かめくん (河出文庫)

著者 :
  • 河出書房新社
3.76
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本棚登録 : 426
感想 : 56
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  • Amazon.co.jp ・本 (292ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309411675

作品紹介・あらすじ

かめくんは自分がほんもののカメではないことを知っている。クラゲ荘に住みはじめたかめくんは模造亀。新しい仕事は特殊な倉庫作業。リンゴが好き。図書館が好き。昔のことは憶えていない。とくに木星での戦争に関することは…。日常生活の背後に壮大な物語が浮上する叙情的名作。日本SF大賞受賞。

感想・レビュー・書評

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  • カメはなぜか好まれている。

    助けたカメは竜宮城へ連れて行ってくれるし。
    ガメラは子どもの味方だし。
    ウサギにだってかけっこで勝つし。
    「亀は意外と速く泳ぐ」って題名の映画まであるし(意外って言われるのも心外)。

    「この宇宙のすべては、たったふたつの要素に分けることができる。すなわち、甲羅の内と外」

    分かるような分からないような……ま、いいか。
    かめくんはかめくんであって、カメではないのだから……,

  • 模造亀(レプリカメ)の「かめくん」の話。
    かめくんは一人でクラゲ荘に住んでいて、毎日仕事に出掛ける。フォークリフトを操作でき、ワープロも使える。図書館とリンゴが好き。
    かめくんは自分が本物の亀じゃない事を知っていたが、かめくんこそ人間らしい姿だったように思う。舞台は近未来なのかな?でも、なんとなく懐かしいようなセピア色に感じるような雰囲気だった。なんとなく切なくなった。

  • 名作、待望の復刊です。
    再読して思ったのは、当たり前の話ですが、やはりこの作品はとんでもない強度を持った名作なのだということ。もう何度読んだのかわからないのに、かめくんの一挙手一投足に胸が揺さぶられてしまう。かめくんの小さな喜びに、胸がきゅんとなる。かめくんが気付いていない哀しみに、胸が痛む。ぼんやりと訪れる結末に胸は締め付けられるし、それらの全てを「そう作られているから」と受け入れるかめくんの姿勢には、最早言葉を失うしかありません。
    「かめくんはかめくんである。かめくんはかめくんでしかない。」――あとがきにぽんと置かれたこのフレーズの、何と切なく残酷なことか。
    また、復刊にあたって手直しされたという文章は、前のバージョンよりもすっきりと読み易く整えられ、すんなり入ってくるようになっているなあと感じました。
    この調子で、他の作品も復刊されると嬉しいですね。火星とかクラゲとか。

  • 椎名誠のSFを読んでいるようだった。
    人名がカタカナで、ぶわんぶるぶるみたいな謎の擬音。

  • 二足歩行のカメである「かめくん」が川沿いの町で暮らし始める。昭和ちっくな下宿クラゲ荘で暮らしながら、倉庫のフォークリフトで働き、中洲の図書館に通う日々。その淡々とした日常のなかで次第に、木星で戦争がおこなわれていること、かめくんはそのために作られたカメ型ヒューマノイドであるレプリカメであることなど、SF的な設定が次第に明かされていく。

    古き良きノスタルジックな世界と近未来SFが同居していて、かつ、アンドロイドものの定番の命題がレプリカントならぬレプリカメのかめくんに託されており、抒情的かつ哲学的。図書館司書のミワコさんへのほのかな恋心を抱いたりしつつ、冬眠のたびにそれまでの記憶が失われていくかめくんの切なさ。

    ゆるキャラ的な可愛さがあり、あまり感情的にならず無垢なかめくんの言動に癒されたりしつつ、存在すること、生きることの意味についてちょっと考えさせられたりしてしまった。

  • 好きな作家さんです。


    たぶん最初に好きになった作家だと思います。


    中学生の頃に北野勇作のデビュー作


    「昔、火星のあった場所」


    を読んで、ハマったんですが今だにこの人の小説読んでも面白いんですよね。


    今回読んだ「かめくん」は前々から気になりつつもまだ読めていなかった小説でした。


    やっぱり面白かったです!


    北野勇作という作家さんは確固たる世界観をお持ちの方のようで、その世界を描き続けているって印象があります。


    「かめくん」は「昔、火星のあった場所」「クラゲの海に浮かぶ船」に続く3作目の小説だそーです。


    物語はかめくんというカメ型ヒューマノイド(レプリカメ)の日常生活が淡々と描かれています。


    図書館で本を借りたり、倒れたクレーンの再立ち上げを見にいったり、りんごを食べたり、時にはカメ型のメカ(メカメまたはカメカ)に乗り込んで巨大なザリガニと戦闘したりします。


    このかめくんのいる世界はどーやら、かなり複雑な事態になっているようです。


    延々に続く戦争。本当に戦争をしているのか、シュミレーションなのかもわからなきまま続いています。


    そんなややこしい世界なのに、かめくんの日常は淡々と続いていきます。


    北野勇作作品の良いところは


    ハードな世界観にのほほんとした登場人物


    の組み合わせですね。


    SFとしてもかなりしっかりしてる気がしますし(それほどSFに詳しくないので実際のところはよくわかりませんが)かなり、暗い設定のお話が多い気がするんですけど、登場人物がかなりのほほんとしてるので読んでて辛くないとゆーか、むしろ楽しいとゆーか。


    これはどの作品にも共通してると思います。


    一昔前に流行った


    セカイ系





    日常系


    なんかのアニメ作品なんかを先取ってたんじゃないか!?なんて思ったりしました。


    しかも、両方まとめて先取ってる!


    物語の中にチラホラ以前の作品に関連しているのかな?ってところも出て来ます。


    かめくんが住んでいるアパートは


    クラゲ荘


    と言うんですけど、なんとなく「クラゲの海に浮かぶ船」に出てくるアパートを思い出したり、宇宙に開いた穴ワームホールが最初に開いたのが火星って話が出てくるんですけど、そこは「昔、火星のあった場所」っぽい。


    過去の作品とリンクしてそうで、リンクしてるかよくわかんなかったりするところがいいですね。


    それにしても、北野勇作の小説はハズレがないです。


    もっと売れてもいいと思うんだけどなぁ。


    気になった方は是非とも読んでみてください!

  • かめくんは、前の勤め先を整理解雇されて、この街にやってきた。新しい勤め先を見つけて、くらげ荘の1階の部屋を借りて、勤める業務は倉庫の荷受けと博物館のメンテナンスと、怪獣退治。勤め先の人たちやよく通う図書館の人たちと共に、穏やかな日常を過ごしていくかめくんは、自分が本物の亀ではないことを知っている。自分の認識が過去から断絶していることも。かめくんの世界認識は、日常の経験が蓄積するごとに少しずつ深化していく・・・。

    あったかくて、ふんわりとして、少し切ない、異形の物語。

    あらすじを読む限りでは、まるで子供向けのファンタジーのような、ふわふわして掴みどころのない話です。かめくんの日常は、時々ちょっとした事件があったりしますが全般的には淡々と描写されており、そこには手に汗握る冒険も複雑な謎解きもありません。登場人物はみんな悪気のない善人ばかりで、かめくんと彼らのやりとりが平易な筆致で描き出されていく、一見やさし気な物語世界です。
    が、そんな世界のところどころに、ふと姿を現す「違和感」。まぁ、そもそも巨大な亀が人間と一緒に生活していること自体普通じゃないわけですがヽ( ´ー`)ノファンタジーっぽい物語だからそういうもんなのかなぁ、なんて考えていると後で手痛いしっぺ返しを食らう、実は相当にハードなSFの骨格がこの作品の背後に貫かれているということが、読み進めるうちに明らかになっていきます。

    かめくんは、ある戦争のために生み出された生体兵器であるらしいこと。
    かめくんはかつてその戦争の前線に何度も参加し、何らかの事情でドロップアウトして現在に至ること。
    そうしたかめくんの自己に対する認識は、過去の記憶と共にリセットされていること。
    その戦争は、今も続いているのか、何のために始まったのか、もはやはっきりしていないこと。
    かめくんが住む街は、地球ではなく太陽系内のどこかに浮かぶコロニーの中に存在するらしいこと。
    そして、その街に住む人間は、こうしたことに対して何とも思っていない(あるいは認識していない?)こと。
    かめくんは、もうすぐ今の記憶を消され、再び戦場へと旅立っていくこと。

    この物語は、常にかめくんの視点で、かめくんが経験したこと、かめくんが考えたことをフラットに描写していきます。それは即ち、読者がこの作品から受け取る情報量がかめくんの認識の幅そのままである、ということです。
    出だしの頃は身の回りの事実をただ認識して受け止めるだけだったかめくんの心の声が、物語が進むにつれて幅と深みを増し、自分の存在意義について、世界の成り立ちについて、思索を深めていくようになります。つまり、読者はかめくんの認識力の広がりを追体験して、この世界の真の姿をかめくんと共に理解していくことになるのです。

    しかし、そうして認識できた世界の姿が「真実」なのか、物語の中では明確に描かれてはいません。そもそも、この世界そのものが、かめくんが次の戦場に向かう途上のコールドスリープ中に夢見ただけに過ぎないのかもしれません。
    そんな足元の不安定さを無自覚に理解しつつ、かめくんが紡いでいくかめくんの物語。ラストシーンにおいて、それまでの語りそのものが、かめくんがお世話になった図書館の人たちに遺した手記であることが明らかにされます。

    主観という甲羅の中に、閉ざされた世界。

    このSF的冷徹さ、突き放した世界認識。ほんわかした筆致に騙されそうになりますが、現代日本が生んだ認識論SFの傑作だと鴨は思います。

  • りんご(紅玉)とするめとおかきが食べたくなる。川原泉先生が好きな人は好きなんじゃないかと勝手に推測。つまり私は好きです。

  • ああ、10年前に読めていたら良かったな。こんな面白い小説があったなんて。復刊で出会えてほんとうに良かった。

    微笑ましいんだけどなんだかかなしくて、いつのまにかかめくんの目線で世界を見ている。少しだけ泣く。この小説世界に浸っていたい。

  • わたし、これ大好きだーー!!!どうして長らく絶版だったのだろう。なんてもったいない。復刊してくれた河出さん、本当にありがとうございます。あとがきまで含めて堪能致しました。

    "かめくんは、自分がほんもののカメではないことを知っている。カメに似せて作られたレプリカメ。リンゴが好き。図書館が好き。仕事も見つけた。木星では戦争があるらしい……"

    かめくんの目を通した日常がたんたんと綴られる。未来の話のはずなのにどこかノルスタジーを感じる風景。かめくんとかめくんを囲む人達の、とぼけた会話や行動。まるで童話を読んでいるような感覚。しかし読み進めるにつれ、木星の戦争やレプリカメの謎がちらほらと日常にかすり始める。和やかな日常の背景にある、どこかいびつで黒い世界。何か深いところをつかれるような思い。

    最後はぽろりと涙が出た。せつない。

    激しいインパクトがある本ではないけれど、時々取り出して読み直したくなる一冊。そして色んな読み方ができる一冊(レプリカメの設定のみならず、亀の甲羅と世界の関係、かめくんの世界認識、なんかはとってもSFだし哲学。)
    -----------------------
    メモ)Anima Solarisの『かめくん』著者インタビュー(2001/01)
    http://www.sf-fantasy.com/magazine/interview/010302.shtml

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著者プロフィール

1962年、兵庫県生まれ。
1992年、デビュー作『昔、火星のあった場所』で第4回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞、『天動説』で第1回桂雀三郎新作落語〈やぐら杯〉最優秀賞を受賞。2001年には『かめくん』で第22回日本SF大賞を受賞。『どーなつ』『北野勇作どうぶつ図鑑』『どろんころんど』『きつねのつき』『カメリ』『レイコちゃんと蒲鉾工場』ほか著書多数。
ライフワークとも言える【ほぼ百字小説】は、Twitterで毎日発表され続けており、その数は4000を超える。

「2023年 『ねこラジオ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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