小春日和: インディアン・サマー (河出文庫 か 9-1 文藝COLLECTION)

著者 :
  • 河出書房新社
3.71
  • (39)
  • (42)
  • (62)
  • (8)
  • (2)
本棚登録 : 555
感想 : 61
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (215ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309405711

作品紹介・あらすじ

桃子は大学に入りたての十九歳。小説家のおばさんのマンションに同居中。口うるさいおふくろや、同性の愛人と暮らすキザな父親にもめげず、親友の花子とあたしの長閑な〈少女小説〉は、幸福な結末を迎えるか?

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 私の趣味ではない、とは思ったけれど、これはこれで読むに値する本だ。
    作風が好きな人はきっといるだろう。結構クスッと笑える部分がよかった。

  • 『カストロの尻』前哨戦として購入。
    底本が1988年刊行。私、何歳よ。

    大学進学と共に、小説家のおばさんの家で同居することになった桃子。
    お互いに気持ち良く生活出来ているとは言えないものの、桃子の大学生活を聴くことで、おばさんの小説やエッセイのテーマに変化が現れる。
    この小説やエッセイがそのまま挿入されているのも、この作品の面白さで。
    桃子や花子といった少女たちと。
    おばさんや母が過ぎてきた少女時代と、彼女たちの描く少女像は、それぞれ微妙にズレがあったりする。

    桃子がメンチカツを作っていると、弟が欲しいと言い、桃子は自分で作れと突き放す。
    ところが、母は弟には作れないといい、一緒に作ってやるよう(それどころか桃子が作り上げた分を先に弟に渡そうと)命じる。
    それを桃子は憤慨し、弟が降参する。

    この関係性。じわっと面白さがくる。
    過渡期と言えるのか分からないけれど、それぞれが見ている時代の枠組みと、そこに拘泥するまいと気取る登場人物達が、また大きな枠に入れられているような。

    多分、順番は違うと思うのだけど、手に入る本が限られているので読めるものから読んでいこうと思う。

  • 「目白4部作」の3作目。これら一連の小説群には、やはり目白というリージョナルなトポスが必要だったのだろう。本編は猫のタマと、夏之、及び紅梅荘などを通して前作との連続性を持っている。物語内の第2の語り手(書き手)である「おばさん」も前作に顔を出していた。また、本編は作者によれば「少女小説」ということなのだ。とはいっても、主人公の桃子は小説中で既に19歳から20歳であり、少女というにはいささか薹が立っていたりするのだが、著者にとってそんなことは重々承知の上なのだろう。これまた、小説を読む楽しみに満ちた小説だ。

  • 「快適生活研究」を読んで、さかのぼって登場人物がだぶる作品を読んでいます。
    金井さん、外れないですねー!

    大学1年の桃子と、友達になった花子、桃子の叔母のちえこ。
    3人の女性の出会いと~何気なくリアルな生活。

    大学に入学した桃子は、母の妹のちえこの元で暮らすことになります。
    東京の大学に通うのに、女の子を一人暮らしさせるわけにはいかないと、母が決めてしまったのです。
    桃子の母のことをコンサバという叔母。
    母が保守的なのは事実で、家業の旅館を継いでいる長女だからか。桃子の弟が上京したら、一緒に住んで弟の面倒を見るものと決め込んでいるのだから。
    ちえことは気が合う桃子ですが、やはり突然一緒に生活するのには気詰まりな面も出てきて当然でしょう。厄介者なのではないかと距離感を考える桃子。

    ちえこは作家で、友達には華やかな生活を想像されて、羨ましがられます。
    更年期の上に中高年性ウツ症だからというおばさんは、ほとんどいつもゴロ寝しているのだが。
    日常生活の中で唐突に締め切りに苦しむ様子が、傍目にもわかる次期があった後、彼女が書いた作品が載っています。
    桃子との生活や最近の経験がどこかしら反映しているのが、また微妙に面白い。
    ちえこが自分も若かった頃を振り返ったり。

    桃子の両親は離婚していて、父親は東京にいる。
    フラワー・アーチストと同居しているということだったが、電話では素人とは思われない声。会ってみたら男性だった…
    などという世界が変わるような出来事もありつつ。…いや、でも別に世界は変わらない?

    ちえこは1ヶ月か2ヶ月と言って海外旅行に出かけ、桃子の母は無責任だと怒る。
    桃子はすっかりゴロ寝にはまって最初は家に引きこもる。
    ちえこは意外にも、誰かと一緒らしい…

    心地良い女の子の世界。
    作者なりの「少女小説」を書こうとしたものらしく、少女小説の基本を押さえた部分と、わざと外した部分と。
    親元を離れて叔母の元へ、って確かにあるパターンですね。
    そして、親友が出来て!
    中学生の男の子のように見える小柄な花子が、かわいい。
    初めてのことにわくわくしたり、スランプのような時期もあり、ちょこっと成長する経験もあり。

    おかしな経験を、あれこれ喋りまくる口調でどんどん描かれます。
    「快適生活研究」ほど全編爆笑ものではないけれど。
    共感と微苦笑と~時には吹き出します。
    下宿して、友達とえんえん長話をしていた学生時代を思い出しました。
    というか~ゴロ寝しながら読んだので、ちえこと桃子のゴロ寝にすっかりシンクロしておりましたよ。

    著者は1947年、高崎生まれ。
    67年、「愛の生活」で小説家デビュー。
    この作品は88年、単行本化。

  • 乙女の自覚を持つ人々と「好きな作家は誰か」という話をする時、かならず名前が出るのが金井美恵子という作家です。中でも乙女支持率ナンバーワンなのが、大学生になったばかりの少女たちを主人公にしたこの作品です。
     舞台は華やかなバブル経済真っ只中の東京、といっても、主人公の桃子と花子は、当時人気のあったトレンディドラマに憧れたりなどしません。映画や読書を楽しんだり、一緒に住む小説家のおばさんとビールを飲んだり、親や同級生を意地悪な目線で批評したり。そんな二人の生活と、小説家のおばさんが書いたエッセイや短編が、とびきり読み心地のいい文章で綴られていきます。
     読みながら、桃子と花子ってちょっと自分みたい、と乙女は思ったりします。「乙女」なんて言葉を使う人は、あまりいなかった時代の桃子たちからは、なんだそれ、と迷惑がられてしまうかもしれませんけれど。

  • 「BOOKSのんべえ」を読んで、気になって購入!

    大学に通うため、叔母さんの家へ居候するところから始まる桃子さんのおしゃべりをずっと聞いているような本。
    最初は、一文が長くて読むのに戸惑いましたが、慣れてくると絶妙な語り口調がクセになります笑
    犬のビヤホールのまねの件は声に出して笑いました笑

    桃子さんや親友の花子さんの家庭環境にしばしばスポットが当たりますが、個人的には酒好きな2人がシーンごとに色んなお酒を飲み交わす描写が好き!
    しかもあんだけ飲んでいたのに、桃子さんが成人するのは話の後半という…

    80年代の大学生活ってこんな感じだったのかな〜
    今とは少し違う街や当時の流行に思いを馳せて、ノスタルジックな雰囲気を味わえました。
    家でお酒を飲みながら寝転がって読むと、なお物語の世界に浸れる気がします笑

  • 恥ずかしながら、聞いたことがある程度の金井美恵子。もちろん、小春日和について何の知識もなく、何となく本屋で手にして、何となく読み始めた。読んですぐにバブルの頃の大学生の話、ということは理解した。しかも目白に住んでいるのか。時代は違えど、私にもわずかながら分かる地域。なになに、なかなか面白い魅力的な登場人物たちが次から次へと出てくるぞ。バブルだからか、今読んでも何やら華やかな、今となっては懐かしい感じの華やかさ。そして、そんな華やかさと不釣り合いなほどの、知的な会話で繰り広げられ、唐突におばさんのエッセイか何かが入ってきたりして、思ってたよりも自由で愉快な小説。テイストは違うけど、るきさんと似た雰囲気を感じ、楽しい気分で読みました。

  • 何度読んでも楽しくて、嬉しくなってしまう。桃花コンビと一緒に遊び回ったり、おばさんとおしゃべりをしたり、意味もなく笑って、〈淡いコハク色の泡立つシャンパンのグラスを、ろうそくの炎にかざして眺めながら、こうやって、シャンパンを飲みながらなんとなく、ぼんやり一生がおくれたらなあ〉などと考えみたり、〈グウグウ、グウグウ、十六時間も〉眠れてしまう、〈自己充足的にうとうと〉するばかりの日々を送ってみたりと、『小春日和 インディアン・サマー』を読むことは、本当に楽しいことなのだ。けれど当然、それはただ楽しいだけではなくて、〈あんたの恥はあたしの恥的家族構造〉の厄介さ、子どもに対する他者性をまったく獲得していない母親に苛立ちうんざりとする感覚や、父親とのずれと言うか絶望的な気の合わなさのようなものにまつわる記憶を共感とともに呼び覚まされてげんなりとしたり、何もかもが億劫で鬱々と〈世界と自分との間に一枚薄い皮膜が張りめぐらされているような〉〈物や人間の存在感が希薄になるというか、外界との関係が一種ブカブカしたものになって〉いる感覚を生き直して憂鬱に沈み込んだり、或いは〈五階の南向きの窓辺で寝そべって〉窓いっぱいにひろがる〈鰯雲の浮んだ晴れあがった秋空〉に〈なんとも気持良くうとうとして、頭がからっぽ〉になって〈別に、何もいい事なんかないのに、自然と口もとに笑いがこみあげて来て、あーあ、と大きく伸びをして、床の上でからだをゴロゴロと回転させたりする〉怠惰な充足を思い出して笑ったり、桃花が自転車で走った〈遅咲きのツル薔薇とクチナシとオシロイ花の匂いが人気のない通りに充満〉する〈気持の良く湿った夜〉と二人の笑いを体験すること、映画の趣味(エリック・ロメールの試写状や二人が見に行く『旅愁』や花子が『ミツバチのささやき』よりも『ラ・パロマ』の方が好きだと言って黒沢清のインタヴューを持ち出す辺りとか映画『ロリータ』に対する印象〈キューブリックの感じじゃないんだよね〉、などなど)細々とした物事の好みや価値判断で、桃子だけでなく花子までもが金井美恵子曰く〈私の血を幾分かは受けついでいる〉ことを実感することで、更には〈おばさん〉が原稿を伊東屋で買っていることや、フラ・アンジェリコの絵の絵はがきを送ってくること、〈イキソソー〉しているときの原因であるとかの細部、間に挿入されているそのエッセイと短篇はもちろん、読むことで、これまでの金井美恵子作品の読書体験の多くが蘇って来て、思い出すことの快楽、記憶の歓びと言うべきようなもので満たされる、と言ったすべてを含め、『小春日和 インディアンサマー』を読むことは、大変官能的な体験でもあるのだ。歓びや気持の良さや笑いなどと言った快だけでなく、不快さ、嫌悪や気怠さや疲れやうっとうしさや憂鬱や不安をも含み、大変に楽しく、大変に官能的な体験であるのだ。

    金井美恵子、と言うか、桃子の〈おばさん〉は、ロラン・バルトの〈モード雑誌の引用の言葉〉から密やかな〈バルトの好みや声や息づかい〉を聞き取る。〈バルトは、まるで布地に触りながら、それを歓ばし気で繊細な、しかしバルト的な大胆さで裁断し縫いあわせているかのように、見えてしまうのだ。〉…なぜバルトの『明るい部屋』が好きなのかと言えば、〈それがどこかで読んだ本のような気がするからで、それをどこで読んだかというと、かつて私自身の書いた本のなかでだった〉と明かし、自らの「窓」とバルトの文章を並べて引用してみせもする、この「テクストと布地(テクスチュアー)」が最も自己批評的な文章、確かに作品の一部でありながら、この作品(だけではないけれど)の自己批評を最も兼ねた文章であるような気がしていて、かつ、『小春日和 インディアン・サマー』の、選ばれて積み重ねあわされて行く細部の手触りや感触や実感の官能(憂鬱や既視感や不安や物悲しさを含む)と言うべき部分の多くを引き受けるかのような(その官能の在り処と言うか、それらがどういった類のものであるのかを示すような?)文章だと思う。

  • 著者のとっかかりとして、読み易い一冊。
    物語の筋としては大した起伏はないんだけど、背後にある圧倒的な知識や教養をうっすら(うっすらがポイント)感じられる。

  • 大学に入りたての主人公・桃子の、半分愚痴まじりのような気だるい口調の一人語りにグイグイと引き込まれた。
    ちょっとクセがある登場人物ばかりだけど、言ってしまえばどうってことのない、特に大きな事件が起こるでもない日常が綴られる。
    でも、この日常がずっと続くわけではない。
    そんな予感をうっすらとまといながら、若い桃子と花子がモラトリアムを満喫している様子を見ていると、まさしく小春日和の日に昼寝をしているような気持ちになる。

    ただ、ところどころに挿入されるおばさんが書いた小説やエッセイが、長閑な日常の中の不思議なアクセントになっている。
    桃子を含めたおばさんの周りの日常が、おばさんのテキストには反映されている。
    というか、そもそも桃子達の日常も作者・金井美恵子が書いたテキストである。
    そのことを思い出して、今自分が読んでいるのは一体何なんだ?と一瞬クラっとするような感覚に陥る。それが楽しい。

    唐突に終わってしまったような印象があるラストだが、30歳になった桃子と花子を描いた続編があるとのこと!絶対読もう。

全61件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

金井美恵子
小説家。一九四七年、群馬県高崎市生まれ。六七年、「愛の生活」でデビュー、同作品で現代詩手帖賞受賞。著書に『岸辺のない海』、『プラトン的恋愛』(泉鏡花賞)、『文章教室』、『タマや』(女流文学賞)、『カストロの尻』(芸術選奨文部大臣賞)、『映画、柔らかい肌』、『愉しみはTVの彼方に』、『鼎談集 金井姉妹のマッド・ティーパーティーへようこそ』(共著)など多数。

「2023年 『迷い猫あずかってます』 で使われていた紹介文から引用しています。」

金井美恵子の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
阿部 和重
川上 弘美
ボリス ヴィアン
ポール・オースタ...
ポール オースタ...
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×