雪男たちの国

  • 河出書房新社
3.09
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本棚登録 : 74
感想 : 12
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  • Amazon.co.jp ・本 (137ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309205151

作品紹介・あらすじ

目が覚めたら、私は南極にいた。-病院の地下で発掘されたスコット探検隊の生存者による手記。妄想と幻覚の作り話か、それとも-。

感想・レビュー・書評

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  • スコット大佐の南極探検に同行した建築家の男の日誌という体裁を取る。錯乱のなかで苦痛に充ちた記憶は、古びた紙切れに書かれた物語としてここに存在している。
    極寒の地に降り立つわたしの手足はかじかみ、雪風を受けつづけた眼球は傷んでしまう。網膜の中心は暗黒、世界は白い輪郭である。けれども、わたしは凍った目で、オーロラのように輝かしく燃えあがる生と死を見たのだと思う。これほど美しく、奇怪な地獄をほかに知らない。出発するだけで、わたしはどこかに到着したいとは願っていないのだ。

    白昼、霊柩車は深い夢の経路を駆け抜けてゆく。

  • サナトリウムの地下室から発見された古い手記は南極のスコット隊と行動を共にしたと称する建築家ジョージ・ベルデンのもの。その手記を著者のノーマン・ロックが編集し発表したものがこの本、と言う体裁の物語。
    氷の世界に閉じ込められて徐々に狂気に支配される姿は怖く感じつつも雪と氷に覆われた世界で起こる不条理で不幸な出来事だからでしょうか、時々美しさにはっとしました。

  • 「南極のスコット探検隊」という紹介文の一節を目にして、柴田元幸本でスコット?と興味を惹かれて読んだら、やっぱり柴田元幸だった(笑)。いつもの探検モノではないと断言できますが、極限の地にある人間の精神が常に沈着冷静なままであるわけはなく、もしかしたらこの本のような状態こそが真実なのかもしれず、私の好きな冒険実録ものと、これも大好きな幻想ものはつながってるんだなぁと感じた。探検ものの一ジャンルとして位置付けてもいいのかもしれない。スコットの探検に同行してないのに同行しているように書いているジョージ・ベルデンの日誌という体だが、それすらも作者ノーマン・ロックの創作のようで、そのあたり柴田さんのあとがきもボンヤリしており、メタのメタのメタという構造がもろ好み。

  • ん?ん?んん?!
    倍以上の時間をかけてゆっくりと、しかし考えすぎずに再読の必要あり。

  • 「夢の論理が支配する」好きな世界。不思議な空気感を楽しみながら読んだ。影を収集する話がよかった。狂気の主人公が描いたとされるヴォイニッチ手稿風の挿絵が神秘的。こういう作品を発掘して翻訳し世に出す訳者のセンスが素敵と思う。

  • 史実に見せかけた幻想本か。どこまでが現実か、はたまた幻覚か妄想か…南極でのスコット探検隊の壮絶な姿が手記の形をもって幻想的に綴られる物語。「ある日目覚めたら、地獄さえも凍る地にいた」と始まるように来る日も来る日も果てしなく広がる白の世界、過酷な極寒での日々、寒気が体を心までを縮こまらせ、やがて精神を蝕まれていく隊員たちの姿は痛々しいほど残酷。けれども彼らの光を失いつつある瞳に映す幻覚はどこまでも美しい。幻想的な牢獄の中で彼らの運命は。不思議な感覚にとらわれる大変魅了される作品でした。ものすごく好み。(2010年7月読了)

  • スコット探検隊の一員として南極に向かったと妄想するベルデンの手記を、ロックが編集したという体裁の本。淡々と語られるエピソードは狂った人の夢の論理に支配されていて、じんわりとしたもの怖ろしさがある。しかしそれ以上に感じたのは、ベルデンのスコットへの思いだった。

    なにかとスコットについて意地悪な記述がされるのだが、それが「好きな子にどう接していいかわからない男の子」の気持ちに感じられてしかたなかった。ベルデンはスコットに承認され求められたかったんじゃないだろうか。会ったこともないスコットに対してどうしてそんな思いを抱けるのか、つじつまはあわないけれど。

    スコットがベルデンに微笑むことはなく、その想いは凍りついて永遠に残ったままだ。

  • 南極という氷の牢獄で、じわじわとにじり寄ってくる狂気。雪のために視力の落ちた瞳は、やがて原色をまとった華やかで温かい幻を求めるようになる。遠い国で待っていたはずの愛する者たちに別れを告げ、死者との交流を経た彼らは、そうして永遠の眠りについた。過去と未来を置き忘れ、現在しか感じることができなくなりながら、それでも生きるためにあがいたスコット探検隊の姿が、簡素な文章で美しく語られている。

  • もはや妄想とは言えない。美しくさえ思えてしまう狂気。
    極限の地では、「物」は、「物」でしかないのか?そこに想像や比喩は、言葉は、いったいどういう意味を持つのだろうか。意味ということでさえも意味を持たないのかもしれないけれど・・。

  • 正直よくわからない。詩を読んでる感じがした。
    一気に読みとおす内容の小説ではないな…少しずつ読みなおそう。

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