蹴りたい背中 (河出文庫)

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著者 : 綿矢りさ
  • 河出書房新社 (2007年4月5日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309408415

蹴りたい背中 (河出文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 凄まじいタイトルです。
    これが八年前に芥川賞をとったとき、どんな小説? と、まず思いました。
    しかも作者は当時大学在学中で19歳の最年少受賞。そのうえ、かわいい。女子高生にしか見えない。(受賞時の初々しい彼女はYOUTUBEで見られます)
    これではマスコミがほっときません。
    同時受賞も20歳の金原ひとみさんで、こちらのタイトルも「蛇にピアス」ですからね。
    「蹴りたい背中」と「蛇にピアス」ですよ。
    ひと昔前ならSM小説です。
    どちらも著者は若い女性なのに……。
    黒いボンテージファッションを身にまとい、しなやかな鞭を持って「さあ、跪いて足をお舐め!」という光景しか私には頭に浮かびません。
    いやはや日本の文壇も凄い時代になったものだと。
    文藝春秋なんて普段は買わないのに、八百円程度(作品と選評とインタビューだけ切り取り、あとは捨てちゃったので値段がはっきりしない)でこの二作品が読めるのですから、「持ってけ、泥棒」的なお買い得感。
    書店で思わず手が伸びちゃいました。
    だから、実際読んだのは単行本ではなく文藝春秋で、です。
    この選評がまた面白い。特に某石原知事(某じゃないっ!)とカンブリア村上のが。
    知事曰く「すべての作品の印象は(中略)軽すぎて読後に滞り残るものがほとんどない。」
    一刀両断。
    「このミステリーがすごい!」の覆面座談会発言みたい。
    これ読んで、すでにこのとき選考委員を辞任すべきだったんだと思いましたね。もう時代についていけないんだ、知事は。
    カンブリア村上氏は「これは余談だが(中略)若い女性二人の受賞で出版不況が好転するのでは、というような不毛な新聞記事が目についた。当たり前のことだが現在の出版不況は構造的なもので若い作家二人の登場でどうにかなるものではない。」
    さすがカンブリア龍村上。
    現在の日本経済事情をよく分かってらっしゃる。
    「カンブリア宮殿」の司会は伊達じゃないな、と。
    当時はまだ「カンブリア宮殿」は始まっていませんが。
    レビューなのに全く作品に関係ないことばかり書いています。

    何ゆえにこう脱線するのだろう。
    思い入れが強すぎるんだな、きっと。
    文章書いてるとそれを思い切りぶつけたくなる。
    でも実際の私は、いたって真面目でおとなしいものです。「都知事閣下のためにもらっといてやる」発言の田中慎弥さんみたいに。
    言ってみれば、車に乗った途端、人が変わったのかと思うような言動をする人がいるじゃないですか。
    さっきまでおとなしく無口だったのに、ハンドルを握ると前の車に「こら、てめえ、早く曲がれよ。信号が赤に変わっちまうだろうぐわぁ!!」と叫ぶような。
    あれは車という絶対閉鎖空間で自分が守られている安心感から出るんですね。
    前の車の運転手が恐い顔したお兄さんだとしても、叫んだってその声が聞こえるわけないから。
    で、話を戻します。
    実はこれを買った八年前、私は二作とも読まなかった。いや、読めなかった。
    先の選評があって、次に二人のインタビュー、そして最初の作品「蛇にピアス」が出てきます。
    最初の一行。
    「スプリットタンって知ってる?」
    もうここで脱落でした。
    綿矢りさ風に言えば「知ってますか? 知ってません。」てなものです。
    何故か読む気にならなかったんですね、今でも手元にあるのにまだ読んでませんが……。
    で、はい、次の人。
    「さびしさは鳴る。耳が痛くなるほど高く澄んだ鈴の音で鳴り響いて、胸を締めつけるから、その音がせめて周囲には聞こえないように、私はプリントを千切る。細長く、細長く。」
    今読むと、なんと素晴らしい文章なのだろう。
    さびしさは鳴る。
    この叙情的な響き。これだけで魅きつけられるのに。
    書棚が溢れて泣く泣く本を整理せねばならぬ羽目になり、突然現れたこの文藝春秋。
    先の芥川賞問題発言などで(そういや、これ読んでないな)と思って手に取り読み始めると、これは響きました。
    琴線に思い切り差し込んできました。
    もうそれからは一気。短いのであっという間に読了です。
    感想は、高橋源一郎じゃないけど「完璧!」。この「時代」と「日本語」に選ばれた天才。
    ほとんど読点のない読みにくい文章ながら、その読点のなさ自体が美しい日本語を醸し出しているというか。
    これ実際にこの作品でやってみると難しい。
    どこかに読点を打ちたい。でも、どこに打っても違和感が残る。
    そして、長い文章の合間に突然現れる口語。
    「てきとうな所に座る子なんて、一人もいないんだ。」
    「どこかな、何が間違ってるのかな。」
    「負けたな。」
    「ちょっと死相出てた。ちょっと死相出てた。」
    これらの言葉に全く違和感を感じないのです。
    さらに巧みな比喩。
    「そうめんのように細長く千切った紙屑」
    「味噌汁の砂が抜けきっていないあさりを噛みしめて、じゃりっときた時と回じ」
    「人間に命の電気が流れていると考えるとして、(中略)にな川の瞳は完全に停電していた。」
    こんな比喩が最初の5Pほど読んだだけでたくさん出てくるのです。もう参りました。というしかないです。
    知事は選評で「主題がそれぞれの青春にあったことは当然(中略)それにしても(中略)なんと閉塞的なものであろうか」と非難していますが、私はそう思わない。
    人間と人間の関りのなかで、普通の人と同じようにうまく接点が取れない、或いは取らない二人。
    でも、普通って何だろう。一般的って何だろう。当たり前って何だろう。
    みんながそうするから私も仲間に───などと簡単に思い切れないハツ、そしてにな川。
    本当は二人ともバーチャルではないリアルな関係を持ちたいんだ。でも安易にそうしていいのかな、と悩むんだ。
    ほんとは、ほんとは、あなたと───。
    「蹴りたい。愛しいよりも、もっと強い気持ちで」
    ここにはそれまでずっと耐えていた仄かな愛が見えます。
    何度も何度も読み返すと、この場面は感動する。
    若さゆえ傷つくのが恐い。それをずっと我慢してたんだ。
    そう思ったら、私の「はく息が震えた。」
    こんなに素晴らしい小説とは思っていなかったので、本当に読了後、はく息が震えました。
    天才だったんだね、綿矢りさ、と。
    でも、どうして八年前は読めなかったんだろう、不思議です。
    いや、ネタバレしないように、引用しつつレビュー書くのは結構難しい。
    というか、これレビューじゃないな……。

  • さびしさは鳴る。

    高校1年生の主人公は、クラスで孤立している。
    同じクラスには、もう一人、モデルに夢中の孤立した男子がいる。
    この余り者同士不思議な関係の物語。

    今更の『蹴りたい背中』です。
    綿矢りさ、5冊目。
    すっごく好きです、これ。

    高校生の女子の、満たされない想いとか、閉塞感、
    自分でどうしようも出来ない相手へのモヤモヤ。
    蹴りたくなる気持ち、わかる気がします。

    最後のシーン、
    にな川は、ハツの気持ちを受け止めたのでしょうね。
    でも、きっと、先には進まない、
    そこがいいのだと思います。

    う~ん、歯がゆい。

    さらっとした文章で、重いテーマも軽く感じさせる、
    上手いなと思います。
    さすがですね。
    上からですみません。

  • 芥川賞作品ということで硬質な作品を期待すると肩透かしを喰らうかもしれない。しかし絶妙な感情の文章表現は卓越したものがある。愛情と嫌悪が並存する言葉で表現できない感情を、19歳という感性を通して小説という手段を用いて的確に表現している。

    思春期特有の倒錯した感情、あるいは衝動といえばよいか、弱い者から弱い者へ連鎖する愛でるような暴力。人からみればそれは恋かもしれない。自分に嘘をつき喜怒哀楽を抑制する初美と、孤独に無関心なにな川への羨望と彼の性癖への嫌悪感、自己整理のつかぬ複雑性が入り混じり、「蹴る」という行動に昇華する。

    話題性が先行し文章の稚拙さは多少あるものの、小説というものを天才的な肌感覚で理解する著者の今後に期待したい。

  •  彼の背中を蹴りたい、怒られている様や痛がっている様を見たい、というのは、性的衝動なのか。それは、中二病と称されるような思春期真っ只中の年代だから、で済ませていい志向なのだろうか? 好きな子ほどいじめたくなる、と同じ感覚? なんかそれよりも少し度が過ぎているように思えるが…。

     主人公長谷川が教室で過ごす時間の描写は、とても共感できる。ここまで孤独な体験はしたことはないけれど、居心地の悪いクラスにいた時や、ほとんどシンパシーを感じない友達とのグループに属していた時は、授業と授業の間の休憩時間が苦痛だったり、毎日毎日中身のない会話をすることを内心くだらないと思っていたことなどが思い起こされた。ああいう体験は忘れられるものではない。虚しさを感じながら寝ているふりをしていたこと。内心全然楽しくないのに楽しんでいるふりをして、疲れていったこと。すごくよく分かる。
     一方で、主人公は、まわりから見たらそれは不審がられるだろう、という言動もたまにする。本人は必死に虚勢を張っていて、本人は必死だとは思っていないのか周りに必死さは伝わっていないと思っているのか、飄々としたかのような態度であるが、まわりから見るとかなり不思議な変わった子だろう。自分が学生のときにも、不思議な子、変わった子というのは何人かいたけれど、彼ら彼女らの胸の内もこんなふうだったのかな。案外その変わった発言や行動の根っこの原因は、皆が持っていた思春期特有の感覚だったのかもしれないな、と思った。

     にな川は、物語の最後、オリチャンの偶像からほんの少し解き放たれる。しかし、主人公はどうなのだろう。ずっと主人公目線で物語が進められ、にな川と種類は違えど彼女にも問題はあって、彼女もおそらくそれに気付いている。にな川がたった一歩でも現実に目を向けたように、主人公についても、自分でも気付いている自分の中の歪みと向き合うようなシーンが少しでもあったら良かったのにな。
     もしかしたら、人にやってあげたいことなんか思い浮かばない、といった直後のシーンでにな川のお見舞いに行くことが、彼女なりの一歩だったのだろうか。

  • にな川はオリチャンのファンをやってたはずだったけどいざ目の前にすると遠すぎる存在だと知る叶わない愛情、ハツはにな川が傷つくのを見たいという歪んだ愛情。どっちも不器用であり、それを切り取ることに成功してる作品だと思う。
    僕が思うに愛情の真の姿はそういうところではあるやろうけど、彼らがこの先の人生を幸せだったり上手だったりして生きていく未来が見えない。それは未だに僕も分からないこと。

  • 言葉選びがとても好きだった。五感全部を使っている文は綺麗で繊細だと思いました。ラストも好きな終わり方。

  • 主人公に共感。寂しがり屋の一人好き。疎外感。走るのも。
    会社での上司に対する同僚たちの態度が女子部員たちのようなんて思ったからか、先輩の一言にちょっとギクッとしたり。
    とかって、まだまだ自分は子供だったか。。。大人にならねば。。

  • 初めてこの小説を読んだのは中学生の時だった。
    それこそ芥川賞を取ったから読んだ、って感じだったけど、その時の自分には中々に衝撃的な作品になったことは覚えている。
    そしていま、あれから10年ばかりが経って、文庫版で再読。
    最近綿矢りさの「勝手にふるえてろ」と「かわいそうだね?」を読んだばかりだったので、「蹴りたい背中」を読み返してなんか感動した。綿矢りさはこの頃からすでに書き方が出来上がっていたんだ!と。とても好きな書き方。繊細だけど重くなくて、読みやすい。テンポもいいし、そこまで綿密に情景描写を描いてないのに、風景がちゃんと見える。ハッピーエンドってわけじゃないのに爽快感がある。すごい人だなぁ。

    ハツとにな川の独特な空気と、無意識の青くささ。人と関わらないがゆえに成長しない心。
    読んでいて苦しくなるシーンはたくさんあるけど、やっぱり好き。
    初めてこの小説を読んだときに、きっと私もこの作品に背中を蹴られたのです。その痣はいつまでも消えないし、むしろそれが愛しいし。
    もう一度読み返すことができて良かった。心のつっかえが取れた気分。

  • 読みやすかった。
    主人公も苦手だし
    にな川君も好きになれず。
    もやもやしながら読んだけど
    共感できない人達が
    でてくる小説も意外と悪くない

    にな川君の背中
    蹴り倒したい

  • 2004年の文学界を賑わせ芥川賞最年少記録を塗り替えた綿矢りささんの作品として題名こそ知ってはいたものの、あらすじも大して知らぬまま10年後の今やっと手に取り先程読了。

    読み終わって一瞬、ハツの『蹴りたい』という感情を『抱き締めたい』に置き換えるパターンを想像してみましたがやっぱりそれじゃないんでしょうね。

    そしてこの作品の最もモヤッとするのは
    この後のハツとにな川を想像しようとしても、
    そんなにハッピーな展開にはならないんだろうなってこと。
    こういう『青春小説』もなかなか面白いですね。

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"この、もの哀しく丸まった、無防備な背中を蹴りたい"長谷川初実は、陸上部の高校1年生。ある日、オリチャンというモデルの熱狂的ファンであるにな川から、彼の部屋に招待されるが…クラスの余り者同士の奇妙な関係を描き、文学史上の事件となった127万部のベストセラー。史上最年少19歳での芥川賞受賞作。

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