名前のない人 (The Best 村上春樹の翻訳絵本集)

  • 河出書房新社
3.66
  • (20)
  • (19)
  • (29)
  • (7)
  • (1)
本棚登録 : 244
感想 : 40
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (32ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309261195

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • このところオールズバーグの不思議作品にはまっている。
    パステルで描いた絵の巧みさもあり、読後の余韻もまた楽しい。

    原題は『The Stranger』。
    そのStrangerが何だったのか、明確な答えが出ないまま話は終わる。
    表紙画像の、デニムを着て眼を真ん丸にした人が、それである。
    車ではねてしまった人を、救助のためにベリーさんは自宅に連れ帰る。
    ところが、医者を呼んでも体温計はあがらず、その人は何一つ喋れない。シャツのボタンの止め方も知らないようだし、スープの飲み方も分からない。
    しかも、一緒にいると何だか寒くなるらしい。
    それだけではなく、野ウサギは何の警戒心もなくこの人に近づく。労働をしても汗もかかず、もっと不思議なのは、この人がいると季節が止まったままなのだ。
    子どものように純粋で、家族とともに何でも心底楽しめるThe Stranger。
    これだけヒントがあっても、答えが出ない。
    読み終えてから気が付くのは、答えが重要なのではなく、煙に巻かれたことを楽しむ本かなと。

    繊細に描写される風景。空と大地と光が、まるでコローの絵のように美しい。
    神秘的なショートムービーのようで、3週間をThe Strangerと共に楽しく過ごしたベリーさん一家が、何だかとても幸せに見えてくる。
    よく考えれば被害者と加害者なのにね。

    お話会の「選書の基準」からは大きく外れるのでお薦めは出来ないが、読むなら高学年以上が良いかもしれない。約11分。秋の初めの頃に。
    読後、The Strangerとは何だったのか、話し合いも面白いだろうな。

  • 空想と現実の狭間のミステリアスな世界を、色彩ゆたかなパステル画で描かれた児童文学作家・オールズバーグの余韻の残る幻想物語。<村上春樹サン>の翻訳が、全編をとおして神秘的で不思議な空気を醸し出し、静かに心を和ませてくれる大人の絵本です。

  • 読友さんのレビューから気になって、読んでみました。
    挿画とタイトル(原題:The Stranger)に、謎めく雰囲気を感じつつ…。
    ベイリーさんと名前のない人との、ちょっとセンセーショナルな?出逢い…。
    季節が移ろうときには、こんなことがあるのかもしれないですね。
    色づく木々の葉を眺めるとき…このお話を思い出すでしょう。
    うんうん、「また来年の秋にね」。
    兎と触れ合うシーン…好きだなぁ♡(*˘︶˘*).:*♡ 
    紹介してくれた読友さん♪ありがとう~♡ (訳:村上春樹さん) 


    「彼は一本の樹に駆けよって、葉っぱを一枚ちぎった。そして、震える手でそれを持って、何も考えずに、ふうっと思い切り吹いた。」(本文より)。

    • NAGIさん
      権大納言さん、コメントありがとうございます。
      そちらは、もう寒いでしょうね…。
      「名前のない人」は、やってきたでしょうか?

      秋から...
      権大納言さん、コメントありがとうございます。
      そちらは、もう寒いでしょうね…。
      「名前のない人」は、やってきたでしょうか?

      秋から冬に向かう絵本…というか?秋の絵本になっちゃいますが、
      「ファーディとおちば」、
      「まいごのどんぐり」、
      「きつねの窓」、
      「おじいちゃん (ポプラ社の絵本)」
      など、どうでしょう?
      興味あれば?いつか手に取ってみてください。
      2020/11/09
    • 権大納言さん
      NAGIさん、ご紹介ありがとうございます。どのタイトルの絵本も読んだことがありませんでした。落ち葉
      NAGIさん、ご紹介ありがとうございます。どのタイトルの絵本も読んだことがありませんでした。落ち葉
      2020/11/10
    • 権大納言さん
      コメントの続き→落ち葉が好きなので、「ファーディとおちば」を探してみたいと思います。「名前のない人」は我が家の前を通過した模様です。
      コメントの続き→落ち葉が好きなので、「ファーディとおちば」を探してみたいと思います。「名前のない人」は我が家の前を通過した模様です。
      2020/11/10
  • 夏が秋へと移り変わっていく頃。お百姓のベイリーさんは車を運転していて見知らぬ男を轢いてしまう。記憶をなくした男を介抱し、一緒に過ごすうちに、ベイリー一家は名前のない人のことを気に入っていく。二週間たった頃には、家族の一員のようになっていた。
    それから一週間が過ぎ、ベイリーさんは気候がどうも変だと思い始める。少し前にはもうすぐそこまで秋が来ているように見えたのに、まだ夏の陽気が続いている。まるで季節の移り変わりがぱったり止まってしまったみたいに…

    名前のない人。彼がいったい何者なのか、絵本を読みすすめるうちにますます謎が深まっていく。作品内では明確な答えは与えられないが、幾つかの手掛かりから読者は想像を働かせることができる。

    彼はざらっとした革の服を着ており、記憶を失っているらしく、口がきけないらしく、体温がないらしく、ボタンのとめかたがよくわからないらしく、スープが珍しいらしく、吹きかける息はすきま風みたいに冷たいらしく、兎に懐かれているらしく、疲れというものを感じないらしく、汗をかかないらしく、南の土地に渡っていくガンの群れから目が離せないらしく、緑の木の葉が見苦しくみっともないものに見えるらしく、樹々がみんな赤やオレンジに染まれば素晴らしい景色になるのにと思うらしく、葉っぱに息を吹きかけると葉っぱが赤く色づくらしい…のである。

    名前のない人。彼はたぶん、人間ではない。私が想像するに、秋の神様とか、秋の化身とか、秋の妖精とか、そんな感じの存在なんじゃないかなと思う。
    『マジョモリ』の木花咲耶姫が花を咲かせて春をもたらすみたいに、樹々を赤やオレンジに染めて秋をもたらすお仕事の途中で車に轢かれてしまったんじゃないかな。
    そう考えると、ちょっと間抜けで愛嬌がある神様だな。

    • ありママさん
      そういうことだったのですね!読解力がなく、なぜ体温計を忘れる場面があるのか、葉っぱに息を吹きかけたのか、わかっていませんでした。
      スッキリ納...
      そういうことだったのですね!読解力がなく、なぜ体温計を忘れる場面があるのか、葉っぱに息を吹きかけたのか、わかっていませんでした。
      スッキリ納得しました。ありがとうございます!
      2022/10/25
  • 他の方のレビューを読んでようやく話の意味がわかりました。
    私に読み取れたのは、口を聞かなくても優しく穏やかな名前のない人の性格と、彼が来たことで何か異変が起こっていることです。
    改めて読むと秋にぴったりの素敵な絵本、のような気もするのですが、やっぱりなぜ轢かれたのか?など謎が残って難しく感じました。
    車に轢かれて登場し、ギョロ目で喋らないという強烈な個性のためか、子どもには強く印象に残ったようでたまにこの絵本の話が出ます。

  • 絵が頭から離れない。
    あんまり好きな印象の残り方じゃない。

  • ある家族が過ごした、夏と秋の間の季節の、少し不思議な日々。
    色々な想像が出来て深い絵本。
    読み終わった後はふと窓の外を眺めてしまう。心地よい読後感。

  • C.V.オールズバーグという人が絵を描いているのですが、父がその絵がすきだったようで、彼の絵本が何冊か家にありました。

    ちょっと悲しいお話で、読み終わった後は余韻が残ります。
    決して読んで幸せな気分になるというわけでもないのに、何度も読みたくなる不思議な本です。

    絵は色彩がとても美しく、温かみがあります。
    わたしも好きです。

    村上春樹が翻訳をしていたというのは今はじめて知りました。

  • 秋の使いなのだろうか。
    数年前に読んだ時は、「名前のない人」とはなにものなんだろうと考えた。

    季節は夏から秋に移り変わっていく頃。
    ベイリーさんが車ではねて、鹿かと思ったら人間だった。その人は口を聞かず、記憶を失っているようだった。それが名前のない人だ。

    ベイリー家に住みはじめる名前のない人は、温かなスープでさえ、はじめて見たかのようにびっくりした顔でみる。
    周りでは不思議なことが起こりはじめた。

    そしてある日突然、別れの時が来る。ベイリー家の人々は自然に別れを受け入れる。なぜ去っていくのかという理由など必要ないのだ。

    名前のない人を自然に迎え入れたのと同じ、自然に別れを受け入れる。
    まるで去っていく秋を見送るかのように。

    すべてが過ぎていき、すべてがやってくる。
    人も同じ。過ぎていく人やってくる人。

    それ以来、ベイリー家には毎年、不思議な現象が起き、
    短い挨拶が届けられる。

    「また来年の秋にね」

    新しい季節は、まったく新しい季節ではない。
    過ぎた季節を思い出す季節でもある。

    すべては不思議なのだと思う。
    今は考えるのではなく、自然の不思議さを感じる。

    季節が移り変わるにおいを感じさせるパステル画の絵本。
    秋の季節に読んでほしい一冊。

  • ベイリーさんが轢いた人は、人間の形をした鹿で四季の案内人だったのではないだろうか。ざらっとした革の服が、彼の着ているものだったから。口がきけないから。
    名前のない人が自分の住んでいるところだけ、季節が移り変わらないことを知って、自分が何者かおもいだしたのかもしれない。それは大変ショックだったのではないか。

全40件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1949年京都府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。79年『風の歌を聴け』で「群像新人文学賞」を受賞し、デビュー。82年『羊をめぐる冒険』で、「野間文芸新人賞」受賞する。87年に刊行した『ノルウェイの森』が、累計1000万部超えのベストセラーとなる。海外でも高く評価され、06年「フランツ・カフカ賞」、09年「エルサレム賞」、11年「カタルーニャ国際賞」等を受賞する。その他長編作に、『ねじまき鳥クロニクル』『海辺のカフカ』『1Q84』『騎士団長殺し』『街とその不確かな壁』、短編小説集に、『神の子どもたちはみな踊る』『東京奇譚集』『一人称単数』、訳書に、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』『フラニーとズーイ』『ティファニーで朝食を』『バット・ビューティフル』等がある。

村上春樹の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
マージェリィ・W...
村上 春樹
マイケル・グレイ...
森 絵都
ユージーン トリ...
クリス・ヴァン ...
クリス・ヴァン・...
トルーマン カポ...
クリス・ヴァン・...
アーシュラ・K....
村上 春樹
メアリー・リン ...
ガブリエル バン...
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×