この世界を知るための 人類と科学の400万年史

  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309253473

感想・レビュー・書評

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  • ・科学ほど人間らしい営みはない。社会的変化や個人の心の動きが科学の発展にどう関係しているかを、本書は著者自身の父との思い出を顧みながら描いていく。科学に原理的に内包される人間らしさを個人的体験を交えて語ったのが本書である。

    ・知りたいという好奇心が人間の根本的な欲求であり、好奇心に促された精神の変化が定住化→分業化といった社会的変化を生み出した。そして、さらなる人間の特徴は、以前の文化の上に新しい文化を発展させられることである。「文化のラチェッティング」と表現することもできる。文化の発展の中で測量法や数学、法学などのツールが生まれ、最終的には、この世界は一種の目的やルールに基づいて支配されているとする哲学が誕生するに至った。

    ・自然科学の発展は、世界を支配するのは神が定めた恣意的なルールではなく自然法則に基づく科学的ルールであることを示した。世界観を塗り替えるには、個人個人の偶発的な発見と、その発見を準備する忍耐強さや奇抜さが必要だった。しかし、世界のルールを信じる世界観=ニュートン的世界観=古来からの宗教的世界観は常に共通していた。

    ・ところが量子論は「量子の世界には確実な事柄など1つもなく、確率しか存在しないこと」を明らかにした。世界を支配するルールがあるように見えるのは人間が通常体験するレベルのマクロな世界に制限されたものであって、人間が通常体験できないミクロな世界においてルールは観測しようとするとルールでなくなってしまう。

    ・知りたいという好奇心は人間らしさの根幹であると同時に、人間が観測する者である以上科学には人間ならではの限界がある。それでも世界を知ろうとすることには、自分がより大きな存在の一部であるという安心感と、人間の人間らしい美しさを感じ取る上で有用なものである。

    ・科学史の本なのに、温かみや限界といった人間らしさがそこかしこに溢れている。特に最後の章では泣いてしまった。いい本。

  • 科学は,現代文明の根源。その科学は「知りたい」という欲求と,世界を理解する能力という,生物の中で唯一ヒトだけが持つ才能によって発展してきた。その執筆能力を評価され「スタートレック」の脚本制作を依頼された物理学者が,太古から現代までの科学の営みをダイナミックに語る!

  • 物理学者であり、作家である著者による「科学者たちの生き様、研究姿勢、それが生み出したものの影響」に焦点を当てた、人物伝&科学史の読み物。
    感想を一言でいうと、面白すぎて止まらない。

    どうしてここまで面白いのか。1つの理由は、著者が網羅的な科学史を書こうとせず、人物の内面と行動、人物同士の関係性のストーリーに着目し、それを事実に沿って淡々と、しかしユーモアとドラマをきっちり添えて、丁寧に描き出しているというスタイルがある。
    まさに、素材を最高に活かした、熟練シェフの生み出すクリエイティブな料理といったところ。見た目に美しく、食べたら絶品。そんな印象。

    私個人の学びは大きく2つある。
    1つは、アリストテレスの人類史における影響力の大きさを初めてちゃんと認識できたこと。
    もう1つは、(後世から見て)"世紀の発見"をした研究者は、それを超える新しい概念や発見を、しばしば死ぬまで認めることができない、というケースが散見されるということ。

    前者について。
    アリストテレスについて、正直なところ私は古代ギリシアの哲学者で、マケドニア王アレクサンドロス3世の家庭教師でしょ、くらいのことしか思っていなかった。
    本書を読んで、科学史と人類史の中で、いかにアリストテレスが占める位置づけが大きいか分かった。
    というのは、アリストテレスは、世界を観察を通じて記述するという、いわば今日的な観察と著作手法のスタンダードを作った人であると同時に、今日の我々の科学の観点や手法とはかけ離れていた取り組みをしていた人でもある、ということだ。
    著者の言葉を借りると、「アリストテレスの方法論は定量的ではなく定性的だった」となる。

    そのアリストテレスの思索は、数百年後に生まれたキリスト教の教えと相性が良く、「神が世界を作った、神の真理で世界は満たされている」という思考の下支えとなった。
    それを打ち破るには、ニュートンらの活躍まで、1000年以上の時間がかかった。

    後者について。
    たとえば相対性理論の生みの親で知られるアインシュタインは、その後登場してきた量子論の展開に好意的でなかった。というより、受け入れることができなかった。皮肉なことにというか、アインシュタインの取り組みが、量子論の研究者たちに非常に大きな影響を与えているのに。
    「センパイ、ぼくセンパイのお話に感動して、言ってたことをもっと進めてみました!」と言う後輩に、先輩が「いやそんなのは受け入れられないから」と冷たく否定するという、なんかどこかの社会でもよく聞くような話である(笑)。
    新たなるパラダイムの開拓者が、ずっと開拓を先導し続けるということはなかなか起こらないらしい。

    でもそれは悲しいことなのだろうか。むしろだからこそ人類は進歩を続けられたのだとも言える。「巨人の肩に乗る」とはアイザック・ニュートンが言ったとされるセリフ(実際にはもっと前からいろんな人が言っていたらしい)もあるが。先駆者の研究を受けて、さらにそれの疑問点を「科学的な」姿勢で遠慮なく突いていくことで、人類総体の科学は前進してきた。むしろそれを許さなかったから(科学的手法がそもそも欠如していたから)教会権力・信仰と結びついたアリストテレスの思想は長きにわたり、強固に維持されてきたと言える。

    科学がもたらした数々の知識のおかげで今の人類は、昔に比べて衛生的で安全快適な生活を送れるようになった。その知識が生み出されるには、そもそも「科学のアプローチ」が合意され、浸透する必要があった。
    それを噛みしめることができる読書体験だった。

    ★★★★★ 5/5

    https://amzn.to/2YentlW

    この世界を知るための人類と科学の400万年史 (日本語) 単行本 – 2016/5/14
    レナード ムロディナウ (著), 水谷 淳 (翻訳)

  • 科学は「エウレカ!」の連続で跳躍進歩したわけではなく、先人の知恵の蓄積と否定から一進一退そしてJUMPして発展した。科学の歴史が体系立って非常によく纏まっており、人類が科学によってホモ・サピエンス「・サピエンス」になっていったかが解る。ヨーロッパにおける、アリストテレスの知の再発見による暗黒時代から中世への移行、そしてアリストテレスの否定による中世から近代への移行は人類の奇跡といってもよいかもしれない。

    ガリレオ、ニュートン、ダーウィンなど何れも卓越した天才たちが登場するが、個人的にはメンデレーエフの元素周期表が(のちにボーアにより修正されたが)予言めいた神の所業のように感じる。またアインシュタインを「相対性理論」ではなく「光電子効果」の人物として取り上げ「量子論の反対論者」として位置付けているのがユニークだ。アインシュタインの三大論文も人間の感覚に反するが、ボーアやハイゼンベルクの量子論はそれ以上にアインシュタインの感覚に反していたのだろう。天才も人の子、「神はサイコロを振る模様」ということか。

    400万年史を謳うわりには第3部まるまる量子論なのは、著者の専門分野であるからだろう。まぁそこはご愛敬。

  • 科学がどのように発展したかについて人類の誕生から始まり、現代科学までを記述している。単なる年表のような事実の列挙ではなく、科学者やその周囲だけに収まらず、その時代の人々の文化・文明・思想等も含め、常識を覆すための困難を饒舌に語っており、とても惹きつけられた。特にどんな人でも人は沢山間違える事を知れてよかった。

    内容は大きく分けて3部構成。
    第一部は人類の誕生からアリストテレスによる思想(科学)の刷新までで、人類誕生、文化・文明の発生、神話の幕引きについて。

    第二部はアリストテレスからの離別に焦点があり、17頃世紀からの物理学、化学、生物学はどのようにアリストテレスの思想から抜け、現代科学の基礎を構築したかについて。(ローマ時代は科学が殆ど育たなかったとして、本書から抜け落ちている。)
    例えば物理学であれば物体はそれぞれ目的を持っているため動く、というアリストテレスの思想に対しコペルニクス、ガリレオ、ニュートンの描写を中心に、物体は法則によって動く事が常識になる一連の流れが書かれている。

    第三部は著者が物理学の博士号を取得したこともあり、物理学視点での現代科学を語っており、ニュートン科学では説明のつかない事象への新理論等について。どうやら既にニュートンで物理学は完成されたとされ、物理学の研究に否定的な風潮すら一時期はあったらしい。

  •  レナード・ムロディナウ氏の著作は、以前「たまたま 日常に潜む「偶然」を科学する」という統計学や確率論を扱った本を読んだとことがあるので、本書で2冊目になります。こちらは「科学史」です。
     解説は、第一部「直立した思索者たち」、人類の誕生から始まりますが、「科学(道理)」といえる思考を体系化した科学史における巨人はアリストテレスでした。
     アリストテレス哲学は、長年にわたって物理学・化学・生物学等々幅広い分野を支配していました。その物理学の世界でのアリストテレスの種々の説を壊したのが、ガリレオとニュートンであり、さらに、ニュートンの考え方を壊すのがアインシュタイン・・・と連なっていきます。
     本書の主人公は、偉大な科学的進歩をもたらした「連綿と連なる生身の科学者たち」です。

  • ☆新しいアイデアを考えつくには、どれだけ賢いかでなく、どれだけ人間関係が深いかが重要だ。(マーク・トーマス)

  • 長い本だった。
    第1部はちょっと退屈。2部からちょっとおもしろくなるのは、現代の自然科学に馴染んでいるからか。

    読書メモ:

    第1部 直立した思索者たち
    人類が誕生してから、哲学が誕生するまでの数百万年。

    第2部 科学
    自然科学が誕生し発展した数百年。
    科学的に考え実験・実証をしたガリレオ。
    物理学を確立したニュートン。
    化学を進展させるにはさまざまな革新が必要だったため複数の開拓者により発展し、最終的にメンデレーエフが周期表を作って体系化された。
    生物学は進化論のダーウィンがニュートンに位置付けられる。

    第3部 人間の五感を超えて
    ここ100年くらいの話。
    ニュートンの物理学が通用しない量子の世界。
    正しいと思っていることが根底から覆されるとき、人はどうするか。

  •  人類が定住した理由に関する旧来の説は不完全であるように思われる。いまや多くの人が考えるところによれば、新石器革命はそもそも現実的な問題が理由で起こったのではなく、人間の精神性の成長をきっかけとした精神的で文化的な革命だったのだ。(p.41)

     人間以外の動物も、食べ物を得るために単純な問題を解決したり、単純な道具を使ったりする。しかし、たとえ原始的な形であっても人間以外の動物には決して観察されたことがないのが、自身の存在を理解しようとする探求の行為である。したがって、旧石器時代後期や新石器時代前期の人々が単に生き延びることから視線を逸らし、自分自身と周囲の世界に関する「不必要な」真理に目を向けたことは、人間の知能の歴史においてもっとも意味深いステップの一つだった。(p.44)

     ミレトスは、単なる交易の中心地というだけでなく、考えを共有する場でもあった。この都市では何十もの多様な文化の人々が出会っては言葉を交わし、ミレトス人もさまざまな地へ旅して多様な言語や文化に触れた。そのため、住民が塩漬けの魚の値段を交渉するように、伝統と伝統が出会い、また迷信と迷信が衝突し合うことで、新たな考え方への扉が開かれ、確信の文化、とくに因習的な知識に対して積極的に疑問を投げかけるというきわめて重要な姿勢が育まれた。(p.89)

     ニュートンは長い研究人生の中で、自らの運動の法則と自ら発見したたった一つの力の法則ー重力を記述する法則ーを用いて、地球と太陽系に関するさまざまなことを教えてくれた。(中略)化学反応から鏡による光の反射まで、自然のすべての変化は、究極的に力によって起こると信じていた。さらに、物質を構成する微小な「粒子」ー古代からの原始の概念をニュートンなりに解釈したものーどうしに作用する短距離の引力や反発力をいつか理解できるようになれば、自分が導いた運動の法則だけで、宇宙に観察されるあらゆる事柄を説明できるようになると自信を持っていた。(p.192)

     最初は死体防腐処理だった。この分野における科学的探求の始まりは、チャタル・ヒュユクにまでさかのぼることができる。まだ死体が防腐処理されることはなかったが、死の文化が生まれて死体を丁重に扱う特別な方法が編み出されたのだ。古代エジプトの時代になると、死者の運命に対する懸念が高まったことで、ミイラ化の技術が発明された。それが幸せな死後の鍵になると信じられていたし、もちろん蘇ってきて不満を垂れる人などいなかった。そうして、死体防腐処理のための薬剤の需要が高まった。新たな産業が生まれ、デュポン社の言葉をもじれば、「化学を通じてよりよい死後のためのよりよい製品」が求められるようになった。(p.200)

     生物学が誕生するよりかなり以前から、生物を観察する人たちはいた。農民や漁師、医師や哲学者はみな、海や田舎に棲む生物について学んだ。しかし生物学は、植物の目録や鳥の野外観察図鑑の詳しい記述だけに留まらない。科学とは、じっと座って世界を記述するだけでなく、飛び上がってアイデアを叫び、我々が見たものを説明してくれるものだ。しかし、説明するのは記述するより難しい。そのため科学的方法が生まれる以前の生物学は、ほかの科学と同じく、理にかなってはいるが間違った説明や考え方に満ちていた。(p.242)

     ダーウィンがかなりの時間を費やしたもう一つの問題が、生物の多様性だった。なぜ自然選択は、これほど多様な生物種を生み出したのか?ヒントになったのは、当時の経済学者がたびたび論じていた「分業」の概念だった。アダム・スミスは、一人一人が一つの製品を最初から最後まで作るよりも、それぞれの人が専門化したほうが生産性が上がることを明らかにしていた。この考え方をヒントにダーウィンは、同じ広さの土地でも、おのおのの生物がきわめて特化してそれぞれ異なる自然の資源を使うほうが、より多くの生物を養えるという仮説を立てた。
     もしこの仮説が正しければ、限られた資源をめぐって競争が激しい地域のほうがより多様な生物が見られるはずだとダーウィンは予想し、それを裏づける、または否定する証拠を探した。このような考え方が、進化に迫るためのダーウィンの新たな方法論の特徴だった。ほかの博物学者は、化石と現生生物とをつなぐ時代的な系統樹の中に生物の進化の証拠を探したが、ダーウィンは現代の生物種どうしの分布や関連性の中にそれを探したのだ。(pp.268-269)

     プランク本人がのちに科学について語った次の言葉は、むしろどんな革新的アイデアにも当てはまるように思える。「新たな科学的真理は、それに反対する人たちが納得して理解することによってではなく、反対する人たちがやがて世を去り、その真理に慣れ親しんだ新たな世代が成長することによって勝利を収める」(p.296)

     研究の最前線は霧の中に隠されており、積極的な科学者なら誰しも、つまらない道や行き止まりを進んで無駄な努力をするものだ。しかし成功する物理学者が一つ違う点は、得るところが多くてしかも解決可能な問題を選ぶこつ(あるいは運)を持っていることだ。
     前に物理学者の情熱を芸術家にたとえたが、私はいつも、芸術家のほうが物理学者よりはるかに有利だと感じている。芸術では、何人の同業者や批評家が酷評したところで、それを証明することは誰にもできない。しかし物理学では証明できる。物理学では、「美しいアイデア」を思いついてもそれが正しくなければほとんど慰めにならない。そのため物理学では、あらゆる革新的な試みと同じく、難しいバランスをとらなければならない。選んだ問題を慎重に追究しながらも、何も新しいことを生み出さなかったという結果にならないように注意しなければならない。(p.320)

     どんな時代に生きているにせよ、我々人間は、知識の頂点に立っていると信じたがる。かつての人々の考え方は間違っていたが、自分たちの答えは正しく、今後もそれが覆されることはないだろうと信じるのだ。科学者も、さらに偉大な科学者も、ふつうの人とお味くこの手の傲慢さを抱きやすい。(pp.382-383)

    (解説)科学はそもそも、太古から人類が持っていた、身の回りの世界のことを理解したいという本能的欲求に端を発している。だから、科学的な探求をしたいという思いは、どんな人の心にも秘められている。またいくら超大物の科学者でも、我々一般人と同じくなかなか前に進めずに苦悩し、ときにはまったく見当違いの道を進んで膨大な時間と努力を無駄にしたり、どうしても同業者の手助けを必要としたりする。(p.388)

  • 科学をこれだけのスパンで振り返るのは珍しい。でも、後ろのいけばいくほどどんどん期間が短くなっていく。

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著者プロフィール

レナード・ムロディナウ
カリフォルニア大学バークレー校で理論物理学の博士号を取得し、マックス・プランク研究所でアレクサンダー・フォン・フンボルト・フェローを経て、カリフォルニア工科大学で教壇に立った。著書に『ファインマンさん 最後の授業』(安平文子訳、メディアファクトリー、2003年、現在ちくま学芸文庫)、『たまたま:日常に潜む「偶然」を科学する』(田中三彦訳、ダイヤモンド社、2009年)、『しらずしらず:あなたの9割を支配する「無意識」を科学する』(水谷淳訳、ダイヤモンド社、2013年)、『この世界を知るための 人類と科学の400万年史』(水谷淳訳、河出書房新社、2016年、現在河出文庫)、『柔軟的思考:困難を乗り越える独創的な脳』(水谷淳訳、河出書房新社、2019年)などがあり、スティーヴン・ホーキングとの共著に『ホーキング、宇宙のすべてを語る』(佐藤勝彦訳、ランダムハウス講談社、2005年)、『ホーキング、宇宙と人間を語る』(佐藤勝彦訳、エクスナレッジ、2011年)がある。

「2023年 『「感情」は最強の武器である』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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