こんこんさま (河出文庫)

著者 :
  • 河出書房新社
3.10
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感想 : 23
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  • Amazon.co.jp ・本 (176ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309411958

感想・レビュー・書評

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  • 家族の気持ちがバラバラになってしまった三河家。
    まだ9歳のさちは家族の目につかないように身を隠すことを覚え、お母さんに当たられても無表情で姿を消し1人で声を殺して泣いていた。
    自分の部屋のないさちが、どこで寝ているのかを誰も知らないという状況だった。

    そんな三河家を再生させるには何が必要だったのか?

    物語の中ではいろんなことが起きるけど、全てを動かしたのはお正月の朝だった。
    さちが着物を着たその瞬間、お母さんはまっさらな気持ちでさちを見たんだと思う。
    さちを疎ましく思っていた理由を抜きにして1人の娘として。もしかしたら初めて。

    親子に限らないけれど、この子はこういう子だという印象はなかなか消えないものだと思う。
    一度「こういう人」とインプットしてしまうとその前提から全ての解釈がスタートする。
    だから同じ言葉でも言った人によって受け取る側の印象は全く変わってしまう。

    誰かとの関係を改善したいと思うなら、それまで構築してきた人物像を全て消去して白紙の状態で相手を見るしかない。きっと。
    それは簡単なことではないし、何も変わらないかもしれないけれど、自分の目を変えなければそこに映る相手の姿は永遠に変わらないのではないか。

    さちが家族の前で笑えるようになったことが嬉しい。
    三河家が本当に小さなきっかけから再生したように、形だけの笑顔を作らなきゃいけない日々はいつの間にか終わっているのかもしれない。
    ある日唐突に心から笑っている自分に気付く。
    そんな瞬間が訪れますように。

  • 9歳の「さち」という少女。
    家族から疎まれている少女だ。
    さちは、自分が疎まれていることに気付いていて、北鎌倉の古い自宅で、こっそり身を潜めるように暮らしている。

    さちなりに、自分の家族、家をよくしたい、幸せにしてほしいと純粋に思っていたんだろうなぁ。
    旭山の登場からドロン!までのお話は、まるで落語のようだった。
    騙されたことで付き物が落ちたのか、同じ経験を共有したことで気が緩んだのか、最後は家族みんなが笑い合えてほっとした。
    さちの名前の由来。愛らしくとか美しくとか、そんな大それたことでなくて良い、ただ幸せであるように、という都のささやかな願い。
    親が考える幸せはなくても、押し入れの中で寝ていても、さちはさちなりに幸せなのではないかと私は思った。たっくんと夜中ふらふら散歩したり、そういうちょっとしたことで幸せを感じていたのではないかな。
    家が居心地悪くても、外で楽しみをみつけてくる、子どものそういう逞しさを、さちから感じた。

    中脇初枝さんのお話の、小さな子どもに対する視点がとても好きだ。

  • 酒井さんの表紙の絵に惹かれて購入。
    あとから著者がこりゃまてまての人だと知った。
    児童文学の人だと知って納得。優しくて不思議な文体だった。
    酒井さんの絵がとても合う雰囲気。

    近所からこんこんさまと呼ばれる大きくて古いお屋敷に住む歪な家族のお話。

  • 「こんこんさま」というのは、はなの荒れ果てた実家のどこかにあるという社のこと。

    バラバラに心が離れてしまった家族。
    諸悪の根源は、祖母の石(いし)なのか。さち以外は亡くなった祖母の亡霊のようなものにおびえている。
    その家族で一番の被害を被っている小学生の末娘さちがけなげすぎる。
    こんな家族あっていいのか、と。
    しかし、何にせよ、さちが、幸せを運んでくれる、と信じ込んで家に連れてきた香具師によって一家が騙されるものの、そこから少しずつ家族関係が構築されていくところが唯一の慰みとなった。

  • 2019.11.23.読了
    いい話でした。
    ちょっと不思議な和のおはなし。
    インチキ占い師も役に立って人々の幸せなんてどこに転がってるかわからないものです

  • 家族の再生物語。
    それを象徴する家(建物)@北鎌倉のたたずまい。
    ちょっと遠野物語みたいな不思議な魅力。

    三河家
    石(祖母)亡くなる
    甲子(祖父)=山本新右衛門
    都(母)嫁
    主計(父かずえ)=石の息子
    はな(長女)大学時代から家を出て、現在は風俗で働く
    さち(二女)歳の離れた妹

    旭山=占い師or詐欺師
    たっちゃん=さちの友達の近所の男の子

    こんこんさまとは・・・家を守る神様であり、この屋敷の呼び名でもある

  • 少し昔の北鎌倉のお屋敷が舞台。
    バラバラだった家族の再生?の物語。

    もう少し掘り下げて人物描写してほしかったし
    詐欺師とのあたりがもう少しあっても良かったと思う
    中編という感じで
    せっかくなら長編でしっかり書かれていたら
    もっとよかったけど…
    もつれてた家族の毛糸は
    そんな簡単にほどけないと思うから…

  • 思っていたのとかなり違いました。表紙とタイトルの印象から、座敷童のような超現実的な何かによって再生される家族の物語だと思ったのです。
    読み進めていると詐欺師の占い師が出てきて家族に取り込みます。この占い師の言動によって家族が変わっていく物語なのかなと思ったらそれもまた違いました。でもこの「思っていたのと違う」ということが、この作品の根幹にあるのではないかとも思えたのです。

    家族であっても親子であっても長い間寝食を共にしていても、気付かない一面があります。この人はこんなことを言うんだ、こんなことをするんだ、こんな顔をするんだ。新たに気付くことにより変わることもあるのでしょう。
    視点がスルスルと変わり、登場人物それぞれの思いの錯綜が見て取れます。思い込みによりズレていた思いが、修正されることでぶつかり合う。ぶつかることで初めてお互いを見ることになる。バラバラだった家族が最後同じ部屋でくつろぐ。それが象徴するように。

    結局家族が抱えた問題は現実的には何も解決していないのですけどね。それどころか問題は大きくなっているのかも。でも、それでもホッと安堵の息をつくことのできる終わり方が素敵でした。
    さて、どうでもいいことですが、詐欺師の占い師が読んでいるうちに「おそ松くん」のイヤミになってきたんですよ。見た目の描写など全く違うのざんすけどね。

  • 2014.11.11読了
    『きみはいい子』『わたしをみつけて』が素晴らしかっただけに…残念で仕方ない。何だか先を書き急いでいるような、不自然さも多々あって、よくわからなかった。

  • 家族再生のささやかなものがたり、とあらすじにあるのだが、ほんの少し語弊があるように感じる。

    一家を牛耳っていたと言っても過言ではない祖母の石。
    その陰で生きてきた存在感のない祖父、甲子。
    大きな事業を興しては失敗し、石の遺産を食い潰してゆく父の主計。
    美しいだけが取り柄で、誰が父か分からない次女を産んだ母、都。

    父の不甲斐なさに幻滅し、従順だった娘時代から水商売へと転向する長女、はな。
    誰からも、その出生に目を逸らされ、器用に隠れることだけを学んだ次女、さち。

    歪すぎる家族関係の中で、それが生々しさの一歩上へ昇華しているのは、「こんこんさま」という不思議な守り神のいる古いお屋敷でのお話、という設定からだろう。

    非現実的であることと、現実を手放してしまうことは、別である。

    これは非現実的な空間の中で、現実を手放してしまった家族の話なのだと思う。
    だから、現実を手放した家族が、現実を取り戻すお話だと読んだ。それがイコール再生であるかは、疑問としたい。

    ただ、そう考えると、この設定の妙がものすごく面白くなる。
    作者が選ぶ言葉の一つ一つもしっかりとその妙を生かしている。

    雑草生い茂る真っ暗闇の中で、「こんこんさま」を救い出すクライマックスシーンは、想像するとかなり恐ろしい場面だ。
    だが、各々が自身に向けて救いを求める必死さもよく現れていて、あたたかみを持って読める。

    初めて中脇初枝を読んだが、面白かった。
    他の作品にも手を出してみようと思う。

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著者プロフィール

徳島県に生まれ高知県で育つ。高校在学中に坊っちゃん文学賞を受賞。筑波大学で民俗学を学ぶ。創作、昔話を再話し語る。昔話集に『女の子の昔話 日本につたわるとっておきのおはなし』『ちゃあちゃんのむかしばなし』(産経児童出版文化賞JR賞)、絵本に「女の子の昔話えほん」シリーズ、『つるかめつるかめ』など。小説に『きみはいい子』(坪田譲治文学賞)『わたしをみつけて』『世界の果てのこどもたち』『神の島のこどもたち』などがある。

「2023年 『世界の女の子の昔話』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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