世界不死計画

  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309207650

感想・レビュー・書評

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  • ・過剰に細かい固有名詞を乱用してくる感じ、何かに似ている。
    ウィキペディア?中高生向けライトノベル??
    衒学的な感じではない。
    嫌いじゃない。

    ・「死に際の信仰心には恐れと思い出が入り混じっている」(149ページ)
    聖墳墓教会を廻るシーンから。

    洗礼を受けても信仰心のない大人は沢山いる。
    そういった人たちが歳をとってから信仰心を取り戻すのは、
    子どものころに受けた教理教育を思い出すからではないか。
    老人の信仰心はノスタルジーに支えている。って指摘。

    自分は若いので想像がつかないが、説得力のある指摘だった。

    信仰に限らず、歳を取っても同じコンテンツを愛し続けること、あるいは歳をとってから若いころ流行ったコンテンツが好きになることの理由には、単に新しい刺激の習得に大きなエネルギーが要るからだけではなくて、刺激体験自体が刺激を受けた当時の生活や人間関係まで含めた広い経験と紐づけられているからなんだなと。

    長すぎた。
    つまり人は生活しながら習得する。

    経験が嗜好を条件づける。

    ・「なぜ寿命の延長よりも老化の防止にこだわるのですか」
    「なぜなら、お客様である人間のほとんどが既に市場に生まれてしまっているからです」

    わろた

    ・訳者あとがきでは、虚実入り混じった感じは『テオの旅』や『ソフィーの世界』に似ているとされている。

    『ソフィーの世界』の最新延命医療版が本書。

    『テオの旅』は未読なので読んでみたい。

  • サイエンスノンフィクションとも半自伝的虚構小説とも紹介されている、この小説。著者と同姓同名の主人公は、不死になるために仕事を辞めて世界中を飛び回る。自分のゲノムの塩基配列の決定、iPS細胞の冷凍保存、レーザー血液の注入といった最新の治療法を次々と試す。豚の臓器や3Dプリンターで製作した臓器を移植したり、若者の血液を輸血したり、記憶をハードディスクに保存したりする時代もそう遠くないこともわかった。怖い話、いずれ遺伝子組み換え人間も生み出されるだろう。フランスの映画やテレビ番組や俳優が多数引用されて、分からない部分もあったけど楽しめた。

    p31
    「この先、我々は脳で苦労するでしょうね。というのは肝臓や腸、血液は再生させることができます。心臓ですら再生は可能です。しかし脳細胞だけは再生しません。内分泌腺に細胞を注入することはできます。しかしわたしの考えでは、人間は人口脳をつくれるようにはならないでしょう。そういうものだと諦めなくてはなりません。わたしは八十代や九十代の患者さんに大勢会いますが、みなさん同じことをおっしゃいます。いつ人生が終わってもかまわないってね。どうでもよくなる瞬間があるんですよ。そのうちあなたにもわかります!(後略)」

    p42
    人生は大殺戮だ。それは一年あたり五千九百万人程度の大量殺人だ。統計では一秒あたり一.九人、一日あたり十五万八千八百五十七人が死んでいる。このパラグラフの最初からここまでに、世界中で二十人が死んでいるー読むのが遅ければ、もっとたくさん死んでいるだろう。

    p45
    歳を取るというのは、わかりきって飽き飽きしている冗談で笑うことだ。

    p126
    ヒトのクローニング問題が提起されて十年、二〇〇六年に、ふたりの日本人学者がひとつの解決策を見つけた。京都大学のカズトシ・タカハシおよびシンヤ・ヤマナカは成人の肌から採取した細胞を若返らせることに成功した。細胞をリプログラミングして、iPS細胞(Induced Pluripotent Stem Cells=人工多能性幹細胞)に変えることに成功したんだ。簡単に説明すると、その日本人学者ふたりは、大人の細胞を赤ちゃんの細胞に戻すことができる四つの因子(Oct3/4' Sox2' Kif4' c-Myc)を導入して、遺伝子操作を行った。赤ちゃんの細胞ってのは、なんにでも適応でき、自己再生もできるオールラウンダーなんだ。

    p134
    我々、大人は、みんな幹細胞を持っています。(中略)しかし、その幹細胞は、臓器を正確に再生することができないのです。くだんのふたりな日本人学者は大人の細胞を採取し、それを胚性幹細胞に、つまり多能性幹細胞にリプログラミングできるのではないかと考えたのです。これができるとなると、ふたつの問題を解決できます。まずひとつ目は倫理の問題です。人間の杯を破壊するのは倫理的にマズいことなのです。わたしからすれば、胚盤胞、つまり顕微鏡でようやく捉えられるその微小な球体を、生命と看做せるかどうかは微妙ですが、マズいものはマズいのです。そしてふたつ目は免疫の拒絶反応という問題です。だって、あなたに誰か他の人の幹細胞を注入したら、拒絶反応が起こりますよね。でもあなた自身の体に起源を持つ細胞、つまり整体採取材料検査であなたの皮膚から採取した細胞なら、拒絶は起こらないでしょう

    p135
    たとえば、あなたの皮膚から細胞を採取し、そこにいくつかの遺伝子を注入します。そして二、三ヶ月待つ。すると突然、複製された胚性幹細胞が出来上がるのです。

    p139
    Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats

    p140
    「パーキンソン病患者の突然変異DNAを例に挙げて考えてみましょう」彼は言った。「理論的には、その変異したDNAの代わりに新しいDNAを導入することで、パーキンソン病を治療できます。RNAによって導かれるタンパク質Cas9を使って、DNAを切断し、それを修正するのです。(後略)」

    p237
    「通常、ウイルスというのは非常に単純な組織です。しかしエイズは違う。とてつもなく複雑な構造をしています。自然のつくったテクノロジーの美、それが超使い勝手のいいシャトルになるんです。またよそでは、エイズを締め出す遺伝子CCR5変異が見つかっています。この変異はベルリンで、白血病を発症したとあるHIVキャリアにおいて観察されました。この患者は骨髄移植を受けたのですが、ドナーのほうがCCR5変異を持っていたんです。そして患者は病から回復しました。エイズは遺伝学によって克服されます。それは確実です。それもあと数ヶ月の問題でしょう」

    p250
    「寿命が延ばせるかどうかは先天的に決まってしまう場合もあります。しかしおっしゃるとおり、最近、後天的に生命に導入して、老化を巻き戻せるシステムも発見されました」
    「具体的な例では?」
    「ミトコンドリアは」彼は即座に話しはじめた。「ごく小さいながら非常に重要なカギを握っています。これは細胞のエネルギー制御装置です。ミトコンドリアが分子のエネルギーを回復し、息づかせるんです。わたしたちを老化させているのはミトコンドリアだとも考えられます。そのタンパク質が酸化する時、人が老化するからです。ミトコンドリアのDNAが変異するんです。たとえば髪が抜けはじめます。筑波大学の日本人チームは、ミトコンドリア内のグリシンを増やすことで、九十七歳の高齢者の細胞をふたたび活性化できることに気がつきました。ここハーヴァードでも二〇一三年十二月、デヴィッド・シンクレアが、NADを注入することで、生後二年のネズミの筋肉を生後六ヶ月のそれに若返らせました」
    「NAD?なんですそれ?」
    「ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド」
    「なんてこったい!」
    「NADはミトコンドリアと細胞核のあいだの連絡を助けます。わたしの同僚が成し遂げたことは、人間の尺度に直すと、とんでもないことになります。生きている人間を六十歳から二十歳に戻すことなのですから」

    p254
    「Double Blind Placebo Controlled Randomized Clinical Trialsの頭文字よ。人間の治療法の試験を始める前にはかならず、臨床試験とプラシーボ試験の比較が準備されることになっているの。どの患者が治療を受け、どの患者ぎ偽の治療(プラシーボ)を受けたかは医師にも患者にもわからない」

    p254
    市場に溢れる多くの治療法がインチキです。DBPCRCTで検証されていないものは、すべていかさまです。

    p258
    わたしたちは豚を人間化しました。彼らはいかなるウイルスも持っておらず、人間と互換性があるのです。

    p265
    「わたしの予感では、といっても目下それを証明することはできませんが、そう遠くない未来に、現在、生物学たは無関係に製造されているものすべてが、生物学によって生産されるようになります。建物も、電車も、ロケットさえ、有機物でつくられるようになるかもしれません。わたしたちはかつて数世紀に亘って、馬という生物学的な車を利用していましたよね。すべての機械は、生物学システムによって、より出来のよいものになるでしょう。鋼によるコーティングは続くかもしれませんが。とにかく生物学のおかげで、原子レベルで精密な機械が。まったく金を掛けずに迅速につくりだせるようになります。そうなればたとえば、建造物を二十分でコピーできるようになるかもしれないし、コンピュータの代わりに生分解性の機械を使うようになるかもしれない。生物学を利用すれば、空気中の炭素を消費して、それを気泡(バイオ・フォーム)に変えることも可能になるかもしれない。ニューヨークとヨーロッパのあいだを、あるいはロサンゼルスと日本のあいだを結ぶ橋を建設することだってできるかもしれない。大気中の悪者である炭素だけを使って、ヴァキューム・マグレヴ(磁気浮上するエアクッションビーグル)で高速旅行ができるようになるかもしれない」

    p282
    シンギュラリティとは、人間の文明が終わり、新しい構造が到来する瞬間を指し示す。つまりその瞬間、人工知能が人間の知性を超えるんだ。映画『ターミネーター 新起動/ジェニシス』では、世界じゅうの、とりわけ核兵器に繋がったコンピュータ上で、スカイネットが権力を掌握するのは二〇一七年十月だと告げていた。内臓アルゴリズムが機能して人を殺す自律型致死兵器システム(LAWS)の使用に初めて許可が下りたのは、まさにこの年のこの月だ。これひとつとっても、サイエンス・フィクションの作家というのは、「あらゆる有名文学の中で唯一、真に現実的な警告を発する人々」だと見做せるだろう。

  • 作者は今まで全然知らなかった。テレビ番組の司会者で作家で、映画監督もしていた人らしい。仏のメディアを賑わしている人物のようだ。少し軽薄ではちゃめちゃなキャラに思えるが、演じているものか、作中の架空の人物としてのそれかは判然としない。でもこのチャラさが何かと重くなりがちなテーマを軽く、読みやすくしている。
    一見、一から十までノンフィクションのように思えるが、三から四はフィクションのよう。科学者とのインタビューの部分は事実だろう。それなら、それにしてもこの科学の進歩はどうであろう。もうSFの世界だ。しかもお金を払えばできるのだから。もうそれほど長くない先にお金さえあれば寿命が100年、200年延びる時代が来るのだろう。

  • ヘンテコ家族計画

    主人公ベグベデの娘とペッパー(ソフトバンクの)のカップルがかわいい

  • フランス人らしい(?)枝葉の多さが面白くもあり邪魔でもあり。笑

  • 図書館の新刊コーナーに並んでいたところをタイトルに惹かれ、レンタル。
    人類補完計画的なイメージで考えてだけども、ちょっと違った笑。


    直訳すると『終わりなき生』。
    不死を求めて、50代のテレビ司会者が奔走し、不死研究の第一人者にインタビューしていく半ノンフィクションなSF。


    割と生への固執が強い人間としてものすごい共感できるお話。
    ちょっとオチはもっと突き詰めて欲しかった感は否めないけど、奔走ぶりが最高。


    フランス人作家にも関わらず、山中教授や、ロボットのペッパー、宮崎駿などお馴染みの名前が出てくるのが面白い。
    むしろ作中で日本に来て欲しかった笑。

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著者プロフィール

1965年フランス生まれ。作家・文芸批評家・映画監督。テレビやラジオでも活躍。著書に『99フラン』『世界の窓』など。『フランス作家』でルノドー賞受賞。

「2019年 『世界不死計画』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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