も見つかるかもしれません。
ここからSF、はじめてみませんか? -
原題のchanging planesというタイトルどおり、毎日の生活の谷間にあいたふっとした時間に、ちょっと別世界に移動するのにちょうど良い短編集かもしれない。だけどすごく面白いというわけでもない。