半分のぼった黄色い太陽

  • 河出書房新社
4.04
  • (19)
  • (26)
  • (9)
  • (1)
  • (2)
本棚登録 : 346
感想 : 29
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (506ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309205519

作品紹介・あらすじ

私たちが死んだとき世界は沈黙していた。数百万人の犠牲者が出たといわれるナイジェリアのビアフラ戦争。この内戦の悲劇を、スリリングなラブストーリーを軸に、心ゆさぶられる人間ドラマとして描きだす。英語圏でいま最も注目されているナイジェリア作家の長編初邦訳。史上最年少でのオレンジ賞受賞作。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 図書館で。
    久々に本の力、というか読書の楽しさや面白さを実感させてくれた本。すごいなあ、本って、読書って。何がきっかけで借りてきたかは覚えてませんが読んでよかった。

    お話は1960年のナイジェリア内乱もしくはビアフラ独立戦争直前から終わるまでのお話。ビアフラの子供という、飢餓に苦しむ子供の写真は見たことがあったしその地で飢餓に苦しむ人々が居た事は知っては居たけれども内戦で救援物資も封じ込められた為の飢餓だったとは。恥ずかしながら初めて知りました。
    沢山の民族と文化と歴史がある人々が暮らしていて一枚岩になるわけもないよなぁ。話す言葉も違うんだもん。でも外国人は黒人というだけで我々を全部同じ民族だと思って居るという作中の言葉に自分もそう思って居たな、と反省しました。(まあ反対に他の国の人々はアジア人の区別はつかなそうですが。かく言う自分もあまり自信ないけど…)

    日本とはまるで違う国のお話で文化も歴史も言葉も違うのに人間の悩みや人間関係の問題はこうも普遍的なモノなのか、という事が当たり前の事なんだけれども面白かったです。どこの国のどんな人でも似たような事やってるんだろうな、程度の差こそあれ、という事を知っていれば、皆自分と同じヒトなんだ、と理解すれば虐殺や暴動など出来ないと思うのになぁ。そう言う意味で教育は大事。そして共感力を養うためにも読書って大事だなぁと改めてしみじみ思いました。

    そして戦争はイヤだ。町や家や物が焼かれ、人が殺され、子供たちは兵隊に取られ、女性が被害にあう。そんな状況と病気や飢えに苦しむ自分の姿を想像すれば戦争なんて絶対にしてはいけないと思うはずなのに。そしてそんな思いを誰に対してだって体験させてはいけないと思うはずなのに。
    この頃世界情勢がキナ臭いので嫌だなぁ、戦争はイヤだな、と思いながら読み終えました。物凄い読み応えのある一冊でした。

  • 「アフリカ」と大雑把に語ることの無意味さを改めて反省。自らの無知と偏見をいくつも自覚させられ、非常に勉強になった。

  • まるで目の前にアフリカナイジェリアの暮らしがあるような生き生きとしたストーリーテリングの果てにたどり着く、圧倒的な戦争の虚しさと喪失感よ。

  • 大学教師オボニデのハウスボーイで田舎の村出身の「ウグウ」、オボニデの恋人で父が成金で裕福な「オランナ」、オランナの双子の姉カイネネの恋人でイギリス人作家の「リチャード」を語り手として、
    イボ人の多く住む大学町スッカと、首都ラゴスを初めナイジェリア各地が舞台。時は、ビアフラ戦争前後の1960年代ナイジェリア。個人的には、クールで明晰で皮肉屋だけど公正や正義に熱い思いを秘めているカイネネが一番印象に残った。ハウスボーイの成長や、オランナ、リチャードの恋愛物語をベースに、当時のナイジェリアの状況やさまざまな対立が描かれる。大学教師として豊かな生活から、飢餓状態への暗転。ご主人と召使い。イボ人とハウサ人とヨルバ人の融和から対立。ナイジェリアとビアフラ。ビアフラが飢餓に堕ちていたころ、北部ではポロを楽しみ、ラゴスでは連夜のパーティーが開かれていたこと。敵国より、自国内の民間人を、徴発や暴行で痛めつける兵士たち。戦況が悪化しても「ビアフラは勝つ」と言い続ける人々。白人と黒人の溝。ナイジェリア文化への憧憬。村と都市の対立。文明と呪術を始めとした土俗文化の対立。分厚さを感じさせない、ぐいぐいと引き込む力のあるストーリーテリングでした。//以下、抜粋。//たぶん彼には、アフリカ人のことはアフリカ人より自分のほうが理解していると思い込んでいる、イギリス人におなじみの偉そうなところがなかったからかもしれない。p.46(カイネネがリチャードをつれてきたときのオランナの反応がちょっと違ったわけ)/われわれのポストコロニアル的世界の本当の悲劇は、国民の大部分がこの新世界を自分たちが望むかどうか発言権をもたなかったことではないんだ、そうではなくて、大部分の人間がこの新世界と交渉する手段をいまだあたえられていないことだよ p.122/「愛がほかのものの入る余地を残さないとあなたが考えるなら、それは間違いよ。なにかを愛しながら、それを見下すことも可能なんだから」p.137(カイネネからリチャードへ)/「最初に惚れ込んだのはイボ=ウクウ美術で、それから彼女だったんです」p.355 (リチャードからローゼン伯爵へ)/「あまりに許せないことがあると、ほかのことは簡単に許せるようになってしまうわね」p.397 (カイネネからオランナへ)/「そう、いいことよ。あなたがこれほど長いあいだ、彼を批判もせずに盲目的に愛してきたやり方には、ひどく手抜きのところがあったもの。あの男が醜いことさえ認めようとしなかったじゃない」p.443 (カイネネからオランナへ)

  • 赤、黒、緑の3色の真ん中に半分のぼった黄色い太陽の図柄。

    これは、1967-70年に存在したビアフラ共和国の国旗である。
    あるクーデターから端を発し、イボ人に対する虐殺などが度々起こった結果、イボ人は結束して、「ビアフラ」として、ナイジェリアからの独立を宣言した。
    しかし、彼らの持つ石油を連邦政府が手放すわけはなく、戦争へと突入していく。


    この1960年代前半〜後半にかけての物語が3人の視点で語られる。

    田舎から、スッカという大学町にハウスボーイとしてやってきた少年、ウグウ。
    彼のご主人、オデニボは若き数学者で、毎週末には同僚たちが彼の家に集まりサロンのようになる。


    オデニボの恋人、オランナ。
    彼女は、ナイジェリア最大の都市ラゴスの裕福な家庭で生まれ育ち、ロンドン留学の時にオデニボと出会う。カイネネという双子の姉を持つが、いつからか2人の間には溝ができている。

    そして、カイネネの恋人、リチャード。
    彼は、イギリス人だがイボ=ウクウ美術に憧れて、ここへやってきて、カイネネに一目惚れをする。


    序盤は、理想に燃える若き学者たちの様子や、オランナやカイネネなど富裕層の優雅な生活、そして、それに驚くウグウの様子などを楽しく読んでいた。文化は全く違うけど、「小さいおうち」を思い出すなぁなんて、思っていた。
    そこに少しづつ少しづつ、戦争の影が忍び寄る。最初は誰も気づかない。でも。気づいたら後戻りが出来ないところにいる。追い詰められた人々は、大義を無理に信じることに逃げたり、仲間であるはずの人を信じられなくなったりする。
    戦争は人を変える。でも、変わるか変わらないかはその人次第だと、カイネネは言う。


    オランナとカイネネがまた姉妹に戻れた日々がうれしかった。
    「あまりに許せないことがあると、小さなことは忘れてしまうという言葉は辛辣だったけど。

    カイネネが好きだ。
    彼女の言葉にはいつもハッとさせられる。
    祈るような気持ちで読み終えた。

  • ナイジェリア1960年代の話。
    60年代前半と後半で分けて話は進む。
    壊れてしまった幸せな日々を思い出すような構成になっていて、読んでいて胸がヒリヒリする。

    翻訳本は苦手な人にも一気に読める作品だと思う。

    引用P.137
    カイネネ「愛が他のものの入る余地を残さないとあなたが考えるなら、それは間違いよ。何かを愛しながら、それを見下すことも可能なんだから。」

  • 物語の語り手の三人もバランスがよい。みんななにかしらの意味で「観察者」だよね。特に序盤はそれぞれアフリカハイクラスの、アフリカ庶民の、アフリカ社会の、観察者と行った具合に。だから前提が理解しやすい。中盤からはどんどん当事者になっていって、彼らの行く末が気になった。途中ちょっとダレたけど。
    アフリカとして一般に語られがちな貧困や紛争は数ある要素の一つだと語る小説。それでも一般に語られる要素の重さも感じられる小説。面白かったです。

  • 1960年代のナイジェリア内乱を舞台にした作品。

    恥ずかしながらナイジェリアのことをほとんど知らないまま読んだけど、主人公のひとり・ウグウはまさに何も知らない田舎育ちの少年で、彼の目を通して語られる描写ですんなりと作品に入っていける。
    作中で白人は黒人を差別しているけど、黒人も白人を差別しており、黒人の中でもまた民族差別がある。民族差別こそが内乱の一因。
    戦争が進むにつれ、リベラルなインテリだったはずのウグウの主人・オデニボでさえ差別的な発言をする場面があり、衝撃だったが、長引く戦争で登場人物たちの精神状態が少しずつ少しずつおかしくなっていくのがよくわかった。

    日本の戦争文学を読んでもいつも思うことだけど、戦争が激化して、空襲と飢えで追いつめられ、次々と死んでいく民間人たちの描写がただ辛い。

  • 少し早いですが、今年一番の読み応えある作品だったかも、です。2段組みで、厚みもあり、体力を消耗するようなどっしりとした読後感。
    1967年ナイジェリアで起こった内戦、ビアフラ戦争を背景に姉妹、家族、男女の愛憎といった普遍的ともいえる人間ドラマを肉厚に描いた作品です。
    アフリカといえば、サバンナや野生動物、陽気な人々、といったあまりにステレオタイプな見方をしてしまいがちで恥ずかしいばかりですが、この本を通じ、アフリカ大陸の数え切れないほどの民族や文化のうねり、また、列強による支配や戦争を経て、未だにその影響をひきずり内戦や政情不安が絶えないことを改めて知ることができました。
    この戦争については、ナイジェリア本国でも未だに多く語られていないということで、若い作者の勇気と努力、才能に頭が下がる思いです。
    それとは別に、登場人物たちの人間ドラマがまた迫力満点でおもしろかったです。特に双子の娘オランナとカイネネの生き様、田舎出の新米ハウスボーイ、ウグウの成長に目が離せませんでした。
    また、かたや裕福で、イギリスへ留学をしたりといったインテリ層と、茅葺き土壁の家で育ち、呪術や祈祷師の存在する暮らしをしている貧しい人々との対比が興味深かったです。戦争下の暮らしは悲惨で残酷ですが、世界中のあらゆる戦争で同じようなことが繰り返されている訳で、やるせない思いです。朝出かけていった家族がいなくなってしまう恐ろしさに今更ながら戦慄を覚えました。

  • 冬休みに読むのを楽しみにしてた本。お腹の膨れた子どもたちのイメージを世界に流通させた1960年代のビアフラ戦争を背景に、2組のカップルとひとりの少年の、約10年にわたる関係を描く。
    ウグウがやがて綴ることになる本のタイトル「私たちが死んだとき世界は沈黙していた」が示すように、作家は、戦争を引き起こし支えた、国際社会の植民地主義と人種主義、民族ナショナリズム、権力者の腐敗、虐殺の対象となったイボ人の側にもあった疑心や差別、暴力に対する鋭い批判と怒りを抱いているが、それは慎重に抑制されて、5人の間の愛憎に焦点をあてた繊細な物語を支える力強い基盤となっている。
    5人の中でもっとも魅力的な人物は、皮肉さと大胆さをあわせもった、オランナの双子の姉、カイネネだろう。中産階級の裕福な生活を崩壊させた残虐な戦争の下で、バラバラになった人々をふたたび結びあわせた彼女が突然姿を消したとき、ゆたかな性愛描写で彩られたカップルたちの物語が、それを超える愛と痛みを語っていたことに気づき、深い感動につつまれる。
    (ちょっと文句)しかし、いくら作家が歴史的背景より小説の中身の方が大事と言ってるからって、もうすこし中身のある解説書けなかったものか。必要な注もつけてないし、なんか怠慢っぽい。

全29件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1977年ナイジェリア生まれ。2007年『半分のぼった黄色い太陽』でオレンジ賞受賞。13年『アメリカーナ』で全米批評家協会賞受賞。エッセイに『男も女もみんなフェミニストでなきゃ』など。

「2022年 『パープル・ハイビスカス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

チママンダ・ンゴズィ・アディーチェの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×