暗黒のメルヘン (河出文庫 し 1-29 澁澤龍彦コレクション)

著者 :
  • 河出書房新社
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感想 : 16
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  • Amazon.co.jp ・本 (474ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309405438

感想・レビュー・書評

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  • 澁澤龍彦による国産幻想小説アンソロジー、全16編。

    1.泉鏡花「龍潭譚」
    2.坂口安吾「桜の森の満開の下」
    3.石川淳「葉桜」
    4.江戸川乱歩「押絵と旅する男」
    5.夢野久作「瓶詰の地獄」
    6.小栗虫太郎「白蟻」
    7.大坪砂男「零人」
    8.日影丈吉「猫の泉」
    9.埴谷雄高「深淵」
    10.島尾敏雄「摩天楼」
    11.安部公房「詩人の生涯」
    12.三島由紀夫「仲間」
    13.椿實「人魚紀聞」
    14.澁澤龍彦「マドンナの真珠」
    15.倉橋由美子「恋人同士」
    16.山本修雄「ウコンレオラ」

    既読作も多々あるが、
    15.辺りが気になったので購入、読了。
    以下、今回初めて読んだ中で印象深かった作品について。

    ■泉鏡花「龍潭譚」
     千里少年は一人で遊びに出て道に迷い、
     途方に暮れたところを見知らぬ美しい女に助けられる。
     翌日、美女の下男のような老人が家まで送ってくれたが、
     保護者である叔父らに神隠しや狐憑きを疑われ……。
     ※母を亡くした少年の清楚で優しい姉と、
      偶然出会った謎の妖艶な美女。
      二人の女性は一人の母親の
      分裂したイメージのよう(おっぱい対決ww!!)。
      少年の心は彼岸へ渡った母の化身に
      引き寄せられるが、姉が彼を現実に繋ぎ止める。

    ■石川淳「葉桜」
     窮乏した絵描きが杜撰な地図を頼りに
     遠縁の別荘へ金の無心に向かうと……。
     ※序盤の麗らかで、のほほんとした雰囲気が、
      ハタと一転する瞬間が恐ろしい。
      息の長い――ノンブレス(?)な――文章に
      うっとり。

    ■倉橋由美子「恋人同士」
     一組の男女と(多分)二匹の仔猫たちによる
     四角関係。

    ところで、中井英夫作品が選ばれていないが、
    その頃ケンカでもしていたのか(笑)?

  • 澁澤編集のアンソロジーですね。軽く全作品の感想など。
    ◆泉鏡花「龍潭譚」
     文章はこの翌年に書かれた「高野聖」に比べれば格段に硬いのですが、私は高野聖より此方の方が好みです。しかし鏡花の女性の趣味ってわかりやすい(笑)しかしまあ色彩感覚の鋭い作家です。初っ端から躑躅の色合いとかが眼に焼きつくようでした。

    ◆坂口安吾「桜の森の満開の下」
     流れより、桜の凄艶さに気を取られていました。桜の存在感は人間と幽霊の間みたいな生々しさがあると思います。有名な作品ですが私はそこまで嵌まりませんでした。

    ◆石川淳「山桜」
     文体は読みやすくてそれなりに流れも楽しめました。幻想文学かと言われるとちょっと迷いますが。主人公が置かれた状況に覚えがある人は絶対読みたくないだろうなあ。

    ◆江戸川乱歩「押絵と旅する男」
     割に好みでした。ただ、最後の羞恥と言うものの感覚がいまいち掴めません。私が若いからそう思うのかもしれませんが。最初の掴みが巧い。

    ◆夢野久作「瓶詰めの地獄」
     この人タイトルに地獄つけるの好きだね(笑)繊細さと少女趣味とむさくるしさ(失礼)が同居した、不思議な文体の作家です。つくりとしてはだいぶ面白く読めました。ただ、ネタとして近親相姦は今ではありきたりに見えるかも。

    ◆小栗虫太郎「白蟻」
     推理の展開はちょっと微妙かなあ……と思いつつも、発想の面白さでひっぱってくれたように思います。最初の方がうざったいような描写であんまり文章は好みではありませんでしたが。

    ◆大坪砂男「零人」
     鏡花なんかに比べると、同じ色を描いても鮮烈なイメージは無いように思いました。途中までは面白く読んでいましたが、最後は何か投げちゃったのかと……もっとぞくっとさせて欲しかった。

    ◆日影丈吉「猫の泉」
     猫が苦手な人のほうが面白いかも。灰青猫大好きな私としては猫ばっか気にしてました(をい)オチを楽しむものじゃないのかも知れませんが、え? そういう終わり? って気が。

    ◆埴谷雄高「深淵」
     む、難しすぎる……学生運動なんかの盛んな時代ならもっと身近だったかもしれない政治的抽象論。わかったような、わからんような。三半規管の話で、浮袋の病気で逆さまに泳ぐ金魚を思い出しました。

    ◆島尾敏雄「摩天楼」
     掴みは一番好みかも。この発想はちょっと盗んでみたい。夢っぽさで言えば乱歩が上か? オチは正直理解しにくかった……

    ◆三島由紀夫「仲間」
     三島、恥ずかしながら殆ど読んでいないのですが、この人こんな話も書くんだなあ、と思ってしまいました。書き散らした感は好みの分かれるところ。私は好きでも嫌いでもないな。

    ◆椿実「人魚紀聞」
     人魚の描写は、今まで読んだ人魚を扱った作品の中では一番インパクトがありました。自分の感性と合ったのか。謎の女がちょっと現実から乖離した描写で、入り込むのは難しかった。

    ◆澁澤龍彦「マドンナの真珠」
     どうも読み易いなあと思っていたら澁澤でした。普通なようでひねくれた発想は好き。「赤道が見えた」発言には最初びびりました。見張り番が風化していくのが本編よりも印象が強かった。

    ◆倉橋由美子「恋人同士」
     「大人の為の残酷童話」を書いたひとだと後から気づきました。結構面白かったです。最初猫視点だってことがわからずに混乱しましたが。

    ◆山本修雄「ウコンレオラ」
     題名、一回聞いたら忘れない。妙に印象に残った。SFっぽさは必要だったのかしらん? 寧ろ哲学神学の話は普通にして欲しかった気もします。


    全体を通して、一人を除いて全員男性作家だからかもしれませんが、「女」「少女」が観念的概念的抽象的な存在で、人間らしさがあまりないように思います。逆に男性主人公視点は人間臭くて入り込みやすい作品が多いかと。発想が「男/女」が基本だからか、訳の分からないものとしての女性像が際立ったのかも。逆に同性同士の理解が前提として流れているとも読めます。ま、本当に理解できているのかは置いておくとしても……

  • 澁澤龍彦が選んだ16編の中短編集。
    怪奇的なものや少しミステリーっぽいもの。
    ファンタジーまでいろいろ楽しめる一冊でした。

    龍漂譚 泉鏡花
    桜の森の満開の下 坂口安吾
    山桜 石川淳
    押絵と旅する男 江戸川乱歩
    瓶詰めの地獄 夢野久作
    白蟻 小栗虫太郎
    零人 大坪砂男
    猫の泉 日影丈吉
    深淵 埴谷雄高
    摩天楼 島尾敏雄
    詩人の生涯 阿部公房
    仲間 三島由紀夫
    人魚紀聞 椿賽
    マドンナの真珠 澁澤龍彦
    恋人同士 倉橋由美子
    ウコンレオラ 山本修雄

  • 澁澤龍彦編集の『日本版怪奇小説傑作集』。
    16篇中ほとんどが癖のある…というか、もってまわった言い回しばかりのお話で、えらく読むのに時間がかかってしまった。澁澤さん自身は、それを称して「人工的なスタイル」と言っているんだけど、ちょいと仰々しいかなぁ。
    面白かったのは、『桜の森の満開の下』(坂口安吾)、『押絵と旅する男』(江戸川乱歩)、『瓶詰の地獄』(夢野久作)。…前半ばっかじゃないか。

  • 幻想文学の真髄がギュッと詰まった一冊。

    【収録】
    龍潭譚 / 泉鏡花著
    桜の森の満開の下 / 坂口安吾著
    山桜 / 石川淳著
    押絵と旅する男 / 江戸川乱歩著
    瓶詰の地獄 / 夢野久作著
    白蟻 / 小栗虫太郎著
    零人 / 大坪砂男著
    猫の泉 / 日影丈吉著
    深淵 / 埴谷雄高著
    摩天楼 / 島尾敏雄著
    詩人の生涯 / 安部公房著
    仲間 / 三島由紀夫著
    人魚紀聞 / 椿實著
    マドンナの真珠 / 澁澤龍彦著
    恋人同士 / 倉橋由美子著
    ウコンレオラ / 山本修雄著

  • 恋人同士

    桜の森の満開の下

    読了。

  • 泉鏡花、坂口安吾、石川淳、江戸川乱歩、夢野久作、小栗虫太郎、大坪砂男、日影丈吉、埴谷雄高、島尾敏雄、安部公房、三島由紀夫、椿実、澁澤龍彦、倉橋由美子、山本修雄。 なるほど納得の澁澤セレクトです。 倉橋由美子目当てでしたが島尾敏雄「摩天楼」の迷宮とパースペクティブの交錯感にやられました。いずれにせよどれも暗黒を彷徨う恍惚の作品群です。

  • 11/13 読了。
    椿實「人魚紀聞」は山田章博「人魚變生」とか谷崎「人魚の嘆き」とか、山尾悠子「支那の吸血鬼」を思い出した。

  • ※収録作品
    「龍潭譚」種村季弘
    「桜の森の満開の下」坂口安吾
    「山桜」石川淳
    「押絵と旅する男」江戸川乱歩
    「瓶詰の地獄」夢野久作
    「白蟻」小栗虫太郎
    「零人」大坪砂男
    「猫の泉」日影丈吉
    「深淵」埴谷雄高
    「摩天楼」島尾敏雄
    「詩人の生涯」安部公房
    「仲間」三島由紀夫
    「人魚紀聞」椿實
    「マドンナの真珠」澁澤龍彦
    「恋人同士」倉橋由美子
    「ウコンレオラ」山本修雄

  • これだけの作品が収録されているので、好き嫌いはどうしてもあるが、総じてまずまず満足できた。

    <収録作家>
    泉鏡花、坂口安吾、石川淳、江戸川乱歩、夢野久作、小栗虫太郎、大坪砂男、日影丈吉、埴谷雄高、島尾敏雄、安部公房、三島由紀夫、椿實、澁澤龍彦、倉橋由美子、山本修雄

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著者プロフィール

1928年、東京に生まれる。東京大学フランス文学科を卒業後、マルキ・ド・サドの著作を日本に紹介。また「石の夢」「A・キルヒャーと遊戯機械の発明」「姉の力」などのエッセイで、キルヒャーの不可思議な世界にいち早く注目。その数多くの著作は『澁澤龍彦集成』『澁澤龍彦コレクション』(河出文庫)を中心にまとめられている。1987年没。

「2023年 『キルヒャーの世界図鑑』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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