海を渡った人類の遥かな歴史 ---名もなき古代の海洋民はいかに航海したのか

  • 河出書房新社
3.11
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309252834

作品紹介・あらすじ

原始、祖先たちはなぜ舟をつくり、なぜ海に乗りだしたのか。遺跡も文献もほとんど残されていない太古以来の人間と海の物語。東南アジア、地中海、インド洋、北大西洋、アラスカから南米の太平洋海域…斬新な視点から、知られざる壮大な歴史を発掘する。

感想・レビュー・書評

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  • 歴史

  • おおざっぱに太平洋、地中海、インド洋~アフリカ東岸、北ヨーロッパ沿岸、北アメリカ西岸、という分け方で各地域の海と人間とのつながりが書かれています。著者は自ら船に乗る一方、考古学的、人類学的な研究活動を通して自然環境と人間との関わりを研究する人。

    ここでスポットを当てているのはコロンブスやヴァイキングのような歴史の舞台に登場するような船乗りではなく、日々の暮らしの中で、漁や交易のために海に漕ぎ出していた名もなき人々。彼らは、公式では大陸や航行ルートを開拓したとは認められてはいないが、おそらく公認者たちよりももっと前に、近海の陸を認識し、航行ルートを開拓し、上陸し、住んでさえいた可能性がある人々です。そして現代においても最新機器のない小さな船で風や波を読み、星の位置や陸標を熟知し、またそれらを子どもに伝えている人々でもあります。

    素人目では木の板や植物繊維を組み合わせただけの簡単で危険そうに見える船も、著者のような船に精通した専門家がみると評価ががらりと変わります。その地域特有の風と波を長年の経験から読むことができる船乗りは優秀な船大工でもありました。各地の船の特徴が異なるのは興味深い。

    本書には比較的新しくはありますがガラスが少し登場します。著者が発掘したたった1点のガラス玉。海の歴史を知る著者の解釈は、推測が多分に含まれているとはいえ、陸上交易だけの視点とは違う解釈を可能にしていて興味深い。

    総じて、海を渡った人類の歴史というタイトルではありますが、特定の人物はほとんど登場しない、造船や操船技術の専門書でもない、そのため訳者も「訳し終えた後も何の本なのか一言では表せない」と言わしめるような本ですが、陸海含めて、歴史を紡ぐのは教科書にでてくるようないわば大役者ではなく、教科書には登場しないたくさんの脇役であり、その脇役を主人公にした本ということになります。

  • ☆信州大学附属図書館の所蔵はこちらです☆
    http://www-lib.shinshu-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB12570018

  • 我々の祖先はなぜ海に乗り出したのか。山と同じでそこに海があったからであろうと軽い気持ちで読み始めたが、世界地図を横に置きながら時間が経つのも忘れてほぼ一気に読み通した。5万年以上前の東南アジア本土に
    始まり、太平洋の諸島への入植につながる驚異的な航海、紀元前8000年頃のエーゲ海、紀元前2000年になって
    ペルシャ湾、モンスーンを利用したインド洋の航海、そして話は北海、アイスランド、グリーンランド、さらにはアリューシャン列島、アメリカ北西部、そしてカリフォルニアの沿岸海域を行き来した先住民の事例や、中央アメリカのマヤ文ブライアン・フェガン明にまで及ぶ。一読して壮大な航海を終えた気分になった。各章の初めに著者が頭に描いた当時の様子の記述から話が始まっている。アメリカの本にあるようなやたら細かい原注も少ないなかで、どこでどうやって集めたのか膨大な情報や知識の中から、その一部が本書の至る所に織り込まれているようにも感じる。中身が濃いだけに、訳本に索引が無いのがいかにももったいない。
    人類による航海はどうして始まったのか。各地域により差はあるようにも思われるが、人間は海を慎重に探り、陸上の暮らしの延長線、日々の暮らしの途切れ目のない一部から始まっていることは共通しているようだ。
    コンパスやクロノメーター、六分儀などもない中で、人間の祖先は心理的に海と密接な関係を築いていたと著者はいう。航海も単なる冒険的企画ではなく、その背景には、経済的、社会的な理由があった。例えば、太平洋のミクロネシア、メラネシア、ポリネシアへの人類の拡散の裏には長子相続制度があったのではないかと著者は言う。祖先の土地や畑を相続できぬ人たちは追い詰められ、新たな生活の場を求めるためにまず先遣隊が航海に乗り出し、大丈夫だと分かってから初めて動植物や食料飲料を携えて航海に乗り出していたようだ。先遣隊はかならず出発した土地に戻ってこれると確信をしてから初めて海原に乗り出していると著者は強調する。
    水平線しかない世界では、昼は太陽、夜は月や星が道連れとなる。ミクロネシア人の航海における基本的な思考
    プロセスも興味深い。頭の中でカヌーと星を静止した状態に保ち、感覚的に捉えた海の中で島々を移動させ、基準とした島が目的地の島から見た場合と同じ方角にカヌーからも見えるかといった航法を取っていた。そういえば、いつ読んだか忘れたが、1976年に古代ポリネシアの双胴船カヌーのレプリカであるホクレア号が、古来の航海術だけを使って太平洋を2年間航海した記録の本があった。文字もなく、伝承のみで伝えられてきた航海術が、現代の実験で後世にも伝えられることになった。
    人間は、臆病で慎重ながら、追い詰められると合理的なものを生み出す創造力を持っていることを改めて感じさせる本だ。帆船もそういえば風と海を合理的に利用する究極的人類の遺産である。この6月下旬にトール・ヘイエルダールのコンティキ号探検記が映画化され、日本でも公開される。これも海を渡った人類の遥かなる歴史を再現する一コマである。

  • 序章 祖先はなぜ海へ乗り出したのか
    第1章 「砂堆や浅瀬は明らかにされた」
    第2章 スンダとサフル―アボリジニの航海
    第3章 「海上に散らした蝶の翅」
    第4章 島々のパターン
    第5章 絶え間なく移動する世界
    第6章 材木とメック石
    第7章 エリュトゥラー海
    第8章 「交通の要衡」
    第9章 「われらは雲のような帆を高く張り」
    第10章 祖先たちの海景
    第11章 「嵐は船尾に氷の羽となって降る」
    第12章 アリューシャン列島「海は非常に高くなる」
    第13章 ワタリガラスが魚を放つ
    第14章 炎の海とダイオウショウジョウガイ

  • 大航海時代、技術の進歩によって、人は今までにない規模で遠い世界へ乗り出した。だが、どこにたどり着いても住んでいる人がいた。なぜ、海を渡ったのか?なんていう壮大な謎解きをしようとせず、生きるため、食べるため、もしくは日常のちょっとした探究心、そういうことが重なって、島に人が存在しているのだという現実感が心を打つ本。

  • 地域に区切って、昔の海人の話を書いた本。
    造船技術など違いはあるけれども色々なところで地図もないころから海にでて、他の土地との行き来があったということが良くわかった。
    今でも自力で船を操作できれば昔の人々の気持ちになれるのかも。
    しかし文字に残していないことが多いのが残念。

    途中あまり読み進められないところもあったが何とか読了。

  • 新着図書コーナー展示は、2週間です。通常の配架場所は、3階開架 請求記号:209//F11

  • 海洋を巡る人類の歴史について。潮流や風を読み、空から自分の位置を知るといった航海術、今はGPSやら内燃機関があるからどんどん失われてってると思うけど、そうゆうの凄いなと。
    ポリネシアやエーゲ海や地中海、北海やらアリューシャン列島やら地域ごと時代ごとにわかってること推測されることを教えてくれます。

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著者プロフィール

イギリス生まれ。カリフォルニア大学サンタ・バーバラ校の人類学名誉教授。考古学関連の著作が多数あり。『歴史を変えた気候大変動』、『千年前の人類を襲った大温暖化』、『海を渡った人類の遥かな歴史』など。

「2023年 『歴史を変えた気候大変動』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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