銃 (河出文庫)

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著者 : 中村文則
  • 河出書房新社 (2012年7月5日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309411668

銃 (河出文庫)の感想・レビュー・書評

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  • この物語の主人公は人なのか、銃なのか。

    大学生の西川は、ある日河原で男の死体とその傍らに落ちている拳銃を発見する。新潮新人賞を受賞した中村文則のデビュー作『銃』は、銃を拾った男が銃に翻弄され、銃に支配されていく様を描いた作品だ。

    西川は、しきりに銃を“美しい”と形容し、毎日磨き上げ、銃とコミュニケーションを取ろうとしたり、自分がそれに似つかわしくない存在なのではないかと不安になったりしている。銃を半擬人化して銃に対して愛情を抱き、常に銃のことを考え生活するようになる。その執着はやがて、人に向けて銃を撃ちたいという逃れようのない衝動に繋がっていく。作中に繰り返し登場する銃という文字を何度も目にするうちに、読者まで銃を懐に忍ばせているような気分になってくる。

    主人公は幼少期に家庭に問題を抱えているという設定で、児童虐待が行われている親子も作中に登場する。このような登場人物は中村文則の他の作品にも多く登場しており、彼の作品の中で重要なテーマとなっていると考えられる。西川はこのような幼少期の経験から、「考えなければ不幸にならない」「自問自答をすることや、自分を知ることをしない方が、自分は快適に生きていける」と自分自身に対して興味を失っている。「一人称であるのに自己を客観視していくような」語り口で、自分の行為や考えに拠り所がない。その隙間に銃という強烈な物体は見事に入り込み、心を取り込んでしまったのだ。

    著者はあとがきに「内面に“銃”を抱えてしまう構図は、僕の人生そのものである」と記しているが、銃を内面に取り込み宿してしまうというその人間の心の空洞を、銃というツールを用いることで分かりやすく浮き上がらせて書き出した作品なのではないかと思った。私たちの誰もが心に銃を持ち得るし、いつどのタイミングでそれを撃ってしまうか私たち自身にも分からないということだ。

  • 最近、ドハマりしている中村文則さんのデビュー作。
    「私の消滅」などの近著に比べ道具立ては地味ですが、デビュー作に特有のひりひりするような熱いエネルギーが充満しており、一気読みしました。
    主人公の大学生である「私」が、ある日、拳銃を拾うところから始まる物語。
    拳銃と馴染みのない私たち日本人が、拳銃を手にするとどうなるのか―。
    主人公の心理や行動を追いながら、読者は疑似体験することになるでしょう。
    私なぞは、本物の拳銃など見たことすらありませんが、「分かる、分かる」などと共感しながら読みました。
    あ、もとい、高校の同級生のお父さんがハンターで、猟銃は触らせてもらったことはありました。
    ここから少しストーリーに触れたいと思います。
    本作はややミステリ色はあるものの、ストーリー重視の作品ではないため少し深入りしますが、これから本作を読む方はこの先は読まない方が賢明かもしれません。
    それを言うなら、こんなレビューなんて読まずにリオ五輪を見た方がはるかに賢明です。
    続けます。
    実は、「私」が拳銃を拾った場所には、男の遺体がありました。
    この男が手に拳銃を持っていたのですね。
    それを「私」が拾ったわけです。
    「私」はある日、公園で瀕死の猫と出合います。
    早く楽にさせようと、「私」は猫に向けて銃弾を発射します。
    「私」は、今度は人を打ってみたくなります。
    このあたりの描写は、さすが中村さんだけあって、見事というか、読んでいて「自分も当然そうなるだろう」と思いました。
    そう思う自分に気付いて当惑しました。
    武器を持てば使いたくなるというのは、人間にとって逃れ難い心情なのかもしれません。
    ところが、「私」のアパートに刑事が来ます。
    先述した男の遺体が持っていたであろう拳銃が無くなっていること、猫が同じ拳銃を使って射殺されたこと(もっとも銃弾は見つかっていません)、猫が射殺された当日、「私」がジャケットのポケットに右手を入れて笑みを浮かべて走っていたとのコンビニ店員の供述を得たこと―を組み合わせ、「私」に疑惑の眼を向けたわけです。
    この刑事と「私」とのやり取りが迫真もので、ドキドキしながら読みました。
    しかし、組織的にではなく、あくまで独断で動いている刑事は、「私」にこう忠告してその場を去ります。
    「今すぐ、拳銃を出して下さい。それが嫌なら、どこかに捨ててしまいなさい」
    そして、最後にこう述べます。
    「人間を殺すとね、不思議なことかもしれませんが、普通の理性でいられないそうですよ」
    さりげない言葉ですが、私は戦慄しましたし、実はこの台詞が最後の最後に効いてきます。
    「私」は刑事の忠告通り、人を殺さずに済んだのでしょうか。
    さすがに、それは言わぬが花でしょう。
    と、ここまで書いて、意外とミステリ色の強い作品だということに気付きました笑。
    私は濃密な描写に気を取られ過ぎたかもしれません。
    そう、本作は、人間が作った機械である「拳銃」が、人間を支配してしまうという倒錯を、濃密な描写で見事に描き切りました。
    「拳銃」はさまざまなものに置き換え可能で、そこに本作が掲げたテーマの奥行きと広がりがありそうです。
    デビュー作でこの出来。
    中村文則、恐るべし、です。
    なお、私の買った「銃」には、短篇小説「火」も収録。
    こちらも救いのない話で良かった、あっぱれ。

  • 銃に魅力を感じるなんてこと、自分では到底考えられないのですが、文章にどんどん引き込まれて、読んでいる私も銃の魅力に取り憑かれてしまいました。そして、後半は銃に支配され、主人公は落ちて行ってしまうのですが、この追い詰められている描写が心臓の鼓動が伝わってくるようで、本当にハラハラします。主人公の冷静で論理的な思考と、それとは反対の突発的な行動により、精神がぐらぐらと揺れ、銃に追い詰められていく、緻密な描写が本当にすごいです。
    計画した場所で撃とう撃とうとするシーンで極限にまで追い詰められた主人公は、死から生を感じていたように思います。このシーンがあってよかったです。最後は、ああなってしまいますが、主人公はそこから上がっていく希望を持つ力があると思うことができます。最後の弾はそのまま入らないで欲しいな。

    全ては主人公の勝手な思い込みです。同じように、現実の悩みも案外、自分が勝手に作り出しているものなのかもな、とも思いました。特に10代の頃とか。自分で自分に制限をかけて、追い詰める。このどうしようもないものが、人間らしさであり、その人間が愛らしくも感じます。

    毎度の作者のあとがきが好きです。
    「共に生きましょう」

  • インパクトがあるようで、淡々と進んでいく文章が印象的でした。「銃」も「火」も、それにとりつかれて狂っているように感じます。「銃」の主人公の生き方が、このあまり考えてないような、でも屈折したものはなんなのだろう、と興味深かったです。「火」は、桃井かおりさんが映画化されているようなのですがかなり気になりました。桃井さんの独り語りの世界は凄そうです。面白かったです。

  • 向ける先はそれぞれ違うにしても、誰の心にもある感情とはまた違う何か、が言葉にされてる。
    狂ってるのはわかってるんだけど、完全に否定できない主人公の感情に少しずつ恐怖を覚えた
    中村文則さんは、みんなの心にある黒いものを恥ずかしいくらいに言葉に変えてしまう。

  • 中村文則の本を初めて読んだ。
    自分の内側にあるものと延々と向き合う主人公の姿から怖さや悲しさを感じた。
    最後はこうやって終わるのかーと何とも言えない気持ちになった。

  •  『銃』のラストは、映画のワンシーンを見ているような気にさせられる。切羽詰まった感じが著者の真骨頂なのである。デビュー作からこのクオリティだったことが驚きだ。狂人になる手前で踏ん張る、人の感情の流れが緊迫感をもって迫る。

  • みぞおちの辺りがぎゅっと締め付けられる感じが2作品ともに感じられます。この中の人物が発する狂気は自分にも誰にでも存在するのではないのでしょうか?それを踏まえて中村文則氏の感謝のコメントは秀逸と感じます。

  • 銃、なんというか、読みにくい。
    一人称を使いつつの客観的な書き方はどうも意図的なようだが、それがめちゃくちゃテンポを悪くしているような、読みにくくしているような印象。
    話としては、なかなか共感というか、入り込めるものであったのだけど。

    火、静かに狂っている感情の描写は一気に引き込まれるなと思った。
    なぜその行動を取ってしまうのか、なぜだか自分のことのように肌で感じられたような気持ち。

  • 第34回(2002年)新潮新人賞受賞作。第128回(2002年下半期)芥川賞候補。

    ある雨の日に、偶然拾った黒い物体。
    銃に魅入られた「私」の末路は?

    中村さんのデビュー作。
    中村作品はまだ2冊目ですが、何というか、雰囲気は似てますよね。
    読んでいて不安になるような、狂気を感じさせるお話。

    この本に収録されている短編『火』は、2016年8月に桃井かおりさんの監督・脚本・主演で映画化されています。
    映画は観ていませんが、最初に『銃』を書店で見かけた時には、映画化の帯が付いていたと思うんですよねー。
    今回購入した際には、何の帯も付いていなくて残念でしたが・・・。
    何気に帯を見るのも好きなんです。ジャケ買いならぬ帯買いする事も多々なので。

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銃 (河出文庫)の作品紹介

昨日、私は拳銃を拾った。これ程美しいものを、他に知らない――
中村文則のデビュー作が河出文庫からリニューアル刊行!単行本未収録小説「火」、著者の解説風エッセイを収録。

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