サピエンス全史(下)文明の構造と人類の幸福

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制作 : 柴田裕之 
  • 河出書房新社 (2016年9月8日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309226729

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サピエンス全史(下)文明の構造と人類の幸福の感想・レビュー・書評

  • 近年多い、人間の「全史」を俯瞰的に、全体を追った歴史本の一つ。何故多いのか?背景には、生物学やテクノロジーなどサイエンスの発展に基づく新発見、従来説の見直しが、人類の起源から現在まで、もう一度再検討しようという機運の高まりがあるように思う。
    そして「暴力の人類史」「繁栄」「銃・病原菌・鉄」他の大作著作は、それぞれの著者がそれぞれの異なる視点で全体を捉え、それぞれに発見がある。
    著者ユヴァル・ノア・ハラリの立場はいわゆるリベラル的。反グローバリズム、ルソー的な反文明主義、自然に還れ的な、狩猟時代より現代人は不幸、と考える立場からの「人類史」である。(反論はあるだろうが、これは本のプロモーションを兼ねた著者のインタビューを読んで補強された)。

    正直、本書はツッコミどころが多い。著者の「思想」に沿って全体が解釈されるが、根拠となる細部は強引な部分も目につき、明らかに歴史的事実の間違いでは?というところも散見され、不遜な言い方だがそこは著者の知識・研究不足なのでは?とも思える。
    サピエンス支配が「誇れるもの」を何も生み出さなかったというのも著者の価値観のうちであり、何を価値と考えるかによって見方は変わるだろう。農耕革命からのテクノロジーの発展が、人類を不幸にしたという観点は彼の「解釈」であり、価値を見出す側からは逆の「解釈」の主張も成り立つだろう。そして幸福と不幸は科学的に判断し得ない個の価値観の領域でもあるとも思う(統計的に数値する手法もあるにはあるが)。
    畜産の現状に対しての残酷さの主張(工業製品を生産するかのような生物の扱い)についても、 自然界にある捕食動物の「残酷さ」の凄まじさを見れば(生きながらハイエナの群れに食われる草食動物、雄ライオンの子殺し等々)動物好きな私から見て、自然の非情さに対する著者の認識、知識はどの程度のものだろう? との疑問も感じた。

    神話や宗教だけでなく、国民国家、貨幣や法制度、人権や自由までも人間の価値は虚構だと指摘する著者に、訳者は解説で「私たちの価値観を根底から揺るがす」と語る。しかしこれは吉本隆明の共同幻想論よりもはるか前から、西欧の認識で見れば19世紀末にニーチェが「神は死んだ」と宣言し、宗教への幻想が消えた100年以上前から現在に直接つながるカタチで、すでに「実は裏主流」である考えだ。また著者は価値観の虚構性を語りながら、自分の価値観からの批判という自家撞着に陥っているところもある。

    個人的には最後の部分での指摘が、全体の白眉であり、粗雑さ不備を補ってあまりあるものになっていると思う。著者はそこで科学の高度化が自らを含む生物を操作する「特異点」にまで達し、今現在(ニーチェ流にいえば、)これまでの旧サピエンスと新サピエンスの分ける新旧の「彼岸」にまで達していると論じる。
    この著者が指し示す、これまでサピエンスの先にあるもの、それは恐ろしい故にに興味津々だ。19世紀末の「超人」は哲学的な思索の産物だが 、21世紀から始まる「超サピエンス」はサイエンスによって現実に現れ著者の批判する畜産のように大量生産される……

    ニーチェでいえば、「ツァラトゥストラ」のような大きな地殻変動をもたらす完成形というより、処女作「悲劇の誕生」のように欠点を持つが得体の知れないパワーのある書のように思う。本の魅力は完成された既知の話より、ツッコミどころは多いがスリリングな知的刺激のある本のほうが勝る、そう感じされる一冊。プロフィールを見ると著者は1976年生まれだから35歳のときの著。若い本だ

  • 著者:ユヴァル・ノア・ハラリ
    訳者:柴田裕之

    著者はイスラエル人で歴史学者。
    オックスフォード大学で中世史、軍事史を専攻し博士号を取得。
    現在はエルサレムねヘブライ大学で歴史学を教えている。

    本書は人類が誕生し進化の過程を「虚構」であると言い切る。
    国家、法律、農業革命、貨幣もまた「虚構」であると説く。

    読み終えた感想というか読んでいる途中で「文庫 銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫) 」を彷彿とさせる興味深い考察と記述に目と心を同時に奪われた。


    学校で習う歴史は年号と概ね実際にあった事実もしくはあったと推定される出来事が、感情のない一つ一つの文字の羅列によって記されているだけだが(勉強には無関心であった為、当時の記憶ではそう認識している)本書はそうではない。

    事実を著者の考察と共に大変興味深い言葉を持ち入りながら、過去と現在、様々な分野の知識を横断的に、有機的に結びつけながら提供してくれる。

    勉強を全くしてこなかった私にも、この上下巻で500ページ以上の膨大な量の文字を進んで読ませた筆致力はそれらが影響している。


    例えば人類がこの地球上を支配をした要因の一つとしては「認知革命」がある。
    この「認知革命」とは、新しい思考と意思疎通の方法の誕生の事を言うと説明されている。


    思考と意思疎通の方法でいうと「言語」があるが、この「言語」は人類が地球上で初めて獲得をした訳ではない。

    ミツバチやアリも複雑な意思疎通の方法を持っており、サバンナモンキーも鳴き声を使い、「気をつけろ!ワシだ!」という警告を知らせる。別の鳴き声では「気をつけろ!ライオンだ!」という警告を知らせる。実際にその声を録音しサルの集団に聞かせると作業をやめて最初の鳴き声を聞かせると一斉に上を見上げたり、二番目のライオンがいる事を知らせる鳴き声では気によじ登る。

    他にもゾウやクジラも引けを取らない能力を持っている。
    オウムはより様々な音を真似る事ができる。
    電話の鳴る音、サイレン、アルベルト・アインシュタインが口にできる事は全て。
    アインシュタインがオウムに優っているとすればそれは口頭言語の表現ではないという。


    私たちの言語は驚くほど柔軟で限られた数の音声や記号をつなげて異なる意味をいくらでも生み出せることにある。
    そしてそれらを用いて膨大な量の情報を収集し、保存し、伝える事ができる。

    そしてその言語機能のおかげで、何時間でも噂話ができるようになったと書かれている。
    この噂話や陰口といった行為が我々人類、ホモ・サピエンスが進化し現在の地球を支配した要因である。

    陰口は忌み嫌われる行為だが、大人数で協力するには不可欠であるという。
    噂話は、誰が信頼できるのかを判断するのに重要で、その情報がある事で小さな集団が信頼できる小さな集団を結びつきやがては大きな集団へと拡張ができる。

    そうしてより緊密でより精微な種類の協力関係が築き上げられたという。

    今日でもその噂話というコミュニケーションは数多く見られる。
    電子メール、電話、新聞記事、その他週刊誌などなど。
    これらをどんな形にせよ噂話である。

    そうして噂話をする事で見た事も触れた事もないことについて人々が全く存在していないことについても情報を伝達をする能力を得た。
    架空の物事について語る能力を。
    この特徴が我々ホモ・サピエンスの言語の特徴として異彩を放っている。

    この噂話である「虚構」のおかげで、個人の想像ではなく、集団でそうできるようになった。
    聖書の天地創造、近代国家の国民主義の神話。
    これら「虚構」が大勢で柔軟に協力するという空前の能力をサピエンスがに与える、と記述されている。


    これらは本書のごくごく一部であるが、他にも人類が進出する事で進出された地域で大量の絶滅が起こっている原因、人口爆発やエリート階級の誕生、農業革命の歴史的な詐欺など非常に興味深い内容がてんこ盛りである。

    歴史の数少ない鉄則の一つに、贅沢品は必需品となり、新たな義務を生じさせるという一文がある。
    現代社会は概ね豊かで効率化が勧められているが果たして以前よりもゆとりある生活を送っているのか?と問題提起もなされている。

    残念ながら違う。

    普通の郵便だけだった時代には、人々は何か大切な用事があるときにだけ手紙を書いた。
    闇雲に書くのではなく慎重に考えをまとめ、熟慮した。
    相手からの返事も同様に何日かかけてよく考えられた言葉で言い表された手紙が来る事を期待した。

    そのような手紙が来るのはせいぜい月に数通程度だったろう。

    ところが今日はどうだろう?
    毎日何十通、もしくは数百通の電子メールを送りつけられ、迅速な返事を期待される。
    普通郵便の時代から電子メールに移行する事で往復にかかる時間、手間暇を節約できると思ったのに。

    日々落ち着かず、イライラした毎日を送る羽目になってしまった。


    このようにただ単に歴史を連ねただけでなく、人類が歩んできた歴史と現代とを結びつけ、未来に起こる出来事などを色々な視点から提供してくれる書籍である。

    教養も身につくしその考え方が新鮮でとても面白く、どんな方にもオススメできる本です。http://blog.livedoor.jp/book_dokushonikki/

  • 『サピエンス全史』と柄谷行人
    (柄谷行人を読んだことがない人にはわからない話ですみません。上下通したレビューは上巻の方に書きました)

    この本を読んで改めて柄谷行人という哲学者の射程がどこにあるのかがわかったような気がする。人類の歴史を描いた『サピエンス全史』と柄谷行人の『世界史の構造』が扱うテーマがかなり重複しているのだ。

    『世界史の構造』では、特徴的な四つの交換方式の重点の推移によって世界史の変遷を説明しようとしたという印象が強く、それはひとつの分析として素晴らしいのだが、やや無理筋であると感じるところも多かった。しかしながら、それまでの柄谷行人の関心を持ったテーマを『サピエンス全史』とともに振り返ると、彼が「人類の歴史」- つまりわれわれがなぜ今このような形としてここにあるのか、ということをずっと問いとして持っていて、答えとなるべきものをずっと提示しようとしてきたのだということがわかるような気がする。そのことを、「サピエンス全史 文明の構造と人類の幸せ」というタイトルの本とのテーマの合致を見て初めて気づくことになった。そして、その合致は偶然ではなく、彼の関心領域から導き出される必然でもあると感じた。

    『マルクスその可能性の中心』などにおける「貨幣」への注目。『NAM21』の活動では地域通貨の実践にまで踏み込もうとした。『探究I』におけるコミュニケーションへの注目。『探究II』における「世界宗教」への注目。『帝国の構造』などの近年の「帝国」への注目。『世界史の構造』では「農業革命」にも注目している。カントの永遠平和の考え方も、『サピエンス全史』に出てきた資本主義のグローバル化における世界平和に関する考え方も実は似ていたりもする。

    もう少しじっくりと柄谷行人の仕事について、『サピエンス全史』に沿った形で整理するようなことをしてみたい。それほど、読んでいて柄谷行人のことを思い出すことが多かった。それが、きっと柄谷行人という思想家をより深く理解することにつながる予感がする。

    ----
    『サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福』
    http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/430922671X

  • HOMO DEUSを一冊読めば足りる。
    ・激しい議論は今なお尽きないが、最も有力な答えは、その議論を可能にしているものにほかならない。すなわち、ホモ・サピエンスが世界を征服できたのは、何よりも、その比類なき言語のおかげではなかろうか。
    ・七万年前から三万年前にかけて見られた、新しい思考と意思疎通の方法の登場のことを、「認知革命」という。
    ・まったく存在しないものについての情報を伝達する能力だ。見たことも、触れたことも、匂いを嗅いだこともない、ありとあらゆる種類の存在について話す能力があるのは、私たちの知るかぎりではサピエンスだけだ。
    伝説や神話、神々、宗教は、認知革命に伴って初めて現れた。

  • 上下合わせて読んでの感想。
    人類の歴史を、生物学的、科学的、社会的な側面も合わせて知ることができて、読む前と読んだ後とでは人生観が変わったと思う。これからはSF映画を見るときとかもより深く見ることができそう。最後の方で作者が言っていたが、人類は種の繁栄という点では成功したが、個人の幸福の点では古代人と変わらないかむしろ劣っているのではないか。
    ちょうどブレードランナーの続編映画が上映してたので見たが、この本の内容を把握してから見ると色々と深くまで思考できた気がする。

  • 上巻も面白かったが敢えて4つ星評価としてた。それが正解!下巻はさらに面白く、最上級の5つ星評価とした。
    認知革命→農業革命を経て、いよいよ500年前から科学革命が始まった。文明は人間を幸福にしたのかを考察し、最終章「超ホモ・サピエンスの時代へ」。途中からは1つの文章を繰り返し読むくらい熟読した。
    人類、というかホモ・サピエンスに対する認識が深まる一方で、畏怖を伴う責任感のようなものを感じた。
    「今日、ホモ・サピエンスは、神になる寸前で、永遠の若さばかりか、創造と破壊の神聖な能力さえも手に入れかけている(p264)」

  • 現代の世界がいかに作られたかを、宗教、産業、国(国民)、消費など様々な観点から読み解いてくれる。

  • ものすごいボリュームでとても1度読んだだけでは消化しきれない。印象に残ったのは、私たちは壮大な虚構の中に生きているという見方。

  • 『サピエンス全史(下)』
    まだまだ、辿り着けない深い場所があるのはわかるのに、そこにはまだ近づく力がないことを感じさせられる。しかし、いまの自分で感じとれるすべてを出し切って探検してきた読後感がある。
    静かな森のなかの小さな沼の横で、カラダを乾かしながら、永い人類の過去とこれからも続くであろう未来を、今現在の自分を起点に想像している。
    『マクロ歴史学』という言葉が想像させる、“歴史”を俯瞰したうえで、再度歴史の様々な事象に可能な解釈を施し、未来への物語りを紡いでいく壮大な試み。
    それは著者が言葉にした「歴史を研究するのは未来を知るためではなく、視野を拡げ、現在の私たちの状況は自然的なものでも、必然的なものでもなく、したがって私たちの前には、想像しているよりもずっと多くの可能性があることを理解するためなのだ」という定義を前提にしている。

    あたまのなかに永い人生をかけて蓄積されてきた既成のテンプレートを、もう一度無限のピースに砕いて再構築させてくれたような感覚が、いま目の前の世界を映している。
    2017/06/03

  • (2017.05.08読了)(2017.05.01借入)(2017.02.02・14刷)
    副題「文明の構造と人類の幸福」
    上巻は、献本で読むことができたのですが、下巻をどうしようかと思っていたときに、図書館で見つけたので借りて読むことにしました。
    歴史は、人々のやってきたことを後からたどることなのですが、人々のやってきたことにはいろんな側面があるので、色んな切り口があることに改めて気づかされました。
    社会制度、宗教、政治、経済、科学、いろいろありますね。
    断片的な事しか記憶に残っていないのですが、
    コロンブスは、自分の辿り着いたところが新大陸だとは思っていなかったので、「コロンブスの新大陸発見」というのは、間違っている。
    コロンブスの後、続々と新大陸に渡っていく人たちがいたのですが、「インディアンは、人間か?」ということが問題になった時期があります。
    この本では、そのあたりは言及していないようです。あまり関心がなかったのでしょう。
    スペイン人たちが、続々とアメリカ大陸方面に行くことによってカリブ海の島々に住んでいた人たちは、過酷な労働とヨーロッパから持ち込まれた病気によって壊滅しました。
    それと同じことが、クックの遠征の後に続いた人たちによって、オーストラリア、ニュージーランドでも、同じことがあったことは知りませんでした。
    フランス革命は、ミシシッピ会社株の暴落に原因があるという話も、初めて聞いたような気がします。
    1945年8月に日本に、二発の原爆が投下され、多くの人たちが亡くなり、後遺症に苦しみました。これ以後、大きな戦争が起こっておらず、平和が続いている、と記してあります。
    原子爆弾の脅威が、平和をもたらしたのでしょうか? 局地的な紛争については触れていますが、イスラエルが戦っている中東紛争については、著者がイスラエルの人のためか、触れられていないようです。
    原子力発電は、低コストであると言っているようですが、廃棄処理やチェルノブイリや福島の事故後の処理についての費用も含めて考えたコストなのでしょうか?
    現在の経済は、金融商品という妙なものがあって、実態とリンクせず非常に危なっかしい状態のような気がします。経済の論理を突き詰めてゆけばいずれ行きつくものなのでしょうけど、制御するすべを見つけてほしいものです。
    金融商品も、原発みたいなもので、制御の仕方がわからないまま、世の中の勢いに流されて、どこに行きつくのか、人類の破滅に行きつくのか、恐ろしい限りです。

    【目次】
    第3部 人類の統一
    第12章 宗教という超人間的秩序
    第13章 歴史の必然と謎めいた選択
    第4部 科学革命
    第14章 無知の発見と近代科学の成立
    第15章 科学と帝国の融合
    第16章 拡大するパイという資本主義のマジック
    第17章 産業の推進力
    第18章 国家と市場経済がもたらした世界平和
    第19章 文明は人間を幸福にしたのか
    第20章 超ホモ・サピエンスの時代へ
    あとがき ―神になった動物
    謝辞
    訳者あとがき
    原註
    図版出典
    索引

    ●二元論(22頁)
    二元論が非常に魅力的な世界観なのは、人類の思想にとって根本的な関心事の一つである、有名な「悪の問題」に、それが短くて単純な答えを出せるからだ。「世界になぜ悪があるのか? なぜ苦しみがあるのか? なぜ善い人に悪いことが起こるのか?」一神教信者は、世界にこれほどの苦しみが起こるのを全知全能の、完璧に善い神が許す理由を説明するのに四苦八苦する。
    ●近代科学(61頁)
    近代科学は、最も重要な疑問に関して集団的な無知を公に認めるという点で、無類の知識の伝統だ。
    広範な科学研究を何世紀も重ねてきたにもかかわらず、生物学者は脳がどのようにして意識を生みだすかを依然として説明できないことを認めている。物理学者は何が原因でビッグバンが起こったかや、量子力学と一般相対性理論の折り合いをどうつけるかがわからないことを認めている。
    ●統計学(69頁)
    統計学の講座は今では物理学と生物学だけではなく、心理学や社会学、経済学、政治学でも基本的な必修科目になっている。
    ●進歩(76頁)
    科学革命以前は、人類の文化のほとんどは進歩というものを信じていなかった。
    多くの信仰では、いつの日か救世主が現れて戦争や飢饉にすべて終止符を打ち、死さえなくすと信じられていた。だが、人類が新しい知識を発見したり新しい道具を発明したりしてそれを成し遂げられるという考えは、滑稽というだけでは済まされず、不遜でさえあった。バベルの塔の話やイカロスの話、ゴーレムの話、その他無数の神話は、人間の限界を超えようとする試みは必ず失望と惨事につながることを人びとに教えていた。
    ●壊血病(91頁)
    クックの遠征の恩恵を被った分野の一つが医学だった。当時、遠距離航海に出かける船では、半数以上の乗組員が航海中に亡くなることが知られていた。
    それは壊血病という不思議な病気だった。
    16世紀から18世紀にかけて約200万の水夫が壊血病で亡くなったと推定される。
    水夫たちに柑橘類を食べるように指示した。壊血病の一般的な民間療法だった。
    ●アボリジニとマオリ人(93頁)
    クックの遠征に続く100年間で、オーストラリアとニュージーランドのもっとも肥沃な土地がヨーロッパからの入植者によって先住民から奪われた。先住民の人口は最大で九割も減少し、生き残った人々も苛酷な人種的迫害にさらされた。オーストラリアのアボリジニとニュージーランドのマオリ人にとって、クックの遠征は大惨事の始まりで、彼らは今もなおそれから立ち直れずにいる。
    ●鄭和(108頁)
    多くの学者によれば、中国の明朝の武将、鄭和が率いる艦隊による航海は、ヨーロッパ人による発見の航海の先駆けであり、それを凌ぐものだったという。鄭和は1405年から1433年にかけて7回、中国から巨大な艦隊を率いてインド洋の彼方まで行った。なかでも最大の遠征隊は、三万人近くが乗り込んだ300隻弱の船で編成されていた。彼らは、インドネシア、スリランカ、インド、ペルシア湾、航海、東アフリカを訪れた。
    ●信用(131頁)
    信用という考え方は、私たちの将来の資力が現在の資力とは比べ物にならないほど豊かになるという想定の上に成り立っている。
    ●ミシシッピ・バブル(150頁)
    1717年、フランスが勅許を与えたミシシッピ会社は、ミシシッピ川下流域の植民地化に着手し、その過程でニューオーリンズという都市を建設した。その野心的な計画に資金を供給するために、ルイ15世の宮廷に強力なつてのあったこの会社は、パリの証券取引所に上場した。
    ミシシッピ会社株は天井知らずに跳ね上がった。
    恐慌が始まった。投機家の中に、株価が実態を全く反映しておらず、維持不可能だと気付いたものが出たのだ。
    フランスの中央銀行はミシシッピ会社株を買い支えたが、自ずと限度があった。
    フランスの金融界全体がバブルに巻き込まれた。
    1789年、ルイ16世は不本意ながら、フランスの議会にあたる三部会を一世紀半ぶりに招集し、この危機の解決策を見つけようとした。これを機にフランス革命が始まった。
    ●大資本(153頁)
    政府が大資本の言いなりになった悪名高い代表例は、イギリス・中国間の第一次アヘン戦争(1840~42年)だ。19世紀前半には、イギリス東インド会社とさまざまなイギリスの実業家が、麻薬、とくにアヘンを中国に輸出して大儲けした。厖大な数の中国人が中毒となり、中国は経済的にも社会的にも衰弱した。
    19世紀後期には、中国総人口の一割にあたる約4000万人がアヘン中毒だった。
    ●国内標準時(187頁)
    1880年にはついにイギリス政府が、同国におけるすべての時間表はグリニッジの時刻に準ずることを定めた法律を制定するという、前代未聞の措置を採った。歴史上初めて、一国が国内標準時を導入し、各地の時刻や日の出から日の入りまでのサイクルではなく、人為的な時刻に従って暮らすことを国民に義務づけたのだ。
    ●保甲制度(191頁)
    中国の明帝国(1368~1644年)では、保甲制度と呼ばれる制度で民を組織した。10世帯を一つにまとめて一「甲」とし、10「甲」で一「保」を編成した。「保」の成員の一人が罪を犯すと、同じ「保」の成員たち、とくに「保」の長老たちが罰せられた。税も「保」ごとに徴収された。各世帯の状況を査定し、税額を決めるのは、国の役人ではなく「保」の長老たちの責任だった。

    ☆関連図書(既読)
    「コロンブス航海誌」コロンブス著・林屋永吉訳、岩波文庫、1977.09.16
    「古代アステカ王国」増田義郎著、中公新書、1963.01.18
    「インカ帝国探検記」増田義郎著、中公文庫、1975.09.10
    「キャプテン・クック」ジャン・バロウ編・荒正人訳、原書房、1992.10.25
    「ダーウィン先生地球航海記(1)」チャールズ・ダーウィン著・荒俣宏訳、平凡社、1995.06.23
    (2017年5月15日・記)
    (「BOOK」データベースより)amazon
    文明は人類を幸福にしたのか? 帝国、科学、資本が近代をもたらした!現代世界の矛盾を鋭くえぐる!

  • 上巻では、フィクションが人類を発展させたエンジンになったことが指摘されたが、下巻では「帝国主義、科学主義、資本主義」の3つのフィクションが現代世界を形作っていると解説する。未来は現在よりも良くなり、パイは拡大するというフィクション。向上心や競争、新発明を生み、病気や災害を減らす一方で、格差を生み、生物の絶滅を生んだ。世界はかつてないほど平和で安全な時代に入ったが、今後人類はどのように進んでいくのか。筆者は生物工学的発展、サイボーグ的発展、非有機的生命的発展の3つの選択肢を示す。どれもわずかながら実現されているところが説得力を感じる。どれになったとしても、その後の人類は現在のものとは想像もできないほど変化していると考えると、そら恐ろしい気になるが。

  • 数ある生物種の中でホモ・サピエンスのみが文明を構築し、地球を支配するに至った理由を、
    ・地域、国家、企業、宗教などの共同体を組成させ、安全な生活基盤の構築に繋がった「認知革命」
    ・狩猟採集生活に比べて個々人の生活の充実度は下がったものの、数量の増加を実現した「農業革命」
    ・他の生物種を圧倒しながら、生活の利便性を向上させることに成功した「科学革命」
    という3つの革命から説明する歴史書。下巻では「科学革命」の歴史と、今後行き着く革命の姿が描かれる。

    下巻の白眉は、
    ・科学の発展は、資本主義と帝国主義の発展と3つどもえの関係性になっていること
    ・近現代が圧倒的な経済発展を遂げたのは、その関係性の中で「成長」が信用に値するものとしてみなされ、「投資」が促進されたこと
    を平易な語り口で明らかにする点にある。

    近代以前の社会においては、社会が「成長」することへの期待感は低く、むしろ「投資」という行為はリターンに見合わない行為とみなされていた。しかし、科学による「進歩」の概念と、科学による副産物として得られる「技術」は、リスクを引き下げ、リターンを向上させる方向へ寄与する。その結果、消費ではなく「投資」が促進される、というロジックである。

    本書は人類の歴史を、極めて広範なパースペクティブから語るものでありつつ、科学、宗教、経済等、固有の歴史についても要点がまとめられており、あらゆる人にお勧めできる一冊。

  • 読書記録です。

    ひとことで言うと「コワイ本」です。
    ラストはそこに持っていくのか~
    歴史は繰り返される。有史以来、人間の求めるものや築くもの、壊すものや再生するもの。
    歴史から見ればモブにもならない私の人生は、小っさ過ぎて笑える。でも、その小っさいモブの自分勝手な幸福への追求が歴史を動かしていく。
    そんなに多くのことを求めていないつもりなんだけど。
    強く願ってるのは「痛いのはイヤ」「一汁二菜で充分」「こどもたちに迷惑かけたくないな」ぐらいなんだけど。
    ささやかな願いでも叶えようとしたら、人体実験が必要だし、搾取したモノを口にするんだろうし、代わりに世話をしてくれる他人に迷惑をかけることになるんだろうな…

  • たまにはこういう本を読まないといけないですね。
    知的好奇心をくすぐられるだけでなく、新たな視点をいろいろと示してくれる、とってもいい本です。

    また、シンギュラリティという言葉を、最近よく使われている意味とは違う意味で使っており、これはこれで、面白い視点でした。

    さらに、「幸福」は個人的に最近非常に気になっているワードでして、終盤に幸福について書かれている部分では、いろいろと考えさせられました。

    新たな知識、気付き、刺激を与えてくれる、という意味でも、いろんな視点から様々な疑問が浮かび、思考を進め、深めてくれる、という意味でも、良書です。

  • サピエンス全史(上)のレビューご参照。

  • とんでもない読み応え

  • 3.0 ホモ・サピエンスは進化し物質的に豊かになり寿命も大幅に伸びた。しかし幸福になったと言えるのか?考えても仕方がない事だけど考えてしまいます。

  • これまでの人類史の常識を覆す書と言うが、人類史について詳しくないので、このような見方もあるのかと思うと同時に、現代に通じる考えと、現在、目の前で起きていることについての理解が深まる。訳は読みやすい。
    ホモ・サピエンスは言語を得るという認知革命で、他の種とは異なった道を歩み始めた。そして、その言葉によって「虚構」を共有できるようになり、それが人類進化の鍵となった。国家や国民、企業や法律、さらには人権や平等といった考えまでが虚構であり、それにより見知らぬ人同士が協力できるようになった。農業革命により権力を持つものが現れ、それを維持するために架空の秩序を形成し、人類を統一するために帝国、宗教そして貨幣が生まれ、科学革命により、それが資本主義と帝国主義をエンジンとして進んでいく。さらに資本主義は消費主義を味方につけることでさらに発展を続け、それが個人主義を強め、市場と国家の想像上のコミュニティが平和をもたらしたと、論を進める。このあたりは議論もあることだろうが、そして最後に本当に人類は幸福になったのだろうか、と問題提起を行い、新たなフィクションが求められる時代であると論は閉められる。確かに今は時代の転換期で新たな虚構が求められる時代かもしれないが、それまでの論調とガラリと変わり、抽象的な論調となり、終わりは少しスッキリしない形に感じた。

  • こんなに面白い本は久々で、とても痛快な内容だった。遺伝子工学が人類の人工的な進化を推し進めたとしたら、より優れた新人類は何を欲し、どう生きるのか?少なくとも、生物学的に異なる私達旧人類には共感不可能な世界が展開されるだろう。
    この本の副次効果かもしれないけど、小説にしろ絵画にしろ、色々な芸術作品が、読む前よりなんだか面白く観賞できるようになった気がする。芸術作品が主張する内容、即ちこの本でいう「虚構」が人類史のどの辺に位置付けられるかが、この本を通して何となく知れたからかもしれない。
    人類史を、歴史の授業のように古い方から順に追っていくのではなく、例えば人類史のヒエラルキーに関してはこういう出来事があって、宗教ではこう、経済ではこう、イデオロギーでは、科学では、というように分野ごとに出来事を纏めて説明してくれるから、門外漢の私にもとても読みやすく感じた。

  • 宗教、産業革命、資本主義、そして超サピエンスへ

  • 啓示に満ちた一冊。
    最も印象的なフレーズ;
    「歴史を研究するのは、未来を知るためではなく、視野を拡げ、現在の私たちの状況は自然なものでも必然的なものでもなく、したがって私たちの前には、想像しているよりずっと多くの可能性があることを理解するためなのだ。」

  • 現生人類であるホモ・サピエンスは、認知革命で他の人類種と差をつけ、農業革命で繁栄し、科学革命でそれまでの限界を越えて急拡張した。

    特に前半の認知革命がおもしろかった。認知革命とは、虚構を信じることで協力し合えるようになったこと。宗教、国家、通貨…などは、物理的に実態がなかったり、ただの金属だったりするが、共通に信じることで、会ったこともない人とも大きなコミュニティを作れ広く協力できる。
    ネアンデルタール人はそれがなかったためにホモサピエンスに敗れた。

    全体的に筆者の切り口が新鮮。

    以下は上巻も含めた読書メモ:


    1部 認知革命
    1章 唯一生き延びた人類種
    人類種の中で唯一生き延びたのがホモ・サピエンス。
    ヨーロッパにいたネアンデルタール人は、体が大きく環境に適応していた。ネアンデルタール人の一部のDNAがサピエンスに残っている。

    2章 虚構が協力を可能にした
    サピエンスは、会社、宗教等、現実にないことで協力し合うことができた。それが認知革命。
    認知革命以前のすべての人類種の行為は生物学に属していたが、認知革命以降は歴史と呼ぶ。

    3章 狩猟採集民の豊かな暮らし
    農耕以前。
    いろいろなものを少しずつ食べるしかないので、農耕以後の特定の食べ物(米とか)をたらふく食べるのより豊かだった。
    アニミズムは一つの具体的な宗教ではない。

    4章 史上最も危険な種
    サピエンスが移住すると大型動物は絶滅する。オーストラリア大陸の大型有袋類、シベリアのマンモス、アメリカ大陸のサーベルタイガーや大型のナマケモノ…

    2部 農業革命
    5章 農耕がもたらした繁栄と悲劇
    サピエンスは小麦を栽培化したのではなく、小麦に家畜化された。狩猟をしていた頃より惨めな暮らし。
    種の進化上の成功はDNAの複製の数で測られる、たとえ生活水準が落ちても。農業革命で以前より劣悪になったがより多くの人を生かすことになった。
    贅沢品は必需品になり新たな義務を生む。
    家畜化されたニワトリと牛はこれまで生を受けた生き物のうちで極端なまでに惨め。

    6章 神話による社会の拡大
    キリスト教や民主主義、資本主義といった想像上の秩序を信じさせることにより、見知らぬ人どうしが協力する。
    共同主観的
    想像上の秩序から逃れる方法はない。

    7章 書記体系の発明
    不完全な書記体系=税制等の数理的データの記録←→話し言葉
    完全な書記体系
    新しい不完全な書記体系=アラビア数字の発明
    コンピュータ処理の二進法の書記体系

    8章 想像上のヒエラルキーと差別
    想像上のヒエラルキーは悪循環でさらに拡大する。
    生物学的な性別(セックス)と社会・文化的な性別(ジェンダー)
    農業革命以降の人間社会で女性より男性を高く評価する理由は何か。

    3部 人類の統一
    9章 統一へ向かう世界
    人工的な本能のネットワークを「文化」という。
    平等と個人の自由は互いに矛盾する。フランス革命以降の政治史はすべて、この矛盾を解消しようとする一連の試み。
    全世界と全人類を想像できる普遍的秩序 貨幣←貿易商人、帝国←征服者、普遍的宗教←預言者

    10章 最強の征服者、貨幣
    物々交換には限界 貨幣は簡単に安価に富を他の物に変えたり保存したり運んだりできる。
    貨幣は最も普遍的で、最も効率的な相互信頼の制度。
    宗教的信仰に関して同意できないキリスト教徒とイスラム教徒も、貨幣に対する信頼に関しては同意できる。宗教は特定のものを信じるように求めるが、貨幣は他の人々が特定のものを信じていることを信じるように求めるから。

    11章 グローバル化を進める帝国のビジョン
    帝国の定義は、文化的多様性、変更可能な国境
    紀元前200年頃から人類のほとんどは帝国の中で暮らしてきた。帝国を悪だと否定しても、その前の非征服者も帝国だった。


    12章 宗教という超人間的秩序
    宗教は超人間的な秩序の存在を主張する。
    宗教は超人間的秩序に基づいて規範や価値観を確立し、それには拘束力があると見なす。

    多神教、一神教
    善と悪の二元論
    混合主義
    人間至上主義の宗教 自由主義的人間至上主義 社会主義的人間至上主義 進化論的人間至上主義

    13章 歴史の必然と謎めいた選択
    歴史はどの時点でも分岐点、人間に利益のためになされるのではない。

    4部 科学革命
    14章 無知の発見と近代科学の成立
    科学研究は宗教やイデオロギーと提携した場合にのみ栄える。イデオロギーは研究の費用を正当化するのと引き換えに、科学研究の優先順位に影響を及ぼし、発見された物事をどうするか決める。

    15章 科学と帝国の融合
    科学は社会構造、社会組織と結びついて発展する。西洋以外にもテクノロジーの発明はあったが西洋は資本主義があって勝利した。
    科学者は帝国主義の事業に道具を与へ、帝国は科学者に援助した。

    16章 拡大するパイという資本主義のマジック
    奴隷貿易
    暴走した資本主義

    17章 産業の推進力
    産業革命 熱を運動に変えた 蒸気機関
    農業の工業化
    消費主義
    投資せよ! 買え!

    18章 国家と市場経済がもたらした世界平和
    近代産業は時計、時間表が必要
    家族と親密な地域コミュニティの衰退
    想像上のコミュニティ
    これほど平和が広がった例はない。

    19章 文明は人間を幸福にしたのか
    幸福とは何か。幸福=主観的厚生
    心理学者は質問票を記入してもらい調べる。生物学者は単に脳内のセロトニンの濃度だとする。
    仏教では外部の条件でもなく、内なる感情の追求もやめ、あるがままを受け入れることによる安らぎ。
    歴史書は各人の幸せや苦しみにどのような影響を与えたかに言及していない。

    20章 超ホモ・サピエンスの時代へ
    人類は遺伝子操作などで新しい生命を作れるようになった。技術的には新しい人類も作れる。
    サイボーグ 有機的な器官と非有機的器官を組合せた生物

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