「悪」と戦う (河出文庫)

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著者 : 高橋源一郎
  • 河出書房新社 (2013年6月5日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309412245

「悪」と戦う (河出文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 個人的に小説や映画のジャンルは「好き」「嫌い」とは別に「弱い」ものがあるのですが、それが何かというと「子供」が主人公のお話です。「好んで読む」とかじゃなくて、なんていうかもう、子供が頑張っているとそれだけでとにかく無闇に泣けてくるとか、駄目なんですよね、ほんと弱いんです。それが母性愛的なものなのか(※生んだことはないです)、それとも自分の中の幼児性なのか、はたまたノスタルジーなのか、理由はわからないんですけども、とりあえず子供が主人公なだけで涙腺の蛇口は常に緩みっぱなし、とりわけ「きょうだい」ものだったりすると一層弱くて、作品全体に対する点数も甘くなりがち。さらに弱いのが「生まれなかった子供」や「死んだ子供」が会いにくる話で(これも別にトラウマはないんですが)、それだけで涙腺決壊です。

    というわけで、本作、もれなく私のストライクゾーンに直球で刺さりました。登場人物は作者本人とも思える「パパ」と「ママ」、とっても賢い長男の「ランちゃん」3歳と、その弟でまだ赤ちゃんの「キイちゃん」。両親に理解できないキイちゃんの言葉が兄のランちゃんにだけにはわかります。そして公園で彼らが出会う、パーツは美しいのにバランスが福笑いな女の子「ミアちゃん」とそのママ。

    ある日ランちゃんの前に「マホちゃん」という女の子が現れて、壊れかけている世界を救うため、「悪」との戦いにランちゃんを連れ出します。シミュレーションゲームのように、さまざまなシチュエーションの中に放り込まれて、抽象的な「悪」と戦うはめになるランちゃん。「悪」はいつも、「ミアちゃん」の姿を借りて現れます。解説にもあったけれど、この目に見えない「悪」に対して、「正義」ではなく「愛」をもって撃破していくランちゃんの姿勢が素晴らしい。本人無意識なところがさらにいい。

    ラストのオチは想定内だったけれど、それでもやっぱり涙せずにはいられませんでした。こんな風にいつもこっそり誰かが、世界を守るために戦ってくれているのかもしれません。

    同時収録の短編「魔法学園のリリコ」は、短編というより何か長編の序章といったような感じで、主人公の「ぼく」の名前は出てきませんが、もしかしてこれは成長した「キイちゃん」なのかな?続きが気になります。

    余談ですが高橋源一郎の“小説”を読むのは多分20年ぶりくらいでした。初期の3冊くらいは読んでいるのだけれど、なんせ若い頃だったので、あまり内容は覚えておらず、そもそもわかるかどうかではなく単に当時、高橋源一郎を読んでいるのが「おしゃれ」(※最先端というか尖がってるニュアンスで)だと思って読んでいただけだったので、正直上滑りでした。あらためて読み直してみたい。

    最近、柴田元幸との対談集は読んだのですが、“文学は「悪と戦っている」”というくだりがあって、その対談内容とこの小説を照らし合わせてみるのも面白いです。

  • 3歳児ランちゃんが「悪」と戦い「世界」を救う。
    童話めいた語り口で、結構深い作品。

    解説にあるように「悪」とは何か、最後まで明示されることはないが、作中で表現される「悪」は案外分かりやすい。

    「悪」に(仲間とみなされて)引き込まれるのは、パーツは完璧なのに畸形の顔立ちに生まれた「ミアちゃん」。言葉の発達が遅い「キイちゃん」。そして、生まれてこなかった子供「マホちゃん」。
    また、ランちゃんが見る「悪」のイメージは、極端ないじめられっ子であったり、性的虐待に遭い障害を持った子供であったり、完璧すぎる美人であるがゆえに自分の内面を誰にも見てもらえない(と思い込んでいる)少女であったりする。

    「悪」とは即ちマイノリティであり、「世界」とは彼らにとっては生きづらい、かつ五体満足のマジョリティの価値観に支配された「世界」である。
    「悪」は自分たちには決して果実を与えてくれなかった「世界」をは破壊しようとする。

    それを止めようとするランちゃんは、幼さゆえにまだ「世界」から果実をたくさん受け取っていないからだろうか、「悪」を本能的に理解し受け入れ愛することができる。

    「悪」を受け入れ「世界」へ連れ戻し一緒に暮らすことに成功したランちゃんは、「世界」を救ったことになるのだろう。

    でも、そもそも「悪」なんて、「世界」の側から見た一方的な言い方にすぎない。「世界」はマイノリティを「悪」と切り捨てず、世の中には多様な存在や価値観があることを認め、「ふつー」だと思ってる自分にもそれがあると認め、すべてまるっと包含していく懐の広さがなきゃあならない。

    まあ、素人の読みではこのへんが限界なわけだが、こういう子供の単純さは大人になるとあっさり失われるもので、子供の目線だからこそはっと気づかされる。

    面白いとかいうわけじゃあないんだが、何だか「すごい」と思わせる小説。


    ところで、何で登場人物の名前も「」で括られてるんでしょうね。

  • 文学が破壊されていく瞬間を見たい方、この作品をどうぞ。

  • うーん舞城っぽいなあ…
    最初の、ランちゃんが引用をするのとか、文学とは何かみたいな問いかけだとかの部分は、源ちゃんなんだけど、そこの部分をスッパリ切ってしまえば、まんま舞城の作品だなぁと思う。
    表面的な部分で言えば文体は饒舌体で、文字がおっきくなったりとか(『阿修羅ガール』を想起)、いきなり精神世界に飛んじゃうところか(これも『阿修羅ガール』に近い)内容となる「悪」も、舞城も取り上げている理由の無い暴力とかと近い部分があるように感じる。そしてそこに悪=理不尽な暴力に晒される「純粋な子供たち」(これは『ディスコ探偵水曜日』あたりかな)とかその辺で、
    パッと出されたら、ん?舞城の作品かな?なんとなく源ちゃんっぽいけど…。くらいな感じになると思う。

    文庫本の併録「魔法の国のリリコ」。
    これは素晴らしい!というかマジでただのラノベ!
    でもすごい続きが気になるよー書いてくれないんかなあ…
    というか筒井康隆がラノベ挑戦してたけど、源ちゃん辺りがやったら面白いものが出来るんじゃないかと思う

  •  単行本ですでに読んでいたのだが、文庫化された際に、単行本未収録の「魔法学園のリリコ」が収録されていたので、購入。
     まぁ、この「魔法学園のリリコ」ってのが、20数頁の短編で、書きかけの作品の冒頭部分だけ、というか、次回作の予告編というか、いずれにしても中途半端に終わってしまっている。
     正直、収録されていなくても良かったような……。
    「『悪』と戦う」のほうは、単行本で読んだ時とほぼ同じ感想を抱いた。
     解説の中森明夫氏によれば、この作品が高橋源一郎の最高傑作だそうだ。
     僕としては最高傑作と思えるものは別にあるのだけれど、それでも傑作のひとつには違いないと思っている。
     ただ、この人の作品らしく、つまらないと感じた人にとっては、とことん「つまらない作品」なのだと思うし、「つまらない作品」と感じた人に対して「わかってないなぁ」と批判することが出来ない、というのもこの人の作品らしいな、と思う。

  • ☆☆☆★

  • 初の高橋源一郎。
    もっと読みにくいかと思ったが、すごく読みやすく、面白かった。
    悪とは何か、というテーマを読みやすい文体で重苦しく感じさせずに提起していて、教科書などに取り入れても良いんじゃないかな、と思った。

  • 3歳の男の子、ランちゃんの目の前に、マホちゃんが現れた。「世界を『悪』から救えるのは、あなたしかいないの」。ランちゃんは弟のキイちゃんと、世界を救えるのか?「悪」とは何かを問う問題作。

    高橋源一郎、初めて読んだ。タイトルや前評判と、まったくちがう話でびっくり。こういう、SFっぽい話を書く人なんだろうか? もっとリアルな物語を書くのかと思っていた、勝手に。

    こういう抽象的な話は苦手だ。悪って、結局なんだったのか。ミアちゃんの正体は? ハッピーエンドなの?などなど。うーん、この人の違う本を読んでみたくなった。

  • めちゃくちゃ読みやすいけど、わからなかった。
    ただそれだけ。ただただ悔しかった。
    解説で絶賛されていることが、まったく理解に追いつかなかった。

  •  今日(7/25)の朝日新聞の論壇時評を見て、最近読み終わったこの小説のことに思いが至った。
    「悪」とは何か?ミアちゃんの母親が冒頭に発する「わたしは「悪」と戦っているのです」という高らかな宣言。

    「風立ちぬ」と「チェルノブイリ・ダークツーリズム」に共通して描かれる、技術の「善悪二面性」。零戦と原子力発電。新しい技術を産み出すことは、同時に新たな事故の可能性を生む。そういう危うい技術革新によって、今の我々の生活は「便利」を手に入れている。

     人間は「善きものと悪しきもの」が混じり合った存在である。小説の主人公ランちゃんは、無邪気な子供という存在にも関わらず、さまざまな「悪」と対峙することになる。
     ランちゃんは「病」という「悪」に蝕まれている。しかし「悪」と対峙する中で、この世界には存在しない「マホさん」の力が彼を現実世界へ押し戻す。「悪」とたたかうことにより気付くことがある。存在しない者の後押しがあると分かれば、たたかうことはもはや孤独ではない。

     論壇時評の中で高橋は「ぼくたちは不完全な、善と悪が混じり合った存在だから、歴史を学ばねばならない」と主張する。歴史とは、先人が「悪」と戦ってきた時間の積み重ねである。そのような現場を目撃し、我々はエモーショナルな問いかけを得ることができる。悪と戦う歴史に思いを馳せること、それはすなわち悲しみを感じるための「ダークツーリズム」なのだ。

    そして、存在しないものの働きというのは、僕らが普段「運」と言っているものと無関係ではない。自然や命の連鎖の中で今生きているという現実。歴史を知ることは未来を想像することと一体である。

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「悪」と戦う (河出文庫)の作品紹介

少年は旅立った。サヨウナラ、「世界」-ある夜、突如ランちゃんの前に現れた謎の少女・マホさん。彼女はランちゃんにある指令を出した。「"世界を守る鍵"である、あなたの弟・キイちゃんが『悪』の手先・ミアちゃんに連れ去られたわ。『悪』からキイちゃんを救い出すのよ!」「悪」とは、「世界」とは何なのか?単行本未収録小説「魔法学園のリリコ」併録。著者最高の話題作が待望の文庫化!

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