図書館大戦争

  • 河出書房新社
3.00
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本棚登録 : 152
感想 : 17
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309206929

感想・レビュー・書評

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  • 読むと幸福な気持ちになり、力と確信を得られる本。ソ連時代のある小説家の書いた何冊かの小説が、特殊な力を持っていることに何人かが気づいたところから、本を巡って闇の戦いが繰り広げられるようになった。叔父の死をきっかけに、青年がその戦いに巻き込まれていく…。
    と、おおまかなあらすじを書くと(日本でいうところの)伝奇ものだが、主人公が活躍するわけでもなければ、ヒロイックな展開になるわけでもない。圧倒的な理不尽の中に放り込まれ、流され、翻弄されるばかり。
    血、暴力、陰謀、支配、抑圧といったものが容赦なくのしかかってくる状況で、主人公にできたのは…。ソ連に対するプラスマイナス両面のノスタルジーと、その時代を過ぎてもしぶとく続いているロシア的なもの。混沌としつつも重苦しい世界でどう生きていくか、生きていかなければならないのかを描いた点で、やはりロシアの作品だと感じた。
    思想的な描写やグロテスクなシーンなどが話題になっていたようだが、どちらも作品にとって必要なもので、それ以上の(露悪的な?)意図はないように感じた。料理に下味をつけたり、最後においしく仕上げるための、癖の強い調味料といったところ。とはいえ、料理それ自体も含めて好みは分かれるかも。

  • 本は脳を育てる:https://www.lib.hokudai.ac.jp/book/index_detail.php?SSID=5080
    推薦者 : 小林 和也 所属 : 高等教育推進機構オープンエデュケーションセンター

    「理系」が英語で論文書いているのに、「文系」は英語も碌に書けやしないなんて酷い悪口があったものですが、そんな時にはロシア語はできますかと聞き返しましょう(私はロシア語できません)。「理系/文系」なんておかしな二分法を用いてマウントしてくる人もまた碌な人はおりませんが、人文学部廃止なんて物騒な噂もあり、将来に不安を抱えている学生さんもいるかもしれません。しかしそんなことは杞憂に過ぎないのです。もし不安であれば、それはあなたの人生にまだ「意味が生まれていない」からなのです。これは危険なカルトへの誘いでしょうか。違います。文学はカルトとは異なるのです。英語に対してロシア語を、将来の不安に対して意味を打ち立てるためにエリザーロフの『図書館大戦争』を読みましょう。

    本邦では別の図書館における戦争があったようで、本書の邦題もその争いに引っ張られていますが関係ありません。原題は『司書』と訳すべき「Библиотекарь」となっているそうな(私はロシア語を解しません)。では「司書」とは何か。それは本を管理する選ばれた人々です。彼らは共産時代の無名作家グロモフの本の「効能」を知った人々であり、7種類の本を賭けて戦われる闘いの兵士なのです。文学はカルトではありませんが戦いではあるのです。グロモフの残した小説は、労働者の勝利を謳う凡庸な共産小説で、結局それは文学の願いであって現実のソ連を描いたものではありませんでした。しかし本は古き良きソ連などではなく、「ありえたかもしれないソ連」として本来存在しなかったはずのものへのノスタルジーを力とし、様々な効能を発揮します。記憶の書を皮切りに、力、権力、憤怒、忍耐、喜び、そして意味の書の存在が示され、本によって力を得た歴史の敗残者たちが本をめぐる闘争を繰り広げます。寝たきりだったはずの3000人の老婆たちが力の書を得て暴れだす。皆お手製のマッドマックス的な武装で身を固め肉弾戦に応じ、戦死者は、現実のロシア当局にグロモフの本をめぐる組織「図書館」の存在を隠蔽するという「読書室」共通の利害の下で、秘密裏に葬られます(例えば溶けた鉄と混ぜられる等…)。主人公はこうした謎のグロモフ本をめぐる戦いに巻き込まれていきます。

    しかし戦いに死と恐怖はつきもの、彼がまだ本を読んでいない時、命を失うことが怖くないのかと戦いの意義を「読書室」故山のメンバーに尋ねるわけですが、曰く怯えるのはわけもないこと。なぜならあなたは本を読んでいないので、まだ「あなたの人生には意味が生まれていない」から怖いのだというわけだ。壊れゆくソ連邦と急速に変わりゆく共産圏において、その中を生きていくためには、本によって結ばれた人々の共同体の友愛と陰謀が必要だったのです。彼らは来る日も来る日も本を読み、耐え、そして力を得て戦った。

    こうした先駆的覚悟性(ハイデガー)は、怖い側面もあり一概にいいものではもちろんありません。また「ありえたはずの」前時代的光景について、修正主義であるとの批判は確かに可能で、実際にそうした論評もあるらしい(私はロシア語が読めない)。こうした言葉をめぐる修正主義の問題は、我々とて無縁ではありませんし、「理系/文系」言説などよりも重大な人文学の危機です。しかし人文学が、何を忘れ、何を思い出し、何を思考し続けようとするものであるのか、そのこと自体を問う学問であると敢えて規定するならば、デマはデマであると言い、駄法螺は駄法螺であると言わねばならないのです。また登場人物たちが殉じたものは現実のソ連ではなく、ありえたはずのソ連の幻影でもなく、本の下に集った「現実」の彼らが生きていくため、つまり彼らの未来のためであったとするならば、文学、そして歴史とは、今日の我々の謀略を正当化するために幻影の過去を賛美するためのものではなく、何か別の「現実」のためものであるということがわかることでありましょう(フーコー的に言えば「別の世界」で生きるのではなく、この世界における「別の生」が問われているとでも言い得るだろうか)。

    最後、主人公は果てない「意味」のために書くことを強いられます。そうなのです。書くのです。書いて断ぜられ、そして残ったものが記憶されるのです。作中のように我々は血に塗れ華々しく死ぬわけではないだろう(そう願います)が、登場人物があっけなく死ぬように、我々もまたいつか死ぬ。どのみち。であれば法外にも存在した以上、人文学という本をめぐる戦いに身を投じて何の悔いがありましょうや。どのみちあなたは出会うのです(それは退屈や後悔や悲劇かもしれませんが、それをしてあなたは生きるわけだ)。そのための序曲として本書を読んでみてはいかがでしょうか。


    あれ、これは『ストーカー』を思い出しますね。本当の願いとは何か、意味とは何か、それを(マクガフィンと知りながら?)探していきましょう。

  • まさに「図書館」が「大戦争」するお話だった。
    訳者あとがきによると、原題は『司書』らしいのだけど、
    紆余曲折があってこのタイトルになったそうな。おそらく有川浩の『図書館戦争』にあやかろうとしたのでしょう。訳者の苦笑いが伝わってきました。笑。

    内容は読んだものに様々な力を与える「本」を巡って、チームの「図書館」や「司書室」が戦っていくようなお話…。主人公は知らぬ間に戦いに巻き込まれて…と、言ってしまえばよくある活劇のようにも見えるんだけど、少なくとも明るくは無い…。

    あと現代ロシアについての知識があればもっと楽しめたのかも。訳者あとがきを読んでから理解することも多々…。かといって読み直したくなる分量でも無いので、またの機会かなぁ。

  • 文学

  • 星3つにしたけれど、何とも評価し難い。グロモフの本には絶対出会いたくない。そもそもソ連のプロバガンダ的な意味しかないグロモフの作品、文学的価値なんて殆どないのに、どうしてこんな魔力が宿ったのか。ソ連って、結構ロシア人には懐かしがられているのね。

  • ちょ、なんぞこれ(笑)
    本当に、図書館や読書室に集う読者たちが、本を巡って血で血を洗う闘いを繰り広げる話だった(笑)
    『<図書館><読書室><評議会>という言葉をかなり頻繁に使ったが、電話の文脈では、これらの言葉は普通とは少し違う意味で使われているようだった(p.95)』
    うん、確かに違うわ!でもその通りでもあるんだわ!(笑)
    まったくもう、これはウクライナ流阿呆小説ってことで良いのかしら。
    でも、生活描写の端々に出てくる現在のロシアの空気やソ連への思いなんかが、結構新鮮だった。
    だがしかし、阿呆小説だった…。

  • ロシア文学というと、暗くてとっつきづらいイメージがありますが、読了した感想としてはやっぱり「暗い…」というものでした。
    分厚い本ですが、訳が良いのか、ある程度文章の感覚に慣れれば結構テンポ良くスピーディーに読みきれます。

    ストーリーは決して華がある訳ではなく、むしろその理不尽さやナンセンスさを楽しめないと辛い感じ。おばあちゃん達をはじめとして、若さを全く感じられない登場人物からは、ソ連の記憶に幻想を持ちながらも、未来が感じられず、実体の伴わない「本」の快楽に気をとられたまま衰退していくような感覚を受けました。

    老人ホームのおばあちゃんたちが覚醒するシーンはブラックユーモア感が凄いです。ここで面白さを感じなかったらもうこの本を読み続けなくてもいいのかも。
    読後感も別に良くないので、人を選ぶ本だと感じました。

  • 謎の魅力を持つ「本」はロードオブザリングの指輪のようなファンタジーの魔法のツールのような、現代的な麻薬のようなアイテム。本を読み継ぐ共同体である図書館は絆が固く心地よく、本と図書館だけ見ると幸せな関係のようでもある。しかし、ただでさえ孤独なアウトサイダー集団、マイノリティなのに図書館同志が血みどろの戦いを繰り返し自滅していく。戦争シーンでは淡々とした切り株描写が続く。最後の監禁までどうにも救いがない。いったいこの話をどう楽しめばいいのか首を傾げてしまった。
    「古き良き幻想のソ連」へのノスタルジーが話題になったようだが、ロシアでは「本」や「図書館」のイメージが国の過去に重なるのだろうか。

  • タイトルが目に入って手に取ったが、もちろん著名小説との関係はないロシア文学。旧ソ連時代に端を発し、陰鬱な社会情勢と経済状況を背景に起こる、本を巡る荒唐無稽な設定とそれに振り回される人々の争いを描く。「本」を軸に、人々の間に生まれるある種の「希望」がいっそ痛々しく、旧体制の盲信者たちへの悲劇をスライドして描いているようでもある。自分的には読み取り切れなかったことも多く、微妙な読後感で終わってしまった。ちなみに原題の直訳は違う言葉とのことで、その点でマーケティング上手。

  • 設定はすごく面白い。エログロで大人向き。しかし設定の説明と歴史の羅列ばかりで、話はイマイチ萌えなかった。

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著者プロフィール

1973年ウクライナ生まれ。現代ロシアを代表する作家の一人。2001年、『爪』でアンドレイ・ベールイ賞受賞。2008年、本書でロシア・ブッカー賞受賞。ほかに、『パステルナーク』など。

「2015年 『図書館大戦争』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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