- Amazon.co.jp ・本 (176ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309401645
感想・レビュー・書評
-
芥川賞
著者:唐十郎(1940-、東京、劇作家)詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
パリで猟奇的な事件を起こした佐川一政からの手紙ではじまる、現実と虚構が入り混じった物語です。
やがてパリにわたった著者は、そこで事件を起こした青年と接点をもったK・オハラという、絵画のモデルの仕事をしている女性と出会います。最初は乗り気ではなかったものの、彼女との会話をかさねていくうちに、著者はこの事件にかかわろうとする自己のうちへと向かうまなざしを深めていくことになります。
よく知られているように、現実の佐川という人物はみずからの事件を劇化しようとする企図をくり返しおこなっています。彼のつくったストーリーに乗ることはむろん、それに反発することも、自己劇化しようとする彼の企図を逆説的に実現してしまうことになるというべきでしょう。著者は、佐川の語ったジョナサンというドイツ表現主義の詩人の正体を追跡していくなかで、知人の「ワイ君」があきれてみせたような際限のない誤解をおこなうことによって、青年の自己劇化の企図をはぐらかしつつ、祖母へと回帰していく著者自身の幻想を紡いでおり、そうした著者の意図は成功しているといってよいと思います。
ただし、そのような意図によって貫かれた作品である以上しかたがないことなのですが、本書のどこをさがしても佐川一政の姿はなく、読者は本書のなかに唐十郎の姿しか見いだすことはできないといわなければならないでしょう。 -
なぜ、人を殺してその人の写真を撮り、肉まで食った人がメディアに出て、しかも作品をいくつも書き、「佐川君」なんて可愛く呼ばれちゃっているのか、そのとこからしてすでに理解できないのだが、この作品自体も私には難解に思えて読んでいて苦痛だった。すごく抽象的な本であると思う。そもそも実際にあった「パリ人肉事件」をモチーフにし、しかも犯人である佐川氏と手紙のやり取りとなると、やはりノンフィクションを最初に想定してしまっており、こうも煙に巻かれるというか、幻想的な空気になるとは思っていなかった。実際にあった事件が関係しているとなると、果たしてこんな本が出て遺族は何も思わないのか?という、ある種無粋なことも思ってしまうわけで・・・。
-
パリ人肉事件を基にした小説。 この事件では、ワイドショー的な興味から「人肉食」にどうしても目が行くけれど、この小説では「相手が白人女性だった」ところに注目している。そして、「白人女性」の「白」を様々な形で象徴的に用い、「色の着いている」日本人女性をそれとの対比で登場させている。「白」は、純白で無垢な色であり、さらに無色なだけに人々の勝手な妄想や憧れの余地を与えてしまう。 それに対して、「色の着いた」日本人女性は、その妄想や憧れを現実へと引き戻す役割を果たしている。 しかし、その日本人女性が彼の前から立ち去ったとき、彼を現実へと引き戻すものはなくなってしまう。 そして、その妄想や憧れの極致が、あるいは究極の支配の形が、彼にとっては、殺害であり食肉であった――。
もちろん、究極点としての殺害や食肉は特殊だけど、日本人の西洋人への憧れやコンプレックスは(特に昔は)強固なものである。 その点、特殊な事件を題材に普遍的な事象を文学的に描いている小説だと言える。 ちなみに、表題作以外は後日譚になっているけれど冗長で退屈。 -
パリ留学中の日本人青年が、親しかった女性を銃で殺害し、その遺体を食べていた。という事件を題材に書かれたフィクション。芥川賞受賞作品。
率直な感想は、「え?」である。
てっきりカニバリズムをテーマにしたノンフィクションだと思っていたら、フィクションだった。しかも何が言いたいのか不明なオチ。推敲のすの字もなされてない感じ。これで芥川賞受賞して、売り上げも良かったらしいから、賞なんて曖昧模糊なもんだと思った。受賞したからって傑作とは限らない。芥川が天国で泣いてるよ(笑)
私が一番感激したのは、唐十郎が、大鶴義丹の実父だと知ったとこぐらい(笑)
ちなみに、この本で取り扱われている事件の犯人である佐川君は、フランスで心神喪失による無罪を言い渡され、日本でも不起訴となったらしい。そして、現在は執筆活動をしているとのことです。