完本 酔郷譚 (河出文庫)

著者 :
  • 河出書房新社
4.06
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本棚登録 : 368
感想 : 25
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  • Amazon.co.jp ・本 (306ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309411484

作品紹介・あらすじ

孤高の文学者・倉橋由美子が遺した最後の連作短編集『よもつひらさか往還』と『酔郷譚』が完本になって初登場。主人公の慧君があの世とこの世を往還し、夢幻の世界で歓を尽くす。

感想・レビュー・書評

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  • 私にとって、初の倉橋由美子作品。

    すごいとは思ったが、一冊の本として読むとどうにも抵抗の方を強く感じてしまった。アンソロジーなどで、この本に収録されているうちの1、2編を取り上げられて読んでいたら、また違った印象を抱いたかもしれない。

    享楽を甘美に味わうというのは才能が必要だと思うし、実際この本の登場人物たちは次々と訪れ、また自分から赴いていく様々な「怪異」や「異郷」をとてもすんなりと味わっているように思う。その手腕は、できることなら私だっておこぼれが欲しいくらいだ。
    しかし、私はそこに、どうしても抵抗を感じてしまうのである。それでいいのか? と思ってしまうのである。

    苦しみのない世界なんて、そんなの生きているとは言えない、だとか。あるいは、こういう方々とは身分が違う、やっぱり自分は庶民なのね、だとか。そう言ってしまうのは簡単かもしれない。けれど、それだけでもないと思う。
    私がこの本を読んで思うのは、つまり、彼ら(この本の登場人物たちの、たぶんほとんどです)は、こういう生活をしていて、「自分が誰なのか」わからなくなりはしないのだろうか? ということだ。

    誰にでもなれる、どこへでも行ける、というのは素敵なことだけれど、一方で、とてつもなく恐ろしいことだとも思う。
    私はこの本に、そんなことを考えたのかもしれない。

  • 高知出身の作家さんを追う第二弾
    フィクションに浸りたくて。

    --

    途中まで臨み方が分からなくて、途中で止めようかと思ったけど冥界往還記辺りから素敵に楽しくなってきて。主人公をはじめ出てくる人物はみんな謎だけど、話が重なっていくうちに関係性がなんとなく出てくるのがいい。誰かがいないとちょっと寂しくなるくらいに。

    フィクションらしく不思議な世界観であるので、自分の中で「そんなことあるわけない」「そうあるべきでない」とストッパーがかかってしまうのが悔しく思われた。(描写は美しく、その様子をありありと想像するに十分なものだったけど。)人生経験の不足もあろうかと思いつつ、もっと自由にありたいなと思わされた。想像力というより謎を謎のままで許容する力があると、また別の楽しみ方ができるのかなと。

    裏表紙にある通り「官能的」。
    その官能的な描写から、一面的な意味しか受け取れなかった気がするのも悔しい。作者に見えているものはもっと別にあるように思われた。

    漢詩や和歌がふんだんに使われているのは(分からないものの方が多いけど)好みだった。
    能の卒塔婆小町が好きなので、コマチさんの話も好き。

    --

    バーに行きたくなる
    表紙がとても好き。持っていたい本。

  • 描かれている妖しい世界と登場人物が魅力的。漢文や古文の素養があったらもっと楽しめたかも。

  • 『大人のための残酷童話』以来だから、驚くほど久しぶりに倉橋作品を手に取りました。最後の倉橋作品で、しかも「完本」と銘打たれたタイトル。どんな作品なんだ?と開きました。

    メインタイトルだけでなく、目次に並んだ各章のタイトルが美しい。それらよりもさらに高雅な言い回しでつづられるのは、主人公が酔うて彷徨う世界の物語。小道具は連載誌のジャンルにつながって、「なるほどなるほど」な感じ。物語の枠も、倉橋作品じゃなくても割と多く見られるパターンだと思う。

    でも、今の大多数の作家さんが書いたら、全編を通じての、一枚かすみのかかった幻想的な浮遊感が出ずに、いたずらにナマなぐちゃどろが強調されてしまうかもしれない。そこを見事にかわしてしまうのは、主人公らが身につけ披露する王朝文学や西洋古典、それに漢籍の素養だと思う。そういった方面にたけた人物を評する、「文墨のたしなみがある」という言い回しが、登場人物のひとりに使われるけれど、それは結局、登場人物の皆が持っており、しかも物語自体を支配している。李白に于武陵、式子内親王…自分にそういう各界古典の素養がないことに恥ずかしくなっちゃう(苦笑)。だから、何が起こってもヘンに生々しくないし、身もふたもなくいえば、全編「昼酒で酔っぱらってやりたい放題して、はっと我に返った」、このご都合のいい物語を、すごく格調高くたおやかに引っぱっているようにも思う。逆に、物語に今風要素を加えようとしたのか、ときどき唐突にカタカナ語が登場するのが、ちょっと座りが悪いと感じた部分もあった。

    『桜花変化』の白っぽい桜色の世界の典雅さや、『髑髏小町』の設定のコミカルさをはじめ、どの章もいろんなバリエーションで楽しめて素敵だと思ったけど、個人的には『海市遊宴』のプラトニックさが一番好みかも。

    ひとつひとつの短編の分量が短くて、ある意味濃ゆい物語がさらりと切り上げられるので、悪酔いすることもなく、いい感じの酔い心地で読み終わりました。満足満足…と、この☆の数。

    ・読んでいる最中に気づいたのだが、典雅な語彙と運びが、以前読んだ長野まゆみ『左近の桜』とよく似ている。『左近―』がこの作品の雰囲気をなぞっていると考えても不思議はないと思うから、もう一度、開いて読み比べてみようかな。

    • Pipo@ひねもす縁側さん
      花鳥風月さん、お運びありがとうございます。

      実は『酔郷譚』も『よもつひらさか―』も買った記憶がないし、連載誌も購読していなかったのに、この...
      花鳥風月さん、お運びありがとうございます。

      実は『酔郷譚』も『よもつひらさか―』も買った記憶がないし、連載誌も購読していなかったのに、この中の何編かを読んだ記憶があるんです。読みながら「あれっ?」と、狐につままれたような感じでした。何かと混同しているのか、私(笑)。作品イメージとしては、吉行淳之介に芥川・中島敦をまぶした感じでしょうか。私はこういう筆致は好きですが、今ではちょっとスノッブすぎて、敷居を高く感じるかたも多いかもしれませんね。

      私も『聖闘志聖矢』は大体分かりますが、ほかのジャンプ作品にハマってたからなあ…ジャンプ作品ではありませんが、文中で引用される于武陵の『勧酒』については、高校生の時にちょっとだけ思い出があります。漢文の時間に先生が、「この詩には井伏鱒二の素晴らしい訳があるから、君たちの下手くそな訳は聞きたくありません」と、文法だけ説明してスルーされました(笑)。

      「実は、あの童話の展開と結末って衝撃的!」という内容の本って、グリム童話あたりで多かったですね。あまり調べてませんが、この本もそういった企画のひとつだったのかもしれません。今思い出すと、結構無茶でシビアな展開が面白かった印象もあるのですが、競合商品(といっていいのかどうか)の影響か、やっぱり印象が薄くて。
      2012/08/04
    • 花鳥風月さん
      Pipo_DingDongさん

      なるほど『酔郷譚』には吉行淳之介が混じるのですね。ちょっと艶っぽい感じでしょうか。

      『聖闘士星矢』も守備...
      Pipo_DingDongさん

      なるほど『酔郷譚』には吉行淳之介が混じるのですね。ちょっと艶っぽい感じでしょうか。

      『聖闘士星矢』も守備範囲でしたか!流石です。私は『キン肉マン』と『聖闘士星矢』しかわかりません。実はジャンプを購読したことがなく… そのことを周囲からよく責められていました(笑)

      『勧酒』。「サヨナラダケガ人生ダ」ですね。おそらく「君たちの下手くそな訳は聞きたくありません」はその先生がどや顔で毎年繰り出す殺し文句みたいなもんだったんでしょうね。高校ぐらいになると文学作品に妙な思い入れをもった先生とか現われ始めますね。なぜか森鴎外の「寒山拾得」を講談調でやたらに芝居がかりながら説明してくれた高校の先生のことを思い出しました(笑)
      2012/08/05
    • Pipo@ひねもす縁側さん
      花鳥風月さん:

      はい、艶っぽい感じです。「めちゃくちゃ都合よすぎる(特に後半)やん!」とツッコミ放題ですが、そこをうまくくるんでかわし...
      花鳥風月さん:

      はい、艶っぽい感じです。「めちゃくちゃ都合よすぎる(特に後半)やん!」とツッコミ放題ですが、そこをうまくくるんでかわしていると思います。

      漫画はこのごろほとんど手に取らなくなりましたが(真剣に読み出すと収拾がつかなくなるので)、たまに短めの作品を読んでます。人気作品に追いつくには、すっかり周回遅れの感じです・・・。

      高校国語の先生には、元文学青年・少女が多いですからね~(個人調べ)。ほめられたりけなされたりしながら、いろいろな作品に触れる機会をもらった感じはしますけれど。
      2012/08/06
  • 飄々としたテンポで進む怪奇譚。趣向も性交もすべてが飄々としているが、そこかしこに古の粋が隠されているのが興味深い。

  • 桂子さんシリーズ最終作品、読み終わってしまいました…面白かったし大好きなんだけれど、この物語が終わってしまって悲…この物語を読んでいると倉橋由美子はこの後も慧君の物語や、そのお父さん世代の俊さんや剛さんの物語、そしてもしかすると入江晃と桂子さんの物語を書く意欲はあったのではないかと感じてしまう。そう思ってしまうと倉橋由美子は早すぎる死…と残念でならないし、桂子さんよろしく夢の世界、ないしあの世で続きの作品を読ませてくださいよ!!という気持ちになる。

    特に好きだったのは、緑陰酔生夢。慧君は相変わらずいい男なのでモテまくりますし、『幻想絵画館』のクレーの「選ばれた場所」(確か)の王女様に求婚したように、今回もMAKIさんと結婚したいとか言っております。この軽薄な感じが晃さんとは違う…と思っておりますが、晃さんの若い頃も気になります…

    それから解説の松浦寿輝氏による「キメラ的怪物」がほんとそれな…??という感じで、改めて倉橋由美子の魅力を言語化したものとして受け取りました。
    …空想旅行を記述する倉橋の散文は「貴族的な優越」と「自然性の拒否」によって定義されるダンディズムの極致である。日本近代文学の作家で、倉橋ほどダンディな文章を書いた作家は、ここでもまた男女を問わずという註記を添えておくが、まず皆無というほかはない…
    …「女」でありかつ「ダンディ」でもあるような個体が存在しうるとすれば、「女」それ自体の定義が変わるほかない。ごく単純に、倉橋由美子は「女」の定義にラディカルな革新をもたらした作家なのかもしれない。そこには「自然的」であることに自足した旧態依然たる「女流文学」もなく、「貴族的な優越」とは無縁のフェミニストの肩肘張った自己主張もない。しかもなおかつ「女」であるところの何ものかがそこにいる…
    いやまさにこれなんです!女でありかつダンディである…かっこよすぎる…サウイフモノニワタシハナリタイ…倉橋由美子の他の作品、スミヤキストQやアマノン国、大人・老人のための残酷童話など借りてきて読もうと思います

  • ファンタジー…?いろんなカクテルといろんな女(またはそれに類するあやかし)が出てくる。和歌や漢詩もたくさん。教養が足りずよくわからないのだが、画を見ているような感じ。

  • 少しずつ読んだ。現実と幻想を行き来する感覚が心地よく、読み始めは慣れなかったものの、今は惜しい気持ちでいっぱいになっている。九鬼さん、真希さんが好き。話としては「植物的悪魔の季節」が、タイトルも最後の一文も含めて、一番好き。「髑髏小町」では怪奇と可憐が入り混じっていて、こちらもとても好き。

    相も変わらず描写が美しい。淡々としているようで、一切無駄がない。特に好きな箇所に、付箋をはりながら読めばよかったと後悔。大事に読み返したいと思う。

  • 特別な体験なんて何も無くて良いから、ただ愛する人と酔いしれながら歓を尽くしたいです。

  • 主人公は言ってしまえば欲だらけなんだけど穢れや厭らしさを感じない。
    有り余る教養を持つ人はこの世をこんな風に楽しんでんのかな。

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著者プロフィール

1935年高知県生まれ。大学在学中に『パルタイ』でデビュー、翌年女流文学賞を受賞。62年田村俊子賞、78年に 『アマノン国往還記』で泉鏡花文学賞を受賞。2005年6月逝去。

「2012年 『完本 酔郷譚』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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