- Amazon.co.jp ・本 (137ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309205151
感想・レビュー・書評
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ひさびさにきっちり翻訳ものを読みたくなり、手頃な中編はないか…と手にした1冊。邦題は原題"Land of the Snow Men"そのまま。つややかなこげ茶+金色の題字の装丁が実に地味でいいです。副題は「ジョージ・ベルデンの日記より」。多大な犠牲を払って挑んだ南極点到達レースに失敗したスコット隊には、隊員名簿にも載っていない者がいる。備品係の彼、ベルデンはこの失敗の翌年に南極に立っており、その記録…という筋立ての中編です。この旅については、実際にスコット探検隊に参加したA.チェリー・ガラードの『世界最悪の旅』というノンフィクションをずいぶん前に読んでしまっているので、「ありえんだろ、そりゃ」と最初のハードルを自分で上げながらも(笑)、読みました。読み始めて…ノリ悪し(苦笑)。気づいたらスコット隊に組み込まれていたベルデンが、彼らと起居を共にするなか出会った、夢とも幻ともつかない出来事が書き起こされています。一つ一つのエピソードはわりと幻想的で意味深で美しいのですが…凍った影を集めてくる『分析の拒絶』や、スコットの死を見つめる『雪男たちの国を出る』は好みです。全編を通じて、隊員の煩悩(というか世俗感)と一線を画したスコット隊長も悪くないような。でも、全部のエピソードをつないでも、何かすごいものが浮かび上がってくるとかじゃなく、ただ書き連ねているだけのようで…ちょっと弱すぎ。ベルデンが遺したメモや図表がつけられているんですが、これがチャチ。もうちょっとうまく作れよ(笑)。この作家を含めた現代アメ文の作家は、歴史的な(そうでなくても昔の)出来事を使って物語に古色を出そうとすると、ものすごくぺらっぺらで下手な文章になるように思います(狙ってるなら別ですが)。訳を手掛けられた柴田元幸さんのイチ押し感あふれる解説にも「そんなにいいかな?」感がぬぐえず…雑誌に3章分だけ訳して掲載した選択は正しいと思いました(笑)。解説で紹介されているほかの作品は面白そうでしたが、これは「たぶん面白いのに、面白さの見えてこない本」(今年第2号)でしたので、この☆の数です。私が楽しむツボを間違ったのかも…ごめんなさい。
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