川島雄三、サヨナラだけが人生だ

著者 :
  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (326ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309264530

感想・レビュー・書評

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  • 濡れたネオンにまた身を灼いて 明日は泣かない女になると
    笑って言えば嘘になる いつか涙の洲崎橋

    「洲崎パラダイス・赤信号」(1956)という日本映画の中で、小沢昭一さん扮する出前持ちが歌う、鼻歌です。
    場末の歓楽街を舞台にした泣き笑いの人情劇なんですが、「人情劇」と呼ぶのがためらわれるような、カラっとした突き放したようなドライさと、ぐじゃぐじゃした滑稽味。
    何とも物悲しいのに、粘り強いヒトの逞しさも垣間見えて、とにかくテンポよく小粋な語り口の傑作映画です。

    小沢昭一さんの鼻歌は、現場で監督さんと小沢昭一で、あーでもない、こーでもない、と即席で作り上げた戯れ唄だったそうです。

    で、その監督さんが川島雄三さん(1918-1963)。45歳で早世してしまった人です。
    有名なのは「幕末太陽伝」(1957)、「しとやかな獣」(1962)、などでしょうか。
    異様異形でパワフルで、おセンチが嫌いで、どこか羽目を外さずにいられないようなパンクな隠し味を秘めた、とっても個性的な監督さんです。
    そうかと思えば「雁の寺」(1962)、「暖簾」(1958)などのストレート・アヘッドな文芸調の人間ドラマも、ため息が出るほど上手に撮っています。
    小林信彦さんが「川島雄三と中平康の映画はいつ見ても新しい」というような賛辞を送っていらっしゃるそうです。
    僕も大好きな映画監督さん。未見のモノを見るのを楽しみにしています。

    川島さんの映画の中でも、一際忘れがたいのが「貸間あり」(1959)。
    井伏鱒二さんの原作を完膚なきまでに換骨奪胎して滅茶苦茶にして、今風に言えば豪邸でルームシェアする奇々怪々な面々が恋したり欲情したりする他愛もない人間模様を、
    コレデモカとドロドログチャグチャと、ドライにお馬鹿にスピーディーに、何とも独創的な一抹の哀愁と描いています。
    劇中で、
    「花に嵐のたとえもあるさ サヨナラだけが人生さ」
    と登場人物がのたまう場面があり、早世した生き様とともに、川島雄三さんを表す言葉になっています。

    ※元ネタは、たしか中国の漢詩を、井伏鱒二さんが「超・意訳」したもののはず。
    寺山修司さんなんかもよく使ったそうですね。
    なんだかんだ、井伏鱒二さんと言うのも偉大な作家だと思います。
    映画「貸間あり」の出来には激怒されたそうですが…。

    で、この川島雄三さん。日本映画の黄金期の監督さんなので、
    「川島組で助監督や助手を務め、影響を受けて、その後、何かしらか有名になった」
    という「弟子筋」が何人かいらっしゃいます。
    今村昌平さん、中平康さん、そしてこの本の著者の藤本義一さんなんかがそうらしいです。
    そして、藤本義一さんは、「貸間あり」の脚本を川島さんと共同で手掛けていらっしゃいます。

    藤本さんと言えば、映画界で脚本を手掛けて、放送作家でもあり、その後小説家になられて、テレビタレントもされていた方ですね。
    と、言うことはなんとなく知っていますが、僕は実は不勉強で、一冊も読んだことありません。この本が初めて。

    この本は当然ながら、「川島雄三さんについての本って読んだことないなあ」という興味で手に取ったもの。2001年の本。古本で入手。

    読んでみると、藤本さんが川島さんの想い出を綴った短文や私小説や講演会や対談が収録されていました。
    内容的には重複が多い上に、過剰に感傷的だったりするところもあり、本としては左程好きではありませんでした。
    ですが、もともとが、映画オタク的な興味の本なので、それはそれで楽しめました。

    結局は、逸話想い出こぼれ話を集めた本。
    日本映画黄金期の、Aクラスの監督さんの映画作りの舞台裏も覗けます。

    ●若き藤本さんが、川島さんの助手になり、旅館に籠って脚本を作る…のだけど、ほとんどが無駄話、与太話、お馬鹿な遊び、飲酒放蕩に明け暮れる日々の想い出。

    ●脱線と異形と奇天烈を愛する創作場面でのこだわりや発想の記録。

    ●その間に垣間見える、40代(つまり晩年)の川島さんの教養深さ、諧謔、含羞、人間味。賛美だけじゃない意地の悪さ、不可解さ、ドライさ。

    ●諸説ありますが、病弱で筋萎縮性ナントカという、難病を患っていた川島さんの孤独な姿。

    ●小沢昭一さんらが語る、お馬鹿な遊びの細部、「フランキー堺さんは実は"幕末太陽伝"を気に行ってなかった」みたいなこぼれ話。

    みたいなところが読ませどころ。日本映画好き、川島映画ファンなら、「へー」がいっぱい味わえます。
    気軽に愉しめた本でした。

    (ただ、藤本さんの語り口は、正直あまり好きになれませんでしたが…)

    本で触れられていたのですが、川島さんがホントの最晩年に、キネマ旬報の取材で「自作を語る」というのを受けていて、
    それはそれで本になっているそうです。絶版でしょうが。
    そっちが読みたいなあ、と思いました。




    (およそ300頁の本なんですが、その内100頁が「貸間あり」の脚本に割かれています。そこは、まあ見たことあるので、飛ばしました)

  • 映画に生きた男の話です。

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