掏摸(スリ) (河出文庫)

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著者 : 中村文則
  • 河出書房新社 (2013年4月6日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309412108

掏摸(スリ) (河出文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 東京を舞台に富裕層ばかりをターゲットにする天才スリ師が、悪の権化である木崎と出会い、命を賭けた運命のゲームをすることに…。
    2010年 、第4回大江健三郎賞受賞作であり、同作の英訳 『The Thief』 は、ウォール・ストリート・ジャー ナル紙で、2012年のベスト10小説に選出。

    しかしなんとエモーショナルに胸を打つラストシーンか…。
    読み終わった後の余韻からなかなか抜け出せなかった。
    主人公の『あがき、転がる』ストラグル感が、
    自分のことのように沁みる。胸が苦しくなる。

    身寄りもなく親友を殺され恋人を亡くし
    流されていく存在でしかなかった主人公が、
    流れから外れるために掏摸を覚え、
    流されて生きることから逸脱し、
    いつしか運命に抗っていく。

    クールで抑制されたハードボイルドな文体で描かれる、
    悪とは何か、運命とは何か。
    読者にとっては決して親切ではない感覚的な文章と独特のリズムがおそらく読む人を選ぶだろうけど、
    映像喚起力の高い表現は本当に秀逸で、ハマれば一気に心持っていかれる中毒性も。
    他にも詳細な掏摸の描写が本当にリアルかつスリリングで、
    小説だからこそ伝わる指先ひとつひとつの動きや緊張感が直に伝わってくる主人公の心理描写に、
    息をするのも忘れるほどに引き込まれた。

    本書最大の見所は終盤に訪れる、主人公と悪の権化である木崎との対決シーン。

    失敗すれば命はないと言われ
    引き受けなければ親しくなった親子を殺すと脅され、
    絶対的な悪である木崎から
    否応なしに三つの依頼(ゲーム)を引き受け、頭と体をフルに駆使してミッションをクリアしていくシーンの手に汗握ること!

    そんな中、売春婦に万引きを強要されている無力な子供と主人公との触れ合いは、少年を大人にし、空虚な心を抱え流されるまま生きてきた主人公を生へと、光ある方へと繋ぎ留めていく。

    この小説は絶対悪を描いていて、圧倒的な悪の前では弱者はなすすべもなく命を奪われていく。

    物事の綺麗な面だけを見つめた物分かりのいい小説もいいけど、
    百パーセント共感できる小説なんて、わざわざ読む意味なんてないと僕は思う。

    心に食い込んでくる波動やエモーションが心を揺さぶって、その心の揺れこそが自分を作っていくのだし、
    理解できなくても共感できなくても意味が分からなくても、ずっとずっと記憶に残る小説は存在する。

    良い小説には問いだけがあって、読めば疑問が生まれ視野が広がり、
    それまで考えもしなかったようなことを考えるひとつのきっかけになる。
    小説の中に答えなんてない。答えを提示してくれる小説なんて意味がない。本当の答えは自らが実人生の中で探すのだ。

    物語のラストシーンについて、主人公の生き様について、
    悪や運命について、
    読めば誰かと必ず語り合いたくなる作品です。

  • 中村文則さんの「何もかも憂鬱な夜に」を読んで、すっかり魅了されました。
    というわけで2作目は、日本人初の米国の文学賞「デイヴィッド・グディス賞」を受賞し、注目を集めた「掏摸(スリ)」。
    一読して極上のノワールだと思いました。
    主人公の「僕」はプロのスリ師。
    その技はまさに職人級で、狙った獲物は逃しません。
    このスリのシーンがスリルと緊迫感に満ちており、読んでいて飽きません。
    「僕」はスーパーでたまたま男の子が万引きしている現場に出くわします。
    男の子に万引きするよう指示しているのは、ほかでもないこの子の母親なのでした。
    「僕」は意に反して母子と関係を持つようになり、男の子に万引きやスリの仕方を教えることになります。
    云うまでもなく、万引きやスリは犯罪行為ですが、「僕」はプロとして真剣に教授します。
    そこが世間の常識では理解しがたい、まさに文学の領域で、大変に面白いし興味深い。
    本書の読みどころのひとつと思われます。
    ただ、「僕」の前に暗雲が垂れこみます。
    闇社会に生きる木崎という男に見込まれ、ある犯罪に加わるよう指示されるのです。
    この指示をやり遂げた後、今度は「僕」一人に対して「3つの仕事」をこなすよう指示されます。
    1つ1つの仕事は関連しているようですが、「僕」には全体像は分かりません。
    ただ、その間に大臣が撃たれるなど事態は窮迫していきます。
    何とか3つの仕事をやり終えた「僕」に、最大の試練が待っていますが、それはさすがに云わぬが花でしょう。
    ちょっとネタバレかもしれませんが、この作品は謎解きを愉しむものではありません。
    それを期待すると、肩透かしを食うでしょう。
    それよりは、スリ師の「業」というものに注目して読むことをお勧めします。
    「業」は、「ごう」すなわち仕事であり、「わざ」であり、そして「カルマ」でもあります。
    作中作である昔のフランス貴族の逸話も、恐ろしいですが夢中で読みました。
    次は本作の姉妹編「王国」を読もうっと。

  • 以前、角田光代さんによる文学講座に行った時のこと。(それは受講生作成の中篇の文章を添削しながら文学を考える内容だった。)
    物語の主人公を中心にした話の展開に対し
    『それは現実にはあり得ない。ひとは誰しも自分や自分が想うひとのために行動するのであり、主役をとりまく人間もまた己のために動くものだと思う』と評されていた。
    中村文則著『掏摸』を読むと、人間は予定調和には生きていない、むしろそうだから生きることは息苦しく、時に輝くものだと思える。
    ひとは皆必死に己のために行動しているのだと、腑に落ちた。

    人間ひとりの行動を書き連ねていくことで生きることへの執着が浮いて見えてくる。登場人物の行動から、目が離せない面白さがある。

  •  スリ師である「僕」はスリ仲間である石川を通じて「木崎」と名乗る謎の男と出会った。僕と石川は木崎の下で資産家の男性宅の強盗を手伝わされる。二人は計画通り実行したが、逃がしてもらえるという約束は踏みにじられ、石川は木崎によって跡形もなく消されてしまう。そして時は流れ、生かされた「僕」の元に再び木崎が現れる…。
     何かから目を逸らし逃げるかのように盗みを働く天才スリ師の心理と、他者の運命を握ることに快感を覚える最凶の悪を描くミステリー小説。2005年芥川賞を受賞した中村文則による、ロサンゼルス・タイムズ・ブック・プライズのミステリー・スリラー部門で最終候補5作に入った作品。

    「光が目に入って仕方ないなら、それとは反対へ降りていけばいい。」

     スリの巧妙な手口がとても詳細に、緊張の糸が張り詰めた空気間で描かれていた。巻末の参考文献リストにはスリに関する書籍が挙げられている。小説家のインプットとアウトプットの精度の高さにはやはり驚かされる。

     ところで、主人公が幼い時によく見ていた「塔」とは何を象徴するのか。
     私はこの「塔」とは、いわゆる「お天道様」的な存在ではないかと考える。
     盗みを繰り返す小学校時代の「僕」を、「塔」は何も言わずに見ている。「塔」だけが少年の罪を知っている。そして自分の罪が白日の下に曝された時、少年は不思議な快感を得るが、「塔」はそれらのことを肯定も否定もせずにただただ立っていた。
     自分の罪は誰も見ていないが、天だけは見ているし知っている。しかし実はその超越した存在には、善悪の判断などない。人間が勝手に「悪を許さない者」と解釈しただけで、天は人を裁くようなことはしない。人を裁くのはいつだって人なのだ。
     肯定も否定もせずただ自分を見つめ続けるだけの「塔」のことが、主人公はどうしても気になってしまう。そして少年は気がついた。「反対」へ進み盗めば盗むほど「塔」が遠くなるということに。気がつくと「塔」は見えなくなっていた。
     しかし主人公は自分と似た様な境遇に生きる少年と出会い、『守りたい』と思い、そして「木崎」によって「生きる自由」を奪われ、『生きたい』と願うようになる。人間的な感情か、「他者」や「生」への執着か、主人公の眼に再びあの「塔」が映った。

     「木崎」は最後に今後の大きな展開を匂わせるような発言をして立ち去るが、続編?のような立場で書かれているのが『王国』らしい。次は『王国』に手を伸ばしてみようと思う。

  • 孤独な掏摸(スリ)の物語。
    誰にも頼らず、誰とも繋がらず、孤独に生きていくはずの男の前に、宿命に踊らされる母子が現れる。男は二人をほっとけなくなる。それが手枷足かせになるのがわかっていても。

    決して表に出ることは無い裏社会の闇。その中で腕一本で生きていくことの孤独。
    頼れるのは己の腕のみ。
    常に危険との隣り合わせ。

    痺れるような掏摸の現場。巧みな心理描写。ヒリヒリしながらページをめくった。

    そして、節目節目で現れる少年が切ない。救いがない。
    人を避けて生きてきたはずの男も、この少年をほっとけなくなる。
    読んでいて苦しくなる。

    そして浮かんだのは「因果応報」という言葉。
    どんな腕利きの掏摸職人でも、例え金持ちだけ狙っていたとしても、犯罪は犯罪。悪因は悪因。そこからは逃れられない。主人公も重々わかっていたはず。しかし、厳しき因果がついてまわる。

    大江健三郎賞受賞作。

    夏の読書会で友人と交換した本。
    きっと自分では選ぶことのなかった本との出会い。

  • 中村文則さんの本は初めて。
    新聞で「私の消滅」に触れた記事か、書評に触れ興味を持った。読んだことのない作家だったので、単行本の「私の消滅」のついでに本書も購入。手始めに本書から手を付ける。

    ピカレスク物は普段読まないので、少し読み続けるとシンドクて続けられなくなる。それでも、意外と早く読めた。
    スリの主人公。余計な説明や無駄がなく、冷えた文体。正体の見えない巨大な悪に飲み込まれていく。これはホント怖い、凄く怖い。

    最後の難題の解決から終演。ジェットコースターに乗ってあっという間に終点になったような。
    こりゃ「王国」も読まなきゃなあ。

  • どんどん色んな奴からすってやるぜ!みたいなスリのエンターテイメントではないが、緊張感があって裏社会なんだな、犯罪なんだな、と思えた。

    木崎めっちゃ怖い。とにかく目を付けられたくない。

  •  天才的な掏摸師の過酷な運命を描いた小説。

     人の運命について色々考えさせられる小説でした。この本の主人公の掏摸師。裏社会の人間に目をつけられ仕事を強要され失敗や逃げようとすればただではおかない、とその運命を握られてしまいます。

     また主人公は話の中で一人の少年と出会います。その少年は母親に強要され万引きを繰り返しています。その様子をたまたま見つけた主人公が二人に忠告するのですが…

     こうした二人のスリ師の状況から見えてくるのは、非力な者の弱さのような気がします。逆らうこともできずただ生きるために従うしかない。淡々とした筆勢がまた従うしかない者たちの気力のなさを表しているように思います。

     でも、そうした非力さや周りの環境のどうしようのなさが描かれる一方で、ふとした偶然や出会い、行動がそんな世界を変えるかもしれない、という希望も描かれていたようにも思います。

     ラストシーンは読者に想像をゆだねる終わり方になっていたのですが、主人公が最後の蜘蛛の糸をつかんだきっかけや主人公と少年のやり取りを読んでいると、どうしようもないように見える運命も、ふとしたきっかけや偶然でいくらでも変えられるということを暗に示してくれていると思います。

     過酷な話ではありますが、決して絶望を描いた物語ではないことは確かだと思います。

    第4回大江健三郎賞

  • おもしろかったです!(^^)!

    不幸な生い立ち故に『スリ』で生計を立て、闇の世界を生き抜く
    彼の未来に立ち塞がるのは、握られた、決められた人生・・・・・・ってなお話

    日本国内では大江 健三郎賞を受賞し、日本人初・アメリカの 文学賞「デイビッド・グディス賞」をも受賞した作品です

    あとがきには、小難しい作品の説明がされてましたが、そんなん関係ない!!

    闇の世界で生きる彼の心の葛藤

    それを見通すがごとき彼を慕う少年

    闇社会の帝王に握られた運命

    自分の求める自分とは

    帝王に相対する自分か

    少年と相対する自分か

    彼の選択

    現状維持か

    闇社会からの離脱か

    いや・・・・・・

    すでに選択の余地などはなく、決められた宿命なのか

    結末は圧巻!!

  • 全編にわたって暗く重厚なストーリー。底なし沼に沈むように静かに淡々と破滅へと向かっていく。

    ある人に勧められて読んだんだが、確かにおもしろかった。おもしろかったけど…物足りなさも感じた。ページが薄いのもあるが、落ちが読者の想像に任せるてきなのは苦手なのだ。

    姉妹作の『王国』も見てみようと思う。

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