賤民の場所 江戸の城と川 (河出文庫)

著者 :
  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309410524

感想・レビュー・書評

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  • 徳川入府以前の江戸、四通する川の随所に城郭ができる。水運、馬事、監視などの面からも、そこは賤民の活躍する場所となる。浅草の渡来民から、太田道灌、弾左衛門まで。

  • 「江戸の城と川」塩見鮮一郎さん。多分、1992年の本と思われ。

    塩見鮮一郎さんという人は、初めて読みます。
    どうやら、70年代~80年代あたりか、に、「部落解放同盟」と共に?あるいは並行して?「旧穢多・旧非人階級の人々への差別と闘う」という社会活動?をされた学者?評論家?さんだったようですね。
    その後、どうやら歴史時代小説家になられたようです。
    (この本を一冊だけ読んだ感じで言うと、大変に失礼ながら、小説家として面白そうとはあまり思えなかったのですが...)

    かつて「えた、ひにん」と呼ばれた階級の人たちの暮しとか差別の実情とか、そういうことには鋭敏なアンテナがあるようです。
    と、いう立ち位置を踏まえながら、この本の魅力としては、まあ簡単に言うと「街道をゆく」と「ブラタモリ」の中間的な味わいです。

    本としては、地理歴史エッセイみたいなもの。

    塩見さんが、実際に歩きながら、「江戸時代以前の、現在の東京あたり」という町を、地域を、想像して妄想していきます。

    面白かったのは、

    ●関東と言えば、やっぱり平野なんですが、それに加えて「川」という視点。
    これつまり、暗渠になってしまったにしても、「川」自体は今でもある訳で。
    平野、そして川、このセットで物流や移動が成立するのは良く判るし、川に注目していくと、なんとなく現在の東京との繋がりも見えてきて面白い。

    ●浅草、浅草寺というのが、なるほどやっぱり、歴史的にもすごいんだなあ、というふむふむ感。
    鎌倉幕府を立ち上げるときに、鶴岡八幡宮を作るのに、浅草寺周辺の大工たちを呼んだ、という話しは「なるほどなあ」と思いました。
    司馬さんの「街道をゆく」で、浅草を、浅草寺をがっつり語った回とか、ないかしらん。

    というあたり。

    江戸以前の東京の歴史、という流れの中で、被差別階級の人々の、皮細工士としての役割も踏まえて独特の立ち位置も想像したりしながら語られて行きますが、
    この本の魅力としては、ソッチの話よりも、「江戸以前の東京、ぶらっと歩いて歴史散歩」という軽めの愉しみ。
    <「散歩の達人」的機能>というのも、全く恥じることなき読書の快楽だと思うので、その部門での、拾いものでした。

    (関西に5年暮らしたのですが、あっちに比べると、お江戸は、どこも混んでいる上に、建築物や場所の歴史的物語性、という意味ではやはり物足りないか...と感じていたりしたので、こういう本は基本的に大歓迎です。東京(関東)も楽しみたいですね)

  • 新書文庫

  • 何気なく新刊文庫本の棚から目を移すと、横の本棚に塩見鮮一郎という名前を見つけて、驚くと同時に懐かしさがこみ上げて来ました。

    またずいぶんと遠くまで来たものですね。
    でも、あいかわらず、少し堅すぎませんか?

    彼が、1980年代に部落解放同盟と伴走し、部落差別を激しく糾弾する活動家として活動しただけでなく、『表現の装置 来るべき言葉のために』や『都市社会と差別』などで、権力者がこの世界をいかに差別構造によって造形してきたかを暴き出すという、つまり単に差別意識や表現だけが問題なのではなく、この社会の成り立ちそのものの根底からの問題性を鋭く指摘した類まれなる思索者として存在したことを知る者としては、その後の時代小説家への転身を見届けなかったことを恥じるばかりです。

    といっても、真相は高1のある時期、部落問題に少し首を突っ込んだ際に、その著作を何冊か読んだだけというものですが。

    被差別部落はじめ在日朝鮮人・中国人やハンセン氏病患者などの差別問題は権力論としてももっとも重要な主題で、支配・被支配を明確に企図して構造的に作られたものであり、この時期、塩見鮮一郎の他にも『アジアの賎と聖』『日本の賎と聖』(共に野間宏と共著)の沖浦和光や、『われらの内なる差別』『歴史の奪還』『戦略とスタイル』の津村喬を着目して読んでいました。

    それにしても、≪来るべき言葉のために≫とは、1970年に出た畏敬する中平卓馬の写真集『来るべき言葉のために』にピッタリ符合するというか、そのまんまの引用あるいは換骨奪胎したタイトルでビックリした記憶がありますが、彼が真正面にそのことを自覚的だったかは知る由もありません。

    ええっと、この本は、徳川家康より前の、太田道灌以前の江戸、つまり中世の江戸がどういうふうに作られて来たかを、河川を中心にそれらを地形の特徴と関係づけて語られる壮大な歴史分析なのですが、聖:城郭/賎:河川という視点から、水運・馬事・監視などを一手に使役させると同時に、見事に完璧なまでに差別構造を創造して賎民制度を完成させていく過程を描いていますが、驚くことに、それを彼は実際に歩き回って自分の足でひとつひとつ確かめて書いているのです。

    お手製の古地図もふんだんに掲載されていて、最初はいくらなんでも、昔のよしみとはいえこんなマニアックな本を読む羽目になるとは、トホホ・・、と恨めしく思っていたのですが、案外けっこう、目からうろこ的でもあり、楽しく読めました。

    読んでいると、毎回かかさず見ている好きな「ブラタモリ」が、いかに表層だけしかとらえていないか、色あせて見えるのを思い知るほどでした。

  • 太田道灌以前の東京がどのような場所であったかを想像する本。地図マニアってこうやって楽しむのか、というのが見えたのもおもしろかった。荒川の話が多いので、城北に住む人は特に楽しめると思う。

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著者プロフィール

1938年岡山県生。作家。河出書房新社編集部を経て著述業。主な著書に『浅草弾左衛門』『車善七』『江戸東京を歩く 宿場』『弾左衛門の謎』『異形にされた人たち』『乞胸 江戸の辻芸人』『吉原という異界』等。

「2020年 『差別の近現代史 人権を考えなおす』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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