千年の愉楽 (河出文庫―BUNGEI Collection)

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著者 : 中上健次
  • 河出書房新社 (1992年10月発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (291ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309403502

千年の愉楽 (河出文庫―BUNGEI Collection)の感想・レビュー・書評

  • ネットがこんなに発達していない時代、こういう本は読者一人一人の心の中の、誰とも共有されない深い深い部分にしまわれていたのじゃないかな。
    他人の感想が聞きたいし語り合いたい気持ちもするけれど、それをしてしまえば何かがすっと手の中から飛んで行ってしまいそう。
    だからどんなに狂おしく興奮した部分があったとしても、それを感想に記すことは出来ない。
    でも、たまらない。本当に。

  • 他の方もおっしゃってるように、どことなくガルシアの『百年の孤独』を想起させるような、題名と内容。
    「高貴で穢れた血」を持つ者の生き死にを、路地唯一の産婆のオリュウノオバが追憶する物語でした。

    半蔵や三好など個々の人物とその淫蕩な人生に焦点を当てつつも、中本の一統の血筋への悲哀と諦念、そしてオリュウノオバによる生命の尊さ、清らかさの賛歌が全編に渡って貫かれている。淡々と流れるような言葉の紡ぎ方と、内と外の関係性、その三段階の視点の設定が特徴的。

    淫蕩で怠惰だけれど高貴で尊い、という矛盾を矛盾させることなく描いているのが素晴らしい、けれども繰り返し繰り返し同じ言葉で直接的に語るのは若干単純な気もする。

  • 6篇の短編集。路地の若者達の人生を産婆の目を通して眺める視点。時代を超越し、時間の経過をかき乱す文体。読み進むうちに脳内に浮かぶビジュアルが印象的。売り飛ばさずに本棚に残す本。

  • 2015年9月20日に開催された第1回ビブリオバトル全国大会inいこまで発表された本です。予選E会場発表本。

  • ガルシア・マルケス。
    青山真治。
    草枕。
    国文学のひとつの臨界点。

  • 性と暴力のみで、断念。暗さと重みをひきよせるような、わたしの時間を停滞させるような書き方

  • 初の中上健次さんの作品読了。

    熊野のを舞台に
    路地(部落)で唯一の産婆、オリュウノオバが語りかける不吉な血の宿命を持つ6人の若者たちの物語。

    オリュウノオバの存在に
    神の域を垣間見た。


    難解ではあるが、美しく生と死を全うしたいと思った。

  • 生と死、エロスとタナトス、あの世とこの世、文字と声、文学と物語…それらの混淆と対峙。10年ぶりに読んだけど、改めて名作。

  • 中上健次は初めて読んだ。語りかけの連続という特殊な文体がその場に居合わせるかのような臨場感を生み出していて、初めての感覚。生・死・食・性などの描写が生々しく、ありえないはずだが、こんな世界もあるんだろうとなぜか納得してしまう。不思議だ。

  • 短編集。6編を収録。
    これまで中上健次を読んでいればお馴染みの登場人物による、濃密な作品世界が繰り広げられる。
    各々の作品で描かれる世界は荒々しくもあり、また泥臭くもあるが、何処か美しい。生、性、そして血が絡み合う作品世界からは離れがたいものがあった。

  • 『100年の孤独』の10倍!というなんとも挑戦的なタイトル。
    粗くて緻密で濃密な語り。
    生々しい肉体を持っているんだけど、同時に神話上の存在でもあるようなオリュウノオバの圧倒的な存在感。

  • [ 内容 ]
    熊野の山々の迫る紀州南端の地を舞台に、高貴で不吉な血の宿命を分つ若者たち―色事師、荒くれ、夜盗、ヤクザら―の生と死を、神話的世界を通して過去・現在・未来に自在にうつし出し、新しい物語文学の誕生と謳われる名作。

    [ 目次 ]


    [ 問題提起 ]


    [ 結論 ]


    [ コメント ]


    [ 読了した日 ]

  • 城下町と他所の中間に位置する閉鎖的空間である「路地」に渦巻く生と死、入り乱れる時間と場所、それを語るオリュウノオバと、罪を背負った中本の血統の物語。
    あわいの空間としての路地がオリュウノオバの記憶によって紡がれることで生まれて、床に伏すオリュウノオバの意識が肉体から解放されることによって路地も解体されていく。オリュウノオバは路地の記憶であると共に路地であり、根の生えた花であり、移り変わる季節を疎ましく思いながらそれぞれを愛している。移り変わる花を香りとして感じながら、オリュウノオバは鳥である中本の血の訪れを待つ。路地における全ての命の母であるオリュウノオバは、路地の母であり、路地と共に解体される。
    被差別部落である路地、生まれながらに人生が決定される封建社会的な中本の血統、これらから見るに、非近代的な日本の物語である。花や鳥などのシンボルが効果的に使われていること、「桃色」と「桜色」、「愉しい」と「楽しい」の表記の違いにも注目したい。

  • 夏芙蓉の甘い薫りが漂うと金色の鳥が甘い蜜を吸いに来る。熊野の山は烏天狗が舞い、天女が羽を休めにくる。龍は天へと昇っていく。鶯の声、梟の声が聞こえ銀色の川が流れる。蓮の池の上につくられた浄土は路地という。四民平等に憤り竹槍で刺されるは落人狩りをした土民たちの再現か。千年もの長きに渡って受け継がれてきた澱んだ血の所為か先祖が歌舞音曲に狂った報いの為の仏罰か。歌舞伎役者のような男振りに淫蕩、盗人は澱んだ血の為せる業。百年も千年も生きていたオバ。産婆と毛坊主の生と死を司る夫婦。非業の死を遂げる男衆たち。

    紀州熊野の山村を舞台にした連作短篇集。ゾラのルーゴンマッカール家の遺伝を彷彿とさせる中本の血、マルケスのマコンドのような生者と死者、怪異が一体となった混沌とした世界観、有島武郎の『カインの末裔』のような土臭さ。面白い。中上健次は初読みだったが気に入ったので「紀州サーガ」をもっと読みたい。


    〈どうせこの世がうたかたの夢で自分一人どこまでも自由だと思っても御釈迦様の手のひらに乗っているものなら何をやって暮らしてもよいと言いたかった。〉〈生きながらえ増え続けボウフラの如く生命がわきつづける事が慈悲なら空蝉のように生れて声をかぎりに鳴いて消える生命も慈悲のたまものだった。〉

  • 日本人ならこいつだ!!と久々に思えた傑作。
    この濃さがたまらなくよい。
    『カラマーゾフ~』一族の濃さも最高lvだが負けてない。
    路地という閉鎖空間ももちろんこの濃度をあげているが。
    人物は粗野なのに文体は精選、
    内容は血なまぐさいのに視点は常に冷徹。
    この対比が、切り詰めた空気を作っている。
    部落地区の話ではあるのだが
    (外界との交わりから)相対的に差別が描かれる、のではないので、被差別がテーマではない。
    外界との比較なしでここまで濃い地縁を描いているのがまたすごい。

  • ものすごく乱暴かつ陳腐に言い表すと、「生」と「性」が濃密に絡み合っている作品。通称「路地」を舞台にした連作短篇集ですが、<各篇が小宇宙、一冊で大宇宙>というより、<各編が大宇宙、一冊で無限大>という感じでしょうか。自分にはスケールが大きすぎて理解できていないことが理解できるので、評価は曖昧な★★★

  • ★★★
    山にへばり付くような土地作られた”路地”は、昔は町への出入りも制限され、男たちは革をなめしたり土木仕事をするしかない集落だ。
    オリュウノオバはその路地のただ一人の産婆で住民の親世代は全員取り上げた。夫だった礼如さんは寺の和尚がいなくなってから在宅の坊主になった。坊主と産婆の夫婦である二人は、路地の住人の人生の出口と入口を見てきた。
    礼如さんは中本家の血統。浄く澱んだ血を持つ中本の男たちは女を腰から落とすようないい男揃いで享楽に生き動物のように女と交り、決して長生きできない。
    今は年を取り寝たきりとなったオリュウノオバはその床で中本の男たちの人生を想う。
    中本の中でも格段の男振りを誇る半蔵、
    体中から炎を吹き毛燃えるように生きていけないなら首をくくって死んだほうがましとヒロポンを打ち逢引相手の夫を殺す三好、
    まるで異形との間に生まれたかのような文彦、
    南米に移住して新天地を夢見るオリエントの康、
    盗人生活から南米に渡り銀の幻影を見る新一郎、
    北海道で路地と同じような境遇のアイヌ集落で発起しようとする達男。

    寝たきりのオリュウノオバの意識の漂う時間は、過去も未来もない交ぜで、路地の過去千年を見てきて、そしてこの先の千年も見るだろう。
    オリュウノオバの道徳観も、人が殺されればその分産んで増やせばいい、生まれたらみんな仏だ、というもの。中本の男たちが死んでも、自分が取り上げた子が死んだと嘆くのではなく、その死により中本の罪が清められたと拝む。

    濃厚かつ圧倒的で吸引力のある作品です。
    ★★★

    巻末の吉本隆明氏、江藤淳氏の解説が、論文のようで世界背景を解説してくれています。

    作中の現実的出来事はかなり過酷だが、オリュウノオバの漂う意識という語り口で、同じ文章内でも複数の語り手からの目線で語られるために、幻想的でもあります。

    作品内で圧倒的な文章力を見せつけられた二つの場面。長すぎて「引用」に入らないので書き出してみる。

    (二つ目はネタバレのため、嫌な人は避けてください)

     P127
    ≪オリュウノオバは眼を閉じ、風の音に耳を傾けてさながら自分の耳が舞い上がった葉のように風にのって遠くどこまでも果てしなく浮いたまま飛んでいくのだと思った。見るもの聴くもの、すべてがうれしかった。雑木の繁みの脇についた道をたどり木もれ陽の射す繁みを抜け切ると路地の山の端に出て、さらにそこをふわふわと霊魂のようになって木の幹がつややかに光ればなんだろうと触れ、草の葉がしなりかさかさと音が立てば廻り込んでみる。それはバッタがぴょんととび乗ったせいだと分かって、霊魂になっても悪戯者のオリュウノオバはひょいと手をのばしてバッタの触角をつかんでやる。風が吹いたわけでもないし他の危害を加える昆虫が来たわけでもないのに触覚に触れるものがあるとバッタは思い、危なかしい事は起こりそうにはないがとりあえずひとまず逃げておこうとぴょんとひと飛びするのを追い、さらに先に行くのだった。そこから朝には茜、昼には翡翠、夕方には葡萄の汁をたらした晴衣の帯のような海まではひと飛びで、田伝いに行って小高い丘から防風に植えた松林までえもいわれぬ美しい木々の緑の中をオリュウノオバは山奥から海に塩をなめに来た一匹の小さな白い獣のように駆け抜けて浜に立ってみて潮風を受け、ひととき霊魂になって老いさらばえ身動きのつかない体から抜け出る事がどんなに楽しいかと思い、霊魂のオリュウノオバは路地の山の中腹で床に臥ったままのオリュウノオバに、
    「オリュウよ、よう齢取ったねえ」とつぶやきわらうのだった。「寝てばっかしで、体痛い事ないんこ?」
    「痛い事ないよ」
    オリュウノオバは霊魂のオリュウノオバにむかって、いつも床に臥ったままになってから身辺の世話や... 続きを読む

  • なんで課題図書でもない本のレビューをアップしたか、から説明しなければなりませんね。
    今回僕の課題図書だったのは「日輪の翼 中上健次著」です。その日輪の翼の様々なレビューを読むに当たり、対比として必ずでてきたのがこの「千年の愉楽」でした。
    どんなもんかと思い、読んで見ました。

    簡単に概略だけ。
    この本は、6篇の短編からなります。オリュウノオバ(ここは日輪の翼と変わらずカタカナ)という、路地に住むすべての若い衆をその手で世に出した、という産婆さんを軸に、路地で起こった出来事を綴った短編集です。

    特筆すべきは、ここでいう「路地」とは、「被差別部落」であること。そしてそれぞれの短編の主人公はもれなく「中本の一統」と呼ばれる、夭折(若くして死ぬこと)を運命付けられた血筋であること、です。
    被差別部落であるが故に、という言い方はしたくないけれど、その独特な世界のなかで生きる登場人物たちは、とても魅力的で、危うく、儚くすらありました。

    まー、読みにくいのはこれも変わりませんね。どちらかというと、千年の愉楽の方が読みやすかったかな。会話があまりないので方言がそれほど気にならなかったのがでかいですね。ただ、中上健次という人はとにかく語彙が多いので、意味がわからない言葉がたくさんありました。

    なんでこんなに読みにくい上に、わざわざ課題図書でもない本を買って読んだのか。
    それは、日輪の翼にしろ千年の愉楽にしろ、登場人物があまりにも僕とは違う世界で生きていて、それがとても魅力的で、「こんな生活はしたくない」と思いながらも心の何処かで「うらやましい」という気持ちがあったからかもしれません。

    レビューで書かれるように、日輪の翼と千年の愉楽が対比されるのは、千年の愉楽が「路地の話」であるのに対し、日輪の翼が「路地をトラックに詰め込んで全国を渡り歩く話」であるからです。どちらも「被差別部落」という歴史的な背景を背負って生きる人々が、その独特な世界を展開する話です。本文中では、直接的にはほとんど語られませんが、日本の暗部を表現した文章には、考えさせられるものがありました。

    相変わらず性描写は強いです。中学生にはオススメしません。が、高校生には読んでもらいたいですね。
    あと、日輪の翼より先に、千年の愉楽を読むことをオススメします。千年の愉楽が比較的閉塞された空間での話であるのに対し、日輪の翼はその空間が外にでていく話なので、まずその世界観を感じてから、の方が読んでいて楽しいと思います。
    千年の愉楽のほうがわかりやすいですしね。

    よかったら読んでみてください。

    あと、蛇足ですが、どちらも映画化されているようです。機会があったら見てみようかな。

    がしかし僕レビュー書くの下手だな…
    修行しよう。

    (おつ)

  • 今まで読んだ中上健次作品の中では一番好きになりました。

    重厚で神話的な物語を生んできた(「紀州サーガ」「紀州神話」などと表現されることもあります)中上健次ですが、その中でも一番神話的な作品なのではないかと思います。

    現世とは別の、所謂「異界」でありながら、どこにでも普くその存在を感じられるような世界としての「路地」。そこで運命に導かれるように生きて死んでいく人たちをオリュウノオバは見つめ、語り伝えていきます。この「語り」の要素がこの作品に土俗性、そして神秘性を与えており、それが私達を引きつけてやみません。

    吉本隆明氏、江藤淳氏の二人による解説がすごすぎて、自分なんかが付け足す言葉など何も無いように感じられてしまいます。一般的な文庫本の解説より長めですが、この解説は絶対に読む価値があると思います。


    中上健次の文章の美しさは今更言及する必要すら感じさせないほどですが、それでも特にこの短編集の中の「天人五衰」の出だし3ページは格別です。江藤淳氏も解説の中で「絶唱」「ここには日本そのものがある、といってもよい」と述べるほどです。

  • 日本のマルケス

  • 一人の産婆の視点から見た
    野良猫のように
    生まれ死んでゆく
    路地の男たちの物語。

    短命なのは
    中本の血のせいなのか
    漢ぶりのせいなのか。

    憧れる。

    とりあえず
    短命でも良いので
    彼らのようになりたい。

  • ん。。。私にはわからなかった
    何がその血なのか。。。。その血がなんのか。。。

  • 中上ワールドに迷いこんでしまった感じ。一つの文章がとても長く、ぐるりと一回りして、主語を見失いそうになる。とても不思議な感覚。

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