サラダ記念日 (河出文庫 227A BUNGEI Collection)

著者 :
  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309402499

作品紹介・あらすじ

生きることがうたうこと…うたうことが生きること-なんてことない24歳が生み出した感じやすくひたむきな言葉。31文字を魔法の杖にかえ、コピーライターを青ざめさせた処女歌集。現代歌人協会賞受賞。

感想・レビュー・書評

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  • 俵万智さんのこの有名な歌集を買ったのはおそらく3度目です。一度単行本で買い、なくしたので文庫本で2度買いました。

    すごいですね!帯に285万部、35年間読まれ続ける永遠のベストセラーとあります。
    私が今、手にしているのは2022年の61刷発行のものです。

    読み直して思ったのは俵万智さんはやはり天才歌人だということ。
    巧みすぎます。
    しかも、この歌集、20歳の終わりから24歳までの歌をまとめたとあとがきにあります。
    本当に、本当に天才です。
    何気ない言葉がぴったり字余り、字足らずなしに五七五七七で詠まれています。
    内容も今読んでも全然古くなく、今まで他の誰も詠んでいない新しい言葉で、本当に巧みとしかいいようがありません。



    以下、特によいと思った歌を載せます。
    皆さまご存知の歌もたくさんあるかと思います。



    ○午後四時に八百屋の前で献立を考えているような幸せ

    ○オクサンと吾を呼ぶ屋台のおばちゃんを前にしてしばらくオクサンとなる

    ○「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ

    ○愛人でいいのとうたう歌手がいて言ってくれるじゃないのと思う

    ○たっぷりと君に抱かれているようなグリンのセーター着て冬になる

    ○君と食む三百円のあなごずしそのおいしさを恋とこそ知れ

    ○潮風に君のにおいがふいに舞う 抱き寄せられて貝殻になる

    ○「嫁さんになれよ」だなんてカンチューハイ二本で言ってしまっていいの

    ○相聞歌なべて身に沁むこの夕べ一首残らず丸をつけおり

    ○母の住む国から降ってくる雪のような淋しさ 東京にいる

    ○書き終えて切手を貼ればたちまちに返事を待って時流れだす

    ○万智ちゃんがほしいと言われ心だけついていきたい花いちもんめ

    ○出席簿、紺のブレザー空に投げ週末はかわいい女になろう

    ○「クロッカスが咲きました」という書きだしでふいに手紙を書きたくなりぬ

    ○庭に出て朝のトマトをもぎおればここはつくづくふるさとである

    ○なんでもない会話なんでもない笑顔なんでもないからふるさとが好き

    ○思いきり愛されたくて駆けていく六月、サンダル、あじさいの花



    ※今、歌集から歌を書き写していたらなんか涙が出てきてしまいました。素晴らしい歌ばかりです。こういうわかりやすくて素朴な歌好きだなあ。

    • まことさん
      アールグレイさん♪

      コメントありがとうございます。
      涙が出てきてしまったのは、若かりし頃を思い出すからなのでしょうかねえ。
      私は歌が素晴ら...
      アールグレイさん♪

      コメントありがとうございます。
      涙が出てきてしまったのは、若かりし頃を思い出すからなのでしょうかねえ。
      私は歌が素晴らしいからだと思ってしまいました。
      一番好きな歌は
      「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ
      です。
      これは、暗唱してます。
      どうせなら、もっとたくさん歌を載せればよかったと、あとから思いました。
      2023/05/07
    • アールグレイさん
      俵万智さんの本が売れた頃、若かった。
      当時はそんなに興味はないに等しかったのですが、懐かしさもありますが、深く読める私ではありませんでしたね...
      俵万智さんの本が売れた頃、若かった。
      当時はそんなに興味はないに等しかったのですが、懐かしさもありますが、深く読める私ではありませんでしたね。
      2023/05/07
    • まことさん
      アールグレイさん♪

      私もまだ、高校か大学くらいだったと思います。
      俵万智さんの歌は、そんなに深読みしなくても、そのまんまで、わかるエンタメ...
      アールグレイさん♪

      私もまだ、高校か大学くらいだったと思います。
      俵万智さんの歌は、そんなに深読みしなくても、そのまんまで、わかるエンタメ系短歌だと思います。
      2023/05/07
  • 1987-1989の2年間で初版から369刷を数えるベストセラ歌集。
    57577という定型の31文字で日常にある静かな風景が立ち上がる。特に一人暮らしの女子は誰でも共感できる淡い感傷と寂しさを帯びえている恋の歌だが、同時にウィットに富む悟った感覚が伝わる。
    また、表現の贅肉がなく魅力的な綴り方で、
    歌人のセンスに憧れる。リズムよく読める一冊だ!

  • 1987年発表の、俵万智さんの、約280万部売れたという第一歌集ですが、当時は全く短歌に関心が無かったため、令和の今、初読みすることとなりました。

    読んだ感想は・・その当時、20代前半だった俵さんの、その時代背景に於ける自然な感性に瑞々しさを感じたのと、やはり歌人と思えるような、独特な言葉遣いと、多角的視点の物語を想像させられて、単に、若さ溢れる爽やかな一面だけではない、人間の奥深さを感じられたのが、印象的でした。


    特に、私の琴線に触れた歌をいくつか・・


    落ちてきた雨を見上げてそのままの形でふいに、唇が欲し

    わからないけれどたのしいならばいいともおもえないだあれあなたは

    君といてプラスマイナスカラコロとうがいの声も女なりけり

    「30までブラブラするよ」と言う君の如何なる風景なのか私は

    手紙には愛あふれたりその愛は消印の日のそのときの愛

    ガーベラの首を両手で持ちあげておまえ一番好きなのは誰

    菜種梅雨やさしき言葉持つ国を歩む一人のスローモーション

    「平凡な女でいろよ」激辛のスナック菓子を食べながら聞く


    更に、中国への旅をテーマにした「夏の船」もよかった。

    ゆっくりと大地めざめてゆくように動きはじめている夏の船

    濃紺の東シナ海沖に来てただ空であるただ波である

    今日までに私がついた嘘なんてどうでもいいよというような海

    大陸に我を呼ぶ風たずさえてミルクキャラメル色の長江

    兵馬桶何百何十何体の思考直立したまま眠る

    長江を見ていたときのTシャツで東京の町を歩き始める

  • 料理が好きで海が好きで手紙が好き。
    そんな作者の作る歌には、これらのものがたくさん散りばめられていました。

    「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日

    この歌が発表された頃、わたしはまだ中学生か高校生の頃でした。とても世間を賑わせた歌でした。なんだかとてもお洒落でスタイリッシュなイメージを思い浮かべてました。洗練された都会の恋人同士の会話、まだ少女マンガのような恋に憧れているだけの子どもには、遥か遠い存在のものでした。

    でも、今読んでみると、また違う印象を受けました。一見、軽やかで恋人にネチネチと執着していないよう、わたしには見えた歌の奥に、あと少し相手の心に踏み込むことのできない戸惑いや、寂しさ、強がりが見え隠れしているように思えてきたのです。さらりと流れる音の余韻の中に“大好き”という感情が、まるはだかの状態でひっそりと息をひそめているようでした。

    またこの頃は、今よりも時間の流れがゆっくりだったと思うのです。
    大好きな人からの手紙が届くのを待つ時間。大好きな人を想いながら各駅停車の電車に揺られる時間……そんな恋する人たちにとって、とても大切だった時間が街中に溢れていたことを思い出しました。大好きな人を想う時間は愛おしいもの。
    そんな時間を詠んだ歌に惹きつけられました。


    『書き終えて切手を貼ればたちまちに返事を待って時流れだす』

    『いつもより一分早く駅に着く 一分君のこと考える』

    『会うまでの時間たっぷり浴びたくて各駅停車で新宿に行く』

    『玉ネギをいためて待とう君からの電話 ほどよく甘み出るまで』

    『金曜の六時に君と会うために始まっている月曜の朝』

  • 代表作になっただけあって、やっぱり好き。若さと瑞々しさが溢れていて、「チョコレート革命」もいいけど、やっぱりこっちが好き。

  • あまり詩や短歌など読む習慣はないが、
    この作品はいつか読みたいと思っていた。
    どこかで一度は耳にしていたものもあるが、改めて読んでみて、当時この作品が話題となり、多くの人に受け入れられた理由がなんとなく理解できた。
    湿り気がないのだ、失恋や別離を歌った物が多い中、何か晴れた日の青空や海の青さ、サンドイッチなどpopな世界に前を見据える強さが垣間見える。
    buck numberの歌のある歌詞は
    明らかにこのサラダ記念日からの引用?を感じさせる。違うかもしれんが…。
    湿り気はないが、決して遊びのチャラい
    恋愛ではなく、相手を慮る気持ちと
    深い愛に満ちている。

  • 朝ドラ「舞い上がれ」で、舞ちゃんが「短歌にしたら一瞬が永遠になるんやな」と言っていた。
    ホントだな。

  • 瑞々しい感性とは、きっとこのこと。
    カメラワークの上手な映画を見ているような感覚で読み終えました。

    余計な言葉はひとつもなくて、心象風景を表すのにぴったりのフレーズが五七五七七にぎっしり。短いのにすごく濃い。こんな風に言葉をつかえたら気持ちがいいだろうなあ。
    切り取る場面もとてもセンスが良くて、日常的なシーンを俵さんの視点を借りて見るような不思議な感覚でした。

    私が印象に残ったのは、恋が終わりゆく景色。
    心が離れる。切なさ、寂しさ、感傷、ほんの少しすっきりした気持ち。
    そこから少しずつ立ち直る。自分の内側にばかり向いていたアンテナが、外側に向き始める。季節の移り変わりや、流行りの服や、友達とのお喋りを楽しめるようになる。
    そしてまた新しい人と出会って、恋の予感が始まる。
    顔を合わせるのが楽しみで、どんなかっこうをするか悩み、待ち合わせには緊張しつつ早めに行く。
    忘れていたな、恋のこの感じ!!と、追体験させてもらいました。

    携帯やスマホが登場する前の年代なのもとても素敵に思えました。
    手紙を書いたり、家に電話をしたり、待ちぼうけも。
    すぐに繋がれないからこそ相手への想いが募る感じが健気で、"万智ちゃん"を応援したくなりました。

    自分枯れてるな、と思う人には是非読んでほしいです。

  • 一番好きな歌は、「自転車のカゴからわんとはみ出して なにか嬉しいセロリの葉っぱ」という歌。青春の風が吹いているような、爽やかな読後感だった。

  • 「人生はドラマチックなほうがいい」ドラマチックな脇役となる

    我が髪を三度切りたる美容師に「初めてですか」と聞かれて座る

    上の歌なんかは読んでいてドキッ、となった。こういう自己の他人から見た他者性みたいなものを掴むのが上手いなと思う。基本的には自分の人生は自分のものだけど、ふいに他人から見た自分のことを思って、何となく微妙な気持ちになる。その気持ちを上手く掴んでいるというか、何というか。

    明るい。そしてシンプルでわかりやすい。俵万智以前にも口語短歌はめちゃくちゃ存在していたらしいんだけど、この「等身大な短歌」を発明したのが偉い。特に韻文って、長年の日本文化の継承がどうたらとか、正直その衒学性みたいなものが癪に触ったりもするし、玄人しか寄せ付けない感じがなんかイヤ〜に思えたりする。それを上手く取っ払ってる。

    歌としては、助詞とか、吾とか、完全には口語とは言い切れない言葉も多分に含んでて、意外とそういう感じなんだ、って思った。伝統と新しさを上手く取り合わせている。サイコ〜。

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著者プロフィール

1987年の第1歌集《サラダ記念日》はベストセラー。歌集に《かぜのてのひら》《チョコレート革命》《プーさんの鼻》《オレがマリオ》《未来のサイズ》《アボカドの種》、評伝《牧水の恋》、エッセイ《青の国、うたの国》など。2022年、短歌の裾野を広げた功績から朝日賞を受賞。読売歌壇選者のほか、宮崎で毎年開催される高校生の「牧水・短歌甲子園」審査員もつとめる。

「2023年 『旅の人、島の人』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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