わが心のディープサウス (Lands&Memory 記憶の風景)

  • 河出書房新社
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感想 : 3
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  • Amazon.co.jp ・本 (125ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309267814

感想・レビュー・書評

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  • 著者は、現在は早稲田大学文学学術院で、アメリカ文化史の教鞭を取っている人物である。出身は「南部」であるテネシー州。この本は、そんな彼が南部の各州を訪れた際の“パーソナル・ジャーニー”の記録。「(読者の)みなさんを私の回想の旅へと誘いたい」というプロローグからスタートする。
    冒頭にそう謳うだけあって、彼の他の著作、アメリカの社会問題や歴史、公民権運動などについて著したものとは一線を画した筆致の一冊だった。
    美しい写真と共に、現地の印象や人々との会話、食べ物のことなどが生き生きと記される。それぞれの土地の歴史、といっても教科書に載るようなものではなく、町ができた経緯やそこに住む人々の生い立ちなどを交えつつ現在の様子が語られるので、臨場感があってとても面白い。

    良くも悪くも、著者が子供の頃とは変わってしまった町がある。当時の面影が、色濃く残っている地域もある。この本のスタンスは勿論、後者を探すこと。学術的にどうか、ではなく、今その地に生きている人の雰囲気や時間の流れ方に重点が置かれている。

    アメリカは広い。たとえ足を運んでも、100万分の一も理解はできないだろうという思いと同時に、少しだけその地の息づかいが聞こえた気がしてくる本だった。

  • ディープサウスとは、メキシコ湾を囲むように位置する、ルイジアナからサウスカロライナまでの地域。アメリカ南部という言葉からは、「黒人(有色人種)差別」「性差別」「訛り」といったようなことを連想するわたしだけど、一般的にも、保守的な土地柄だとされている。


    でも、じつは、わたしの好きな音楽や作家が生まれた場所は、案外、南部が多いのだ。ここ最近、南部出身の作家の著作を読んで、南部を知りたい気持ちに駆られていた。そんな時、ディープサウスを、南部出身の著者とカメラマンが綴るこの紀行本は、「南部人でなければ表現できないディテールにあふれている」などと批評されているため、読んでみた。


    もしかしたら、わたしがイメージする南部の風景とは違う風景が広がっているかも…などと思ったけど、そんなことはなかった。わたしが思い描いた南部のイメージと、それほど変わらない現在の姿がそこにあった。のんびりとしていて、豊かで、ちょっと古ぼけた感じで、そして垢抜けない粗野な感じ。サックスや大太鼓などの楽器とともに写っている黒人、ストックカーでポーズを取る田舎者っぽい白人、ロブスター料理を差し出す金髪のふくよかな女性、タバスコ工場や綿花畑の労働者、ミシシッピ川。写真を見ても、ゆったりとした時間が流れている感じが伝わり、人々がのんびり話す様子が伝わってくる。とりわけ、「アメリカのメシはマズい」といわれるなか、妙においしそうに見えるケイジャン料理やクレオール料理の写真とその解説は、受け流すことができない。著者のバーダマンの説明が、また食欲をかきたてるのだ。カリフォルニアやニューヨークのような近代的な建物が立ち並ぶ町は、多くの人がイメージするアメリカではあるけど、この本を読むと、なんとなく味気なく、リアリティがないように思えてしまう。


    ジャズフェスやら、ブルースのライブやら、あるのは知っている。行ってみたいと思っているのだ。でも…人種差別されたら辛いなとか、一人で行くのは危険かなとか、あれこれ考えて二の足を踏む地域でもある。いつか行けたらいいけどいつになるだろう。

  • ブルースの魂と、ミシシッピを胸に──街に流れるベニエとチコリコーヒーの香り、川面にこだまする蒸気船の汽笛、そして果てしないデルタの平野は季節に鳴ると真っ白な綿花で覆われる──南部出身の二人が望郷の思いとともに描く、アメリカの中の異郷。

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著者プロフィール

ジェームス・M・バーダマン早稲田大学名誉教授。 1947年アメリカ・テネシー州生まれ。プリンストン神学校教育専攻、修士。ハワイ大学大学院アジア研究専攻、修士。 専門はアメリカ文化史。 著書に『毎日の英文法』『地図で読むアメリカ』(朝日新聞出版)、『日英対訳 世界に紹介したい日本の100人』(山川出版社)、『アメリカ黒人史』『英語の処方箋』(ちくま新書)、『ネイティブが教える 日本人が絶対間違える英語大全』(KADOKAWA)、『3つの基本ルール+αで英語の冠詞はここまで簡単になる』(アルク)、『英語でお悔やみ申し上げます‐冠婚葬祭・非常時の英語表現』(ベレ出版)など多数。 )

「2023年 『アメリカ国籍取得テストでアメリカの一般教養と英語を学ぶ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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